ただ、守りたい
「ガリウス様、もう少し真名命名について調べたいのですが」
帰路につこうとしていた俺たちをアリエルが呼び止める。
アリエルは真名命名をもう少し調べたいと言うのだ。
つまり、逃げる者が逃げきった時に消滅したのに対し弱き者は弱くなっても消滅しなかったと言うことがおかしいと。
確かに、弱くなった時点で真名の履行されているのだから対価を支払って消滅しないとおかしい。
「状態を示す場合は消滅せず、行動を示す場合は、行動後消滅すると言うことだと思うんです」
つまり、行動を示す救国の女勇者は救われない。
「女勇者だったら死ななかったんだろうか」
「申し訳ありません……」
アリエルは、自分の知的好奇心で俺を傷つけたと思い謝る。
「ちがう、ちがう、別にアリエルが 気に病む事じゃないよ」
そう、これは俺が償わなければいけない贖罪なんだから。
「それでなにか実験する?」
「はい従属魔小鬼とゴブリンに付けて欲しいのです」
「わかった、近くを徘徊してるゴブリンが3匹いるからそいつらを使おう」
「残りの二匹も使いたいので生け捕りにしていただけますか?」
「なら一匹は私がおさえます」
カイエルが自信満々に言う。
「じゃあ、クロイツとカイエルは悪いけど、一匹ずつ押さえておいて」
俺達はゴブリンの集団に向かい、一匹目に従属魔小鬼と真名命名をした。
すると、そのゴブリンは俺に傅いた。
「では、クロイツ様が押さえているゴブリンに仲間を救う者とつけていただけますか」
「真名命名 仲間を救う者」
「では、従属魔小鬼に仲間を救う者を殺さない程度に攻撃させてください」
「従属魔小鬼よ、そのゴブリンを殺さない程度に攻撃せよ」
従属魔小鬼はその言葉に頷くと、仲間を救う者を攻撃し出した。
従属魔小鬼が何度か剣で刺すと、そのゴブリンは瀕死状態になった。
瀕死状態になると従属魔小鬼は手を止め、また俺の前に傅く。
「では兄さん、そのゴブリンを殺してください」
「うむ」
カイエルは返事をすると、ゴブリンから取った剣で止めを刺す。
ゴブリンは一撃で死んだ。
その瞬間、仲間を救う者が、灰になって崩れ去った。
「仲間を助けてないのに、灰になるのか」
「行動中であることが、状態を示すことに置き換わっているのかもしれません」
つまり、対象がなくなった場合や、目的が履行できない場合も灰になるのか。
「元々この能力は状態を示す能力で行動を示す名前をつけたときは違う作用を引き出してるようです」
「ミスティアの真名は行動を示す名前だから、魔王を倒しても死ぬし、国が滅ぼされても死ぬのか」
まあ、国が滅ぶようなら、どのみち終りだろうけど。
ミスティアを死なさせない為には、どうしたら良いのだろう。
「そう言えば、ガリウスって魔力を体の中に取り入れてませんか?」
クロイツが俺の魔力操作による身体強化に話しを振る。
急にこの話しを振るのは、話しを変えるためだろう、この件は後で皆と考えよう。
「魔力操作でマナを疑似筋肉に変質させた身体強化だよ」
「そんなことしたら、魔力回路が焼き切れますよ」
「俺、魔力回路無いんだよ」
「魔力回路がないと、魔力は微妙たるもなんですか」
そう言えばレベル200越えてたんだ 、その分、魔力総量がまた増えてる。
「俺の魔力は6740です」
「桁外れの数値ですね」
「普通はこんなに無いの?」
「……私で120です、一般の魔法使いでも100いきませんよ」
「なんでそんなに高いんでしょうね?」
アリエルが不思議そうに俺を見る。
「なんでだろうね?」
ただレベルアップしただけだから、皆と違うのは理由不明だ。
「あれ、と言うことはクロイツは魔法が使えるの?」
「はい、ワタシは魔法剣の魔法回路を持っています」
「回路って種類あるのか?」
「はい、攻撃魔法、支援魔法、魔法剣の3種類の回路があります、それのどれかが無いと魔法を使う事ができません」
「魔法剣、使いたかったんだよな」
クロイツは、ばつの悪そうな顔をしている。
俺は皆に気を使わせてばかりだな。
「ああ、でも魔力操作で魔法みたいなことはできるよ」
そう言ってMPを100程消費して、目眩ましを使った。
その一撃は目眩ましと言うには恐ろしいほどの威力で、森の木を100m程消失させた。
「どうかな?」
俺は自信満々に後ろを向き皆に感想を聞こうとした。
「「「……」」」
皆は驚愕の表情を浮かべていた。
「まるで伝説に聞く龍の気吹」
そう言えば龍のブレスもこんな感じだったな。
「全力で撃つと何キロも道ができちゃうけどね」
「もう、魔法の領域を越えてます」
アリエルが言うには、範囲魔法でも数メートルの爆発を起こすものくらいしかなくここまでの威力の物は存在しないそうだ。
「アリエル、これに名前つけたら威力上がるかな?」
「なにか、考えてみます」
そう言うと指をアゴにあてて考えるしぐさをする。
なにげにこの仕草が可愛くて好きだ。
「ガリウス様! 今、妹を邪な目で見ていませんか」
「いや、仕草が可愛いなってね」
そう言うと、アリエルは顔を真っ赤にした。
「ガリウス様!」
「いや、他意はないよ、そう思ったからだけだよ」
「天然のジゴロですね」
「そうですね」
クロイツとアリエルが意気投合してる。
