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鹿人フェーフ

拝啓、めだか文具の皆様いかがお過ごしでしょうか。私は外国に単身赴任している事になっていますが、実は異世界に来ています。魔物もが出る等、治安は良ありませんが偶然再会した知人せいれいのお陰で、怪我を負う事はありません。

 ただ、私は兵士に囲まれながら、今馬車で護送されています。

 あんな馬鹿でかい音と災害級の効果がある魔法が放たれて、気付かれない筈がない。

 物の数分で兵士が駆けつけ、現場に居合わせた俺は目撃者兼第一容疑者として、逮捕されたのだ。

 不幸中の幸いだったのが、兵士が近付いて来ている事にダーフィンさんが気付いてくれた。お陰で精霊剣を預かってもらう事が出来たのだ。あのままじゃ、殺人事件の現場でナイフを持っているのと変わらない。

 連れて来られたのはレンガ造りの建物。多分、騎士や兵士が巡回の拠点に使っている建物だと思う。

(こんな怪しい人物、城には連れて行けないよな)

 ダーフィンさんの話しだと、あの辺りに俺以外の人間はいなかったそうだ。被害を受けた人間がいないのは安心だけど、俺の容疑も晴らし辛い。

 そして案内されたのは威圧感たっぷりの部屋。飾り気は微塵もなく、木製のテーブルと椅子が置いてあるだけだ……どこからどう見ても取調室です。


「そこで、待て。ベルナール様が直々にお調べになる」

 ベルナール様……どこかで聞いた事のある名前だ。仕事関係の人を忘れないけど、最近無関係な人の名前を覚えるのが苦手になった。


「王宮騎士団白鷲隊所属のベルナール・トロンヌシュバリエ・ガルディアンです」

 部屋に入って来たのは、二十代前半と思われる金髪碧眼のイケメン。取調室に爽やかな風が吹いた気がした。

(トロンヌシュバリエ……玉座の騎士か。イケメンでエリート、羨まし過ぎて妬む気にもなれないな)

 俺がこの青年に勝てるのは、諦めの良さと愛想笑いの上手さ位だと思う。


「私の名はヘイタ・ヒラノです。ここは何の部屋ですか?」

 黒髪と黄色い肌を見れば、俺が異世界人にほんじんだと一目で分かるだろう。異世界人の俺が取調室やサツ―カ様の事を知っていたら、絶対に怪しまれる。


「ええ、存じています。お人柄はセシルから聞いています。ここは取調室ですが、ヒラノ様を犯人扱いしている訳ではありません。あそこで何をしていたのか、何を見たのか教えて頂けますか?」

セシル?……『ヒラノ様、今日から身の回りのお世話をさせて頂くセシル・バシュバリエ・カルームでございます』この人がカルームさんの婚約者か。まさか王宮騎士団の所属だったとは……セクハラ発言しないで良かった。


「あそこには木の実の採集に行きました。そうしたら石の化け物と、純白のドレスを着た女性が戦っておりまして、その後凄い数の雷が落ちたんです」

 完璧だ。異世界人が、ガーゴイルの事を知っているのは不自然だ。これで俺は戦い巻き込まれだけの哀れな異世界人になる。


「女性ですか?どんな方でしたか?」

 ここでサツ―カ様がどんな人か詳しく答えたたら、怪しまれてしまう。詳しい事は知らぬ存ぜぬで切り抜けるのが得策だ。


「すいません。なにぶん高い所におられたので、どんな方か分かりませんでした」

 心底申し訳なさそうな顔をしてベルナール君に謝る。


「そうですか?……ちょっと待って下さい。いえ、貴方様のお手を煩わせる訳には……分かりました。どうぞ、お入り下さい」

 取調室のドアがノックされ、ベルナール君が応対に向かった。しかし王宮騎士団のベルナール君が、あそこまでへりくだる相手って誰なんだろう。

 ……嘘だろ!?なんであいつがここにいるんだ。


「ベルナールちん、サンキュー。ヘイタだったよね。僕の名前はフェーフ・ノーズカ、こう見ても冒険者なんだよー」

 ベルナール君と入れ替わりで、部屋に入って来たのは三十代前半位の男性。優しそうな顔と頭から生えた鹿角が特徴だ。

 フェーフ・ノーズカ、俺と一緒の魔王を倒した鹿人の男だ。ジョブはレンジャー、人を食ったような話し方をするが、実力は一級品。特に弓の腕がエスプリ一と言っても過言ではない。

