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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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クロイツとカルガモ宿の姉妹 その二

「なんで叔母様が……」

 そう呟くとディオナは倒れるように崩れ落ちた。


 だけど妹のティアは何か思い当たる節があるようだった。

 ティアに尋ねると、姉に知られたくないのか私の耳元に顔を寄せ小さな声で囁く。


 吐息が当たってくすぐったい。


 役得役得。


「叔母は姉さんの裁縫の腕に嫉妬していたの」

 ティアがいうにはディオナの裁縫技術は叔母を越えており、すでにマスタークラスなのだと言う。

 最近では叔母の指名よりもディオナを指名する人の方が多く、表面上は優しく接してくれていても内心は複雑だったようだ。


 姉は人の顔色をうかがうということができませんから、とティアがやれやれと言った風体で姉を見る。

 宿屋をやっていたというが人の顔色をうかがえないって致命的じゃない。長女なだけに蝶よ花よと育てられたのかしらね。

 


 それはさておき、今回の事件はディオナの裁縫の腕に嫉妬した叔母が彼女を売ったと言うわけか。

 まあ、証拠はないけど会えばわかるでしょう。


 私達は今だショックから覚めないディオナをなだめ、叔母のいるサラディアンの町へと向かった。


 町にたどり着くと、馬車の後ろにヘトヘトの男達を引き連れて来る定期馬車に、ただならぬものを感じた衛兵達が大挙して押し寄せた。


「これは一体どう言うことだ!」

 衛兵長とおぼしき人物が槍を構え御者に声をかける。

 御者は当然自分達が人拐いなどとは言わずしどろもどろになっていた。

 私達はドアを開けて馬車をおりると、隊長に優雅に挨拶をした。

 アリエルがね。


 凄く綺麗な挨拶をするアリエルに皆は貴族とでも思ったのだろうか、全ての衛兵が矛を納める。

 服はボロでも気品は隠せないと言うわけだ。


 アリエルさんマジ貴族。


 アリエルが隊長格の男に姉妹に聞いた話と自分達がこの男達を捕らえたことを話した。


 隊長は納得してくれたようで、すぐさま男達は捕らえられ牢へと連れていかれた。

 その際に引き渡し書をもらったので、後程バウンティギルドで褒賞金を受け取ってくれと言われた。

 バウンティギルドは犯罪者や逃亡犯を専門に扱うギルドで国が運営している。その為か冒険者ギルドとは職務的に被ることがあり犬猿の仲なのだ。

 まあ、それよりも今は姉妹の叔母を問いたださないといけないだろう。

 とは言え、依然としてディオナはショックでまともに歩けない。私は彼女を背負うと彼女達の家に向かった。


 家の前に着くと姉妹の叔母は玄関先でこちらを見ていた。叔母は姉妹を見ると驚き駆け寄り『無事で良かった!』と抱きついた。


 ディオナはその様子を見て、叔母が黒幕だと言うのを嘘だと思ったらしい。二人で抱きつきあって泣いている。

 ティアは頭の良い娘のようで、もう気がついたようだ。

 そうなのだ、彼女達が襲われていたことを叔母は知っていた。

 今着いたばかりで衛兵すら知らなかった情報をだ。


 そして、姪の才能に嫉妬する者か。


「ねえ、なぜこの二人が襲われたこと知っていたの?」

 私の問いに叔母は一瞬ビクッとするが守衛の者が教えに来てくれたと言う。

 しかし、私にはマップがあり守衛達の動向も掴めている。

 それを叔母に言ってもそんな能力聞いたことがない、嘘はやめてくださいと言う。