「話しを戻しますが、龍神殲滅魔光砲でどうでしょうか?」
さすがです、アリエルさんかっこいいです。
必殺技命名 龍神殲滅魔光砲と叫び目眩ましをMP10で使った。
念のために空に向けて撃ったその一撃は、先程よりも激しい威力をみせた。
必殺技命名は、普通の枝で大木が切れるくらいだから、2倍ってことはないと思ったけど、これはすごいな。
下手をすると、最初の全魔力を使った一撃に匹敵するかもしれない。
「念のため、目眩ましと同じMP1で龍神殲滅魔光砲使ってみるね」
龍神殲滅魔光砲と叫んで目眩ましを使うと大木を10本ほどなぎ倒した。
「MP1でこの威力ですか、羨ましいですね」
そう言うとクロイツが羨ましがった。
「俺からしたら、魔法剣を使えるクロイツの方が羨ましいんだけどな」
「魔法剣はそこまで威力無いですよ? 実演しましょうか?」
「見たい!」
俺はまるで子供のようにはしゃいでお願いをした。
クロイツはゴブリンの短剣を拾うと魔法剣を使う。
「風刃剣」
その魔法言語を唱えると短剣に緑色の風がまとわりつく。
クロイツは大木に向かい剣を横に薙ぐと、短剣から風の刃が飛び出し生い茂る草を薙ぎ払い大木を斬り倒した。
「ご覧の通り、この程度の威力しかありません」
この威力と言うが、魔物相手なら十分致命傷である。
「いや、風の刃飛ばすとかかっこいいし、魔物も両断されるじゃないか」
そう言われたクロイツは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
「そう言えばクロイツの糸ってどうなってるの?」
「あれはS級指定の魔物土蜘蛛の糸です」
そう言うとクロイツは白い糸を垂らした。
「これに魔力を通したら無色になり、硬度や切れ味が上がり操作もできます」
そう言うと俺に糸を渡してきた。
「使い方は魔法剣の応用で、糸に魔力行き渡らせるようにして使用します」
俺は糸を受けとると魔力込めた、その糸は俺の意思通りに動く。
触手みたいで面白い、俺はそばの小石を糸で拾った、それを見て驚いたのはクロイツだ、どうやらこの糸には粘着性はないそうだ、イメージで粘着性を得てしまったようだ。
「これ、もう糸無くても同じこと出来そう」
俺は糸をクロイツに返すと指から糸が出るように意識する、魔力が性質を変え指から何本もの魔力の糸を出す。
「今のところ片腕で20本が限界かな」
もう少し練習すれば本数も増やせそうだ。
「魔力操作で糸を作るなんて、あなた規格外過ぎますよ」
すみません、規格外ですみません。
「よし検証はこの位にして王都に戻ろうか」
「ガリウス様、この者どういたしますか?」
そこにはまだ傅いている従属魔小鬼がいた。
「そうだな、人間は襲わず、この辺りの魔物を狩れ」
従属魔小鬼はコクンと頷くと森の中へと戻っていくのだった。
さあ、今度こそ帰ろう、お腹が空いて死にそうだ……。
王都につくと城門はそれほど混んでなかったのだが俺とカイエル、アリエルに対して守衛の態度がすこぶる悪い、むしろ敵意があるといっても良いかもしれない。
まさかクロイツのファンとかじゃないよね?
宿に帰る際に、解体現場を見かけたその建築材は桧だった。
しかも、この家はかなりの古民家だったのだろう、良い感じに引き締まっている、と言うか最早、神木といって良いレベルにまで昇華された桧だ、桧マイスターの俺が言うのだから間違いない。
「お、親父さんこの桧、売ってもらえない」
「そこの端木なら持っていって良いぞ」
その木は2m程の角材だった。
「こんな素晴らしい桧をただで良いんですか!」
「ああ、どうせ捨てるもんだしな」
「ありがとうございます」
俺はお礼を良い、その木を魔力糸で縦に切り裂いた。
「この桧は良いものだ」
「桧、お好きなんですか?」
俺が子供みたいに喜ぶ姿を見てアリエルはにこりと微笑む。
「うちの村の回りは針葉樹林の檜が多かったから、自然と好きになっちゃったんだよね」
おや、アリエルはなにかを思い付いたようだ。
「ガリウス様、ひのきの棒と石で武器を作ってみませんか?」
「どういうこと?」
「石をバッグから取り出さなくても、ひのきの棒に石をまとわりつかせ鍵言語で発動させるようにしたら、いかがでしょうか?」
アリエルは天才かよ、その発想はなかった。
「面白そうだね、じゃあ、その武器の設計任せてるね?」
「はい、承りました」
そう言うと今日一番の笑顔をみせた、アリエルの笑顔はクロイツの笑顔と違う方向の安らぎを与えてくれる。
俺もこの笑顔に答えられる人間になりたい。
「では、ギルドに納品に行きましょう」
クロイツがクエスト終了の報告を促す、正直忘れてた。
ギルドでは職員達がみなよそよそしかった、さすがに、ここまで露骨な態度をされれば鈍い俺でもわかる。
つまり、カイエルとアリエルの家からの圧力と言うところか。
顔も腕も治ってれば公爵家の子弟だ、二人の事を見たことある人もいるだろう。
公爵家が、この二人にちょっかいを出すなら、俺は全力でこの二人を守ろう、それが俺を支えてくれた二人へのせめてもの恩返しだ。
いや、ちがうな綺麗な言葉を並べて着飾るな、俺がこの二人を守りたい、誰にも奪わせない 、ただ、それだけだ。