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ガーゴイルラプソディー

……昔なら躊躇なくガーゴイルに立ち向かって行っただろう。結果を恐れず、突っ走るのは若物の特権だと思う。

 でも、この年になると最悪のパターンが頭をよぎる。ガーゴイルに負ければ、確実に殺される。いや、回復魔法を使えないので、例え勝てたとしても深手を負ってしまえば死ぬだろう。そして風のフェアリー達も殺される。

 ガーゴイルは明らかに風のフェアリーを追いかける事を楽しんでいた。その証拠に口元に嫌な笑みを浮かべている……俺が今使える魔法じゃ、ひるませる位しか出来ない。

でも……いい年した大人が泣いている子供を守れないでどうする。

(しょぼい攻撃しか出来ない。それがどうした?なければ知恵と経験でカバーするまでだ!)

 ラルバさんさんと契約をしているから、風系魔法の威力が少しは上がっているはず。空気砲をイメージして放てば……。

 まずは足元をチェック。細かい石を拾い集める。次に飴を砕いて、水筒に投入。そのまま魔力を流して攪拌すれば完了だ。

 石をポケットに詰めて、水筒を肩から掛ける。


「ラルバさん、今からガーゴイルに攻撃を仕掛けます。最悪の場合は契約の星に入って逃げて下さい」

 こんな若い子に傷を付けたら、親御さんに申し訳がたたない。俺の周りも、いつの間にか結婚していて子持ちだらけだ。俺には子供がいないけど、兄貴や友人達を見ていると自分の子供を大事にしているのが嫌でも分かる。

(丈治の奴も桜祭りにモデルみたいな女の子を連れて来てたし……独身ボッチは俺だけか)

 なら、答えは簡単。命懸けでガーゴイルを倒してやる。

 幸いな事にガーゴイルは、風のフェアリーを追い掛けるのに夢中で俺に気付いていない……その姿はまるで時代劇の悪代官である。

 流線型をイメージして魔法障壁を展開。そのままガーゴイルの背後に移動する。

 俺はお行儀の良い騎士でも、誇り高い侍でもない。奇襲もバックアタックも平気だ。

先ずは空気の渦を作り出す。イメージは椎の実型。そこにポケットから取り出した小石を放り込む……成功だ。小石は空気の渦に巻き込まれて、忙しそうに動いている。

 狙うのはガーゴイルの翼の付け根。


「空気の塊よ。弾丸となりて、敵を穿て……エアーバレット」

 詠唱はあくまで小声で、エアーバレットを撃つと同時に上昇。エアーバレットがガーゴイルの翼の付け根に命中する。威力はそこそこあったらしく、ガーゴイルの翼の付け根に細かいひびが入った。


「誰だ!俺様が、この空域を縄張りにしているガーゴイル組の者だと知っての事か!」

 ガーゴイルは俺を探して、周囲を見渡している。町のチンピラみたいな態度、普段なら絶対に避けて通っている相手だ。

 水筒の蓋を開けて、水に魔力を流す。マナを水に変化させるには、複雑な工程が必要だけど、最初からある水を使えば簡略化できる。

 さっきと同じ要領で水を球形に変化させる。飴が溶けた水は粘度が上がり、回転速度が少し遅い。

 一気に急降下して、さっきと同じ所を狙う。


「水よ。弾となりて敵を穿て……ウォーターボール」

 着弾直前に速度を落として、ウォーターボールの威力を落とす。


「さっきからチマチマ攻撃して来やがって……おっさん、若い女の前で恰好つけても、怪我したら笑い者だぜ」

 どうみてもガーゴイルはダメージを受けていない。元々ガーゴイルの痛覚は鈍いそうだ。多少ヒビが入っていても、鉱石を食べれば治るかららしい。


「ありがとな。それじゃ、おじさんからアドバイスだ。そんな風に血走った目で、女の子を追い掛けても、嫌われるだけだぜ」

 どうしたら、好かれるかって、そんなの俺が知りたい。おじさんに出来るのは、過去の失敗に基づくアドバイスだけなのだ。


「なーにがアドバイスだ。上司にへーこら頭下げて、ダサい仕事してる奴のアドバイスなんていらねえんだよ。俺は空も女も思い通りに支配してやる」

 思った通り、熱くなってくれた。若い頃って、おじさんの説教はうざいだけだもんな。


「支配か……おじさんは面倒事が嫌いなんで逃げさせてもらいます……そっちのお嬢さん達、サーツカ様によろしく伝えてねっ」

 自分でもきもいのを分かっているが、風のフェアリー達にウインクして全力で逃げ出す。目指すは上空だ。


「ヘータさん、ガーゴイルが追って来ますのー。このままじゃ、追いつかれてしまいますのー」

 ラルバさんの怯えている声を聞いて安心した。ガーゴイルは、俺の罠に掛かってくれたようだ。


「おい、おっさん待てよ……つ、翼に力が入らねえ!?」

 ガーゴイルは明らかに焦っているのが分かる。


「ウォーターボールは攻撃を目的するのが目的じゃなく、エアーバレットで出来たヒビに水を染み込ませるのが目的だったんだよ。しかも飴をたっぷりと溶かしたシロップ並みに粘性の強い砂糖水だ。猛スピードで飛んだくらいじゃ、落ちないぜ。そしてこれだけ上空に来れば、気温が下がり水は凍る」

