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水龍リーモイ

 女、三人寄ればかしましい。俺はこの言葉を実感していた。ファッションに異性関係、友人関係、そして将来の夢。

 イリス、ラルバさん、コーチモさん、リコルさんのトークは尽きる事を知らないらしい。パターンとしてコーチモさんかリコルさんが話題を振り、ラルバさんが質問をする。それにイリスが答えていくって感じだ。

 こういう時、男が出来る事はたた一つ。少し離れた所を歩き、質問された事だけを答える……しかし、リコルさんの男性評はなかなかえぐい。他人の事とは言え、おじさんの心をえぐっていく。


「それでそいつロジエって言うんだけど、私の通学路で会った癖に『やあ、偶然だね』って言うんだよ。どう考えてもそいつが待ってたの丸わかりじゃん。待っててもらって嬉しいのは、好きな人限定って分からないのかな?」

 リコルさんはそう言うと深い溜め息を漏らした……やめてあげて、彼は運命を演出したいだけなの。君とお話をしたいだけなんだよ。


「あー、いますね。そういう人。楽しい話題を振ってくれたら良いんですけど、こっちが興味ない話ばかりされても困るのです」

 コーチモさん、話題を準備しても滑る事があるんです。話が出来る事が嬉しくて、会話が上滑りしちゃうんです。


「でも、私もお話するの苦手だから、困るのですー。だから風のフェアリーの中で、浮いてしまうのですよー」

 ラルバさんはそう言って苦笑いを浮かべるが、こればっかりは仕方ない。風のフェアリーは性格も自由だが、会話の展開も自由だ。基本、他人の話を聞かない。一人が服の話を振ったのに、相手は食べ物の話を始める事がよくある……あの子達をまとめているダーフィン様って凄い。


「そういう時は天気の話をするのが一番って聞くけど、中々上手くいかないのよね……ヘータはどうしいてるの?」

 俺は営業をしているからと言って会話が上手い訳ではない。個人的な感想だがあまり流麗な会話をすると警戒される気がするのだ。


「これはあくまで個人的な感想だけど、天気は話の取っ掛かりに使いやすいって事さ。『今年の夏は晴れの日が続いているので、夏祭りが楽しみですね』って感じで相手が話したそうな話題に持ってくんだよ」

 俺は天気の話題は相手の会話を引き出す便利ツールだと思っている。

 ちなみに相手が忙しそうな時や会話を早く終わらせたい時は『いやー、熱いですね。タオルが何枚あっても足りませんよ』って感じで、会話を終結できる様にしている。


「変われば、変わるもんね。昔はもじもじして、自分の意見なんて言えなかったのに」

 エルフと猿人では時間に対する感覚が違う。何しろエルフは百歳でも若造と言われるそうだ。


「猿人にとって二十年は長いからな。少しは成長していなと駄目だろ?」

 あの頃に比べた、それなりに成長出来たと思う。縦にも横にも成長してしまったが。


「ええ、実感しいてるわ。何人もの同僚を寿退社で見送ったからね」

 そう言ってイリスは微笑んだ。でも目は笑っていない。そして女性陣の視線がめっちゃ冷たいです……求む!男の精霊……でも俺が知っている男の精霊は上位種の人ばっかりなんだよな。


 ◇

 おかしい。ラ・ベル湖の周辺は自然が豊かで水属性の魔物が多く住んでいた筈。それなのに一向に魔物と遭遇しないのだ。

 水属性の魔物は夜行性が多いってのもあるけど、一匹も見ないのはおかしい。イリスの魔力に恐れをなしているんだろうか?


「イリス、この辺ってこんなに魔物が少なかったっけ?」

 前に来た時はヒーリングフロッグやコルドリザードが群れをなしていた。日本なら自然破壊を想定するが、湖は澄んでおり多くの自然が手つかずで残っている。


「……これはあくまで噂よ。セマンスで火属性の魔物や魔族の活動が活発になっているみたいなの。かなりの数の冒険者が、ラモーに来ているのよ……まさかリーモイ様のお膝元であるラ・ベル湖まで侵入しているとはね」

 火属性の魔物との戦いで一番怖いのは火傷だ。多分、セルマンでは火傷の治療薬の値段が上がっているんだろう。


「火傷の治療薬を作るには、水属性の魔物から取れる素材が欠かせないもんな。金が欲しい冒険者なら多少のリスクには目をつぶって、水属性の魔物を狩るだろうな」

 冒険者は効率を重視するから夜に動いているんだろう。それに闇夜で道が分からず、気付いたらラ・ベル湖の近くまで来ていたって言い訳が出来るし。


「かなり質の悪い冒険者も来ていて、学園も困っているのよ。女子生徒は絡まれるし、男子生徒の中には変な影響も受ける子も出て来ているの。フェーフに会ったら文句を言ってやろうと思ったんだけど……もう、これじゃ文句を言えないじゃない」

