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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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ミスティアと勇者の功績 その一

「つまりどういう事ですか?」


 私は真奈美が言っている言葉の意味が理解できなかった。


「ミスティア、私もね改心したんですよ。あなたに酷いことをし過ぎたなってね」


 今さらどの口が言うのか。散々酷いことをしておいて今さら改心? 信じられるものですか。だけど、真奈美には逆らえない、彼女がそう言うならそれに乗っておきましょう。


「今後は絆を深めなくても良いの?」


「かまいません、どうやらあなた達の絆は結ばれたままですしね」


 真奈美の説明では精霊の絆は最初に肉体的接触が必要なだけでその後は信頼関係の方が重要だと判明したと言う。


 だからあの時私を助けたいと動いた彼らはウルフドライブが使えたのか。信頼関係か……。

 しかし、今さらだ。散々男達と交わり汚された後では慰めにもならない。


「それで用件は何でしょうか」


 私がトゲのある言葉でそう聞くと、やれやれと言わんばかりに首を振りカスミと説明を変わった。


「あなたにはこれから半年の間に勇者に選ばれる為の実績を積んでもらいます」


「実績? それなら前の勇者時代に積んでると思うけど?」

 だがカスミは言う。裏切りの勇者の烙印を押された私では普通の人よりもマイナススタートなのだと。


「と言うか、本物の勇者が現れたと言う話はどうなったの?」


「勇者マイラは死んだそうです。それに今回の魔王は今までの勇者では倒せません」


「どういう事?」


「新たに魔王に即位したのは使徒である静様の魂を宿したガリウスです」


 精霊鬼(フィリィア)やリライマが言っていた事が事実だと知ると私はその事実に血の気が引いた。

 カスミが言うには、ガリウスが前魔王を倒し配下に置き世界に宣戦布告をしたそうなのだ。

 そして世界を破壊しない条件として、勇者を擁立し魔王に挑ませよと言うことらしいのだ。


「なぜそんな……」


「まあ、暇潰しでしょうね。私達使徒は死ぬことがないから」

 真奈美はそう言うとクスリと笑う。

 冗談じゃないガリウスは暇潰しで世界を破壊するような人間じゃない。


 真奈美も静はそんな事をする人間じゃないと言う。もしかしたら記憶が不完全に戻っているのかもしれないと。そのせいで錯乱しているのかもしれない可能性があると言うのだ。そして私にガリウスと繋ぎを作ってもらいたいと言う。ヤマト神国に協力するように要請しろと言うのだ。


「ガリウスに何をさせる気!」

 真奈美のことだガリウスを実験材料にでもする気だろうけど、そんな事はさせない。

 私が真奈美を睨むと勘違いをするなと言う。私が思っているようなことはしないと、自分と静は同じ使徒仲間なのだからと。

 そしてガリウスの力が必要なのは静の力があれば地球を完全に守る事ができると言うのだ。


 真奈美の持つ神意(カムイ) 勇霊(ゆうれい)召喚は死んだ勇者の魂を召喚し受肉させて戦わせるものだと言う。この能力は死んだものをも蘇生させることが出きると言う。

 そして、この能力を進化させ新たにどんな人でも肉体ごと召喚と送還が出きるようになったのだと。

 その神意(カムイ)で地球の人を救ったのだと言う。


「私の神意(カムイ)の能力は使徒仲間以外知りません。それをあなたに話したという事で私の改心を信じて欲しい」

  そして真奈美は言う、静の力は理を覆す力だと。つまり無慈悲な隕石群をなかったことにすらできるだと。


「地球さえ救えれば私達はこの星を去ります。グランヘイムを解放しますよ、悪い条件じゃないでしょう?」


「な!」

 この国が解放される。願ってもいない提案だ。だけどガリウスが首を縦に振ってくれるかは分からない。

 私は彼に酷いことをしたのだから。


 でも、だとしてもガリウスに会いに行かねばならない。グランヘイム解放もそうだけど、魔王なんてやめさせないと。例え私の命に変えても。



「それで、聞いてますかミスティア?」

 上の空ので聞く私にちゃんと聞けとばかりに名前を呼ぶ。


「何でしょうか」


「あなたの新パーティーメンバーを紹介すると言う話ですよ」


「新?」

 ニグルが死んだ今一人も足りないけど、このタイミングで補充?