 困った、確かにこんな能力聞いたことがない。なにげに詰んだ。


 困っていると向こうから助け船が出された。


「なんだいティア! まるで私がディオナの裁縫の腕に嫉妬して、人拐いを雇って二人を襲わせたとでも言いたいのかい!」

 不振の目を向けるティアに叔母が食ってかかる。


 はい、その通りです。


 さすがに、これは言い逃れできないでしょ。その事を指摘すると感だと言う。

 ディアナもそのくらい予想できなくもないですと、いまだに叔母をかばう。


 だけどとうの叔母は二人に出ていけと言う。

 疑われてまで、お前達二人を養いたくないと言って。養うもなにもディオナはあんたより裁縫の技術は上でしょうに。

 ディオナは妹にはちゃんと言い聞かせますから許してくださいと平身低頭し詫びている。


 ティアはと言うと、すでに出ていく気が満々だ。荷物をまとめるから家に入れさせろと言ったが叔母はお前らのものはすでに処分したと言う。


 ……バカなのかこの人。


 それでも、なお謝るディオナは叔母に依存しているのだろう。少しイラつきを覚えた私はディオナを担ぎ上げた。


「ティア、ディオナ。あなた達二人は今日から私のパーティーメンバーだから一緒に来なさい。異論は認めません」


「離してください、私の家はここです!」

 ディオナは一度宿を潰しているから、今の生活を失うと言うのが怖いのだろう。


「ちゃんと考えなさい、あの人はあなた達が邪魔なの。そこでまともな生活ができると思うの?」

 ディアナは黙って首を振る、さっきはアリエルに抱きついたから糞女と思ったけど、胸の感触は悪くない。


 あ、浮気じゃないですよ? 胸の感触を楽しんでいるだけなんです。

 私は誰に言い訳するわけでもなくアリエルの方を見ると、少し笑顔が怖い気がします。


「ティ、ティアちゃんこの町でまともな宿はどこかしら?」

 ティアは宿選びなら任せてくれと無い胸を叩き、私達を一軒の宿に案内してくれた。


 宿はこの町で二番目に大きく、それなりに歴史がある宿なのだと言う。


「なんでⅠ番大きい宿じゃないの?」


「ふふふ、それは素人の浅はかな考えなのですよクロリアさん」

 そういって無い胸を張ると2番目を選んだ理由を自慢気に話し出した。私はその話を適当に聞き流し、二人の今後を考えた。

 ひとつは私達とそのまま冒険者なる。

 もうひとつは独り立ちできるように援助する。

 最後は私のハーレムの一員になるかと言うくらいね。

 まあ、最後のは冗談だけど、私はアリエルを悲しませる気はないもの。

 王族や貴族じゃない者がハーレムなんて、そんなのはただの浮気だから。


 ティアの御託を聞き終わり宿の中に入ると、旅館のメイドが私達の斜め横でかしづく。現在の私達の身なりはおせいじにも良いとは言えない。しかしメイドは私達を見下すこと無くフロントのチェックインカウンターへと案内をする。

「いらっしゃいませ、何泊の御予定でしょうか」

 執事然とした初老のホテルマンが私達の滞在日数を聞いてくる。私は三拍の滞在を予定しており朝食以外は他で食べることを伝えた。

「皆様、御一緒のお部屋ででよろしいでしょうか?」


「ええ、それでお願いします」

 私がそ言うとその男は私達に用意する部屋の説明を始めた。

 部屋は充分過ぎるほど大きく風呂まで室内に備え付けである。料金は安くはないが許容範囲だ、問題はない。

 だが今手持ちがない、支払いは後日で良いかを聞くと問題ないと言う。私たちのような一見を信用するとか老舗の余裕なのか? 支払いを待ってもらってるのに失礼だがその事を聞くと、お客様の装備や所作でどういう素性の方か分かりますのでと事も無げに言う。


