クロイツと平和な日常 その三
朝食は肉の腸詰め、肉の串焼き、挽き肉を焼いたものを肉で挟んだ物に肉入りスープだ肉のカーニバルである。
まあ、私が頼んだんですけどね。
冒険者に必要なものそれは肉であると昔の偉人が言ってたような言ってないような。とにかく肉さえ食べれば元気になれるこれは世界の常識なのである。
もちろん私以外はその食事を見て顔を青ざめていたのは言うまでもない。
「ちゃんと食べなきゃ立派な冒険者になれないわよ?」
私が皆にちゃんと食べるように促すと、さすがに多すぎるだとか、食べきれませんよなど思い思いの不満を口にする。
「見ているだけで吐き気が」
そう言ったのはティアだ、そんなんだから貧相なのよ? お姉さんの愛人候補なんだからちゃんとムチムチになろうね? 私は嫌がるティアを羽交い締めにして次々と食事を口に運んで上げた。
大きく育つのよ色々とね、自分で食べれますからと言うティアの訴えを無視して私が三口食べたらティアに一口食べさすと言うペースで次々と口に肉を運んでいった。
アリエルとディオナもさっさと食べないとおなじように食べさせてあげるわよ?と言うと二人はすぐにテーブルににつき食事をとり始めた。
「このお肉、あのときの……」
アリエルがその肉を口にほうばると懐かしそうに味を噛み締めている。
「美味しいでしょう? このお肉はジェットラビットの肉で芳醇な香りもさることながらジューシーなのにしつこくなく、それでいてどれだけ食べても胃もたれしないし、何日も食事をとっていない人が食べても吐くことがない肉なのよ」
私がそう言うと、アリエルは少し潤んだ瞳で私を見る。この肉をチョイスした私を惚れ直しちゃったのかな?
「ふがふがふが」
なによふがふがうるさいわね、声の発生源を見るとティアの口には食べきれないほどの肉が詰め込まれていた。しまった、アリエルに見とれていて私の食べる分もティアに突っ込んでしまった。
仕方がないので口移しで入りすぎた肉をとって私はそれを租借するとごくりと飲み込む。うむ貧相とは言え美少女の唾液がついた肉はうまさ20%増しね!
とか思っていたらティアの肘鉄が私の脇腹を襲い手を離してしまった。ティアはするりと抜けると自分の椅子に座り直したその顔はゆでダコより赤く真っ赤に染まっていた。
アリエルを見ると黙々と肉をほうばっている。少しは嫉妬してくれても良いのにと寂しくなった私はアリエルに話しかける。
だが返事はない。
あれ? 聞こえなかったかな?
「アリエル?」
「……」
「アリエルさん?」
「……」
「アリエル様?」
そう呼び掛けが終わる前にナイフが飛んできて私の目の前に突き刺さる。
「お静かにお食べください浮気者のクロリア様」
私の方を見ずにそう言うアリエルの言葉にはすごく刺があった。特に浮気者に。
私はすぐさま土下座をして許しを乞うた。しかしアリエルは無視をして私の方を見てくれない。無視はね良くないと思うんですよお姉さんは。
「別に怒ってないですよ、ティアちゃんをお嫁にしたいと言うならそれも良いです、でも彼女はまだ未成年ですからね自重してください」
「やだなアリエル、わたし王公貴族じゃないんだから二人も嫁なんて持てないわよ」
私がそう言うとみんながピクリとして私を見る。あ、これダメなやつだこれ皆を怒らせてる。わたしはそのまま後ろにずずっと下がるとさらに土下座をした。
しばらく沈黙が続いた後アリエルが口を開く。
「ああいう事をするなら、ちゃんと責任持たないとダメなんですよ、わかってますか?」
アリエルがいつになく本気で怒っている。確かに軽率だったかもしれない。
「はい、ごめんなさい」
「じゃあ、ティアちゃんが成人したらちゃんと結婚してあげてくださいね」
「え、でもアリエルが妻としているから結婚は無理だよ。別れるとかいっても別れる気なんて無いからね!」
そうキスしたぐらいで浮気認定されて離婚とかあり得ませんから! いや、最低なこと言ってますけど絶対に別れませんから! ええ、別れませんとも!
そうか、アリエルは私と別れてあのガリウスとか言う男と一緒になる気なのね。
させるものですか! そのガリウスとか言う男を殺して私も死ぬ! いやそれだと私とガリウスが恋仲で無理心中したみたいじゃない、下手すると私の片想いでガリウスを殺したみたいな扱いになったら最悪だから、これは無しね。
「クロリア様、聞いてます?」
アリエルは病的妄想をしている私の顔を覗き込み少し起こったような表情をする。
「ええと、キスして良いですか?」
「はぁ、別に良いですけど、別れる気はないですって聞いててくれました?」
「本当に? 嘘でしたとか言うのなしだからね?」
「嘘なんか言いませんよ」
私は椅子に座った体制のままジャンプをして喜びを体で表した、宿からしたら完全に迷惑な客だなこりゃ、とは思ったのだけど喜ばずにはいられないのである。それがアリエルの魅力、アリエル イズ ナンバーワン!