 イリスは俺をチラッと見た後にそうこぼした。

 お節介焼きのフェーフの事だ。俺をラモーに寄こしたのはイリスと再会させるのが一番の目的だったと思う。でもフェーフ自身が忙し過ぎて、手が回らなかったってのもあるだろう。


「あまりフェーフを責めるなよ。冒険者ギルドには、水属性の魔物の討伐依頼が沢山来てる筈だぜ。あいつの立場上、無下に断れないだろうし」

 何より治療薬がなければ、火傷を悪化させてしまう人が増えてしまう。

 待てよ、火属性の魔物や魔物は怒りや加虐心を糧にしている。つまり、冒険者が魔物を狩れば狩る程、勢力を増す事になるのだ。

 普段なら必要以上に魔物を狩らない様に冒険者ギルドが監視している。でも今の冒険者ギルドは、魔物討伐を推奨せざるえない状態に陥っているのだ。

 ……なんか最悪な時に転移してきた気がするんですが。


「おー、まるで海なのですよ。こんな大きな湖は見た事がないのです」

 コーチモさん達が感嘆の声をあげる。ラ・ベル湖はエスプリの中で一番大きな湖だ。


「凄いのですー。青く澄んでいて湖底まで見えるのですー」

 ラ・ベルは美少女という意味らしい。それくらいこの湖は綺麗だ……まあ、ぶっちゃけるとシスコンのリーモイ様が『私のスールはエスプリで一番美しいんですよ』と自慢しまくったのが由来らしい。


「あの、あまり見ると危ないですよ」

 主に俺の立場が危うくなります。おじさん、これ以上厄介事に巻き込まれたくないの。

 次の瞬間、視界が青一色に染まった。


「凄い。こんなに大勢の精霊様に会えるなんて」

 リコルさんが感動のあまり、涙を零す。俺は違う意味で涙を零しそうです。

 そう、沢山の水のフェアリー達が俺達を取り囲んだのだ……やっぱり、見つかちゃったか。


「ヘータ様、お久し振りでございます。いいえ、わたくしども三番目でも全然気にしていませんよ」

 あれ?……凄く気にしてないですか?


「ヘータ様、随分と貫禄がつかれたましたね」

 貫禄もついたかもしませんが、お肉もつきました。


「イリス様は相変わらずお美しいですね。ヘータ様はふ……大人になれらましたね」

 今、老けたと言おうとしたよね。水のフェアリーは優しく真面目だ。その所為か嘘をつくのが非常に下手である。早い話が本音が駄々洩れなのだ。


「今回はこちらにいるリコルさんが皆様と契約を結びたいというのでお邪魔しました。後、こちらをリーモイ様にお渡しして頂けたら……」

 今の俺じゃ、リーモイ様に会う資格はない。何よりこれ以上泥沼にはまりたくないんです。ちなみにお土産は芋ようかんです。


「しばしお待ちください。ただいまリーモイ様とスール様にお声を掛けてきますので。お土産を頂いて、報告をしない訳には参りません」

 相変わらず融通がきかないとうか真面目というか……水のフェアリー達は俺が止める暇もなく、湖に潜っていった。


「やあ、ヘータ。久し振りだね。元気そうで安心したよ」

 現れたのは真っ青な髪のイケメン。少女の様に美しい顔立ちなのに、筋肉はしっかりとついている。相変わらず乙女ゲーのキャラの様なお方だ。


「リーモイ様、お久し振りでございます。平野平太、恥ずかしながら戻ってまいりました」

 このお方が水の精霊を統べている水龍リーモイ様だ。知と優しさの象徴で、学者や神官に信仰されている。

 その瞳はラ・ベル湖の様に澄んでおり、相対する者の姿を鏡の様に映す。そう、この方の前では嘘や虚飾が一切通じないのだ。


「何も恥じる事はないよ。君は自分に必要な知識を学び、活かしている。学問だけが学びではないんですよ」

 リコルさんはそう言うと優しく微笑んだ。性格もイケメン過ぎて眩しいです。


「リーモイ様、勝手なお願いなのですが、こちらにいるベッシュ・リコルに契約のチャンスを与えては頂けませんか?」

 これで義理は果たせる。これ以上は俺の胃が持ちません。


「いいよ。その代わり、私の願いも聞いてもらえるかいキコナ、おいで」

 リーモイ様の呼びかけで現れる青い髪のフェアリー……これ、断れないですよね。

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