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おじさんのアドバイス

景品として異世界転生した捨てられたので好きに生きようと思うのしろいるか先生から平太のイラストをもらいました 感謝しかありません

 時間は失恋の痛みも忘れさせてくれる。日本に戻って来た頃は何度もイリスの夢を見た。でも、今は平気で話せている。

 恋に諦めがついたってのもあるが。建前という仮面をつけて本音を隠せるようになったんだ。


「そうだ。お土産があるんだよ。向こうのお菓子と手帳にボールペン。インクに魔力がこめられていないからスクロール代わりにはならないけど、スケジュール管理やメモを取るには便利だぞ」

 ボールペンも手帳も少し高めの物だ。元恋人に贈るしては少しロマンに欠けるが、仕事が大学教授だから実用性は十分だと思う。


「雪みたいに真っ白な紙。それにインクをつけないで書ける筆記具……こんなに高い物もらえないわよ」

 使われているのは白色度の高い紙だ。手帳用紙という手帳専用の紙で破れにくく裏写りもしにくい……個人的には手帳のカバーが革だって事に注目して欲しいんだけども、こっちでは革製品が日常的に使われている所為か驚かれなかった。


「手帳もボールペンも道具だ。道具は使われてこそ、意味をなすんだぜ。使いきったら新しいやつをプレゼントするよ。ボールペンを使ったらキャップをするのを忘れるなよ」

 下心がないと言えば嘘になるが、イリスが気に入ってくれたら営業がしやすくなる。この世界で日本の文房具は未知の品だ。身銭を切って購入するのは不安があるはず。でも、有名人であるイリスが太鼓判を押してくれれば安心して買ってもらえる。


「ありがと、素直にもらっておくわ。それじゃ、その子を呼んでくるから、玄関で待っていて……やっぱり、異世界の文化は進んでるのね……いつか行ってみたいな」

 イリスさん、小声で言ったんでしょうがばっちり聞こえていますぜ。イリスはどう見ても十代半ばの美少女にしか見えない。一緒に歩いていたら職務質問確定である。


 ◇

 玄関で待機してかれこれ三十分経つ。イリスは待ってろと言ったけど、その子にも予定がある訳で……いつまで待てば良いんだろう。

 日本ならスマホに連絡するんだけど。


「ヘータさん、やりますなー。なかなか良い雰囲気でしたよー」

 コーチモさんがニヤニヤしながら、肘で俺の頬を突っ突いてくる。いつの間にか精霊石から出て来たんだ……良い雰囲気か。突然訪ねて来た俺の事をイリスはどう思っているんだろう。


「どうなんだろうな。確実に言える事は、今の俺なんかじゃイリスとは釣り合わないって事さ。商品価値が違い過ぎるって」

 見た目だけじゃない。向こうは国立大学の教授だ。対する俺はサラリーマンの護衛をするといったものの何の実績も上げていない。


「むー、釣り合わないとか商品価値がどうとか気にし過ぎですよ。お互いが好きなら、それで良いじゃないですか。ヘータさんもこの世界では英雄なんですし」

 コーチモさんの言う事は正論だ。俺は傷付く事から逃げてるだけなんだし。


「元英雄な……って、まじかよ」

 向こうからイリスが歩いてきたんだが、その隣にいたのは背の低い少女だった。確かにイリスは精霊と契約出来なくて困っている子がいるとは言ったけど、男とは言ってなかったよな。

 高等部って事は女子高生か。まあ、仲良くなる必要はない。事務的に対応すればトラブルは起きないと思う。おじさんのフレンドリーな対応は若者、特に女子にはうざく感じるらしい。

 それとイリスさんは、なんで冒険に出掛ける恰好をしているんでしょうか?


「ヒラノさん、お待たせしました。さあ、ベッシェ挨拶しなさい。この子は精霊魔術師を目指しているベッシュ・リコルです」

 見事なまでの先生モードである。ベッシェさんは童顔でピンク色の髪の少女だ。髪型はボブカットで、背の低さと童顔が相まってどう見ても中学生にしか見えない。


「は、初めましてベッシェ・リコルです。あの本物のヘッタ様なんですか?私ずっとヘッタ様に憧れていたんです」

 リコルさんはそういうと上目遣いで俺を見てきた。こやつ、やりおる……自分のキャラをきちんと分かっているんだろう。

 ここで勘違いしていけないのは、彼女が憧れたのは物語の中のヘッタだと言う事。個人的な好意だと勘違いしたら赤っ恥をかいてしまう……それとイリスの視線がめちゃ冷たいです。


「それはありがとうございます。でも今はただのおじさんですよ。一つ質問があります。リコルさんはどんな精霊魔術師になりたいのですか?」

 お得意の営業スマイルに切り替えて話を進めていく。精霊剣士や精霊魔術師は強力な攻撃を身に付けられるが、その人数はあまり多くない。まず精霊に認められなければ、意味がないのだ。


