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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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クロイツとリセットマラソン 終演




◆◇神シンヤ◇◆



 結局、今回の魔王の魔王石を使ってもアディリアス様は戻らなかった。


 今回こそは戻ると思ったのに……。


「意気消沈かな、アルティナ」


 物陰からシワだらけの生き物が現れた。ハコブネに自由に出入りすることなんてできないのに、こいつはそれを訳もなくやる。


「その名で呼んで良いのはアディリアス様だけだぞ、殺されたいのか静」


「怖い怖い、まあそうイラつかないでよシンヤ(・・・)


 若者口調でしゃべる老婆の突然の来訪を訝しむ。


「何しに来た、正直当分貴様と会いたくない気分なのだがな」


 アディリアス様復活を持ちかけてきた女、静。こいつの口車に乗ったとは言え、その希望にすがり付きたかったのは事実だ。

 あなたのいないこの世界は私には白いキャンバスのようです、アディリアス様。


「それなんだけど、アディリアス様が復活しないのは魔王システムに問題があることが分かったのさね」


「バカを言うな、あのシステムは完璧だ。この世界にある神の因子をちゃんと集めるようにできている」


 そう私のプログラムに間違いはない。アディリアス様を甦らせることだけを考えて組んだのだ。それにミスがあったと言うなら、1万年かけてやったことが水泡に帰す。


「そう、システム的には完璧だね、神の因子が一つならね」


「何を馬鹿な事を、まるで神の因子が複数あるような言い方ではないか」


 私は声を荒げて静に反論する。

 この世に神はアディリアス様とウルティアしかいないはずだ。

 そして、この世界で死んだ神はアディリアス様唯一人。つまり因子を集めれば、自然とアディリアス様は復活する予定だった。


 だが、精霊龍(メルティナ)に聞いた所によると、この世界は三種の神で構成されていると言う。

 三種? アディリアス様とウルティア、他に誰がいる。私達がこの世界に来たときには二人しかいなかった。

 私達が知らない第三の神がいると言うのか。


「そして今ガリウスの中にはアディリアス様以外の別のものがいる」


「なんだそれは」


「分からんが推測はできる。第三の神か夢想界の勇者だ」


「夢想界? なんだそれは、それに勇者ごときが神と同列とは片腹痛い」


 だが静は私の嘲笑を否定する、夢想界の勇者は神と同列であり、その神とは私よりも遥かに上の存在の神だと言う。


 上の存在の神? また訳のわからないことを。


 今、ガリウス陣営にはその勇者を連れ戻しにきた夢想界の者がおって、ガリウスを殺して勇者の因子を夢想界に持ち帰ろうとしている者がいる。だからガリウスが殺されてもアディリアス様の因子がまた散らばならないようにシステムを組んでほしいのだ。