「あれ、でもそうなると、ティアはお嫁にもらえないわよ?」
「それなら大丈夫です、どうとでもなりますから」
さすがアリエル様、知識の神、美の女神、なんでも知ってらっしゃると言うとギロリと睨まれた。私は縮こまるしかなかった。アリエルさんマジこえぇぇ。
「と言うかそれ以前にティアの気持ち聞かないと」
「それなら大丈夫ですよ、ね? ティアちゃん」
「わ、わたしはクロリアさんが好きです。いなくならないでください!」
ティアが私を好きだと良い身を案じてくれる。うい奴めうい奴め。
私は椅子に座りだったらもっと色々育たないとねと言い頭をなでた。
アリエルとティアのパンチが飛んで来て私は椅子と共に倒れ頭を打った。
「ううん……。ここはだれ? わたしはどこ?」
「とぼけてもダメですよ」
アリエルの激おこな顔が見えたので私は記憶喪失の真似でやり過ごそうとしたが、そうは問屋が下ろしてくれませんでした。
「ごめんなさい」
素直に謝罪。素顔で謝罪。素敵に謝罪。
私は輝く白いはをキラリと輝かせ、ごめんと言った。
当然、怒られたトホホ。
ティアを見るとしょんぼりとした表情で私を見ている。
「やっぱり発育悪い娘はだめですか?」
今にも泣きそうなティアに私はドギマギしながらも、あたふたと言い訳をする。別に発育とか関係ない、ティアは未成年で今後好きな人ができるかもしれないでしょ。と言うとそんなことありませんと言う。
何度も助けられて気が私に向いただけよと言っても、それはあるかもしれないけど好きになる理由としては十分じゃないですかと言い返される。
正論だ言い返せない。
「分かったわ、じゃあティアが成人を迎えるまで私を好きでいられたら結婚しましょう」
「本当ですか! じゃあ、お嫁さん決定ですね」
ティアはそう言うと私に抱きついて喜びを露にする。しかし、私はティアを剥いで椅子に座ると抱きつきは禁止させた。それに今後一切エロい事は禁止とも付け加えて。
「なんでですか!」
「だって、そんなことしたら成人まで待ってることになら無いでしょ、だから禁止。できないようならお嫁の話は無しよ?」
ティアは不満げな表情だが、二年ぐらいなら我慢しますと渋々承知した。
「この際だからディオナも私と結婚しとく?」
私のその言葉になに言ってんだこいつと言う表情を見せ。私ノーマルなのでご遠慮いたしますとスッパリとふられました。
我がパーティーメンバーにて余を好きにならぬ者がいることに。余はショックでござるよ。
もちろんこの質問の後にアリエルとティアからありがたいパンチをもらったのは言うまでもない。
朝食を食べ終えた私たちは部屋に一度戻り、身支度を整えると魔導具屋へと向かった。
アブラ・カタ・ブラの三人は愛想よく迎えてくれ、私を姉さんと呼ぶ。あなた達の姉になった覚えはないのだけど。
オババにアリエルを預け手を出したらその短い命がさらに短くなりますからねと念を押してから私たちは近場の山へと向かった。近場とは言え20km以上先にある。普通ならもっと早い時間に出ないと帰りは夜中になってしまうのだけど。
「ティアは肩車で、ディオナはダッコね」
そう言うと二人はいそいそと私に運ばれる形になる。
ティアは最初だっこがよかったともめたのだが運びやすさでこうしてもらった。
いや、腕に持つならそれなりに抱き心地が良い方が良いしね。持ち直すときに、手が滑ることもあるだろうしね。ムフフ。
「なにか、手がいやらしいと思うのですが。変なことをしたらアリエルさんい言いつけますからね」
「ヘンナ コト ナンテ シナイヨ」
なんでもアリエルで脅すのはお姉さんいけないと思うの。とは言えディオナの脅しに負けた私はなにもせずに二人を山まで運んだ。
標高1240m ツガラシ連峰
三つの山からなるその山々は鉱石も取れる貴重な山なのだが近くに瘴気感染が発生する小洞窟があり魔物の数もそれなりに多いため鉱山開発は進んでいない。
「なんの魔物狩りましょうか?」
「皮の加工からなのでD級素材の魔物がいればお願いしたいです」
ディオナは皮を鞣す技術がない、知識は手にいれたがそれを自分のものにするには経験が必要なのだ。 だから初心者と同じ過程を踏まなければならない。
私はマップでD級素材の魔物を探した。本当これ便利よね。近くに3匹のドックル(犬型の魔物)がいた。二匹は私が一瞬で首をはね、残った一匹は軽く小突いてダメージを与えた。
「二人でこいつを仕留めなさい」
