異世界帰還指令?
オレ、オマエマルカジリ……おいおい、まじかよ。オークは次々にサキュバスを平らげていった。俺の記憶が正しければ、サキュバスを食べる事はなかったんだけど。
「ふんっ……これだけしか怠惰の力を溜めてないのか」
しかも流暢に言葉を話している。大きさも桁違いだけど、色んな意味異質なオークだ……そして強い。今の俺より確実に強いと思う。
手には丸太のような棍棒を持っており、普段なら近付くどころか関わる事さえためらうだろう。
「フェーフ、お前が調べているのはあれのなか?」
確か“今、魔族の動きが活発になってきて、その件を調べているんだよね”前にフェーフはそう言っていた。
営業職は些細な一言も聞き逃せない。
結婚や出産等の慶事はまだ良いが、失恋や離婚の話は地雷なので絶対に踏めないのだ。
「僕も見たのは初めてだよ。額に宝石を付けた魔物。そいつは、普通の魔物よりも全ての能力が上回っているんだって。でも僕とへーぽんが居れば大丈夫」
こいつはしれっと何を言っているんだ。俺は二十年近く現場を離れていたおじさんだぞ。しかも今契約しているのはフェアリーのみ。足を引っ張る自信しかない。
「言葉は通じそうだけど、見逃がしてくれないだろうな」
平和的解決が一番嬉しいんだけども、オークの様子を見る限り無理だと思う。目は血走っているし、体中から殺気が溢れている。どう見ても俺達を殺る気まんまんだ。日本だと絶対に職質されてると思う。
「もちろん倒すよ。色々調べたいから、傷はあんまり残さないでね」
俺を信じてくれいるからの言葉だと思うがハードルが高いです。フェーフはアーチャーだから後衛だ。つまり前衛は俺って事になる。
でも、デンジャーオークの攻撃を受け止めたら、ペチャンコにされる危険性が大だ……先手を取って動きを止めるしかないか。
ラルバさん、お願いします……風よ、刃となりて我が敵を切り裂け……風刃」
狙うのはオークのアキレス腱。風の刃はオークのアキレス腱に直撃した。
まじか……アキレス腱どころか皮膚にすら傷が付かず、出血もなし。一瞬、オークが足元を見ただけと言う悲しい結果に終わってしまった。
「へーぽん、後は任せて」
流石というか、フェーフがその隙を逃すはずもなく、すかさず矢を放つ。
……再びまじかよ。矢はオークの胸に突き刺さるも、痛がるそぶりすらみせなかった。
「いてーな。血が出たじゃねえか……どうしてくれるんだ!?」
胸に矢が刺さったのに、痛いだけで済むのかよ。異世界に戻って来たら、魔物がチートでしたなんて嫌すぎるぞ。
「フェーフ、なんでも良いから情報をくれ」
幸いな事にオークとの距離はまだ離れている。今の内に対策をたてて、状況を打破しないと殉職してしまう。フェーフ、君なら絶対に有益な情報を持っていると信じているぞ。
「うーん、命からがら逃げてきた人以外は、みんな死んでるか話せない状態なんだよねー。分かっているのは額に宝石をつけた魔物は厄介だって事だけだよ-」
冒険者ギルドでは、宝石が付いている魔物の事をデンジャーと呼んで警戒しているそうだ。デンジャーは用心深く滅多に人前に出て来ないらしい。
出世は出世でも二階級特進なんて嫌だぞ……今の所一番怪しいのは額の宝石だ。
(さっき俺のウィンドカッターに反応したよな。防御力は強化されているけど、反射神経はそのままなんだな)
色々と考えているうちにオークがじわじわと距離を詰めてきた。その顔には愉悦の表情が浮かんでいる。
「フェーフ、今からあいつの動きを止める。そうしたら、額の宝石を壊してくれ」
