表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
89/162

クロイツと天然娘アリエル その一

 魔導具屋のオババに一見はお断りだよと言われたのだが、大量の魔石があると言うと手のひらを返してすぐに見せろと言うことになった。

 ちなみに外のアブラ・カタ・ブラは用心棒だそうなのだがオババが回復の魔道具で怪我を治すとオババの後ろに隠れてビクビクと怯えだす。

「相手の力量をちゃんと見極めなっていつもいってるだろ。バカだね!」


「「「かあさんごめんなさい」」」

 かあさん? 年齢的にそれは無理があるから雇い主に対しての呼称のようなものか。叱られている三人は頭を抱えてまるで子供のように丸まっていた。


「ゴミクズ同然の魔石だったら承知しないからね」

 そう言われ店の中に引き入れられた私たちだが

 オババは『フン』と大きな鼻息を一つつくと深めの椅子にドカッと座る。

 うーん取引したくなくなる態度だけど、現状ここ以外で魔石を換金する場所がない。

 まあ見て驚け、獣人達の話では瘴気炉で取れた魔石は純度と質が高く高値で売れるそうだ。

 魔石は生物を殺すと純度が濁り質が悪くなる。質が悪くなるとは魔導具のエネルギー源としての質であり。魔石としては生物を殺した魔物の魔石は変質し色々な素材として使えるようになりそれはそれで需要が高い。もちろんエネルギー源としても使えるが純度の高い魔石より変換効率が落ちるので通常は使わない。

 私がアイテムボックスから数個の魔石を出すとオババはゴクリと唾を飲む。

「これは何て純度だい。ここまでの純度はみたことがないよ。これで全部なのかい!?」


「まだありますけど、一見はお断りらしいのであまり出せませんね」

 こうなれば既にイニチアシブはこちらにある。できるだけ高値で売ってやろう。


「それひとつにいくら出せるかよね?」

 そう言ったらオババは笑って『魔石の取引はキロいくらだ』と言って、私をバカにして見下す。冒険者ギルドはその性質上キロで取引はしない、あるだけで計算するからだ。キロで買取りしてたら冒険者の負担が増すからね。

 私もそのつもりで話していたこれは失敗だ。


「1G/kg、いやこの純度なら1,5G/kg出そう」

 1G/kgか、全部売ればかなりの金額になるわよね。しかし吹っ掛けてやるにも相場が分からない、……どうしよう。その時アリエルが私に内緒話とばかりに私の頭を引きよせ耳打ちした。


 普段甘露香飴を舐めているせいか、耳元をくすぐる吐息が私の鼻孔をくすぐる。


「聞いてますか?」

 香りと耳にかかる吐息と香りの余韻を楽しんでいて話を聞いていなかった。

「ごめん、もう一度お願い」

 このやり取りを三回ほど繰り返して分かったことはアリエルが鑑定眼(アブレイサル)で検索をして得た情報によると。現在の魔石の買い取り価格最安値で3G/kg、最高値で12.6G/kg、平均買い取り価格は8,7G/kgだと言う。

 そんなことができるのかと私も検索してみたら世界マップが広がり何千何万もの価格が飛び出した。


「……これ全部集計して計算したの?」

 私がアリエルにそう聞くとコクりとうなずき計算は得意ですからと言う。いやこれ得意とか言うレベルじゃないですよね。 うちの嫁の出来の良さを再確認しているとオババがどうするのか聞いてきた。


「ああすみません、提示された値段があまりにも低いので閉口してました。オババさん舐めないでください相場も知らないほどネンネじゃないんですよ」

 いや知りませんけど、ネンネですけど。


「ぐっ、じゃあ5Gならどうだい」

 私は両方の手の平を上に向け、やれやれと大袈裟に首を振りあり得ないと言う意思表示をした。

 そして帰るそぶりを見せる、当然今を逃せばこんな高純度の魔法石は二度と手に入らない、オババが引き留めてくるのを見越しての行動なのだが。

 だがオババは予想に反して私を止める素振りもなく、帰るなら帰ればと言う顔をしている。

 これは交渉決裂ね。この段階で引き留めないのなら、あちらにも買う気がない、又は欲しくても予算がないかね。とは言えさすがに5Gは安すぎる。平均価格の8,7Gは上回って欲しかった。


