ミスティアと偏執狂の領主 そのニ
「私がヤマト神国勇者代表ミスティアですがなんでしょうか?」
別に裏切ったわけではない、だから敢えて言い直して返事をするとフンッと鼻息を鳴らすと横柄な態度でついてこいと言う。
「お断りしますが?」
なぜ、あんな態度をされて着いていくと思ったのだろうか? 色々な兵士や貴族にあったことがあるがこういう人はたいてい王族に近しい貴族なのだ。
「ふざけるな! この国で一番御偉い方がお前に会いたいとご所望なのださっさっと付いてこい」
「隊長ここはわたくしめが」
怒り心頭の兵士に代わり細身の優男が代わりに説明を買ってでた。
兵士はその優男を蹴りあげると早くしろと怒鳴る。
「勇者ミスティア様、お初にお目にかかります。わたくしは陸ザコルトス私設軍大佐カルロスと申します」
このカルロスと言う男の説明ではここの領主であるザコルトスが私と食事をしたいと言うのだ。勿論そのお礼に何かできることがあれば取り計らってくれるそうなのだ。
これはチャンスかな? 私はみんなと話し合い食事を共にすることにした。勿論四人一緒にだ。
「僕は反対だけど、ミスティアが行くと言うならついていくだけだ」
心配してくれるのは嬉しいけど、二人のためにもできるだけ戦闘は避けた方がいいだろうしね。忖度してくれるならそれに越したことはない。
私はその要求を受けることにした。食事会を受けることでテレポーターが使えるようになると言うなら、領主との食事会ぐらい何てことはない。
最初の男が次の男に変わってすぐに了承したことが気にくわないのか部下に八つ当たりをして先に領主屋敷へと帰っていく。
まあ、あんな横柄な態度の人に気を使う必要などないしね。
「ではこちらへ」
私達は作りの良い馬車へ案内されるとそれに乗り込み、一路領主の屋敷へと向かった。
道中サグルが少し不機嫌な気がしたので理由を聞いたら、何でもないと言ってそっぽを向く。ちゃんと言いなさいと言うと、これは自暴自棄になってる訳じゃないんだよねと言う。
ああ、そうか娼館での流れから私がまた自分の身を軽んじていると感じてるわけか。
「もう自分の身を軽んじたりしませんよ、そんなことをしたらまたサグルに怒られちゃうからね」
私は対面に座るサグルの脛を足の爪先でグリグリとする。
「……痛いです」
サグルが爪先で私の爪先を押し返す。私は負けじと更にグリグリとする。
「なあ、イチャついてるところ悪いんだが。ミスティアって兄貴……。ガリウスの兄貴の恋人じゃないのか?」
ガリウスが私の恋人? そんなわけがない。私はガリウスが好きだ……でも。
「ガリウスには色んな女の人がいるでしょ」
綺麗な娘ばかりガリウスの側にいる。私は所詮ガリウスにとって近所の村娘なのだ。
だから一緒に来てくれなかったんだ。
「まあ、あんたがガリウスの兄貴から手を引くなら俺はその方がありがたいんだが」
手を引くもなにも私は嫌われている。
「なに、ミリアスはガリウスのこと狙ってるの?」
私はその思いを打ち消すようにミリアスをからかう。
「ば、ばか!違うよ! マイラ姐が勇者マイラが兄貴のこと好きだからライバルは少ない方がいいだろ?」
しかし、何でガリウスはこんなにモテるのだろうか?
顔は普通より上でおっちょこちょいで少しボケッとしたところがあるし、女心なんか全然分からないトウヘンボクなのに。
「ねえミスティア、今でもガリウスのことが好きなんだろ?」
ガリウスの顔でそれを聞くサグルはかなり滑稽だ。
「私はガリウスにふさわしくないから」
そう数々の男に抱かれガリウスを蔑んだ私はふさわしくない。
「ミスティアは素敵な人だよ、ふさわしくないなんてことはない!」
「うん……ありがとう」
それでも私は汚れて……。ひゃ!