フェーフが頷いたのを確認して、リュックから懐中電灯を取り出す。懐中電灯を持ったまま、オークに駆け寄っていく。
「自分から近付いて来るとは、良い度胸だな。脂ものっていてうまそうだ」
オークはそう言うと舌なめずりした。俺は鮭じゃねえんだぞ。
オークが棍棒を振り上げた瞬間を見計らって飛空の加護を発動させる。そのまま全速力でオークの目線まで移動。昔なら空中戦に持ち込めたけど、今はスピードも攻撃力も足りない。
「豚野郎、こっちを見な」
オークが俺に目線を合わせたのを見計らって、懐中電灯のスイッチを入れる。
「くっ、目がっ……だが、貴様の匂いは覚えているぞ」
オーク種は鼻が利く事は覚えていえる。そしてもう少ししたら、目くらましの効果もなくなるだろう。
目くらましが効いているうちにオークとの距離を縮める。
「空気の塊よ。敵を穿て……エア―ブロ―」
攻撃力は捨てて、持続性を高める。狙いはオークの目。いくら能力が強化されていても、目に空気の塊が当たったら反射的に目を押さえる筈。
エア―ブロ―が目に当たるとオークは反射的に目を押さえ、棍棒を手放した。
「……お前、調子乗り過ぎだよ。俺のダチを食う?そいつはヘッタだぜ。笑わせるな」
フェーフが自分の事を俺と言う時はまじな証拠である。いつものおちゃらけは、なりを潜め強者へと変わる。イケメン度も二倍って感じだ。
狙いすました矢は宝石と額の境目に直撃。矢は宝石をえぐりとる。
そして宝石が外れると同時にオークの身体はみるみるうちに縮んでいった。
近付いてみると宝石は茶色で、かなり濁っている。気のせいか中で何かが蠢いている感じがする。
「まじかよ……」
なんか今日は驚きっぱなしである。オークはどんどん縮んでいき、ミイラ状になってしまったのだ。
「この宝石で無理矢理力を上げていたんだねー。へーぽん、この宝僕が預かっても良い?」
むしろお願いしますだ。こんないわくつきの宝石なんて持ちたくもない。
「良いよ。でもちょっとだけ待って……コーチモさん、あの宝石を土で包んでもらえますか?」
こんな気味悪い宝石を、直接持ったら呪われそうだ。呪いや魔法に抵抗力のあるフェーフは大丈夫でも、周囲に悪い影響を与えかねない。
「コーチモにお任せです……えいっ!」
コーチモさんが魔法を掛けると、宝石は瞬く間に土で包まれてしまった。これだけ分厚ければ、悪い気も遮断されるだろう。
「ありがと。僕はこれをギルドに届けに行くよ……へーぽん、また何かあったらよろしくね」
フェーフとは仲良くしたいが、それは厄介事に首を突っ込むのとの同じだ。
「俺に出来る事ならな……それじゃ、元気でな」
今の俺に出来る事は限られている。面倒事には関わらず、こっちに転移してきたサラリーマンの護衛に徹しよう。
◇
昔からお調子者だと言われていました。そして今回も調子に乗り過ぎてまったのかも知れない。さっきから冷汗が止まらない。
エスプリの宿に戻ると一枚の書類が届いていたのだ。書類にはこう書かれていた。エスプリ側から君に関する情報が様々寄せられています。今後の事を話し合いたいので一度戻って来て下さい。 江里唯人
逃げたい。まじで逃げたい。でも逃げたら日本に帰れなくなる。
「コーチモさん、異世界ですよ。私お菓子をいっぱい買ってもらうんです」
ラルバさん、俺はお目玉をいっぱいもらうかも知れません。
「私は本なのです。伝説の都市アキハバラに行くのです」
コーチモさん、俺にBLを買えと言うのでしょうか?コーチモさんのご本買ったらウードウ様にお菓子を買わなきゃ駄目だろうな……その前にエスプリに戻って来れるかな。
このまま青森に帰ったら絶対に衣屋課長に叱られる。