ミスティアと狂獣人サグル 終演
「魔王センス無いよ、何イロハって」
俺にセンスがないと言われ魔王は憤慨する、イロハと言うのは古の数え歌で神に連なる者と言う意味があると言う。
「まあ、嘘ですけど」
嘘なのかよ……。
その後もガリ子かイロハでもめたのだが、ジュリアスが私からとってジュリエッタでどうでしょうと言うことになりそれを採用した。
やっぱ賢者だセンスがいい。
「では魔王準備はいいかい?」
「はい、ジュリエッタお姉ちゃん様」
俺たちは勢い良く最初のドアを開けた。ギロリと睨む魔物達、そこは魔物の群れがひしめき合っていた。
……そっ閉じ。
「いやいや、これ無理でしょう! 最初の部屋からいきなり大量の魔物とか通す気が無いじゃないですか!」
「なにせ1万年使われていない施設ですからな」
ジュリアスはそう言うと、無責任にふぉふぉふぉと笑うのだった。
「作戦変更、俺も戦う」
そもそも戦えないと言うのは魔王を鍛えるための嘘だ。
「でもガリ……ジュリエッタお姉ちゃん様魔力切れですよね。神剣もないですし」
「魔王見くびってもらっては困るのだよ。俺には真名命名・改があるじゃないか」
「私たちを人間意戻したあれですか? あれ戦闘に役に立つんですか?」
魔王はまだ知らない、あれが超極悪チートスキルと言うことに。見て驚くがよい、これが神魔王の力だ!
「あ、ちょっと待ってね名前考えるから」
「はぁ……」
せっかくカッコ良いところを見せようとしてこれだ、情けなくなる。魔王は呆れ顔で俺を見ているし。ここらで神魔王として面目躍如しないとな。
「ええと、真名命名・改 その身を燃やし……」
そのワードともに俺のひのきの棒は大量のもやしになった。
「ええと、すごいですね野菜不足解消できますよこれ」
俺はそのもやしを魔王のアイテムボックスに突っ込むとジュリアスにもう一本ひのきの棒をくれるようお願いした。
通常に二本渡すことはしないと少し渋ったのだが、大量のもやしを見てかわいそうだと思ったのか特別にもう一本もらえることになった。
イメージ力が足りなかった。そのせいでもやしと言うワードに反応してしまったのだ。
「イメージ、イメージ。真名命名・改 その身を燃やし我を守れ聖なる剣 発動鍵:斬気」
「どうなったんですか?」
「ふふふ、驚かれるなよ魔王殿」
俺はそう言うと、ひのきの棒を高々と上げ鍵を唱えた。
「発動:斬気」
そのワードを受け、ひのきの棒が聖剣のごとき輝きを放つ。
「おお! すごいですお姉ちゃん様!」
しかしその光は30秒ほどで消えてしまった。細胞一個30秒か、後はこの剣の威力がどのくらいかだな。
「もう終わりなんですか?」
「いや、これはいつでも発動できるよ。細胞一個で30秒ほどしか持たないみたいだから」
「ガリウス様、細胞をご存じなのですか?」
細胞と言う概念は異世界のものだ、それを知っている俺に魔王は驚きを隠さない。と言うかバカにされてる気もしないではないが。
「ふふふ、俺だってだてに静さんの授業を受けてないのだよ、明智くん(意味はわかっていない)」
「ああ、それで最近ガリウス様は厨二病なんですね」
「え、うそ。そんなこと無いだろ?」
確かに真名命名改良のための授業内容に異世界を理解すると言うのがあって、そこで漫画やアニメと言うものについて教わったけど。それが影響したのか?