サグルが私をギュッと抱き締める。
「ななななな!なにぢて」
「ミスティア、何度でも言うよ君は汚れていない。綺麗だ」
私また自分を卑下してたんだね。だから、サグルはこうやって抱き締めてくれたんだ。
「ありがとうサグル。大丈夫だから」
私はそう言うとサグルの背中をポンポンと叩いた。それ逆だからと笑って言われた。サグルが離れて温もりが失われることが少し寂しかった。
「どうしたのミスティア」
サグルが暗い顔をしているであろう私を心配して声をかけてくる。
「ううん、何でもない」
「ミスティア、僕は君の側を離れないし命に変えても君を守るから」
何で今それを言うかな。心を読んでいるかのようにサグルは私の欲しい言葉をくれる。
私はうつ向いて「ありがとう」と呟いた。
「ミスティア? 顔が赤いよ、熱でもあるんじゃない?」
そう言うとサグルは私の顔を上にあげさせ額と額を合わせる。
「少し熱いかな?」
くぁwせdrftgyふじこlp!! 何するんですか! 私はサグルを引き剥がし後ろの席に押し飛ばす。
トクゥン、トクゥン。心臓の鳴る音がやけに騒がしい。
サグルはなにを怒っているのか理解できずにキョトンとしている。そして「ミスティアには魔法がきかないから、少しでも体調が悪くなったら言うんだよ」と的はずれなことを言うとまた私の症状を診ようと近づいてくる。
「違う、違う! 風邪でもなんでもないから!」
「病人はみんなそう言うんだよ」
「ミスティア様はサグルさんの言葉で赤くなったんですよ」
サラスティが余計なことをサグルに言うと僕を異性として意識してくれるなら嬉しいかなと言う。
意識か……。確かに私は幾度となくサグルに救われて好意を持っているには確かだ。
ならランスロットの時はどうだったのだろう。同じように助けられて好きになったのだろうか?
いや、あんな関係になったけど、恋愛感情はなかったはずだ。うん、ない。
でもなんであんな関係になってしまったんだろうか。私はビッチなんだろうか。
私がウンウン悩んでいるとサグルが私の頭を撫でる。
断りもなく頭を撫でるのはマナー違反ですよと言おうとしたが、私を心配してくれてのことなので許すことにした。
「魔法は完全に効かない訳じゃないよ。多少のダメージは受けるし少しだけなら回復もするわ」
何かを誤魔化すように私は話を巻き戻した。
それに、ちゃんと私の体を知っておいてもらった方が良いしね。あ、別にそちらの意味ではないですと自分で突っ込みをしていると領主の屋敷に到着した。
領主の屋敷はブカロティの屋敷と同じくらい大きく入り口から玄関まで衛兵を立たせ私達を歓迎していた。
玄関に着くとよほど待ち遠しかったのか、領主自ら出迎えてくれた。
「いらっしゃいませミスティア様お待ちしておりました、私が領主のザコルトスでございます」
恰幅の良い男が満面の笑みを浮かべて挨拶をする。
「初めまして、私はヤマト神国勇者候補ミスティアです」
私がそう言うと、何を言いますか勇者はミスティア様以外おらんでしょう、それに初めましてでもないと言う。
昔、私が勇者をしていた頃に野盗に襲われてたこの人を助けたことがあるそうだ。そう言う経緯もあり、私のファンになったと言う。
「それと、あの馬鹿な娼館の主人は免許を取り上げますのでお許しください」
すでに娼館の主人の所業は伝わっており、私を餌にするなど許しがたいと憤慨していた。
私が望むなら処刑にもできますがと言うのでそこまで望んでいないと言うと、ミスティア様ならそう言われるだろうと思いまして処分を免許取り消しだけにしておきましたと言うとフォフォフォと笑いだした。
「まあ、立ち話もなんですから中へ御入りください」
「ちょっと待ってくれ」
そう言ったのはサグルだった。先ほどそちらの兵士の方に高圧的な態度で着いてくるように言われて私達はあなたが信用できないと言う。
確かにあれだけ高圧的な物言いで言われたら相手に好意を抱くのは不可能だ。
領主はツカツカとその兵士の前に立つと叱責しだした。丁重にお連れしろとあれほど言ったろと。しかし、男は私はこの家の末弟です、勇者ですらないものに媚を売るなんてできませんと言いきる。