「はいりなさい、サグル」

 真奈美がそう言うと執務室のドアが開き、ガリウス似のいや、ニグルそっくりの男が入ってきた。

 私のからだが震える。あの快楽と屈辱の日々がまた来るのだ。


「いやよ、なんでまた……」


「ああ、勘違いしないでください。私は改心したといったでしょう」

 そう言うとサグルと言う男は私の側に寄り手をさしだす。


「いやッ!」

 私はサグルの手を払い除け後ろに下がる。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよニグルとは違いますから」

 サグルはニグルと違い催淫効果はないし絶倫でもないそのうえ、性格も優しく作ったと言う。


「でも、なんでニグルと同じ顔なんです」


「人工獣人達はすでに10体ほど完成しているのよ。新しい獣人を作るのは時間が必要なのよ」

 もちろん私が嫌がるので今後は顔を変えると言う話なのだが、生まれたものを殺すわけにもいかないし、時間もないので私のサポート役にしたと言う。


「あなたが引き取ってくれないと廃棄処分にするしかないんですよね」


「廃棄処分って?」


「殺して素材の状態に戻すんですよ。一体作るだけでもそれなりの高価な材料が必要なのでね」

 生まれた命を殺す? 私のわがままで一つの命が失われる。

 それは、いやかな……。


「本当になにもしなくて良いの?」


「ええ、絆も結ぶ必要はありませんよ。精霊狼の絆(ウルフドライブ)を使わなくてもそこそこ強くしてありますしね」


 交わりを持たなくても良いならそれに越したことはないけど。


 顔が……。


「サグルと申しますミスティア様。あなたのお邪魔になるようなことはしませんので、よろしくお願いします」

 サグルはそう言うと深々とお辞儀をし、頭をあげると屈託の無い笑顔でにこりと笑った。


 サグルはニグルとは違う。私が断れば殺される命。


「分かったわ。了承しました。サグルを私のパーティーメンバーとして迎え入れます」


「わかっていただけて何よりです」

 私がこう答えるのが分かっていたように真奈美が嫌らしい笑みを浮かべる。改心したといってもこれだから信用できない。


「ただ、私の半径3m以内に入らないようにしてください。それが私のできる最大の譲歩です」

 私はサグルをパーティーに入れる条件をつけた。3mあればなんとかなると思う。


「ありがとうございます。誠心誠意使えますのでよろしくお願いします」

 サグルは命が助かった安堵からか目に涙を浮かべている。人工生命とは言っても死ぬのは怖いのだろう。


 たぶん、これで良かったんだ。


「別につかえなくていいわ。ただ、私の嫌がる事をしなければそれでいい」


「分かりました、では真奈美様お願いがあるのですが」

 サグルは真奈美にマスクを作ってくれるようにお願いをした。自分の顔が私を不快にするからと。

 真奈美はその件はお見通しとばかりにマスクを机の上に置く。


「そこまでしなくていい」

 私はそれを付けるのをとめた。


「ですが」


「それを着けるならパーティーの話はなかったことにする」


「分かりました」

 別に相手の尊厳を踏みにじってまで恐怖から逃げたい訳じゃない。そこまでさせたら私はサグルを人間として認めていないことになってしまう。


「じゃあ、勇者の件とガリウスの件は了承しました。ほかに用事がないならすぐにでも出立します」


「そうねお願いするわ」


「お待ちを、私からの選別です」

 そう言うとカスミが新しい偽勇者の剣・改二(イクスソードかいに)を私に手渡してきた。


◆◇◆◇◆



「これでミスティアは救われるんでしょうか?」

 カスミが真奈美に問う。


「は?」

 真奈美は何を言っているんだと言う顔をしてカスミを覗き見る。


「真奈美様は改心なされたと」


「そんなわけ無いでしょ」

 カスミの言葉を一蹴して笑い飛ばす。


「ですが今回のサグルは優しいようですし」


「馬鹿ね、今までロクでもない男をあてがっていたのは全部この日のためよ」


「どういうことでしょうか」

 真奈美の言葉の真意を悟り、カスミの眉間にシワがよる。


