クロイツと天然娘アリエル その二
蚤の市はこの規模の町にしては大盛況で人の海である。
「この日は屋台も出るので人が多いんですよ」
ディオナがそう言うと屋台がある方を指差す。確かにその一角はさらに人が多い。イートインスペースもありひとでごった返している。
「あとで私たちもなにか食べましょう。儲かったからご馳走するわよ」
そう言うとティアはクロリアさん太っ腹と言いよいしょをしてくる「別に太ってないわよ!」と言うと「確かに、お腹の脂肪は全部乳に行ったようですな」と言うと私の胸を揉みしだく。ほうほうどうやらこのクロリア見くびられているようね。バディのアリエルの前とは言え挑戦されたら受けぬわけにはいくまい。
私はアイキドーの拝みから諸手取りで二人の位置関係を逆転させる。ティアは一瞬何が起こっているか分からないようで困惑している。
「ではいただきます」
私は服の隙間からアイキドーの抜き手でするりと指をすべり込ませると直で胸を揉みしだく。
「ちょ、クロリアさん? あ、だめです。 そこは!」
ふふ悶え苦しめ、私に挑戦してきたのだアリエルサイズになるまで揉みしだいてあげましょうぞ。
ティアは『あっ!』言う声をあげると力なく崩れ落ちる。だが私の攻撃は終わらない、ずっと私のターンだ。ういヤツ、ういヤツよ、ハハハハ。
「クロリア様なにをしているんですか」
そう言ったアリエルは軽蔑の眼差しで私をみる。
私は即座に腕を引っ込め言い訳をする。私のターンなんてなかった。幻想でした。
「胸は大きければ大きいほどいいでしょ?だから揉んで大きくしてあげようとしてたのよ本当よ? 浮気じゃないのよ?」
そんな私の言い訳を無視してティアを抱き起こす。
「ごめんねティアちゃんクロリア様は獣だから注意しなきゃダメよ」
「はいです、身の程を知りました」
ティアはそう言うとアリエルの胸に寄りかかる。クソそこは私の指定席なのに……。
そう言おうとしたのがアリエルに伝わったのかギロリと睨まれた。私はごまかすように『ひゅ~ひゅひゅ~』と吹けもしない口笛を吹く。
そして三人でドンドン進んでいくのだ私を無視して。お金私が持ってるんですけど?支払いどうする気だろう。ここはイニシアチブをとるために強気で行くべきか? いやお金を交渉の対価にするのは最低の行為だからこれはダメね。
私は「まってよ~」と情けない声をあげ三人を追いかけるしかなかった。トホホ、浮気ダメ! 絶対!
とある店で止まる三人に追い付くとディオナがポロポロと泣いている。
「どうしたの?」
そう問う私にディオナはこの裁縫導具、私のですと言う。どうやら叔母が売り払ったと言うディオナの裁縫導具をこの露店商が買い取り売ろうとしているようだ。
「おじさんその裁縫導具いくら?」
泣いているディオナにビックリして固まっていた店主が買うときいて商売人の顔に戻る。
「これは名店の裁縫導具でね安くは売れないよ」
「ご託は良いわ値段を言いなさい」
「20Gだな」
「分かったわ買うわ」
そう言うとアイテムボックスから30Gを取りだし相手に渡す。20Gそのままの金額だとまた難癖をつけるだろうから、敢えて多めに渡すことで二の句を言わせないようにする。
私はその裁縫導具を取り上げるとディオナに渡した。
「それはあなたのものだから大事にしなさい」
「あ、ありがとうございます」
ディオナは裁縫導具を大事そうに抱え私に何度もお礼を言う。まあ、体で返してもらうから良いわよと言ったら「台無しですね」「がっかりです」「見損ないました」罵倒が飛んで来た。いやいやそう言う意味じゃないから! 働いて返してもらうって意味だから! 少しでもディオナの心の負担を取り除こうとした結果だから!
なんか私の扱いがぞんざいになっていく。お姉さんこの中で一番年長ですからね。そう言ったらそれらしい行動をちゃんとしてくださいとアリエルに怒られた。
「まあ、さっきのはカッコウ良かったですよ」
そう言うアリエルは顔を赤らめて照れる。ふふふ、わが嫁はツンデレなのかな?
