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久し振りの空のお散歩は快適?

 まじでどうしよう。精霊が関わっているゴタゴタなんて絶対ろくなもんじゃない。一番可能性が高いのは、魔物絡みだ。昔と違って俺は一人ソロである。弱体化しているうえに、ソロ討伐なんて危険すぎるだろ。

 それに、俺は殆んどの高位の精霊と契約していた。つまり俺が動けば、高確率で高位の精霊に遭遇すると思う。バッチを付けるって手もあるけど、上位の精霊を避けたら避けたで無礼に当たってしまう。

 かといって牛歩戦術を使って時間を稼いだら、コロコの姐さんに怒られる。

 何より一番の問題は……。


「わーい、トランポリンなのですー」

 俺のお腹をトランポリン代わりにして遊んでいる小さな少女だ。年の頃は十三歳くらいで、雪の様に白い髪をおかっぱにしている。彼女の名はラルバ、風のフェアリーである。

 そう、一番の問題はラルバさんの扱いなのだ。契約を済ませた精霊は普通の人にも姿が見える様になる。そうでなきゃ精霊剣士や精霊魔術師は痛い人扱いされてしまう。

 しかし、風のフェアリーであるラルバさんを連れて歩いていたら、自ら正体をばらすようなものだ。


「ラルバさん、相談なんですけど街中では契約の星の中に入っていてもらえますか?」

 どんな構造になっていのか分からないが、契約の星には大型の精霊も入る事が出来るのだ。まあ、ドラゴンやゴーレムを街中で連れて歩く訳にはいかないから助かるけど。

 高位の精霊は、普段から人の姿を取られている方が多い。でも、人の姿になる事を嫌う人や、人の姿でいると問題になってしまう方もいるのだ。


「嫌ですのー。ラルバも町を見たいのですー。お人形さんの振りをすれば問題なしなのですー」

 ラルバさんの視線は俺の胸ポケットに注がれていた。いい歳したおっさんに、胸ポケットに人形を入れて歩けとおっしゃるのですか。話し掛けでもしたら、お前黙ってついて来たな系の人になっちゃうんですが。


「け、契約の星は精霊の里と繋がってますから、普段はお友達と遊んでいても良いんですよ」

 これでも長年営業畑にいたのだ。中学生の説得くらいお手の物である。


「ラルバ、お友達いないのです……」

 ラルバさんはそう言うと、ズドンと落ち込んでしまった。

 まずい。説得失敗どころか落ち込ませてしまった。そりゃ、そうだ。俺が普段関わっていたのは、成人しかもおじさんが殆んどである。女子中学生なんて、二十年近く関わった事がない。

(ラルバさん大人しいから、他の風のフェアリーのテンションについていけないのか)

 むしろ土のフェアリーや水のフェアリーとの方が相性が良いと思う。それより、どうする。どうすればこの状況を打開出来る。


「胸ポケットに入って良いですから、姿は消して下さいね。何か用事がある時は私の耳元で囁いて下さい」

 泣く子と地頭には勝てぬ……ラルバさんを泣かしたら、サツ―カ様にリアル雷を落とされてしまう。

 ……そういえば、明日の予定がまだ決まってないや。

(予定がないって事は、遅く起きても大丈夫だよな)

 もう、疲れた。明日の事は、明日ゆっくり考えよう。


 ◇

 ……現在の時刻、朝の六時半。永年の習慣は異世界に来ても、変えられなかった。俺の体内時計はサラリーマン生活に順応しきっているようだ。

 ラルバさんはあの後直ぐに契約の星を通って帰宅したから、部屋には俺一人だけである。

 こうなれば、今日の予定をちゃんと決めるか。

(町を見て回るか……いや、飛空の加護を試してみるか)

 町を出て森とか人気のない所に行けば、見つかる心配もない。ついでにこっちにしか生えていない植物の実を採集してくれば、部長に報告も出来る。

 異世界生活三日目にして、重大な問題が発生した。ここの食堂のメニューには、和食がない。前回の時はパンやパスタだけでも平気だったけど、この年になるとお米と味噌汁が一番になるのだ。