 冒険者ギルドにこの魔石を出せば、勧誘が100%来るけど断れば良いだけだし。嫌だけど今となっては冒険者ギルド行くのが最良の選択かもね。


 私はみんなに帰りましょうと言いドアのノブに手をかけた。


「お待ちよ! いくらなら売ってくれるんだい!」

 かかった! 岸辺(ショアライン)ギリギリで魚をつり上げた気分だわ。

 このオババも中々にやり手だ、この段階まで粘るとは。だけどデッドラインはすでに越えているんですよ。


 私は大袈裟にため息をつくと「そうね最低でも15Gね」と最高値よりも上の金額を提示した。当然だこの魔石はそんじょそこらの魔石とは違う、最高値よりも高値を提示するのは当然の権利だ。

 私の提示した値段にオババは口をあんぐりと開け動きが止まる。


「今、高値でも12Gが相場だぞ」

 やっぱり相場を分かっててあの値段にしてたのね。このゴウツク(ばばあ)


「あのね、この純度通常取引される魔石の2倍以上の濃さがあるのよ? 20Gでも安いくらいだわ」


「確かにそうだが……」


「別に良いのよ私は、冒険者ギルドに持ち込めば良いだけだから」

 私がそう言うと苦虫を噛み潰したみたいな表情をして『14G』とポツリと言った。


「え? 何か言った?」

 店主としてのプライドか、それとも自分の詩吟かどうしても値引きしたいようだが、もう既にこちらのペースだ値引き交渉に乗る意味はない。

「わかったワイ! 15Gだこれ以上は出せん」

 オババは諦めたように私の提示金額で納得する。


「良いわ交渉成立ね」

 私は契約の握手をして取引を成立させた。


「で、どのくらいあるんだ」


「欲しいだけ出せるわよ」


「 出来ればあるだけ欲しい」


「全部となると1t越えるわよ払えるの?」


「そんなにあるのか! 金の心配はするな、だてに用心棒がいる訳じゃないわい」

 お金があるなら問題ない、私が魔石を取り出そうとするとアリエルが再び耳打ちをしてくる。甘露香飴の――。



 また三回繰り返してしまった、アリエルの吐息は天国への道標(みちしるべ)だわ。極楽、極楽。


 それは置いておいて。アリエルが言うには契約の握手をすると眼前に映るアイテムを相手に投げつけるだけで、お金がこちらに移動されると言うのだ。もちろん相手に支払い能力がない場合、取引が不成立となりアイテムは顕現しないと言う。


 「オババさん魔石大量にあるから保管したい場所に連れていってもらえる? ここだと店埋まっちゃうよ」

 オババは私たちについてこいと言うと店の奥へと入り壁の前で止まると、私達にこの先は安全だから気にせずついてこいと言うと壁に吸い込まれていった。

 見た目は壁なのだが、手を伸ばすとそこには何も無く壁はただの幻覚だった。


「まるでハコブネのようね」


 幻覚の壁を抜けると地下への階段があった。オババの後をついて地下へと降りると私が巻き上げた魔導具の短剣が何本もあった。レアじゃないのか残念。


「……魔銃」

 アリエルがすみに分解された魔導具をみてそう呟く。


「知ってるの? アリエル」

 私がそう聞くとアリエルはこの魔道具はアリエルの姉ブカロティが作ったものだと言う。アリエルは姉の実験の手伝いをしており、この銃も製作に関わったそうだ。


「その魔銃はほとんどがブラックボックスでね、私の師匠の教えがなかったら手もでなかったわ」ただ魔石圧縮技術だけは私にはわからなくて、そのまま部品流用するしかないと言う。

 それを聞いたアリエルは顔を青くする。

「どうしたのアリエル」

「……私その製法知ってます。見るなと言われた本を読んでしまいそれにこの製法が書いてありました。きっとそのせいでお姉さまを怒らせて兄様を巻き込んでガリウス様にまで迷惑をかけて、すすべて私のせいなんです」そう言うと泣き崩れた。