その後大量の布と大量の紙を買って私のアイテムボックスにしまった。ディオナは裁縫導具は自分で持ちたいと言うのでアイテムバックを買ってあげた容量は100kgまではいるタイプの物を3人に買った。アリエルはアイテムボックスがあるからいらないんだけど神の祝福で使うからと言うことで買ってあげた。
問題はティアとディオナの武器よね、後方にいるとは言え武器なし防具なしじゃ安心感が違うだろう。
「ティアとディオナはなんの武器使いたい?」
「ティアはカナズチがいいです」
ティアはカナズチで魔物を押し潰したいと言う。なにそれどこのパーサーカーですか。小さい体で鎚なんか振るえないでしょうと言うとがっかりした顔をしてしょげた。
「私は弓ですかね?」
ディオナはやはり戦うのが怖いのだろう、後ろから遠距離攻撃と言うことだろうか。
「カナズチならインパクトの瞬間質量を増大させる魔導具を作れますよ。これなら普段は杖程度の重さで振り回せるから体の小さいティアちゃんでも使いこなせると思います」
「作るの?」
「はい。素材はそんなに高級なものは使わないですし、すぐに作れますよ」
「じゃあ、それでお願いね。ディオナは弓と短剣ね」
「弓にも何か魔導具を仕込んでおきますね、短剣は先程のを改造しておきます」
「あ、私短剣は怖いので」
「ダメよ、近接武器は持っておかないと弓じゃ対処できないわよ、近寄らせなければ良いだけだから一応持っておきなさい」
「はい」
あれ、なんだかディオナが素直だ初めてあったときよりも険が抜けている。裁縫導具が売られているのを見て吹っ切れたのだろうかい良い兆候だ。
「その顔の方が素敵よ」と言うとフガフガとあわてふためく。なにをそんなに慌てているのだろうか。私は浮気はしませんよ、ええしませんとも。
アリエルの目とティアが下衆を見るような眼差しで私を見る。
そう言う眼差しで見られるの、なにげにゾクゾクするわね。
「浮気はしませんよ王族じゃないんだから」
そう言うとアリエルは暗い顔をした、もと貴族のアリエルの地雷を踏んでしまったようで私は素直に謝る。
なんか私謝ってばかりだな、恋愛は難しいわ本当。 買うものも買ったし取り合えず屋台で何か買って食べましょうと皆を誘いイートスペースのある方に向かう。
途中串焼きの店で肉が山盛りの串を買い、アリエルとディオナに先に席をキープしてもらうためにそれを渡して、私達は何件か回ってから合流することにした。
「ティアは何が食べたい?」
「お魚とかあれば良いんですが」
そう言ってキョロキョロ見回すとなぜか人が避けてとおる店が一軒あった。
「あれは!」
ティアが人垣を掻き分けその店に一目散に走り出す。私もアイキドーの足捌きを使い人混みをなんなくすり抜けティアに追い付いた。
「う”あ”、臭い!」
私は思わず鼻をつまみ変な声をあげた。
「なんだ姉ちゃん営業妨害か? クサーヤの良さが分からん奴は商売の邪魔だとっととあっち行け」
言われずとも行きますよと言いたいところだがティアがその臭いの元のクサーヤに目が釘つけになっている。
「このクサーヤ普通のクサーヤとは香りが違いますね」
ティアがあの臭いを香りと言うと店主は眉毛をピクリと動かし「ほう、お嬢ちゃんわかるのかい」とのたまった。
「ええ、この香りは100年や200年物のクサーヤ液では出せない芳醇な香りです1000年以上のものとお見受けしましたが?」
「ほう、やるなうちの店はな勇者が持ち込んだクサーヤ液を継ぎ足し継ぎ足しでなんと1万年物のクサーヤ液だ」
「それはすごい! クロリア様これは買いですよ。こんなに素晴らしいクサーヤには二度と会えないでしょう。今を逃せば永久に食べることが出来ません」
それを危機店のオヤジは満足そうにウンウンとうなずく。
「誰が食べるのよこんなの」
「みんなでですけどお嫌ですか?」
「おいねぇちゃんこんなのとは心外だな、クサーヤのよさを分からんヤツには売らんさっさと帰れ!」
「クロリアさんあやまってください! オヤジさんにちゃんと誠心誠意あやまってください!」
そう言うティアの言葉には鬼気迫るものがあった。私はふて腐れ気味に謝ると、ティアが「声が小さい!!」と怒鳴る。「ずみばせんでじだ!! わだじがわるがったでず!!!」
「ふん、分かれば良いのよ、で何枚買うんだいお嬢ちゃん」
「1枚で」
こんなの食べるのはティアくらいだろう私は食べたくないので1枚でお願いしたら、ティアが烈火のごとく怒る。
「クロリアさんもう手に入らないと言いましたよね私は、全部です、店にあるもの全部買うんです!」
ダメだこれティアの目がイッテる、どれだけクサーヤ好きなのよ。
「分かったわ、全部いただきます」
「ダメだな、いくら保存食のクサーヤでも腐るんだ、もって1週間だな何人で食うかは知らんが必要以上には売れんな」
おお、ナイスオヤジさん1枚で良いんですよ1枚で。
「それなら大丈夫ですこちらのクロリアさんはアイテムボックスの持ち主で1t以上の荷物を保管できますから」
「そいつはすごいな、それが本当なら売っても良いぞ」
オヤジは今この場でクサーヤをアイテムボックスに入れるなら入った分はすべて売ってやると言う。
一枚だけ入れて満帆ですは通じないわよね。さっき1tの魔石出したばかりだしね。
というかクサーヤに触りたくない、どうしよう。
そう言えば契約の握手をすれば投げただけで入るんだからその逆もできるんじゃない?
