第二話 【危ない橋を渡る】
イケメンに見られるのはかなりきつい。唐突だが、私はそれを痛感した。
小夜ちゃんに背中を押されながらイケメンの目の前に来た私は、頭の天辺から足のつま先までジロジロ見られる羽目になった。
りんごジュースを飲み終わったのか、ゴミ箱へ投げると私に自己紹介をしてきた。
「オレは望月奏。好きなように呼んじゃって、おーい葵ー!例の依頼人だから出てこい!」
イケメン改め、望月くんはぽんっと私の頭に手を置くとそのままロッカーの方へ向かう。
男経験が豊富ではない私にとってはそれだけの行動で顔が赤くなっていく。
顔の赤さを誤魔化すために、自分の長い髪で顔を隠しながらあることを聞いた。
「例の依頼人って、元から知ってたんですか?」
「嗚呼、お前の友人から聞いた」
それが誰なのかはすぐわかった。
私の好きな人は未炉にしか言ってない。これは推測だが、この団体が知っている未炉は関係者なのではないかと思う。
だってそうでなければ、私にココを勧めてこない。
俯いていた顔を上げると目の前には金色の瞳が印象的なこれまた美少年がいた。
「近っ.......って誰ですか?」
「一ノ瀬葵。君のことなら知ってるよ、穂月明梨誕生日は9月12日 血液型はB型。君の他には兄弟はいなくてトイプードルを飼っている。生理周期は、」
「ちょちょちょ、葵!それ言ったらまずいって!下手したら通報されるからやめろ!」
儚げな雰囲気をまとっていた彼だが、その端正な口から出てきた言葉はストーカー並みだ。
然も全部あってるという恐ろしさだ。
望月くんが止めていなかったらかなり危なかった気がする。
少し鼓動の早い心臓を落ち着かせ、目の前の人たちと向き合う。
いちいち突っ込んでいる場合ではない。はやくわたしは依頼をしなければ、謎の義務感に駆られる。
スカートを掴み、入学式のあの映像を思い出しながら口を開く。
「黒髪で青い瞳の人ってこの学校に居ますか?」
入学式から一年が経っていた。
どのクラスを探しても、どの学年を探しても、私があの日見た少年は見つからない。
記憶違いなのか、それを考えたことも何回かあったが、その時の行動や言動を鮮明に覚えているし、一年の頃の担任にはこの前、入学式のことを聞かれたので100%記憶違いではないだろう。
「......黒髪で青い瞳か」
ロッカーに入っていたものなのか、いまさっきまで持っていなかった資料を手に、こちらにやってきた。
面倒見のいい人なのか、スカートを握っているとシワになるからやめろと止めさす。
心なしか、顔が少し引きつっているように見える。
「まさかリーダーにゅう......がうっ!?」
「五月蝿い。一晩経ったらある程度わかると思うからまた明日。放課後に来て、呉々も他の人に見つからないように!」
口元を望月くんに抑えられた小夜ちゃんは何か言いたそうだったが、それを聞こうにも一ノ瀬くんに背中を押され、部室を出される。
なんだったんだろうか、少し気になるが昼休みももう終わりそうなので、未炉に連絡しようとスマホを開く。
『依頼できた?あ、教室に戻ってるから』
『なんとなくかな、じゃあ戻っておくね〜』
先に連絡がきてたので返信をし、教室へと向かう。
入学式の彼をいくら探しても見つからなかったのに、あの人たちは一晩で見つけることができるというのだろうか。
昼休み終了のチャイムが鳴りそうで、小走りで教室へと戻った。
お昼ご飯食べてないや。
「もー!リーダーってば鼻と口両方塞がないでください!」
「うるせえな、お前が言いかけるのが悪いんだろ!」
依頼人が去った後の部室では少し賑やかで、橙色の髪を持つ梅宮小夜と透き通るような青い瞳の望月奏は、ギャーギャーと騒いでいた。
パソコンをさっきからいじっている一ノ瀬葵は、少しため息をつく。
「ねえ、依頼どうすんの?入学式のイケメンさん」
「それはもう決めてあるんだよ、アイツが来たら会議するか」
もう一つと取り出したりんごジュースを飲み干すと、梅宮の方に投げて椅子から立ち上がると、窓が開いていたのか風が吹き、資料が散らばって行く。
「あああっ!無駄に格好つけなくていいんですよ!リーダークラスでは、性格が残念って言われているんですから!」
制服をまともに着ずに、髪を染め更にピアスをつけていた完全な見た目が不良な望月は性格が少し面倒見がよく、根が真面目なせいで、毎回性格が残念だと言われている。
本人はそれを気にしているのか、顔を赤らめながら、机を勢いよく叩いて叫んだ。
「俺は!好きでこの格好してるんじゃねえんだよ!」
「はいはい、知ってますよ!それもこれも彼女のためでしょ!」
授業が始まるチャイムが鳴っても帰ろうとせず、言い合いを続ける2人は調べ物をしている一ノ瀬のとっていい迷惑だった。