「いいえ、ガリウス様は最近、精霊鬼さん見たいですよ」
「そんなー」
「ね?」
「……気を付けます」
中二病にならないように気を付けると言う俺に魔王は違う違うと手のひらを振る。
「厨二は悪くないのです。静さん流の中二よりも魔王学の厨二を覚えていただきたいのです」
「なにか違うの?」
「静さんのはオタク系です。魔王学の厨二は真祖なのです」
「真祖?」
「はい、言うなればあちらはファッション中二。私達の厨二には遠く及びません」
なるほど、同じ中二病でも流派があるのか、中々に奥が深いな中二病。
その後も厨二談義を始める魔王に俺はタジタジになりながら話を聞いた。
魔王の教育はなにげに厳しい。
「そ、そうなんだ」
「ですから、前も言った通り、魔王学の厨二病も覚えるべきなんです!」
実は厨二病の授業もあったのだが、あまりの厳しさに俺はその授業を逃げ出した。
「魔王、スパルタだから……」
「だってしょうがないじゃないですか、私15歳ですよ静さんみたいに優しく教えることができるなら最初からしてますよ。好きな人なんですから」
「ごめん」
「伝わらないって、もどかしいんです」
「そうだね、伝わらないのはもどかしいよね」
なにか二人の伝わらないの意味が違う気もするが、気のせいだろう。
「ガリウス様は頭は悪くないんですが、感情が希薄なような気がします。特に性欲とか性欲とか性欲」
魔王のプッシュは魔王学の授業並みに激しいなとお思いながら、俺は華麗にスルーする。
「まあ、性欲かは分からないけど。子供の頃、感情と言うものが分からなかったと言うのはあるよ。割りと最近までだけど」
「え?」
その事に驚く魔王に俺は自分語りを唐突に聞かせた。
物心ついたとき、俺には母親がいなかった。代わりにいたのが皆に村長と呼ばれていた黒髪の美しい女性だ。俺はその人の庇護のもと生きていた。生きていただけだった。
ある日、村長が一組の夫婦と娘をつれてきた。この村は外で生きていけないもの達の拠り所で、そんな人たちを村長は連れてくる。彼等もまた外で生きていけない人たちなのだ。
俺は特に気にもせずそれを見ていた。小さな娘は俺と同じくらいの背丈で常にニコニコしていた。村の大人も笑うがあんな風には笑わない。何が違うのだろうと思った。
そこで気がついた、俺は笑ったことがないと言うことに。
俺はその少女に聞いた、どうやって笑えばいいのかを。
だけど少女は笑顔なんて自然に出でるから、どうやればいいかなんて分からないよと笑いながら言う。
今笑ってるのに、分からないとはどう言うことなのだろうと疑問に思った。
そして少女が考えた末に出した答えが、一緒に遊ぼうと言うことだった。
一緒に遊んでてわかったのだが、その少女はすごくどんくさかった。何をやらせても不器用で大雑把なのだ。だけど一緒に遊んでいると村の大人には感じたことの無い感情がわいてきた。
少女と遊ぶのが楽しい。
”よろこび”
少女は俺を良くからかった。
”いかり”
少女が遊んでくれない。
”かなしい”
また明日も遊ぶ約束をした。
”たのしみ”
少女の前で失敗をした。
”はずかしい”
少女と競争をして負けた。
”くやしい”
ミスティアが村から出ていった。
”こうかい”
ミスティアに蔑まれるような目でにらまれた。
”おそれ”
「だから、俺の感情のほぼすべてはミスティアによって作られたといっても過言じゃないんだよ」
そして精霊龍に闘争心、クロイツやアリエル、カイエルに優しさを教わった。
「なるほど、つまりガリウス様はミスティアに性的興奮を覚えなかった。だから性欲がないわけですね。わかりましたガリウス様に性欲を覚えさせるべく、私が一肌脱ぎましょう! 物理的に!」
俺は飛びかかる魔王の頭をポカリと殴り、ジュリアスに別れを告げ、今度こそ出発することにした。
「絶対に脱出するよ魔王」
「私はここでガリウス様と永遠に暮らすのもいいと思ってますよ」
「”らくたん”」
俺は魔王を残し、扉を明けると魔物の群れに飛び込んだ。
「ちょ! なんですかそれ! ひどいですよガリウス様。待ってくださいってば、ジュリエッタお姉ちゃん様!」




