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仕込みは万全?

俺が今いるのはウルスの大洞窟にある中央ホールの……端っこ。洞窟と言ってもノームや土のフェアリーが過ごすやすい様に改造しているので快適そのものだ。


「筋肉は努力の証なんですよ。鍛えまくったゴリマッチョも良いですし、か細い男の子が重い荷物を持ってプルプルと震える筋肉も尊いのでございます。そして見つめ合う二人、絡み合う筋肉!これこそ至高ですぞ」

 傍らではコーチモさんがラルバさんに筋肉の良さを説いている。土のフェアリーは努力している者を好む。その象徴が筋肉らしい……後半はスルーしておこう。


「びーえるだっけ?へーぽんもとんでもないジャンルを持ち込んだよね。ところで、なんでこんな端っこにいるの?」

 精霊は契約した人間の知識を共有するという。つまり俺の知識から、エスプリにBLというジャンルが広まったらしい。でも、俺はあくまでノーマルである。俺の脳みそにあったBLの知識が一部の精霊に受けたのだ。その名も腐精霊。フェーフ×猛が一番人気らしい。


「あー、フェーフは中央ホールに来た事ないもんな……始まるぞ」

 フェーフの疑問はもっともだ。中央ホールはかなり大きい。高さは八メートル近くあり、広さに至っては優に五百メートル近くある。しかも洞窟なのに、地面が真っ平なのだ。

 さっきからウードウ様がそわそわしている。そろそろ例のあれが始まる頃だ。


「ほい、アースジャベリーン」

 ウードウ様が呪文を詠唱しながら、中指と人差し指を立てると地面から岩の槍が生えてきた。かなりの強度があり、並みの魔物ならひとたまりもないだろう。

ウードウ様は効果を確認すると地面に寝そべった。

そして、勢いよく岩の槍に背中を擦り付ける。五メートルの巨体に押し潰された岩の槍はぺちゃんこになり、床は元通り真っ平になった。余程、気持良かったのか、ウードウ様はそのままホール中をゴロゴロと転がっていく。身体が大きいだけに、その迫力は凄まじい。


「ウ、ウードウ様、危ないのでございます。ゴロゴロするなら教えて下さい」

 コーチモさんが涙目になってウードウ様に詰め寄る。俺等でも恐怖を感じるんだから、体の小さなフェアリーなら尚更恐怖を感じるんだと思う。


「だ、だって背中が痒くて……」

 コーチモに怒られたウードウ様は大きな体を縮めてシュンとしている。ウードウ様は優しい方で、自分の眷属に怒る事すら稀だ。


「もしかして、ここってウードウ様が転がって出来たの?」

 流石のフェーフも驚いたらしく、顔がかたまっている。まあ、久し振りに見た俺も圧倒されたけど。


「フェアリーの力じゃ物足りないそうだ。だから、ウードウ様は背中が痒くなるとアースジャベリンを唱えて背中を擦るんだ。それで、その後はホール中を寝転がるのさ」

 人間形態に戻るより、アースジャベリーを唱えて背中を擦った方が楽らしい。


「久し振りにびっくりしたよ……これから、どうする?」

今回は、あのワームツリーを倒すだけじゃ駄目だ。シブレの住民が自主的にサキュサキュミートから離れなきゃ意味がない。

新しくワームツリーを植えられたら意味がないし、最悪シブレの住民を敵に回す事になる。


「どうすっかな……そうだ、フェーフこれ好きだったろ?」

 リュックからチョコレートを取り出し、フェーフに手渡す。前に転移してきた時、猛がたまたま持っていたチョコレートをフェーフは凄く気にいっていた。


「あっ、チョコレートだ。さすがへーぽん」

 笑顔でチョコレートを受け取るフェーフと、それを羨ましそうに見ているウードウ様。そういやウードウ様はご自分で作る位お菓子が好きだったな。


「良かったらウードウ様もどうぞ」

 体の大きさからしたら物足りないかもしれないが、ウードウ様にもチョコレートを渡す……体の大きさはウードウ様が人間形態になる事で解決。ちなみに人間形態のウードウ様はレスラー体型のイケメン。

(日本お菓子って外国の人にも好評だよな……そうだっ!)