 私はアリエルを抱き締めると、あなたのせいじゃないと慰めたが当事者じゃないものがそういっても心に響かないだろう。こう言う時どうしたらいいんだろう恋愛経験がない私にはかなりハードルが高い案件だ。


 いやこれは恋愛ではなく人対人か、私の中は空っぽだ好きな人一人慰めることが出来やしない。


「アリエルを責める人がいたら私が許さないから、だから自分を責めるのはやめなさい」

 守るとしか言えない、だから絶対に守るわ。

 アリエルは『はい』と言うとにこりと笑う。それがかわいくてキスをするとアリエルはごめんなさいと私に謝る。キスは失敗だったアリエルになにか罪悪感を持たせてしまった。

 今後アリエルの許可なしにキスをするのはやめよう。


「もういいかい? 良いなら早く出しておくれ」

 私たちの情事を気にもせず、魔石を早くだせと私をせっつく。魔導具関連の話もしたのだけどオババには聞こえていなかったようで特に質問されなかったのは救いだ。

 どう考えてもその魔石圧縮の知識はやばい。もしアリエルがその製法を知っているとバレれば確実に色々な国から狙われる。大和神国もアリエルが生きているのが分かったら何かしてくるかもしれない。

 まあ、もしアリエルになにかしてくるような国があれば全力で叩き潰すけどね。


 「アリエル覚えておいて、私は世界を敵に回してもあなたを守るから、どんなことがあっても見捨てないから」

 「……ありがとうございます。でも、ご自身の身を一番にしてくださいね」

 アリエルはきっと星の巡りが悪いのだろう。勇者なら星の巡りを変えられるのに。


 ん? どこ情報これ???


 まあ、いいか。


 私はアリエルをたたせると、待ちくたびれているオババに向かってアイテムを投げる。その瞬間、魔石がオババの前に大量に積まれ代わりに大金が私のアイテムボックスに振り込まれた。


「なんじゃ!」

 山盛りの魔石を見てオババはうろたえる。そりゃ1t以上あるからねそうなるよね。


「オババさん大丈夫?」

 大丈夫、大丈夫と手を振り早速魔石の鑑定に入った。


 私達はその間暇なので分解された魔銃や魔道具の短剣を見て回った。

 短剣はすべて違う魔法が納められており、どれもこれも売ればかなりの値段がつくはずだ。

 一方魔銃の方はたいした魔法も入っておらず短剣からすると型落ち感がいなめない。 ちらりとこちらに一瞥をくれるとつまらなそうに「短剣は失敗作だ」と言う。魔法を放つはずがすべて魔法剣のように刀身にまとわりついて離れないからダメなのだと言う。


 それを聞いたアリエルが顎に人差し指を当てて考えるポーズをする。ひょぉぉ可愛い!

 しばらく考えるとオババに工具を貸してくれとたのみ先程鹵獲(ろかく)した短剣の魔導具を分解し始めた。


 小一時間ほどするとオババの鑑定も終わり魔石はすべて特A++位のものだとお墨付きをもらった。魔石の質は最高ランクがAなのでオババが今勝手に作ったランクだろうがずいぶんと高評価にしたものだ。


「それで、あんたは何をやってるんだい」

 オババの工具を使い短剣をいじっていたアリエルが既に元の状態に戻し、うっとりと短剣を眺めている。その姿はまるで殺人鬼のそれである。


「アリエルさん怖いです」

 ティアがそう言うとアリエルはハッとし、コホンコホンとわざとらしく咳をしてたたずまいを整える。


「魔法を射出できるように改造しました」


「「なんだって!!」」

 私とオババはその言葉に驚いたのだが、私とオババではその意味合いが違う。オババは純粋に自分が出来なかったことを成し遂げられたことに驚いたのだろうが、私は前回奴隷に落とされたときの失敗がまったく生かされていないことに驚いたのだ。こんなのがバレたらまた同じことになることが分からないなんて。


 でもそのお陰でわかったことがある。アリエルは天然ボケだ、頭は良いのに天然ボケがすべてを台無しにしてる。まあ、美人で性格も可愛いからその欠点を補ってあまりあるけどね。


