ミスティアと偏執狂の領主 終演
「ガリウス様、私……気がついたんです」
横たわる魔王がなにかに気がついたと言う、さすが魔王だ。ここが何なのかわかったようだ知識量が半端ないな。
「で、どう言うことなんだろう」
「はい、帰ったら静様にそのスーツと同じ素材でオッパイパッドスライムを作ってもらおうと思うんです」
前言撤回、魔王は魔王でした。そう言いつつ俺のおっぱいを揉みしだく魔王にゲンコツを食らわすとイタタと頭を押さえる。どうやらもう体が順応したようだ、さすが魔王様だな、いや本当に。
しかし、どうしたものか、現在俺と精霊龍のリンクは切れている。肉体とのリンクも切れており肉体に戻ることはおろか魔力供給もままならない。
そして先程すべての魔力を使ってしまい、現在MP0だ。
「魔王、現在の状況はかなり悪い。俺はMP0で精霊龍とのリンクも切れてしまっている魔力の回復ができない。つまり現状ここから抜け出ることができない」
「上にジャンプすれば良いんじゃないですか?」
「いや、多分頭をぶつけるからやめた方がいいね、最悪死ぬ」 ここはあのハコブネや俺の村と同じ臭いがする、つまり元の世界とは別空間ということだろう。
「取り合えず、外に出るまで魔王頼みになるかな」
「ガリウス様、ダメ男でヒモ男ですね」
「すみません」
頭を下げて謝ると魔王は俺を押し倒し上に乗る。
「ここなら誰にも邪魔されない」
「そんなに俺を恨んでるの?」
魔王は王位を俺に奪われているのだ。恨んでいて当然だろう。
「……ガリウス様はトウヘンボクですね。私はあなたをお慕いしているのですよ」
「いや、だって失禁するほど怖がらせたし」
あのとき魔王はマナ遮断で勝ち誇っていたのにそれを物ともしないばかりか、その環境下で魔法を使う俺達に恐れて失禁してしまったのだ。
「ちょ! ガリウス様! その事は言わないでください」
顔を赤らめて唇を尖らす魔王の頭を撫でながらごめんごめんと軽薄に謝る。それで許してくれる魔王はちょろいなと思う。
「でも、あそこで意地を張らないでガリウス様の軍門に下ってよかったと思いますよ」
そう言うと俺のスライムスーツを剥ぎ取り、男の体を露にさせる。
「なんで!?」
俺のスライムスーツは俺の意思でしか解除できないはずなのに、いとも容易く魔王はスーツを剥ぎ取った。
「あわよくばガリウス様の初めて奪っちゃいなって、静様に解除方法を教わりましたので」
そう言うと俺の胸板をさわり下へと指を伸ばす。
静さんなに言ってんの! バカなの? 死ぬの?
「ま、魔王は妹で――」
妹、そう魔王は妹! 手を出せるわけがない。
「私はガリウス様の妹じゃありませんよ」
「いや、だって」
「周りには邪魔する人はいませんよ、地球の諺で据え膳食わぬは男の恥と言いますし。私こう見えても知識は豊富ですから」
「ごめん魔王そう言うのしたくないんだ」
「ミスティアさんが凌辱されている行為と同じ行為だからですか?」
女性だからか、それとも知識が豊富だからなのか俺の心を見透かす魔王に一瞬ドキッとしながらも、俺は嘘はつけないなと思い正直に答える。
「……うん」
「分かりました、せっかくのチャンスですけどなかったことにしますね」
そう言うと馬乗りの状態から魔王がおりると、スライムが俺に戻り女性の体を形成していく。
「ありがとう」
ただそう言うことしかできなかった。
「いいえ、その代わり約束してください。ちゃんと私も女として見てください」
「わかった、ちゃんと君とも向き合うよ」
「なら良いです、それに抜け駆けして精霊龍様に殺されたくないですしね」
「精霊龍は懐が多きいから怒らないとおもうよ」
「本当ですか!」
そう言うと魔王は野獣のごとく舌舐めずりで俺を見る。
「あ、そんなこと無いかな」
おれはとっさに手を振りごまかすと、魔王は「ですよね」と言い、聞こえるか聞こえないかの声で
『いくじなし』と小声で言う魔王に申し訳なさを感じつつも俺は聞こえなかったフリをして辺りを見回す。
ブロック塀が当たり一面を囲んだ、まさにダンジョン。しかし迷宮を探索していてなぜ急にこんなところに落とされたのだろうか。
「これは珍しい、使徒様ではないですか」
その声は闇から急に現れた頭が異様に長い老人だった。
魔王は警戒心を露にして攻撃体制をとるが俺は魔王の前に立ち相手に敵意がないことを示した。
「あなたは?」
俺のその言葉に首をかしげ手をポンと叩くと俺に新しい使徒の方なのですねと言う。
俺の中には使徒の力がある、つまり端からみれば俺も使徒なのだ。俺はその老人に使徒になったばかりであなたのことを知らないと言うと老人は自己紹介をした。
彼は幻想遺跡の三賢者寿限無の一人でジュリアスと言い、寿限無はそれぞれ三人の神に作られたと言う。
「まて、三人だと? 二人の間違いじゃないのか?」
この世界は二人の神アディリアスとウルティアの二神しかいないはずではないのか?
