クロイツと天然娘アリエル 終演
複製勇者ノ剣を抜くと私の視界は暗転し闇に包まれる。意識が複製勇者ノ剣に吸われていく感覚が私を襲う。
私は直感した、私は剣になるのだと。魔王と戦う勇者が持つ勇者の剣は意思を持つ剣。
ならば複製勇者ノ剣も意思がなくては本物とは言えない。
「本物になるために、私の力が必要と言うことか」
騙された気がしないわけでもない。でも、それでみんなが助かるなら私は剣になろう。
「さあ、吸うが良い。私の力を知識をすべて吸い取り力とせよ!」
私は両腕を広げて身を任せた。しかし不意に吸われる感覚がなくなった。目を開けると、そこには私がもう一人いた。
クロイツだ。そこにいたのはもう一人の私クロイツだった。
「なんで!?」
『私が剣になるわ』
「ダメよ! 私がなるわこれは私の贖罪なの、だから私が剣になるしかないの」
そういう私にクロイツは首を振る。
『だめよ、あなた以外あいつらは倒せない。それに、それにね、私が剣になればガリウスを殺さずにすむでしょ?』
「そんな、私は逃げるためにあなたを作り、辛いことは全部あなたに任せて、その上剣にするなんて。あなたはなにも楽しいことなんて……」
『バカね、あなたが私を作ってくれたからガリウスに恋することができたんじゃない。私はガリウスに恋をすることができて最高に楽しかったし最高に幸せだったわよ。だからみんなを守って、その勇者で』
クロイツはとても嬉しそうに微笑み、皆の運命を私に託すと言う。
本当は自分が一番ガリウスに会いたいはずなのに。
……そうね、私が剣になるのは逃げだ。私がやらなきゃダメなのだ。今まで逃げて引きこもっていた私が傷つく番だ。
「わかった。でも、かならずあなたを復活させるから」
『……わたしは』
「ダメよ! あなたを復活させてみんなでガリウスのお嫁さんになるんだから!」
そうみんなで、アリエルと私とクロイツとクロリアはいやがるかな? まあ、そのときが来るまでには説得しましょう。
『ふふふ、そうなれたら良いわね』
クロイツはお嫁さんになると言う言葉に、今まで見せたことのないような笑顔で答える。
「ダメなときは無理矢理押し掛けるから大丈夫よ! あの宿屋のときみたいにね」
『そうね、そしてまた嫌な顔されましょうね』
クロイツはそう言うと深い闇の方に歩き出した。
「かならず、かならず迎えにいくから」
その言葉にただクロイツは手を降って答えた。
目が覚めると、そこは私が剣を抜いている瞬間だった。先程のは夢? いいえ違うわね。今この剣にクロイツを感じる。
抜いた剣を掲げると刀身が闇のごとき漆黒に染まる。私はその剣で風刃剣を放つ。それは大木を切り裂きあまつさえ後方の木を数本まっぷたつに切り裂いた。
ただの風刃剣でこの威力か、クロイツの鋼の精神がこの刀身に宿って威力を何倍にも引き上げているようね。
「待たせたわね、死ぬ準備は良い?」
「ふん、その武器は神器か?」
「違うわ、複製勇者ノ剣……。いいえ黒魂ノ勇者剣よ」
「ほう、ではいくぞ黒の勇者よ」
デス・ハンドの体が蠢く。だけどあいつに攻撃させる暇は与えない。
「神気解放 mode:常闇ノ聖剣」
私が神気を解放し剣に特殊効果を付与すると私に敵対するものすべてに能力低下が与えられる。
常闇ノ聖剣はブラックホールからの超重力を敵対者に与え動きを阻害する効果がある。
「くそっ! 体が重い、なんで神器もないのに神気解放できるんだ!」
デス・ハンドは動きづらそうに体を動かすが、まだ動けるようだ。この効果で止めることは無理なようね。だけど私は常闇ノ聖剣の第二の能力敵対者一人の足元にブラックホールを発生させ動きを完全に止める能力を発動させデス・ハンドの動きを封じた。これは時間が経てば経つほど重くなり最終的に自重崩壊する。
だけど!