私はオヤジと先程の条件で売買契約をした。オヤジがクサーヤ臭いのはこの際我慢しよう。値段はもちろん表示されている値段でだ値引きなしだ。
自信の逸品を値引きするわけないだろこのバカめと言われ、ティアにはクロリアさんは物の価値が分からないかたなんですねと蔑まれた。ふあああ泣きたい。
それはそれとして、やはり契約済みになると目の前にクサーヤが浮かぶそれをアイテムボックスに移動すると屋台からすべてのクサーヤが消えオヤジの前には50Gの金貨がおかれる。
「おお、すげーな」よオヤジは目を見開き驚き。ティアは「ちゃんと入れてくれましたか?」と念を押してくる。
大丈夫よ全部で500枚入っているわと言うとホッとして自分が私にどれだけ暴言を吐いたか気がついたようで平謝りする。
人をこれだけ狂わせるクサーヤの魔力に私は驚愕し恐れおののく、これ食べたらもう昔の私には戻れなくなってしまう……。
まあ、こんな臭いの食べないけどね。
「お嬢ちゃん、迷宮に来ることがあったらこの札を冒険者ギルドの受け付けに見せな良いようにしてくれるからよ」そう言うと金色の変な模様入りの札を渡された。
この模様なにか呪術的なものかもしれないが特に嫌な感じはしない。念ためこの模様の意味を聞くと俺の名前だと言う。字が汚くて読めなかったわ。
ゴンザレスねよくある名前で特徴がないけど覚えたわこの臭いと共にね! 二度とこの町に来るんじゃないわよゴンザレス! 次にこの場所に屋台を建てたらティアが気がつく前に抹殺してやるんだから!
私達はその場をあとにすると他の屋台でスープと串に米を巻いて焼いた物を買ってアリエルたちの待つイートスペースへと向かった。
イートスペースにいくとアリエルとディオナがいる席に二人の男が座っていた。
「アリエル、このかたたちは誰」
「おお! 本当に連れがいたのかよ。まあいいやお前ら今から俺たちとホテルでお楽しみな」
「は?」
「聞こえなかったのか? お前らは俺にこれから抱かれるんだよ」
スゴいナンパのしかたねいきなり抱くとか。あんたの頭をカチ割って中身をみてみたいものね、もちろん入っていればだけど。そう言うと顔を真っ赤にして怒り「お前ら分からせてやれ」と言うと私たちの周りを粗野な男達が取り囲む。
「ビビったか? 今なら俺の靴をなめて許しを乞えば生奴隷位で許してやるぜ」
それ許してることになってないよね。あんたみたいな下衆の性奴隷とかどんな罰ゲームよ。
「アリエルなんでこんな男座らせたの? ぶっとばしちゃいなさいよ」私がそう言うとアリエルはいつも兄が対処してくれていたのでどうすれば良いかわからなくてと言い戸惑う。私はアリエルの頭を撫でそれじゃ仕方ないかと甘やかす。
「おい女同士でイチャイチャしてんじゃねぇよ!」
そいつは無視されて悔しかったのか椅子を地面に叩きつけて壊し、私の襟首を掴もうと手を伸ばす。私はその手をつかみアイキドーで投げた。周りの男たちはそれを見て一斉に襲ってくるがすべて投げて暴漢で山を作った、私はそれに座ると食事にしましょうかと皆に言う。
「そこで食べるんですか?」
「そうよ、すわりごごちは悪いけどちょうど良いでしょう椅子が足りないし」
自分で壊した椅子の代償は自分で払ってもらわないとね。
「クソアマ、どきやがれ!」一番最初に投げられた男が下で私を罵倒するのでかかとを鼻と口の間の人中にお見舞いすると『ぎゃぐん!』と言う声とともにおとなしくなった。
「アリエル、こういうのは下手に出たらだめよとことん潰さないとゾンビみたいに復活するのよ」
「はい、すみません」
「怒っている訳じゃないのよ、あなたを心配していってるだけだから。変な男に騙されないようにね」
アリエルは世間知らずなところがあるからね、私が見張ってないと。いや、今回は私のミスだアリエルに場所取りを任せたのがいけなかった。
こんなに美人で可愛い娘がいたらナンパしたくなるのも当然だ。むしろこの男たちは被害者だ、アリエルの美貌にやられた被害者なのだ。
この美貌魔神、私の嫁です。