 聞いた話によると、コストを掛けて米を転移するより、地産地消を行って地元との関係を良くする事が狙いらしい。

 そして俺以外は海外赴任の経験が多い人ばかりで、不満も出ていないとの事。中にはわざわざ日本に戻って、和食を食べてくる人もいるらしい。

(やっぱりみんな金持ちだよな。一回の転移片道二十万も掛かるのに)

 往復四十万。俺のボーナスが吹き飛んでしまう。一応、月一回は健康診断も兼ねて、日本に帰れるらしい。

 その時、飯盒と米を持って来よう。

 昨日ラルバさんと話し合い、勤務時間は八時五時とさせてもらった。お金は出せないから、魔力とお菓子を支給していく……ラルバさんのお菓子代、必要経費で落ちないかな。

 ちなみに日本の商品は市価の二倍くらいで売られていた。給料が安い俺には、かなりきつい。


「おはよーございますです。ヘータさん、今日は何すれば良いですのー?」

 ラルバさん、朝から元気一杯で爽やかです。あんな爽やかな笑顔はもう無理です。


「今日は飛空の加護を試そうと思っています。お願い出来ますか?」

 昔は魔力も多かったから、何時間でも飛べた。しかし、今の魔力じゃ三十分も持つか不安である。


「大丈夫なのですー。ラルバにお任せなのですー」

 ラルバさんはそう言うと自信満々に胸を叩いてみせた。若者独特の根拠のない自信かもしれないが、それがまた可愛らしい。

 宿の人に話を聞いたら、歩いて一時間くらいの所にあまり人が訪れない森があるとの事。 昼飯まで戻って来れそうなので、水筒とラルバさんに渡す飴を持って行けば良いと思う。


 ◇

「ヘータさん、大丈夫ですのー?無理は駄目ですのー」

 ……結果、ラルバさんには問題がなかった。そう、ラルバさんには。


「も、もう少し慣れれば平気になると……思います」

 そう、俺の方が耐えられなかったのである。考えても欲しい。パラシュートも何も着けずに、空を飛ぶのだ。何かトラブルがあったら、地上に真っ逆さまに落ちてしまう。

 それに上空が予想以上に寒かったのも誤算である。前回の時は、ダーフィンさんが魔法障壁を張ってくれたけど、今回は自力で行う必要がある。でも、その為には上空でも精神を乱さずに魔法障壁を展開しなきゃいけない。

 結局、ダーフィンさんにおんぶに抱っこだったって訳だ。それでいて、自由に空を飛べていたつもりなんだから恥ずかしい限りである。


「お空気持ち良いですよー。サーツカ様も、空を飛ぶの大好きだって言ってましたのー」

 まあ、サーツカ様には翼があるし……今回はダーフィンさんの加護だけで空を飛ぼうと思う。サーツカ様の最高時速は優に三百キロを超える。魔法障壁を上手く展開出来なければ、首が逝ってしまう。


「知ってますよ。何も遮る物がない自由な世界ですよね」

 ただ、空にも魔物はいる。場合によっては魔法障壁を展開しながら、戦闘もこなさなきゃいけないのだ。

 歩きスマホ以上に危険な行為である。深手を負えば転落エンドの危険もあるのだ。

 しかも、俺の契約精霊はラルバさんだけである。そのラルバさんは俺を飛ばす事に集中しなきゃいけない。つまり魔法か体術で魔物を倒さなきゃいけないのだ。


「でも、最近はそうでもないのですー。ガーゴイルがお散歩の邪魔をするのですー。あの人達、カラス並みにしつこいから嫌いですー」

 ……なんか危険なワードが聞こえてきたんですけど。こっちのガーゴイルも石の身体を持っていて、空も飛べる。石だから当然、硬い。殴ったら、俺の手の方が砕けてしまうだろう。

 日本から砕石ハンマーでも取り寄せておこうかな。

 色々思案していたら、上空から悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「しつこいですのー」

「ナンパは駄目ですのー」

「ガーゴイルみたいな堅物は、ノーセンキューですのー」

 空を見ると、風のフェアリーとガーゴイルがドッグファイトを繰り広げている。スピードはガーゴイルの方が上で、直に風のフェアリーは追いつかれてしまうだろう。 


「ヘータさん、みんなを助けて欲しいですのー」

 そう言って俺にすがりつくラルバさんの目には涙が浮かんでいた。


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