「言い残す言葉を言う時間も与えないわ、死になさい。アキトゥー流剣術 終義 絶鬼神殺」
絶鬼神殺とは神気を最大にまで高め、そのすべてを叩き込みあらゆる生きとし生けるもの、神すらも殺す最終奥義。
動けなくなったデス・ハンドは恐怖の叫びをあげ死から逃れるようにあがく。
この一撃から逃れるすべはない『もらった!』私は心のなかでそう叫び剣を振るう。
だけどインパクトの瞬間、空間が裂け盾が現れた。私は剣をその盾にブチ当ると反動で後ろに下がった。
その空間から二人の男女が現れデス・ハンドを守るように立つ。
「デス・ボディ! デス・ハート! 助けに来てくれたのか」
その言葉に反応することなく女のほうが私に話しかける。
「黒の勇者様、私はデス・ハートこちらはデス・ボディと申します。私たちはこのバカを連れ戻しに来ただけですので、できれば剣を納めて欲しいのですが」
「それを聞いてハイそうですかと剣を引けると思う?」
「デス・ハートやるなら今だ、奴は先程の技で神気を使い切ってるはずだ!」
それを聞くとその二人はあきれるようにデスハンドを見る。
「あなたは本当にバカですね。私たちが現れた瞬間、剣に送った神気を体に戻したのがわからないのですか?」
あの一瞬でそれを把握するとはデス・ハートと言う女なかなかのものね。とは言え、追撃のほうは見えなかったようだけど。
「くそが! なら俺がやってやるよ!」
デス・ハンドが戦わない二人に業を煮やし自分が戦うと言う。仲間が来たら強気になるなんて小物も良いところね。
「残念だけどその体じゃ無理よ」
私がそう言うとデスハンドの四肢がボロボロと崩れ落ち体が地面にズタ袋のように落ちる、四肢からは黒い炎が噴出し回復を阻害する。
「なっ! いつのまにやりやがった」
「ただの闇十六夜よ、あなたがバカにしたね」
神気解放された技はすべて使徒に回復不能なダメージを与える技となる。さらに刀速と切れ味の増した黒魂ノ勇者剣はそれ自体が最強武器なのだ。その剣のダメージは計り知れないし、そうそう見えるものではない。
「これはお強いですね、3人がかりでも無理かもしれませんね」と言い、ですがと更に話を続ける「後ろのお三方は生きていられるでしょうか?」
なるほどそう来たか、つまり一人が本気で私と立ち合い残りの一人が三人を襲う。そうなれば確実に誰かが死ぬ。
戦わないと言うなら逃がしてやってもいい。
「一つだけ質問い答えてちょうだい、先程デス・ハンドが自分は使徒だといったのだけど本当?」
「このバカはそんなことを言ったのですか」
そう言うとデス・ハンドの顔を踏みつける。
「返答次第では逃がすわけにいかない」
「でしたら私達に神話を聞かせたらいかがでしょうか、それが一番てっとり早いと思うのですが」
確かにそうね、私は秘密の神話を彼等3人に聞かせた。しかし彼等はその話を聞いても涙一つ流さなかった。
「いいわ、そいつを連れてどこへなりとも消えなさい」
「ご理解が早いようで助かります」
「ただし次はないわよ。仲間を傷つけるような敵として現れたら容赦しない」
私はそう宣言すると彼女らに切っ先を突きつける。
「そうならないように願いたいものですね」
そう言い残し、また空間に溶けて消えてしまった。
「なんで逃がすんですか!」
アリエルが珍しく声を荒げる。
「あのまま戦えばあいつらは倒せても、誰かが死んだわ」
「私が弱いからですか?」
自己分析ができないアリエルじゃなかろうに、アリエルはデス・ハンドの十分の一ほどの力しかない。
「そうね、アリエルじゃあいつらとは戦えないわね」
そう私が断言するとアリエルは唇を噛み締める。
「そうやって私を置いていくんですかガリウス様みたいに。置いていかないでください! 強く、今よりも強くなりますから!」
そう言うとギュッと私を抱き締める、痛いくらいに抱き締めてくるアリエルからは絶対に離さないと言う強い意思が感じられた。
そうか、この子はこの子でガリウスに置いていかれて傷ついていたんだ。それなのに私に付き添ってくれて。
「大丈夫よ、私はあなたのそばを離れないから。私の気持ちは知っているんでしょう?」
「嘘です! 私が離れたら置いていくんでしょ!」
子供のように駄々をこねるアリエルのアゴを持ち上げ私は深いキスをした。私の愛が伝わるように何度も何度も。
私の愛が伝わったのかアリエルは私の胸に顔を埋め、ごめんなさいとひとこと言う。私は更にキスをして愛情を確かめあった。
『す、すごく濃いキスするのね、恋してるだけに?』
誰だ、くだらない親父ギャグを言うのはと周りを見回したがディオナとティアは私たちを見てポカンとしているだけだった。
気のせいかしら?
『これは今後ガリウスとするときの参考にさせてもらいましょう』
聞き間違いじゃなかった、その声の主は剣になったクロイツの声だった。
◆◇◆◇◆
「ガリウスさまぁ~」
魔王の囁きが俺の耳元をくすぐる。目を覚まし声の主を見ると顔がすぐ横にあった。
「ちょ! ちょっと魔王?」
「ふあ~、ガリウス様おはようございます」
朝は弱い魔王が眠そうな目をこする、あられもない姿で。
「なんで裸なの!?」
「昨日は激しかったですね!」
嘘だろ、俺は知らぬまに魔王に手を出してしまったのか?