食事が終わる頃私の足元が血溜まりになっていることに気がついた。どうやら先程蹴ったときに前歯が折れていたようで白いものが何本か地面に落ちている。
まあ、自業自得よね。数人分の重みでグッタリしているからそろそろ解放してあげるか。と思った矢先に周りがざわめかしくなり粗暴な男達パートⅡがぞろぞろと私たちを取り囲む。
パートⅡだけあって武装もしており気迫が違う。
「おお! 息子よなんという目に遭っているのだ。今助けてやるからな! 野郎共あいつを殺せ」
下敷きになっているヤツの父親らしい男が号令をかけると暴漢パートⅡどもが剣を抜き私に襲いかかる。
剣を抜いたヤツに手加減するほど私はお人好しではない、土蜘蛛の糸を一瞬で伸ばし、魔法剣の風刃剣・疾風を使い暴漢共の手足を切り落とした。更に火炎剣を使い切り口を火で焼いて出血を止める。暴漢たちの焼かれる臭いが鼻をくすぐる。食欲なくなる臭いね。
焼かれている暴漢はギャーギャー喚くが感謝して欲しいものである、死なないように止血をしてあげているのだから。
まあこれをやると、切った手足は二度と繋がらないんだけどね。こういう愚連隊は平和に暮らしてる人たちを脅かす存在だ。だからこのくらいした方がいいだろう、これでもうみんなに迷惑かけられないわね。
「さてさて、あなたはどうするの? 息子を見捨てて逃げる? 良いわよ逃げるなら特別許してあげるわ」
そう言うと叫び声をあげながら逃げ出す。
私は逃げ出した男の足を糸で切り落した。まあ、許してあげるなんてのは嘘なんですけどね。下敷きになっている息子の顔を見ると親に見捨てられた絶望にうちひしがれていた。
ことが終わると、周りの人達が歓声をあげ私たちを祝福する。やはりこいつらはかなりの鼻つまみ者だったようで、倒れてる連中に暴行を加えているものもいた。
そのままだと殺しそうな勢いだわね。「粘土剣 絞首台」 私が地面に剣を突き刺すと暴漢たちの周りの土が盛り上がり胴に鎖を巻き付けると上空高く引き上げた。
引き上げられた暴漢達をみた群衆は歓喜し石を投げ始める。
「ダメだわこれ、よっぽど恨まれているのねこの人達」
「クロリア様やり過ぎです。おいでプロトリバイア」
アリエルが右手をかかげると水色の光が発生して触手がウネウネと現れ水の防御壁を暴漢達の周りに作り出した。
それは群衆の石攻撃から暴漢達を守った。まずいことに守ったのだ。
「みんな逃げるわよ」
私は3人の背中を押しこの場から逃げようとしたのだが、一人の男がこいつが今魔法を使ってあいつらを助けたぞとアリエルを指差してまくし立てる。
それに気がついた群衆は「ふざけやがって」「殺してやる」など思い思いの言葉を吐き私たちに石を投げ始めた。投げられる石はすべて叩き落とすがそれが余計に群衆の怒りに火をつける。もはやあいつらをあんな状態にしたのが私だと言うことも忘れて石を投げる。中には殴りかかるものまでいるが、明らかに一般市民なのであいつらと同じ扱いをするわけにもいかず、取り合えずアイキドーで投げる。
「おい! もっと石を持ってこい」
だれかがそう言うと何人かが石を大量に拾ってきて、投げているヤツに石を供給し出した。
そのうちの一発がティアの額に当たる。
それをみた私の血が沸騰する。仲間を傷つけた、傷つけられた、許さない殺す!
記憶を巻き戻す、石を投げたヤツを把握する。あいつだあの男だ。私はその男に飛びかかり馬乗りになると何度も何度も殴り付けた。
「死ね! 死ね! 死ね! 仲間を傷つける奴は死んでしまえ!」
トドメを刺そうとする私の腕を、いつのまにかアリエルやディオナ、ティアが止めに入る。
「離しなさい! 仲間を傷つける奴は殺さないと。あの人の代わりに私が守らないと」
誰の代わりに守るの? あの人? あの人って誰?
「次、死にたい奴は前にでなさい」
私はゆらりと立ち上がり、血のついた拳を群衆に向ける。それを見た人々は誰が自分達が恐れる者を倒したのか思い出し蜘蛛の子を散らしたように逃走する。
「私が、私が守らないとダメなのよ」
その言葉を最後に私は意識を失った。
クロリアの魔法剣はクロイツと違いすべての魔法剣が使えます。
クロイツとは違うのだよクロイツとはな!