レベルの接待上げは嫌いだけど。とりあえずレベル10はないと普通に戦えないからね。
ディオナの格闘センスはかなり良く。ほぼディオナの攻撃で倒した。この戦いでディオナはレベルが1上がったがティアは上がらなかった。
これは結構差がつくかもしれないわね。
その後もマップのお陰でサクサクとD級素材の皮を持つ魔物を狩るとディオナはレベルが5になっていた。ティアはと言うといまだにレベル1だ。
「クロリアさん私は地道に死に物狂いで頑張りますから、心配しなくても大丈夫ですよ」
地道に死に物狂いってちょっとなに言ってるか分からないけど、意気込みは伝わってきた。
私はティアに親指をたててサムズアップする。本当は頭を撫でたいのだけどそれは子供か嫁にするものだ。私はティアを子供扱いすることはないだからサムズアップなのだ。
「……あのう、頭なでで欲しいです」
いつもなら頭をなでる私に、サムズアップしかしないことにティアは不満を漏らす。どうやら大人扱いはまだ早いようでした。
そしてあっという間に100kgのD級皮と30kgの魔石、それに特殊素材が数個程手に入り下山することにした。
町に戻る頃には辺りは夕闇に包まれており、アリエルが心配してるだろうなと足早に魔導具屋へと急いだ。
全然心配してませんでした。
なにか熱心に魔導具をいじっており、私達が入ってきたのさえ気がついてないご様子です。うちのパーティーは集中すると周りが見えなくなる人たちばかりのようです。
私が肩をポンと叩くと飛び上がるほどビックリして私を見る。まるで子供が悪いことをしてたのを親に見つかったような反応で私はクスリと笑う。
ビックリした理由を聞くとどうやら呪いのアイテムをいじっていたらしく、緊張しながら加工していたせいらしい。
笑い事じゃなかったわけねごめんなさい。
その呪いのアイテムは斧で柄を伸びるように改造したと言う。柄を伸ばしたときに攻撃力倍増効果も付与したと言う。
「ディオナさん持ってもらえますか」
そう言うとアリエルが斧を手渡す、アリエルの手は呪術が施してある手袋をしているあれがないと狂人化してしまうのだろう。
ディオナがその斧を持つと目が赤く光り体が青白く光った。ディオナはその斧を自分の手足のように操ってみせた。
「レベル以上の動きしてますね」
確かにどう考えてもB級冒険者以上の動きだ、今日レベル10になったばかりの動きとは思えない。ためしに手合わせしたけど、これなら一人でやっていけるレベルだ青紫の髪の一族かなにげに凄いわね。
「あのう、私の武器は?」
「ごめんなさい、まだ完成してないのギミックが多くて……」
そう言うと小型の鎚をティアに渡す。この鎚は三段階で伸び『ズン』一回でひとつ伸びるそうだ。
そしてこの鎚の最大の特徴は魔法が使えると言うこと。魔銃のギミックを応用して3つの攻撃魔法が使えるようにできると言う。ただまだ未完成なのでひとつしか使えないと言う。
「『ピコピコドカン』で威力を押さえたエクスプローションがインパクトの瞬間鎚の部分から発生するからね」
とは言え、この中で試し撃ちするわけにもいかず、ティアは少し不満げである。
オババにお礼を言うと私たちは宿に戻った。食事はいつでもできると言うのでそのまま夕食を食べることにした。
その席でディオナが服の色は何色が良いかと聞いてきたのでピンクで可愛い感じでとお願いするとササッと紙に描き出した。
食事中に行儀悪いなと思うけど、まあ私の声は雑音なので聞こえないだろうからやらせておいた。
出来上がった絵はとても可愛く私はそれでいこうと言うことになった。その際帽子が可愛かったので、みんなお揃いにしようと言うことになった。
「パーティーネームはもう決まってるんですか?」
ディオナができれば服にチームのワッペンをつけたいと言う。
それを聞きアリエルがアゴに指を当てる、まじ可愛い。
「ピンクマッシュルームなんてどうでしょう?」
ピンクマッシュルーム、見た目のかわいさとは裏腹に世界最強の毒を持つ悪魔のきのこ。確かに帽子の形と色はまさにそれよね。それに私たちには毒があるよと言う威嚇にもなる。
「いいじゃないそれ、採用!」
「私も賛成です」「良いと思います」
ティアやディオナもそのチーム名に賛同してくれた。一発で決まったことにアリエルは照れる。私は照れてる嫁の頭をヨシヨシとなでる。嫁なのでなでても良いのです。
そして、私たちはチームピンクマッシュルーム結成を祝い乾杯した。
何もない平和な日常って良いなと思いながら私は3人の仲間を見た。