ミスティアと勇者の功績 終演
「ガリ坊、行ったらだめだよ」
俺が今にも飛び出そうとするところを、静さんが腕をつかみ制止する。
「でも、ミスティアが襲われてるんですよ!」
俺は静さんが作って世界に放たれた虫型ゴーレムからの映像に我を忘れかけていた。
商隊の隊長にミスティアが襲われているのだ。
今すぐにでも助けにいきたい、だけど魔王が助けに行けばその時点で計画は破綻する。
「なんなんだ、あのサグルと言うやつは!」
俺はいらただしさから玉座を蹴り上げて粉々にしてしまう。
この玉座はドラゴンの骨で出来ており鉄よりも硬い、どうやら知らずに身体強化を使っていたようだ。
ザグルがミスティアの食事に何かを入れた。そしてミスティアは眠気に襲われテントで寝入ったところをサグルに促された隊長のニコルがミスティアを襲った。
「ガリ坊、虫からの映像を切ろうか?」
静さんは俺のことを心配してか映像を切ろうか訪ねるが、俺は見なきゃいけない、それが俺ができる唯一のことだから。
「ごめん、今までミスティアを助けなかった俺に怒る資格はなかった」
そう、ミスティアが凌辱されていても俺は助けなかった。そんな俺に怒る資格はない。
だがあのサグルと言う男はなんだ。ミスティアを助けると言っておいてやっていることはニグル以下だ。
「ん?何じゃこいつは」
静さんがニコルの体に起きた異変を感じとる。
俺達も意識を映像に集中すると隊長の体がバキバキと音を立てて変化していく。
まるで魔族のような異形な風体になるとさらに激しくミスティアを攻め立てる。
その刹那、ニコルの胸から剣が生えると彼は絶命した。
サグルが隊長を殺したのだ。なぜ奴が隊長を殺す?あいつがけしかけたのに。
「どう言うことだ?」
「隊長のニコルが変異したこともそうだがサグルがミスティアを助けたのも不可解だ」
そしてサグルは何食わぬ顔でミスティアの恩人として信頼を得た。
魔族は変異などしない最初から異形の体なのだ。
それを俺の真名命名で人間に戻した。
魔族の名残からか、レベルや魔力はそのまま保持しているが変身能力などはない。
魔王は魔王石を持っていて静さんが作った帽子の力があるからこそ変身できるのだ。
「まあ、真奈美がなんかしたんだろうね」
そう言うと先ほどの映像から静さんが仮説をたてる。
サグルはがニコルにミスティアを襲わせる前に精力剤だと言って飲ませた薬、あれが体になにか作用を及ぼしたのだろうと言う。
「現地人の細胞を地球人と同じように変質させたのかもしれないね」
真奈美達の最終目標は地球を救うこと、つまり地球への帰還でありその際こちらの体ではなく地球の体に戻るためのものを作ってあったとしてもおかしくないと言う。
だけどなぜそれを今使ったんだ?
その理由はすぐに分かったわ今回の襲撃を魔族の襲撃にするためだったのだ。
サグルは魔王軍がミスティアを襲ったことにしたかったのだ。
だけどサグル自身はステータスの性格を見る限りそんな謀略をするようなやつではないはずなのに。
″ミスティアに憧れ慕い守る者″
こんな性格の奴があんなことをするのか?
「変装してミスティアの側に行ってはダメかな?」
「無理だねガリ坊は変装下手くそだしね」
マイラさんにも割りと早くからバレていたしアリエルには一瞬で見破られたもんな。
そして、その後のサグルは陰日向無く働きミスティアの力になり、ミスティアが自分の体を道具のように使おうとしたときも真剣に怒っていた。
最初の時の行動は真奈美によるものだろうと静さんは言う。
だけどそれなら、その後は何もしないのはなんでだ。
何かあるかもしれないが今は見守ることしかできない自分が歯がゆい。
そしてアリエルだ、シンヤがアリエルを手放した。俺への人質だった彼女を手放す意味が分からない。どういう心変わりだ。
そしてアリエルと一緒にいる女性クロリア。クロイツはシンヤに頼んでハコブネから出さないようにお願いしたから大丈夫なのだが。
クロリアとは獣人一族の者だろうか?
一度確認した方が良いな。
アリエルの現在地は迷宮の側の町か。このルートだと迷宮を目指してるのは間違いないな。
「そう言えば魔王はレベル100固定だったよね?」
そうですと魔王は頷くとゴロゴロと言いそうな程頬をすりよせてくる。
固定か、でもそれは魔王と言う立場による制限だろ? つまり今はその制限が外れているんじゃないか?
「静さん魔王ってレベル上がる?」
「そうだね、もう魔王じゃないし多分上がると思うよ」
今後の為に魔王のレベルをあげた方がいいかな。この面子に勝てる人間はいないけど。
一段落着くところまで書き溜めますので更新数か月先になります。