「私の生まれ故郷は貧しい村なんです。だから精霊魔術師になって故郷のみんなの生活を楽にしてあげたいんです」

 だからのところで一度うつむいてみせるリコルさん……なかなかにあざとい。でも彼女が精霊と契約出来ない理由がなんとなく分かった。


「分かりました。少し教授と話をしてくるので、ここで待っていて下さい」

 イリスにアイコンタクトをおくる。俺の意思が通じたらしく、イリスは無人の部屋に案内してくれた。


「今の会話で、あの子に何が足りないのか分かったの?」

 俺は頭の良い方ではない。でも営業という仕事柄、大勢の人を見てきた。何より俺は精霊の事多少なりとも知っている。


「その前にいくつか質問をして良いか?彼女の生まれ故郷が貧しいって本当か?それと彼女は学校のみんなから好かれていると思うんだけど、当たってる?」

 あの容姿なら男子、特に年上の人に人気があるはず。


「あの子の両親はセルマンの貧農よ。でも魔力が高いから、学費を免除になっているの。そしてベッシュは男女どちらからも人気があるわ。生徒だけじゃなく教師陣や職員からも好かれているわよ」

 両親は信心深い善人だという。今も自分達の食費を削って、リコルさんに仕送りをしているそうだ。またリコルさんも、それに甘えずバイトを頑張っているらしい。

 確かに魔力が高い人間の方が、精霊と契約しても貰える可能性が高い。でも彼女は大事な事に気付いていない。ある意味彼女が一番分かってる筈なのに。


「容姿が整い過ぎてるってのも、考え物だな。見た目だけで勝手に理想を押し付けられちまうんだから。あの子は他人が思っている理想の自分を演じている気がするんだよ。結果、みんなが彼女に好意的に接してくれている」

 逆に俺みたいなタイプは、不自然な好意は疑ってかかる。あの戦いの時、なんども見せかけの好意を見抜けず激戦区で戦う羽目になった。

 でも俺はリコルさんを責めるつもりはない。彼女の演技は大好きな両親を喜ばせる為に、身に付けた物だと思う。


「ベッシュは、どうしたら精霊と契約出来るの?」

 まず順序が違うんだよな。紹介もなく、いきなり行って契約なんて出来ないんだぞ。


「まずは目的地に出発だ。ここじゃ言いにくい事もあるし……それと、もしかして付いて来てくれるの?それは助かるな」

 イリスの頬が赤く染まる。これがもしかして、ついて来るのだったら怒っていたと思う。一文字で大違いです。


「ば、馬鹿っ!勘違いしないでよ。私は教師、あの子の保護者よ……もう、本当に口が上手くなったわね」

 そのリアクション見れただけで、満足です。


「おっと、忘れてた。今回の報酬はいくら?」

 元恋人とは言え、今は他人。なにより無償ただ働きは人間関係を悪化させる素だ。


「勿論、きちんと払うわよ……成功報酬もあるから安心して」

 金額の多寡は気にしない。勇者パーティーの一員イリス・ペタルの知遇を得れる方が大きいのだ。彼女を通じて学校だけでなく、エルフとの交渉も可能になるはず。


 ◇

 リーモイ様が住むラ・ベル湖は、ここから歩いて三時間位かかる。だるいけど、イリスやリコルさんに自動車を見せるのはまだ危険だ。

 町の近くには精霊がいないので、会話で間を持たせる。故意って訳じゃないが、ついついイリスとばかり話をしてしまう。


「ヘッタ様、私はどうすれば精霊様からお力を借してもらえるのですか?」

 三十分程歩いた頃だ。痺れを切らしたのか、リコルさんがそう聞いてきた。


「今のままじゃ無理だよ。君は見ず知らずの人間に金を貸せる?君の見た目だけに惹かれた男と付き合える?」

 イリスから聞いた話では、リコルさんに彼氏はいないそうだ。何人もの男が、彼女に告白して振られているらしい。


「……仲の良い友達ならともかく、見ず知らずの人に貸せるお金はないです。それにお付き合いするなら、私の性格も含めて好きになって欲しいです……それが契約と関係あるんですか?」

 リコルさんは少しムッとした感じで答えた。俺に馬鹿にされていると思ったのかもしれない。


「それと一緒さ。これはおじさんからのアドバイスだ。精霊も見ず知らずの君に力を貸す義務はないし、力だけを目的に訪ねて来られても契約をしたくないんだよ。人と一緒さ。腹を割って話をして、気に入ってもらえれば力を貸してくれるさ。その為には、本当の君をさらけ出す必要があるけどね」

 出来るだけ暖かく微笑んでみせる。これが大人の懐の深さだ。


「……そうですよね。一方的に力を貸してなんて、虫が良すぎますよね……それじゃ、本当の私でいきます。ヘッタさん、さっきからニヤニヤしてキモイですよ。それと告白うんぬんってセクハラになるので気を付けましょうね。せっかくイリス先生に会うのにお洒落をしていないし、がっかりです」

 リコルさん、そんなキャラだったんですか?俺が唖然としていると精霊石から二つの影が飛びだしてきた。


「もっと、もっと言ってやって下さい。私達がお洒落をする様に言っても“俺には似合わないよ”って聞いてくれないんですよ」

 コーチモさん、似合わないのは本当ですし。


「そうなのですー。ヘータさんはデリカシーが、なさ過ぎるのですー。髪型を変えても気付かないのですしー」

 ラルバさん、小さなフェアリーが僅かに前髪を切った事に気付く方が難しいです。


「そうよねー。私に会わずに帰ろうとしてたし……少し反省してもらわなきゃ」

 四対一で叶う訳がなく、俺は散々駄目だしされた。でも、気の所為かリコルさんの顔が明るくなった気がする。

 嬉しいけど、俺の胃もつかな。挿絵(By みてみん)

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