 ひびに染み込んだ砂糖水は凍って、膨張する。分厚い身体なら。そこまで影響がなかっただろうが翼は厚みがない上に、俺に追いつこうと激しく羽ばたかせていた。

 結果、翼を動かすのに苦労する位にひび割れが広まったのだ。


「猿人の癖に!俺がこんな猿人の親父に負けるのか?」

 俺に言わせたら“ガーゴイル一匹相手にここまで策を弄さなければならなかった”である。もし、こいつがワイバーンや邪竜だったら、俺は呆気なく死んでいるだろう。


「それだけヒビが入れば、初心者用の精霊剣でも砕けるよな」

 今やガーゴイルは体勢を維持するのがやっとのようだ。あっさりと俺の接近を許し、なす術もなく地上に落ちて行った。

 俺の耳に悲痛な叫び声を染みつかせながら……。



 まずい。地上に戻ってたけど、さっきから寒気が止まらない。これは早く帰って,風邪薬を飲まないと熱が出ててしまう。

(部長には、砕けたガーゴイルの身体を送れば良いか……まじ!?)

 ふと空を見上げると何十体ものガーゴイルがこっちに向かって来ていた。ここからでも分かる位、ガーゴイルさん達はお怒りになっている。

 どう見ても敵討ちだ。多分、俺が倒したガーゴイルが仲間にテレパシーを送ったんだと思う。

(怪しい奴が西の空に飛んで行きましたじゃ騙されないよな)

 現場にいるえんじんが一番怪しいんだし。取り敢えず、木の下に身を潜める。


「ラルバさん、契約の星を通って家に帰って下さい」

 これでラルバさんは大丈夫だと思う。問題は逃げた風のフェアリー達が、ガーゴイルに捕まる危険性がある事だ。


「うちの若いもんを、ったのはどこのどいつだ!?」

 ひと際体格のいいガーゴイルが怒声をあげる……ここにいるおじさんです。木や岩に隠れながら、戦えば風のフェアリー達が逃げる時間を稼げる……筈。


「大丈夫ですのー。サーツカ様が来てくれましたのー」

 ラルバさんの指さす先にいたのは、こちらも怒り心頭のサーツカ様。

 これは本格的にやばい。木の下にいたら巻き込まれる危険性が高い。


「逃げて!ラルバさん、契約の星に超逃げて」

 ラルバさんが逃げたのを確認したら、が契約の星を媒介にして結界を張ればなんとかなる筈だ。


「俺の可愛い眷属を可愛がってくれたのは、どこのどいつだ!黒焦げになりたい奴から掛かってきな」

 まずい、サーツカ様の一人称が俺になっている。あれはサーツカ様が激怒している証なのだ。果たして、俺の結界は持つだろうか?


「ヘータ、こっちに来て下さい」

 天の助け。声の先にいたのは、ダーフィンさんだ。ダーフィンさんは俺が近付くと、素早く結界を張ってくれた。


「雷よ、我が叫びに応えて、敵を焼き尽くせ……サンダーストーム!」

 そして何の躊躇いもなく、上級魔法を唱えるツカーサ様。

 降り注ぐ何百もの稲妻。鼓膜が破けそうな轟音が鳴り響く。続いて立っていられない程の地響きが起きた。

 結果、ガーゴイル達は消し炭と化したが、森の大部分が焼けてしまった。

サーツカ様は、きれると大量破壊兵器並みの魔法を平気で唱える。どうも、大分前からあのガーゴイル組が問題を起こしていたらしい。それが原因でサーツカ様はストレスを溜めていたそうだ。

 ガーゴイル討伐は風のフェアリー達では荷が重く、シルフの皆さんは政務や風のフェアリーの保護が忙しくて討伐に出られない。

 そしてツカーサ様の魔法は威力が強すぎて、地形にまでダメージを与えてしまうから不向き。

 そこに偶然姿を現した俺は格好の獲物だったらしい。


「ヘータ、すまない。もう少ししてからで良いから、ウードウ様の所に行って土のフェアリーを連れて来てもらえるか?」

 ウードウ様は地の精霊のトップにおられる方で、五メートル近い巨体を誇るグランドベア―という熊の精霊である……巻き込まれ感半端ないすけど。

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