針

液体が蠢く

スポイトの中で

気泡が

ゆっくりと上がる

上と下が

確立しているから

麦茶の中の氷

線香臭い座布団が

今は足の下にある

座るのは謙遜してしまう

その柔らかさに

その存在感に

その壮大さに

庭先の花は

誰かに負ける事はない

自分が一番に

虫にモテると思いながら

咲いている

生きる為に

それ以外は考えない

生き残る為に

それだけを考える

蜂が飛ぶ

君に向かって

蜂が飛ぶ

横を罷り通る

君は避ける

カメラを振り回したような

映像を見ながら

顔を急激に動かす

何事も無かった

安堵感に息を吸う

背中に張り付いた蜂

知らないまま

それが重要だと

知らないまま

黄色の帽子が

道を駆け回る

急激に方向転換

笑い声と夏風

白いＴシャツの土色

アルバムに圧縮

季節感の外側に

座り込んでは

かき氷とりんご飴

忘れた頃に

懐かしい

それだけ呟いて

気温に怒っている

庭先の花は

咲いている事が

重要なのだと知っている

楽な方へ

落ち着くという事は

花は咲かせない

そういう事なのだ

花は咲かなくても

生きていける

枯れるまでは

僕等には

枯れてからの時間が

長短あるのだけれど

蜂が飛ぶ

君に向かって

蜂が飛ぶ

横を罷り通る

君は避ける

体を捻りながら人形みたいに

異様な生き物で

体を急激に動かす

何事も無かった

安堵感に息を吸う

背中に張り付いた蜂

知らないまま

それが重要だと

知らないまま

栄養の無い土に

追いやられた食虫植物

虫を栄養に花を咲かせる

あの綺麗さは

花屋の花よりも上で

あの負けなさは

花壇の花よりも上だ

生き残れるなら

人間ですら

食べれるだろうか

蜂が飛ぶ

君に向かって

蜂が飛ぶ

横を罷り通る

君は避ける

カメラを振り回したような

映像を見ながら

顔を急激に動かす

何事も無かった

安堵感に息を吸う

背中に張り付いた蜂

知らないまま

それが重要だと

知らないまま

蜂が飛ぶ

君に向かって

蜂が飛ぶ

横を罷り通る

君は避ける

何事も無かった

それを得る為に

毎日のリズムを

崩したく無いからと

君は避ける

安堵感に息を吸う

背中に張り付いた蜂

知らないまま

それが重要だと

知らないまま

公園のベンチで

潰している