「って、そんなわけないだろ」
俺は魔王の頭をコツンと叩くと服を着るように促した。て言うか俺も裸にされてる。理由を聞くと普通寝るときは裸でしょう、だから脱がしましたよと、さも当たり前の顔をして言う。
魔王は噂に聞く裸族と言うやつなのか。俺は服を着替えるために龍ノ宝物庫を開くが全く反応しない。
「魔王大変だ俺着替えも食料もないよ」
魔王は自分のアイテムボックスを確認すると自分のは使えると言う。
俺の龍ノ宝物庫は精霊龍から借りている物だから、リンクが切れた今は使えないと言うことか。
「本当にヒモになっちゃいましたね、ガリウス様」
くっ言い返せない魔王がいないとこのダンジョンを攻略できない。
仕方ないので一度来た服を再度着るが、一度脱いだ服と言うのはどうしてこう感触が気持ち悪いのだろうか。脱がなきゃ三日はいけるんだよな。
それを魔王い言うと、さすがに三日はあり得ないですよ軽蔑の眼差しをされる。
自分の服を着た後、魔王の着替えを覗かないように反対を向く。後ろを向いてしばらくすると魔王の助けを求める声が響き渡る。
「ガリウス様、洋服着れません~」
聞くと普段メイドに着替えをやらせているそうで、自分では下着一枚履けないと言う。
「分かった取り合えず下着をそこにおいて」
裸のまま行動させるわけにいかないので俺は下着を握り顔をそむけて感覚で服を着せることに挑戦した。
「じゃあ先ず下からね」
そう言うとパンティーをおもむろに広げる。え、ちっさ! なにこれこんなの履けるの?
俺は足の通す場所を確認して広げるがその穴は胴の部分だと怒られた。
「じゃあ足を通してもらえる?」
ちゃんと確認した俺は足を差し込むように魔王を促す。
「ええと、いつもメイドが足を持ち上げて下着を通していたので良くわかりません」
まじか、どうすれば良いんだこれ。俺は魔王の足を探して右手で魔王のいる場所をまさぐる。
「んっ! ガリウス様そこ違います」
肉と肉に挟まれる感触で俺は手を引いた。
「ごめん大丈夫?」
「はい破れてないみたいです」
「え、ナニをさわったの俺……」
気を取り直し、先程の場所からあたりをつけ魔王の左足をつかむ。更に右足を引き寄せいっきにパンティーを引き上げようとしたが、柔らかいベッドで支えのない俺はバランスを崩し魔王に倒れ込む。
柔らかい丘を俺の手のひらが包む。さわってはいけない物をさわった俺はすぐさま飛び退き、魔王に背を向ける。
「ガリウス様ぁ~早く履かせてくださいよぉ~」
さわられたことなどどうでも良いように、なかなか履かせられない俺に苛立ちを隠せない魔王は早くしろと催促をする。
そのとき俺はおかしいことに気がつく。
「自分で脱いだ上に、俺の服まで脱がせたんだから着れるよね?」
俺が魔王にそう言うと知らん顔をしたが頭をげんこつでグリグリすると。ごめんなさい、ごめんなさいと謝り自分で服を着出した。
「女の子に手をあげるとか最低です」
そう言うと少しはサービスしてくださいよと、ふてくされたように言う。
魔王は魔王城にいるときよりイチャイチャモードになっていて手がつけられない。精霊龍もつれてくるべきだったかと後悔しながら魔王の頭を撫でると。へへへとニコニコしていたので機嫌は直ったのだろう。
「使徒様よろしいですか?」
俺たちのイチャつきが終わるのを待っていたジュリアスが、今後の予定を説明し出す。
先ず現在地は地下100階で一層は迷宮と同じサイズだと言う。つまり半径5kmの巨大地下塔にいるわけか。
そして上にいけばいくほど敵は強くなると言う。最上階の出口は迷宮のボス部屋に繋がっており、出た瞬間ボス戦になると言う。
そのボス戦の前にガーディアンが六体おりそいつらがボスへの道を塞いでいると言う。そして一体一体がボス並みの強さでここが正念場だそうなのだ。
「この修練場を使われるのはデスヘッド様の配下の方々以来1万年ぶりなので魔物がわんさといますので、お気を付けください」
そう言うと武器を持たない俺のために、ひのきの棒を渡してきた。
「なんで、ひのきの棒?」
「デス・ヘッド様が言うには一番最初の装備はひのきの棒と相場が決まっているだそうです」
デス・ヘッド、他の神の施設にまで口出すなよ。まあ俺にとったらこの装備はありがたいのだが。
準備が整いスライムスーツを俺の体に密着させ女体へと変わる。
「相変わらずお美しいですよお姉さま」
「ガリ子と呼んでちょうだい」
俺がしなを作りそう言うと、魔王は何をしているんですかと眉をしかめる。
「それになんですか、そのセンスの欠片もない名前は。そんなんだからすぐにばれるんですよ」
ぐっ魔王城から解放された魔王はなにげに辛辣だ。まあ前回のメルウスもメルティナとガリウスを足して作ったものだしな。
魔王が手をポンと叩くと、良い名前考えついたという。
「ほうどんな名前かね?」
「今日からお姉さまの名前はイロハです」
魔王の命名力も大概だった。