 そして、できるならばガリウスの中のアディリアス様以外の因子をも分離してほしいと言う。


 言われるまでもない。邪魔者はすべて排除する。


「だが、いつになったらアディリアス様は復活なされるのだ」


「アディリアス様の因子はすでに60%を越えている、いつでも復活しても良いはずなのじゃが」


「いい加減にしてよ静! いつまで待たせるのよ。あなたが、あなたが復活できるって言ったから私はこの世界を、この世界を壊すことを思い止まっていると言うのに!」


 私は苛立ちから静に当たり散らした。別に静が悪い訳じゃない。でも、1万年は長すぎるのだ。


「すまないと思う。だけどもう少しなのお願い協力して」


 どうしてもアディリアス様のことを考えると私達は女に戻ってしまう。1万年たとうが10万年たとうが私達は女なのだ。


「分かっておる私達は共犯者だ最後まで付き合おう。少しアディリアス様に似ているガリウスを見て心が乱されただけだ」


「似ている? ガリウスが?」


「優柔不断だが一途な所とかそっくりじゃろ」


「ふふふ、そうだねアディリアス様は優柔不断だったね」


 私達はお互いの顔を見て笑いあった。


「それで。ガリウスを殺そうとしている、そいつは何者なのじゃ」


 今のガリウスを倒せる存在がいるとも思えないのだけども、その存在は知っておいた方がいいだろう。


 静は言う。そいつの名はリライマ、全身を夢想界の魔道具で構築された機械人形で、その身に三匹の精霊龍を宿した忍者だそうだと言う。


「忍者だと? まさか、その者は転移者か? それに精霊龍が三匹とはどう言うことだ」


「リライマはあまりあちらの世界の事は言わんので分からんのだが、精霊龍(メルティナ)様が言うには土の精霊龍、水の精霊龍、火の精霊龍をその身に宿しとぃると言う」


「だが、その者はなぜ今ガリウスを殺さんのだ?」


 静は精霊龍(メルティナ)様がいるからだろうなと言う。 三匹の精霊龍は土、風、火、水の四大で一人の神と言うことらしい。つまり精霊龍(メルティナ)様は一人でその四人ほどの力があるのだと言う。