「ひどい男達ばかりで男性不振に陥ってる所に優しくて好きな人に似ている男がいたらどうなるか想像できるでしょ。見ていなさいミスティアはサグルに惚れるわよ」

 そう言う真奈美の顔はひどく歪む。


「やめさせてください、なぜそこまでミスティアを目の敵にするんですか」

 そう言うカスミに真奈美は面倒くさそうになぜなのかを教える。あの女は私の前で幼馴染みのために私は戦っている。愛する人のためにと、得意顔で言ったのだと言う。

 だからその愛が真実のものか、試してあげているのだと言う。


「愛なんて人それぞれじゃないですか!」

 カスミが声を荒げて真奈美に歯向かう。人工生命体であるカスミが真奈美に歯向かうことなどあり得ない。

 しかし、カスミは歯向かったミスティアの為に。


 真奈美はカスミを魔法で縛る(いばら)(つた)がカスミの体を(おお)うほどに絡み付き、体を締め上げる。

 そのカスミにツカツカと怒気を孕んだ真奈美が近寄りカスミのあごをクイッと持ち上げる。


「あのね、あなた達人工生命には分からないと思うけど真実の愛とはあんな小娘に分かるようなものじゃないわ」


「……では、真実の愛とはどう言うものでしょうか」


「そうね、例えば糞尿垂れ流し、口からは咀嚼物を吐きまくり、そして気が狂ったように暴れている。そんな人間をも優しく献身してくれて心から愛せるってことね」


「そんな人間いるわけが」


「いるのよ、まあ人間じゃなくて神様だけど。でもあの時のアディリアス様はすでに全ての力を失い人間と同じような状態だったけどね」

 真奈美は言う、あの時の私達は気が狂った状態でも意識はあった。他人に憑依しているような状態だったのだと。

 分かりやすく言えば楽しくゲームをしている人のコントローラーを奪おうとしている状態だったと言う。

 当然憑依されている現地人はコントローラーを奪われまいと抵抗をする。

 そんな状態だから体のコントロールはうまくいかないし、狂ったように暴れていた。そんな気が狂っている自分を見て私も気が狂いそうだったと。

 だけど、アディリアス様と一つとなり私達は安らぎを与えられた。それこそ真実の愛なのだと真奈美は言う。


「……ですが、愛などと言うのは人それぞれ違うものではないんですか?」


「アディリアス様の愛を知らない人工生命体が言いそうな台詞ね、不快だわ」

 そう言うやいなや(いばら)()き分けカスミの腕を(つか)むとバキバキと上腕骨を折る。

 カスミは呻き声一つあげないが苦しそうに顔を歪める。


「ふん、叫んでいれば殺しているところだわ」


「……」


 腕を折って溜飲が下がったのか真奈美は執務室の椅子に座り縛られたままのカスミに新たな兵器の開発状況を聞く。


「それでアスラシステムの完成状況は?」


「……60%です」


「遅いわね、ミスティアに気を回してる場合じゃないでしょ」

 苛立ったように机に足を乗せカスミを指差す。


「申し訳ありません、しかしこのシステムは真奈美様が基幹部分ですので実験する訳にもいかず難航しております」


「言い訳はいいの、成果を見せてちょうだい」


「……はい」

 真奈美はしばらく考えると、そうだと言いランスロットを使えと言う。

「あいつは今ちょうどいい化け物になっているでしょう」


「分かりました。早速手配いたします」


「真奈美様、あと一つだけよろしいでしょうか?」


「何よ」


「ミスティアが勇者に選ばれたとしてもガリウスに勝てるとは思えないのですが」


「馬鹿ね今回の策略はミスティアの愛を試す以外に、ガリウスにミスティアを諦めさせる作戦なのよ」


「なぜですか?」


「静は女なんだから女を愛してちゃおかしいでしょ。だから元の女の体に戻すために、この世界のしがらみを絶つのよ」


「しかし、どうやって」


「まあ、サグルにも色々しこんであるからね。そんなことよりもアスラシステムの完成を急ぎなさい」


「……分かりました、失礼します」

 カスミはそう言うと執務室をあとにした。

 だが真奈美は知らない人工生命体にも愛があることに。



前話登場人物紹介をかなり書き直ししました。



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