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初恋との再会

 考えろ、俺。今まで色んな困難を乗り越えてきた俺なら名案が思い付くはずだ。笑えない値下げ要求や言い掛かりに近いクレームだって乗り越えてきたじゃないか。

 イリスが既婚者なら、職場で元カレである俺と親しく話す事は避けたいだろう。何より俺が平太だと気付く可能性は極めて低い。イリスは俺が日本に帰って来た事を知らない筈だ。


「イ、イリス教授ですか?冒険者ギルドからこれを預かって参りました」

 営業スマイルをセット……俺、良くこの人と付き合えたよな。

 振り向いた瞬間、息が止まりそうになった。

 昔のままの彼女イリスがそこにいたのだ。もし彼女の写真を撮って日本に持って行ったらCGだと言われるだろう。それ位イリスの容貌は整っているのだ。

 光を浴びて輝く金髪、瞳の色は湖の様に青く澄んでいる。イリスは長い金髪をポニーテールしていた。正直なところめっちゃストライクです。

 そして雪の様に透き通っている白い肌。ローブを着ていてもモデル顔負けの体型だと分かる。アイドルどころ女神すらも彼女を前にしたら裸足で逃げ出すだろう。

 結論、若い頃の俺は身の程知らずでした。今なら話し掛けることすらためらうだろう。

 美人で王女様、魔法を得意で性格も良い。俺の恋愛運はイリスで使い果たしたんだと思う。だからまだ独身なんだ……キス位しときゃ良かった。


「それはご苦労様です……色々お伺いしたい事がありますので、私の研究室まで来て頂けますか?……文句はないわよね?ヘータ」

 ……あれ?なんで俺って分かったんだ?そしてイリスさんの額に青筋が浮かんでいらっしゃる。俺も裸足で逃げたいです。


「へ、ヘータ?それは誰の事でしょうか?」

 噛みまくりだけど大丈夫。イリスがジト目で見ているけど大丈夫だと思う。


「この世界には黄色肌で黒髪の人間はいないって前に教えたでしょ?猿人でそれだけの魔力を持っているのは猛か貴方だけよ。何よりそれだけ純度が高く六色全部揃っている精霊石を持っている精霊剣士は貴方だけ。それと、フェーフの使い魔から手紙が届いたのよ“変わった物を手に入れたんだ。へーぽんに持たせるからよろしく”ってね」

 さすが大学教授様、反論の隙も与えてくれないんですね。再会の嬉しさを微塵も感じさせない勢いです……そういやエルフって魔力で個体識別出来るんだった。言い逃れは無理みたいです。


「いやー、私も社会人になって少しは気遣いをする様になったんですよ。私と二人で話をして変な噂がたったら、教授にご迷惑ですし」

 そう言いながら後ろに一歩下がる。フェーフだけでも厄介なのに、イリスとの縁まで復活したら泥沼確定だ。何より自分を止める自信がない。


「なにを心配してくれているのか分からないけど、噂がたっても独身の私には関係ないわ。むしろ煩わしい虫を追っ払えるから有り難いくらいよ。それに私が貴方に色々聞きたい事があるし、ちゃんと用もあるの。分かったらきりきり歩く」

 イリスはそう言うと俺の耳を掴みながら歩き出した。俺、再会して数分で尻に敷かれていないか?


「逃げませんから。きちんとお話しますので耳を放して」

 エスプリに来る前は、エルフの女性は優しくお淑やか性格だと思っていた。まあ、それは勝手な幻想であり、エルフにも優しい人もいれば厳しい人もいる。そしてイリスは冒険の旅に出る位だから活発で気も強い。

 しかし、俺は昔の俺と違う。社会の荒波に揉まれてきたし、恋愛経験も増えた。大抵の事は反論できる。


「二十年も行方をくらましていた男の言葉を信じられると思う?」

 イリスは振り返るとにこやかに笑顔を浮かべながらそう言った……こればっかりは反論出来ません。

 俺は決してMではない。でも掴まれた耳がじんわりと暖かく、妙に甘酸っぱい気持ちになっていた……気持ちを引き締めないと。


 ◇

 イリスの研究室はドラマやドキュメンタリーで見る日本の研究室とは違っていた。部屋の中央にあるのは薬草を煮詰める大鍋。テーブルの上にあるのは怪しげな触媒が入れられた乳鉢と羊皮紙のスクロール。研究室というより魔女の部屋である。


「……ラシーヌの召喚にデンジャー退治。二十年経っても巻き込まれ体質はそのままね。それで、その土の塊の中にデンジャーの額に付いていた石があるのね」

 イリスはそう言うと革手袋を手に嵌める。そしてマスクを着けて、水槽に灰色の粉を溶かし始めた……コンビニの袋に入れてたけど、この宝石ってそんなにやばい物なんだろうか?