「いいえ三神ですよ、アディリアス様、ウルティア様、そしてデスヘッド様です」
なにそれ一人だけ名前が異世界語なんだけど。静さんが精霊鬼に教えてた異世界語を聞いてたから何となくわかるけど。
そしてアディリアスは寿を司る彼迷宮のジュリアスを作り、ウルティアは限を司る伏魔殿のゲインそしてデスヘッドは無を司る塔のレイムを作ったと言う。そして彼ら三人を総じて幻想遺跡の三賢者寿限無と言うらしい。
しかし急に一人だけ異世界語なのはおかしい、普通に考えれば異世界人だ。その俺の考えは見事に当たりデスヘッドは見事な黒髪の美しい女性で異世界からの転生者だと言う。
そして無のデスヘッドは1000年に一度世界を破壊する役目を持っているそうなのだ。
破壊神はアディリアスじゃないのかと聞いたら、かなり怒らせたようで勉強不足だと怒鳴られてしまった。”闇が創造をして光が育み無が破壊をする”これが世界の理だそうなのだ。
あながち、あの嘘の神話もすべてが嘘ではなかったようだ。
アディリアスが死にウルティアが封印され、デスヘッドは所在不明なことを伝えると老人は泣き崩れた。
数時間ほどして泣き止んだところを俺がアディリアス復活のために動いてることを言うと気を取り直して更に深い話を聞きだすことができた。
3人はアディリアスを中心になかむつまじく暮らしており神話のようにウルティアが嫉妬に狂うなんてことはなかったそうだ。
そして寿限無達が作られたのはⅠ万年以上前の話でこの幻想遺跡は現在のハコブネと同じ役目を担っていたらしい。通常は人々の能力を高める場所として使い、滅亡時には選ばれた人間をこの中を避難場所として解放するそうなのだ。
「それで今回こちらに来たのは何用でしょうか?」
ジュリアスは俺達が自分に用があると思ったようで用件を聞いてくるが、こちらとしては招き入れられたと思っていたので話が噛み合わない。
多分使徒様の神気に反応して道が開いたのだと言う結論になった。なにせ使徒が来ることなどまず無いので分からないと言うしかないそうなのだが。
「じゃあ、すみませんが地上に返してください」
「無理ですよ」
ジュリアスが言うにはここを管理しているのは自分だが誰かをショートカットさせたり、道を自由に組み替えると言うことはできないそうなのだ。
デスヘッドいわく”不正ダメ絶対”だそうなのだ。
まあ、仕方ないかそんなに落ちてないだろうし地道に上がるか。
「ちなみに脱出までに何日位かかるんですか?」
「そうですな、使徒様なら1ヶ月もあれば脱出できると思います」
「い、1ヶ月ですか!」
まずい、1ヶ月もリンクが外れた状態だと何が起こっているか把握できない。ミスティアも魔王城に向かってきているのに、これはまずい。なにより精霊龍が心配する。魔王城の留守を頼んだからほったらかしてここに来ることはないけど心配マックスでお怒りマッスルだろうな。
帰ったら折檻地獄だぞこれは。
「1ヶ月だと食料もギリギリか」
「それでしたらここの魔物は全部食べれますので心配ありません」
「え? この昆虫も?」
「はい、焼くと身はジューシー外骨格は香ばしくとても美味しいですよ」
いやいや、美味しくても昆虫食べるとか無いですよ。地上でも一部の未開の地の住人が食べるときいたけど。俺は無理かなと考えているとおもむろに魔王が虫の死骸を焼きだした。
「なにしてるの魔王」
「美味しいそうなので食べてみようかと」
そう言えば魔族は虫を佃煮とかにして食べる種族だった。それ以上に魔王は食事には貪欲なのだ。魔王と言う役職柄か食べることが娯楽なのだ。
「焼けましたよ、ガリウス様もどうぞ」
俺も食べるの! 無理だよ魔王。これコオロギじゃん無理! 無理! 無理! 無理! ムリキング!
そう言おうとした瞬間、魔王は俺の口に殻を剥いた虫の足を口に押し込めた。
その肉からしみでる出汁はすべての養分を凝縮したような味で濃厚な旨味が口のなかを支配する。
「う、うまい」
それを聞くと魔王も食べ始めた。俺は毒味役ですか。まあ美味しいから良いけど。
俺はそれが虫だと言うことも忘れ一心不乱い食べ始めた。いつの間にかジュリアスも仲間に入りすでにここは虫の蒸し焼き会場と化していた。
「ふう、食べた食べた」
先程殺した虫をすべて平らげると満腹感からか眠気が襲う。
「眠いようでしたらあちらに私の部屋がございますのでそちらでお休みなられてはいかがでしょうか?」
すぐにでも脱出したいが、冒険の前に鋭気を養うのは冒険者の義務だ。俺は快くその提案を受け部屋に案内されベッドで寝ることにした。
「しかしあなた様はお珍しいですな、アディリアス様の使徒なのにデスヘッド様の神気もお持ちとは」
ジュリアスが何か気になることを言っていたようだが本気で眠い俺は精霊龍への言い訳を考えつつ深い眠りについていた。