 さて、こんな技術があるなんてバレたら確実に大和神国にまで伝わる。どうする? 口封じに魔導具屋のオババを殺すか。


 考えることないわね、私はアリエルを守るのだから。

 私は短剣を手に取るとオババにアイキドーの足裁きで音を立てずに近づいた。


「これすごいけど、あんた人に言っちゃダメだよ」

 オババの背後に立つとオババががアリエルに、こういう知識はひけらかさずに密かにやらなきゃダメなのさと諭す。

 そう言われてハッとするアリエルは自分が何をしたのか分かったようで、私の方をみると短剣で今にもオババを殺そうとする私を見て驚愕する。すぐさま私とオババの間に入り私にオババを殺させないようにする。


「オババさん今の件は他人(ひと)に言う気はないの?」

 アリエルを避けてオババを殺すのは簡単だけど、それをすれば確実にアリエルに嫌われる。なら他言無用をお願いするしかないか。


「当たり前だろう、こんなの広めたらこの子の命が危ない」

 そう言うとアリエルのおしりをパシッと叩く。

「そう、ありがとう」

 私はそう言うと短剣を鞘に納めた。どうやらこのオババ、ガメツイだけで根はいい人のようだ。

 なんでもこの人の師匠も秘密の多い人で研究は人知れずやれが口癖で、同じ研究者を貶めるようなこともするなと、きつく言われて育ったからねと昔を懐かしむように言う。


「ああ、そうそう代金を払わないとね」

 オババが地下室にある金庫を開けようとするが私はすでにもらったと言い二重にもらわないようにした。本当は二重にとってやろうとしたんだけど今の件で許してあげるわ。

 オババはオババで難癖つけて値切ろうとしたようで、がっかりしている。


「まあいいか、で、そのお嬢ちゃんよければ私の弟子にならないかい?」


「弟子って、オババさんよりアリエルの方がすごいんじゃない?」


「分かってないね、教えることなんざ五万とあるんだよ」

 そう言うとアリエルが作った短剣を持ちマジマジと見る。


「これ、誰に教わったんだい?」


「姉のブカロティです」

 だからね、アリエルそういうことは言っちゃダメだからね。天然ボケで正直者で可愛い、これうちの嫁です。

 もう、夜にちゃんと教え込まないとね色々と。グフフ。


「ブカロティと言うと大和神国女王のかい?」

 そう言われアリエルはコクンと(うなず)く。


「師匠と別れたのは80年前だからその娘に転生したのかもしれないね」そう言うとアリエルの技術は自分と同じ系統の技術だと言うことを教える。その師匠は200年以上生きておりオババは孤児としてその人に拾われ娘同然に育ったと言う。

「世界から隔離された村を作ると言っていたんだけど、まさか国を作るとはね」

 そして当然オババもその村に誘われたのだが隔離された世界よりも自由に生き自由に死にたいと言いたもとを分かったと言う。


「まあ、私もそろそろお迎えが来るだろうし、あんたに技術のすべてを教えてやるよ」

 そう言うとアリエルのおしりを叩く。

 さっきからこのババア、私のアリエルのおしりをペシペシと叩きおってからに!

 私にことわりなくアリエルのおしりを叩いちゃダメ絶対! もちろん許可などだしませんよ、あそこは不可侵領域です。


 アリエルが私をチラチラと見てどうしましょうかと目で訴えている。「まあ、数日なら手伝いで良いんじゃない? ディオナやティアの装備も整えたいし。少しやることもあるから

 そう言うとアリエルはオババに数日ですがよろしくお願いしますと言いお辞儀をする。

 まあ基礎は出来てるからすぐにマスターするだろうけどとオババは言う。アリエルは神の祝福(プライム) 私書箱インテリジェンスボックスで知識を吸収するでしょうから本当にすぐでしょうね。


 取り合えず明日から来ると言うことで了承して貰った。軍資金も出来たし蚤の市に行かなければいけないのだ。


 店を出るとアブラカラブラが怯えながらお辞儀をする。まあ、オババのことを思っての行動だから特に咎めなかった。そしてしばらくアリエルが来るから変なことしたら殺すからねと念を押しておいた。


 さて次は蚤の市で買い物だ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
『おさじょ』に出てくるアディリアスとウルティアの二人の神たちの物語 『聖剣のネクロマンサー』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