 ……フェーフが俺だと気付いていない可能性もある。それにフェーフは話の分かる男だ。俺が知らない振りをしていれば、察してくれる……筈。


「ヘイタ・ヒラノです。何かご用でしょうか?」

 フェーフはニコニコ笑っているだけなので、何を考えているのか分かり辛い。


「ちょっとねー。女の人の顔は分からなかったのに、なんで石の化け物だって分かったのかなって思ってさ」

 確かにガーゴイルは遠目で見れば灰色だとは分かるが、石の身体かどうかは分からない。第一、日本人の感覚で言えば体が石で出来た生物なんて信じないだろう。まして、そいつが空を飛んでいても、見間違いだと思う筈。


「な、なんででしょうねー。不思議だなー。異世界に来て、視力が上がったのかも」

 やばい。背中が冷汗でぐっしょりだ。


「へーぽん♪もう、ネタは上がってんだぜ。お前、ヴァル鉱山で盗賊に化けた騎士とひと悶着起こしただろ。素直に言った方がお得だよん」

 フェーフはレンジャーだ。森を調べれば、何があったか直ぐに分かる。


「サツ―カ様がガーゴイルにぶち切れて、雷を落としたんだよ。お前なら俺に聞かなくても分かるだろ?」

 ここまでばれていて、しらを切るのはむしろ損だ。ここは旧友にすがって、見逃してもらおう。


「僕ちんが聞きたいのは、なんでヘ―ぽんがこっちに戻って来たかって事。お腹だけじゃなく、体中に脂がついてるぞー。そんなんじゃ、まともに戦えないでしょ?」

 こうなればやけだ。俺はエスプリ戻ってきた経緯を、包み隠さずフェーフに話した。


「俺は国同士の争いに首を突っ込む気はないし、大冒険して荒稼ぎする気もない。二カ月間、平穏無事に暮らして戻るつもりだ……だから、お願い。見逃して」

 旧友の恩情にすがる為、手を合わせて拝む。俺は可もなく不可もなく、過ごしてほんのちょっとボーナスがあがれば満足なのだ。


「ヘ―ぽん、お腹にお肉はついても、巻き込まれ体質は変わんないね。むしろ悪化してない?普通転移して三日で、こんなにトラブルに巻き込まれないでしょ?」

 確かに、初日以外は全てトラブルに巻き込まれている。


「ウードウ様の所に顔を出したら、大人しくするから。頼む、フェーフ様。この通り」

 テーブルに頭を擦り付けながら、拝み倒す。大人になって脂を手に入れた代わりに、プライドは捨てたのだ。


「良いよ。その代わり、僕ちんの仕事を手伝ってね。サーツカ様に会ったって事は、飛行の加護をもらったんでしょ?……今、魔族の動きが活発になってきて、その件を調べているんだよね」

 フェーフは冒険者ギルドに所属して、自分の気になる依頼だけを受けているそうだ。金の多寡ではなく、自分が気に入った依頼のみ受ける。邪竜退治からペット探しまで、気に入ればなんでもやっているらしい。

(フェーフらしいな。国やしがらみにとらわれず、自由に冒険か……俺とは大違いだ)


「俺が今契約しているのは、風のフェアリー一人だけなんだぞ。戦闘力は期待しないでくれ」

 確実にフェーフの足を引っ張ると思う。


「そんな事言いながら、与えられた戦力で活躍するのがへーぽんの凄さじゃん。そいうや今どういう仕事してんの?お嫁さんは?」

 フェーフは矢継ぎ早に質問してきた。ここで自信満々に答えれた格好良いんだけど……。


「文房具の営業って言っても分かんないか……仲間が作った文房具を、お店に置いてもらえる様お願いして回るのが俺の仕事だよ」

 自分の仕事を卑下するつまりはないが、フェーフの活躍に比べたら、しょぼくみえてしまう。


「へー、なんかへーぽんらしい仕事だね。へーぽん、昔から人の良い所を見つけるのが得意だったじゃん……自分の良さをアピールするのは苦手だったけど……そっか、へーぽんは独身か」

 ぱっとしない俺の現状を聞いても、フェーフは態度を変えなかった。


「それでどこの調査に付き合えば良いんだ?言っておくけど、俺はラシーヌからは出れないんだぞ」


「セルマンだよ。ウードウ様が住んでいるウルスの大洞窟もあるから、丁度良いっしょ……それとラシーヌには、僕ちんが釘を刺しておくから大丈夫。召喚の実施だけじゃなく、異世界人しかもへーぽんを自国の騎士が襲ったなんて、ばれたらやばいでしょ……まっ、冒険者ギルドではラシーヌが召喚を行うって話は大分前から掴んでいたんだけどね」

 俺は平穏な二カ月を過ごせるんでしょうか?


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