その一
「……は? …………宇宙人? そんなの、――――そこらじゅうにいるじゃん」
『――――だぁーーかぁーーーるぁーーーーーー!!』
声を張り上げるゲンタの剣幕に、僕はスマホを取り落としそうになる。
「なんだよ?」
『――――の宇宙人なんだってぇえぬぉっ!』
そばを駆け抜けたスポーツカーが、肝心なところをかっさらっていった。
「え、何!? 聞こえないよ! ……ていうかなんで巻き舌なの」
ゲンタの言う宇宙人について、お察しの通り僕は興味がない。第一、ゲンタ自身宇宙人なのである。
斎藤月太、同い年の十六歳。〝月太〟と書いて無理やり〝ゲンタ〟と読ませるあたり、いかにも宇宙人らしい。この星に移り住む時につくる名前に、母星の名前をねじこむのが最近の流行なのだ。ゲンタの両親はそれを先取りしたのだという。
『……〝黒の宇宙人〟って、知ってるか?』
こうやって、含みを持たせてくるところがいちいち面倒臭い。しかも後に続くのは大抵根拠のないオカルト系なので、なおさらたちが悪い。切ろうとする気配を察し、ゲンタはすかさず切りこんできた。
『まぁ聞けって』
「まだ何も言ってないよ。ていうか、前は〝黒い宇宙人〟って言ってなかった?」
さすがに長くなりそうなので、僕は脇に止めていた自転車を降り、手で押しながら歩き始めた。深夜の商店街は人通りこそないものの、帰りを急ぐ車が多く、街灯がほとんどないこの辺りで立ち止まるのは危険だった。
……と言っても、右は野原、左はシャッター通りだけど。
『おぉ、さすがはカズマ。耳が早いな』
「いや、昨日学校でさんざん言いふらしてたじゃん」
『……まぁな。で、今日、すんばらしい新事実が発覚したからこうしてお前に電話したわけだ』
どうして僕なんだろう。よりにもよって僕に。今日が何の日か忘れたわけじゃないだろうな?
「なぁ、いい加減、耳に挟むの辛いんだけど。自転車で両手ふさがっちゃってるし」
『え? ……あぁ、そうかお前、今外にいるんだっけ?』
「おい」
『冗談だよ。あれだろ、あれ……』
長すぎる空白を、セミの鳴き声が埋める。電話のノイズよりはよっぽど心地が良かった。
「……人口流星群」
『あ、あぁ。あれだろ? 古くなった人工衛星を落として、流れ星代わりにするっていう。うん、なんかわかってた』
「嘘つけ。で、新事実がどうしたって?」
『あぁ、いやだからな、そこらしいんだよ、どうも』
ぞわりと寒気が背中を伝い、僕は身震いした。
「いや、どこだよ?」
『今、お前が向かってる場所。三つ子山の頂上。そこに、〝黒い宇宙人〟の住処がある』