 まあ、無銭宿泊されたらそれは勉強代ですなと付け加えてハハハと笑う。


「では、こちらになります」

 メイドの娘が話のキリが良いところで私達を部屋に案内する。

 確かに元宿屋の娘であるティアが推すだけのことはある。従業員達の動きが、まるで流れる川のように淀みがない。


 案内された部屋は三階の角部屋で調度品も良くそれに町を一望できる眺めも良い。席には湯気を立てている紅茶とお茶菓子がおいてあり、まさに至れり尽くせりである。


「では、ご用件がございましたら、こちらの魔道具からご連絡ください」そう言うとメイドはお辞儀をして部屋から退出した。

 さて、取り敢えず落ち着ける場所は確保できた。

 姉妹の様子を見るとティアは初めてここに来るのか、外を眺めては歓声を上げている。

 かたや姉はと言うと、今だ青い顔をして落ち込んでいる。姉妹なのにポジティブとネガティブでまったく違うのね。私に妹がいたら、間違いなくネガティブね。


「ディアナ、いつまでも落ち込んでいてもしょうがないでしょ。未来を見なさい未来を」


「あなた達冒険者に何がわかると言うんですか。叔母は私にとって母親同然の人だったんです」


「母親が子供を売るわけね。まあ、良くある話だわ」

 そう言うと私を睨み付けるが喧嘩する気概はないらしい。

 まあ、血が繋がっていても普通に子供を奴隷商人に売る親はいる。だからそんなことで悲劇のヒロインを気取らても困るのだ。


「だいたい、私達はあなたの冒険者パーティーに入りませんよ」

 そのディオナの発言にティアが驚き否を唱える。

 ティアは昔から店に来る冒険者達の話を聞いていて、いつかは自分も冒険者になると思っていたらしい。


 そんなんだから裁縫の技術が上がらなかったんですよとディアナは言うが、叔母が求めていたのはただの針子で、デザインまでやる職人が欲しい訳じゃなかったのが分からないお姉ちゃんだからこんなことになったんでしょうと言う。


 ティアは客の引き込みや話の相手をしていたと言うこともあり洞察力に優れているのだろう。だからこそ叔母が望むように針子に徹していたというのにと言う。そしてお姉ちゃんはやり過ぎたと責める。


「だって針仕事やデザインを考えるのが楽しかったんだもん」


「そうやって都合が悪くなると甘える癖やめた方がいいと思いますよおねえさま(・・・・・)

 その突っ込みにディオナはヴッと言う声を漏らすと、その後は押し黙った。


「ディオナは今後どうしたいの?」

 何をするにしても先ずはディオナの希望を聞かなければ話になら無い。

 とは言え、世界で自分のやりたい仕事につくのはある程度恵まれた人だけだ。大部分の人は望まぬ仕事をしている。生きていくだけで精一杯なのだから。


 ディオナは裁縫師になりたいですと言う。でもと言うと少し言い淀みながら、きっと叔母は裁縫ギルドにも手を回していますから裁縫師にはなれないですと泣き崩れた。

 私はディオナを起き上がらせると頬を両手で挟み込むようするしてディオナの口を尖らせた。


「タコよタコ」


「は?」

 私の言葉にディアナは不快感を示す。


「色々考えなさいってことよ、だから多考(たこう)ね」


「……親父ギャグですか。プッ」

 ディオナはギャグが壺にはまったのかケラケラと笑いだす。

 タコなだけに壺にはまったってことね。


「よし、じゃあこうしましょうかディアナは私達冒険者パーティーの専属裁縫師(テイラー)に任命します」


「3人じゃすぐに作り終わってしまいますよ」


「ディオナは好きなものを好きなだけ作って良いわ」


「でも冒険者じゃ持ち歩きに不便じゃ」

 普通、町から町へ移動する冒険者は服を一着しか持たない。

 携帯に不便だからだ。だから大体の冒険者は臭い。女性にビキニアーマーが多いのは簡単に洗えると言う利点があるからだ。

 身の安全よりも、人にどう思われるかを気にするのはいかにも女性特有である。


 だけど、普通の冒険者なら服など邪魔なだけだけど、私にはアイテムボックスがある。

 空間から荷物を取り出すとそれを二人に見せ、荷物の心配はいらない事を伝えた。


「……ありがとうございます。私頑張ります」

 ディオナはグッと握りこぶしを作りやる気を出す。基本この娘は頑張り屋さんなのだろう。

「じゃあ裁縫道具を買いにいかないとね」


「クロリアさんそれならちょうど蚤の市がやってますよ」

 ティアが窓から外を指差し人混みを指す。

 それを見たアリエルは目を輝かしている。


「アリエルも興味あるの?」


「はい、魔道具とか本とかが気になります」

 アリエルは昔から魔道具や本のコレクション癖があり神の祝福(プライム)で知識は溜められても読んだ本は売ることができずに書庫を作って集めていたそうだ。


「コレクションか、そうなると拠点とかあればアリエルの好きなようにできるわね」

「コレクションしても良いんですか!?」

 コレクションができると言う言葉にアリエルが食いつく。

 可愛い嫁の為なら家の一軒や二軒位買って見せましょうぞ。


「まあ迷宮(ラビリンス)の町に拠点を作ろうとは思っていたしね」

 アリエルのバディとして相応(ふさわ)しくなるために私は覇王を目指す。アリエルの想い人には絶対に負けないんだからね。

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インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
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