領主はタメ息をつくと私達のもとに戻って来た。
「ミスティア様やご一行の方に不快な思いをさせて申すわけございません」ザコルトスは頭を深々と下げ謝罪をする。自分の部下がいるような場所で平民に頭を下げると言うことは権威が地に落ちることに等しい。
私は謝罪を受け入れ、こちらこそ仲間が失礼な物言いをしまして申し訳ありませんと謝罪をした。
当然ここで帰るわけにいかなくなり、私達は屋敷内へと案内された。
ザコルトスはこの土地の特産品を私のために取り寄せたのでぜひご賞味くださいと言う。
食事の前にミリアスの件とテレポーターを使いたい旨を伝えると、その件なら任せてくださいと太鼓判をいただいた。
その時、サグルが私を引き寄せ食事に何か入れられてないかちゃんと注意するんだよと言う。
確かに、いくら私が助けた人でも何があるか分からない。とは言え出された食事を細工してあるかもしれないから食べることはできませんと言えば、相手を侮辱していることになってしまう。
まあ、私やサグルには毒物を感知できる鼻があるから問題ないのだけどね。
食堂に案内されると席はなくどう言うことかと思案していると、扉が開け放たれ次々と給仕のメイドがこれでもかと言うほどの料理をテーブルの上に並べた。
つまりこれは立食パーティーな訳ね。フルコースがでてくるものだとばかり思っていたので完全に虚をつかれた。
「ささ、皆様この国のあらゆる場所から取り寄せた食材を一流のコック達が作り上げた至高の一品ばかりですぞ」そう言うとザコルトスは食材のうんちくを食べながら垂れ始めた。
自分も食べてるなら、問題ないわね 、とは言えちゃんと毒物感知してから食べるけどね。
サグルも領主であるザコルトスが同じ食事を食べるのを見て問題ないと思ったのだろう、モリモリとテーブルの料理を食べ始めた。獣人の体は燃費がわるい、旅でかなりお腹が減っていたのだろう、私は半分精霊なのでお腹は減らない。試したことはないが1ヶ月くらいなら飲食しなくても生きていけるだろう。完全な精霊の精霊鬼は水だけで過ごしていたけど、食事の楽しみがないのはかわいそうなのかもしれない。
サグルのお腹の具合を失念していたことに申し訳なさを感じる。
私が物思いにふけっているとザコルトスは私が助けた日のことを話し出した。「あのときは本当に九死に一生を得ましたよ、まさか領民が謀反を起こすとは思っても見ませんでしたからな」そう言ってニヤケるザコルトスの話はとても受け入れがたい話だった。
「りょ、領民? あなたあのときは盗賊に襲われてる助けてくれって言ったじゃない……」
だけどザコルトスはとぼけた調子でそうでしたかなとほくそ笑む。
あのときのクロイツの言葉がよみがえる。
『どちらに正義があるのか分からないのだから、あの人たちの運に任せた方がいい』
だけど、あのとき私は『私がその運よ』と言ってザコルトスを助けた。今考えると捕らえた人達は皆痩せ細っていた。クロイツはそれがわかっていたから関わるべきじゃないと言ったのか。
あの頃の私はクロイツに認めてもらいたくてなにも考えてなかった。クロイツが私を勇者
と思ってなかったことが分かったから。だから勇者らしい行動をと、いいえそれは詭弁だわ、私はなにも考えてなかったただに馬鹿な村娘だったんだ。
「そのとらえた人達はどうしました?」
「当然一族郎党処刑いたしましたよ」 ザコルトスはそう言うとそのときのことを思い出したのか恍惚とした表情で上の空になる。
もうこんな所にいたくない。
「申し訳ありませんが気分が悪いのでこれで帰らせていただきます」
私がそう言うとザコルトスは指をならす、その音を合図に物陰から兵士達が出て来て私達を取り囲む。30人程でなんとかなると思ってるなんてずいぶん舐められたものだ。
私が動こうとした瞬間サグルとミリアスが倒れこんだ。
「サグル! ミリアス!」
「ふはは、ミスティア様は御甘いようで」