「随分物々しい準備をしているみたいですが、この宝石ってやばい物なんですか?」

 普通に持っていたけど健康に影響しないよな。労災認定されるかな?


「鑑定していないからその石が何か分からないから、きちんとした事は言えないわよ。土で覆われていて分からない事が多いけど、多分大丈夫。でもきちんと調べないと分からないでしょ?ここは学校だから大勢の人がいるのよ。不用意に扱って、もし生徒に何かあったら保護者に申し訳がたたないし……それと、その他人行儀な話し方やめてもらえないかしら」

 ですよね、しか言えない。まあ、本当にやばかったら持ち込ませていないと思う。

 イリスが石と言っているのもきちんと鑑定しないと、宝石かどうか確定しないかららしい。ちなみに水に溶かしたのはブロキュスの石を粉末した物との事。ブロキュスの溶解液は魔力を遮断するから、危険なマジックアイテムや正体不明な物を調べる時に使うそうだ。


「分かったよ。でも研究室ここを出たら敬語にするからな……それで俺に用事ってなんだ?」

 言うまでもなくイリスは有名人だ。見ず知らずの男がなれなれしく話していたら不快に思う人が少なくないだろう。何より今は仕事中だ。きちんと言葉を使い分ける必要がある。


「……ちょっと待って……へぇー、面白い物作ったわね。これ精霊石よ。ただし怠惰の力を溜め込める様にしてあるわ」

 でも、水槽に沈められた石は濁っており、俺の知っている精霊石とは明らかに別物だ。


「これが精霊石?でも魔族は精霊石を忌み嫌うんじゃなかったっけ?」

 精霊石には精霊の力が宿っているから、魔族や魔物は触れる事すら出来ないはず。


「精霊石って言うのは、人間が勝手に付けた名前よ。宝石は鉱物の一種。その宝石の中で魔力を溜める性質を持った物を魔石って言うの。そして魔石の中で純度の高い物だけが、精霊石と呼ばれているの。でも精霊石自体はただの鉱物。力の善し悪しなんて関係ないわ。この石は怠惰の力だけを吸収する様にしてあるの」

 ある意味これは宝石でも正解らしい。なんでも魔石が強い魔力を永年浴び続けると精霊石になるそうだ。だから。精霊石は精霊の棲み処でしか取れず貴重との事。

 そしてこの石には人工的に魔力を放射された痕跡があるそうだ。でも、そうなると誰が魔石を加工したって事になるんだよな。

 よし、決めた。国や冒険者に丸投げしよう。俺はあくまで運んだだけだ。これ以上関わる義理も義務もない。


「この石をどうするかは任せるよ。それで俺に用事ってなに?」

 俺にはサラリーマンの護衛という重大な任務がある。自ら危険に近づく真似は出来ない。


「私高等部の生徒も教えているんだけど、精霊と契約出来なくて困っている子がいるの。その子にアドバイしてもらえる?……それとヘータ、久し振り。また会えて嬉しいわ」

 そう言うとイリスは頬を赤く染めた。

 勘違いしては駄目だ。あれは単に照れ臭いだけだと思う……そう思った方が二人の為になるんだ。


「良いけど具体的にどうすれば良いんだ?今の俺はフェアリーとしか契約していないんだぜ」

 昔のネームバリューがあるから話は聞いてもらえると思うけど。でも、ヘッタがフェアリーとしか契約出来ていないって、ガッカリされるかも。


「一流と呼ばれている精霊魔術師や精霊剣士でもダーフィン様クラスの精霊に会える事すら稀なのよ。その中でサーツカ様やウードウ様と会った事がある人なんてほんの一握り……そうね、その子とリーモイ様のお住まいに行ってちょうだい」

 その道すがら精霊との関係の築き方を教えて欲しいらしい。確かにリーモイ様のお住まいの近くには、多くの水のフェアリーが住んでいる。いるけどまた泥沼に足を踏み入れた気がするんですが。


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