「フェーフ、力を貸してもらうぞ」

 全盛期の力はないが、今の俺には四井商事がついている。


 ラシーヌに戻った俺は早速本社に連絡を入れた。こっちに転移できる物の一覧を送ってもらったのだ。

 そしてその足で日本から来たという大工の元へ移動。きちんとした書類をあげれば、補助が受けられ格安で作ってくれるそうだ。


「すいません。四井商事の者ですが」

 情けない話だが四井商事の言葉にテンションが上がる。それに嘘はついていない。出向中限定だけど、俺は四井商事の人間だ……何より二ヶ月したら、元の下っ端営業に戻ってしまう。今だけでもエリート気分を味わいたいのだ。


「はい、なんのご用でしょうか?生憎、祖父は外出しておりまして」

 出て来たのは十代後半の少年である。おじさんが失ってしまった爽やかさが眩しい。少年の名は紅葉くれは勇気君、十八歳。祖父の紅葉源次郎さんの手伝いをしているそうだ。


「依頼をお願いしたいのですが……どれ位掛かりますか?」

 俺が書いた設計図を少年に手渡す……フェーフには“これ悪戯書きでしょ?”と突っ込まれたけど。


「移動式の屋台ですか?売る物は飲み物ですね。よろしかったら、僕に任せてもらえませんか?構造は簡単ですし、既製品を使って良いなら二日もあれば大丈夫ですよ」

 オーダーメイドだと時間が掛かってしまうが、日本から必要パーツや部品を取り寄せれば短期間で作れるとの事。

 建物や難しい物は源次郎が作って簡単な物は勇気君が担当しているそうだ。


「お金は現地通貨でも良いんですよね?」

 ただし出すのは俺じゃなく、セルマンの国だ。フェーフが今回の件を報告したら、セルマンはかなり慌てたらしい。何しろ自国でサキュバスが商売をしているだけでもまずいのに、騎士まで夢中になっているのだ。他国にバレたら、信用が地に墜ちてしまう。


「むしろその方が助かります。政府からは出来るだけ現地の物を使う様に言われていますけど、お客様は殆んどの方が日本人ですので」

 つまり支払いは円ばかり。そして仕事が忙しいのに、両替の手間が掛かるらしい。日本なら月末にまとめて払うって方法もあるが、まだ信用を築けておらず即日現金払いのみなので、材料を買うのも一苦労との事。


「それではお願いします……あと、小型の船となると値段が張りますよね」

 段ボールシップも大分痛んできた。移動中に墜落したら、目も当てられない。ここは屋根付きの小型船を作ってもらい、快適な空の旅をおくりたいのだ。


「そうですね。お値段も期日も掛かると思います」

 よし、大型のゴムボートを買おう。空気を抜けば持ち運びも簡単だし


 幸いな事に屋台にも飛行の加護が効いたのだ。効いたけど、半端じゃなく怖いので、本の少しだけ浮かせて夜道を疾走しました。

 どうにかして、新しい移動手段を見つけなくては。


「それで何を売るの?」

 売り子はフェーフに頼んで冒険者ギルドから派遣してもらった。何しろサキュバスの妨害があるかも知れないのだ。一般人にはお願い出来ない。


「コーヒー牛乳にイチゴ牛乳。それにフルーツ牛乳。まあ、揚げ物には合わない飲み物だよ」

 サキュバスが売っているのは揚げ物ばかり、甘い飲み物とは合わないはず。エスプリで甘い物は高価だ。でも、俺が仕入れた飲み物は業務用なので安く提供できる。しかも社員価格なので、失敗してもダメージは少ない。紙コップもつけても、お手頃価格で売れるのだ……なんとかして一緒に買ったお菓子と飴の分を稼がなくては。


「それだけで効果があるの?」

 勿論、これだけでは効果はない。そこはきちんと仕込み済みである。


「ラルバさんとコーチモさんにお願いしてある」

 後は見守るだけだ。昔と一緒でヘータさんは他力本願なのです。


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