そう言うとザコルトスは懐から小瓶を取り出した。それは呪毒で男だけに効く毒薬だと言う。臭いがないのは毒と言っても魔法で作られた物なのだそうだ。
迂闊だったこんな物があるなんて。
そしてこうも言う、二人の命は明朝までだと。この呪毒を解くには解呪薬を飲むしかないと言う。
「ああ、後死ねば体から毒は消え去りますよ」と下衆な笑みを浮かべる。
「……何が望みなの」
「ははは、さすが話が早くて助かりますな」そう言うとザコルトスは二人を助ける条件を出した。目的は私の体だと言う。
「私もバカではありませんヤマト神国を敵に回すようなことはしたくない、一晩だけで良いのです」そう言うと私の手を取り甲をさする。
またか、勇者ではない自分になんの価値があるのか、そう言うとザコルトスは自分が助けた人間に凌辱される者の気持ちを考えるとそれだけでゾクゾクしてエレクトしますなと言い自分の股間をまさぐり出す。
ゲスな男だ。玄関での一件は演技だったのだろう。あの不遜な弟の兵士がザコルトスの横に立ちニヤニヤしている。
「ゴミルトス、お前にも後で楽しませてやるからな」弟の兵士はそれを聞くと私を上から下まで舐め回すように見る。
「分かったわ、一晩あなたのモノになれば解呪薬はくれるのね」
「ええ、一晩で良いんです簡単なものでしょう」
「ダメだ、ミスティア! そんなやつに体を差し出すな!」
倒れたサグルは声を振り絞って私を止める。
サグルの気持ちは嬉しいでも私はサグルに死んでほしくない。
「ではこれをお付けください」
ザコルトスが出した黒い腕輪これは奴隷がはめるものでレベルを奪い1にするものだ。私を奴隷扱いしたいと言うことかしら。
まあ、したいようにさせるわ。
レベルが1に落ちても私は精霊の力でいざとなったらなんとかなる。この精霊の力でニグルの責めも耐えられたのだ、今度も精霊の力で耐えて見せる。私は両腕にそれをはめた、その瞬間体から力が抜け落ちるのを感じた。
「それはあなたの力を抑制する特別なものです、今のあなたはただの村娘程度の力しか出ません」
どう言うこと? 奴隷の腕輪ならレベルが落ちるだけのはず、私は精霊だからレベルなどは昔の名残だからどうとでもなると思っていたのに。
これじゃあなにもできない。
「ミスティアそこのテーブルに手をついて尻をこちらに向けろ」
ザコルトスはすでに勝ち誇ったように先ほどとはうって変わって私をよび捨てで命令する。
私はとことんおろかだな……。
◆◇◆◇◆
くそ!僕は何をしているんだ。ミスティアを彼女を守るって約束したのに、食欲に負けて細工がされている可能性が0%じゃない食べ物を食べてしまった。
そんな僕のためにミスティアは自分の身を犠牲にしようとしている。
いやだ、そんなのは絶対に嫌だ。
考えろ、考えるんだ。
そのとき、サラスティがミリアスにかけより抱き起こして回復魔法をかけている。
回復魔法でいくぶん楽になったのか顔が苦痛の歪みから解放される。回復魔法が一応効力はあるようだ。だがこの毒は呪毒だ魂まで蝕んでいるようでミリアスは意識がもうろうとなっている。
ミスティアのスカートが捲し上げられ今にも下半身があらわになりかけている。
動け! 僕は動かない体を一生懸命動かすが周りの兵士が僕を踏みつけたり蹴り飛ばしてもてあそぶ。体の動きが鈍い、呪毒、つまり本物の毒じゃない、獣人には毒耐性はない毒にはただの人間と同じで弱い。
だけど、一つだけ打開する方法がある。回復魔法が効力を発揮するなら、獣化して回復力を極限まで高める。毒は消せないが動けない状況は打破できるはずだ。でもこれをすれば僕の寿命は著しく縮む、人工生命体である僕はそもそも長生きできない。
男だけに効く呪毒を盛ったのは最初から俺達を殺しミスティアとサラスティを手に入れる算段なのだろう。
ミスティアは俺達を餌に騙されている。
ならやることは一つだ。
「ミリアス! 俺達は助からない。ザコルトスは俺達を殺す気だ。このままだと二人は性奴隷にされるだから俺達は命を捨てるぞ良いな!」
その問いにミリアスは朦朧とする意識の中『頼む』とだけ答えた。
「獣化!」