 なるほど、それなら戦っても勝ち目はないだろう。

 とは言え一度はガリウスの命をとろうと襲ってきたのだがすんでのところで考えを改めたらしい。

 夢想界は止まった世界らしく、今殺すのも寿命を待って殺すのも大差はないと言って側近に成り下がっているということだ。


「ふむ、まあ良い。それならばシステムを構築する時間くらいはありそうだな」


「よろしく頼むよ。しかしシンヤが人に力を貸すとはね」


 クロイツの事を茶化す静に少しイラつきを覚えながらも、私は茶番に付き合う。


「ふん、見ておったか。イヤらしい奴め。まあ奴は特別じゃ」


「二重人格者同士気が合うのかね」


「まあ、そんなところじゃ。他に用がないなら帰れ」


「なんだい久々に来た友人に茶も出さずに帰れって言うのかい」


「お主の頭の上に熱いお茶を召喚してやろうか?」


「はいはい、帰りますよ。いーだ」


「ふん、アホめ」


 シワだらけの顔で可愛い子ぶっても仕方ないだろうに。



 アディリアス様……。いつあなたにお会いできるのですか。



◆◇アキトゥー神国国王◇◆



 ここは王国連合の会議室、今新たな魔王に対応すべく各国の首脳が集まり会議が開かれている。

 私もアキトゥー神国代表としてこの会議に参加しており、娘のマリアもガリウスを知る者として参加させている。

 ここへは転移門で即座に来られるため各国の首脳が集まらないと言うことはない。

 逆に来ない場合は非難を浴びせられる。


 そして席を見ると三か国の国王の姿が見えない。


「新たな魔王軍は魔物を統率していると言うのは本当なのか!?」


 そう言ったのは白ノ神剣(シロノデバイス)のシロガネ国王だ。


「はい、魔族と名乗る人間達に率いられて襲撃されました、既に3つの国が襲われており国王が死亡しております」


「あり得ない、魔物が人の指示に従うなど」


「そもそも、魔族が人の形をしているとはどう言うことだ。魔族は異形の化け物だろ」


「……わかりませぬ」


 魔族が元々は異世界人が転移して異形の姿になったと言うのは王国連合のトップと神国国王しか知らない機密事項なのだ。


「ガリウスと言えばアキトゥー神国のクロイツ殿を殺した犯罪者ではないのか?」


 各国の首脳が私の方を見て発言を待つ。


「王国連合十条に触れるため発言することはできない」


 その言葉に数人の者がざわめく。

 この十条は使徒のことに関して発言を禁じたものでこれを発動したと言うことは使徒が現れたことと同義なのだ。


 つまり自称大和神国と魔王軍の二人の使徒が現れたことになる。


「実は王国連合側に大和神国から使者が参りまして、大和神国国王マナミ殿は世界を滅ぼすようなことはしないと言われたのです」


「馬鹿な、奴は十条に触れる存在だぞ。そんな者の言うことを信じるのか」


「そもそも使徒の事はあんたら神国のでっち上げじゃないのか?」


 そう言ったのはブルギネス国の国王だ、彼は私達神国が国王連合の中核にいることが気にくわなく思うものの一人だ。


「ブルギネス陛下、その事は十条に触れますゆえ……」


「愚か者が! 使徒のことなど国王なら皆知っておろうに。それに独自で調べたところによるとそのマナミ殿とはアディリアスの使徒だと言うことだぞ。伝えられてきた伝承が嘘だった可能性がありますな神国の国王様方」


「貴様、我らを愚弄するか」


「戦争しますか? 私達は軍備や経済力であなた達を上回りますよ? しかも我々は大和神国と同盟を結んだ、この意味がわかりますかな? 使徒の件が問題ないと分かれば、お前らなどの言うことを聞く義理はないんだよ!」


「どこまでも侮辱しおって」


 ブルギネス王はシロガネ王の悔しがる顔を見てニヤニヤと下卑た笑いを見せる。


「私はここに大和神国を王国連合に入れることを発議いたします」


 悪でないなら、私にも異論はない。しかし、使徒はグランヘイムを潰した前歴もある。

 一概に信用することはできない。ブルギネス王ならそれくらい分かるだろうに。それだけ大和神国の技術力が魅力的だと言うことか。


「それでは新たに仲間入りを望まれている大和神国の代表をご紹介いたします。こちらの方は大和神国の参謀であらせられますカスミ殿です。盛大な拍手でお迎え願いたい」


 ブルギネス王の隣に座る見目麗しい女性が立ち上がると会場は割れんばかりに拍手が鳴り響いた。

 すでに他国の王達の買収済と言うことか。


「お初にお目にかかります私が大和神国……」


 カスミとやらが挨拶をしようとした瞬間。ゴウンゴウンと言う音と共に黒い渦が議会の発言席に渦巻く。

 そこから一人また一人と人が出てきて、全部で6人の男女が現れたのだ。


「メルウス……」


 マリアがそう言うと、目にも止まらぬ早さでその男に襲いかかった。

 しかし、マリアは黒鎧の女に殴られると議会の最奥まで吹き飛ばされた。


「痴れ者め! 我らが神である神魔王(ディアボロス)様に襲いかかるなど身の程をわきまえよ!」


 神魔王(ディアボロス)つまりはあれが神魔王ガリウス。

 一人だけ黒いスーツを着込んだ男が前にでると挨拶をしだした。


「私の名前はガデッサ。各国の首脳の方々我々は魔王軍です、今から一歩でもその場から動いたものは殺します」


 それを聞くとどこかの小国の王がわめき散らし剣を抜く。


分身(ミラージュ)


 黒鎧の女がそう言うと全ての首脳の後ろに、目の前にいる黒鎧の女と同じ女達が私達の首元に短剣を押し付ける。

 先程騒いだ男は血煙をあげて倒れこんだ。

 187人の国家首脳が人質にとられた。

 私も昔はS級冒険者として名を馳せたのにまったく動くことができなかった。


 格が違う……。


「静粛になっていただけたようなので、我らが魔王軍四大将軍と魔王様の紹介をしたいと思います」


 ガデッサと言う男がサーカスの司会よろしく、大袈裟なリアクションで自分の方に注目をさせる。


「ではご紹介いたします、まずは第4位、右ノ鉤爪(ライトクロウ)、元魔王ディレストファ・サタン様!」


 ガデッサに紹介され一歩前に出た元魔王は文献通りの異形の姿だった。

 魔王が第四位なのか。


「そして、第三位左ノ鉤爪(レフトクロウ)、精霊鬼フィリィア様!」


 黒髪の少女が前に出ると軽く会釈をした。

 あの少女が魔王より強いのか?

 そう思っていると、虚空から剣が4本現れ、それが少女の体に突き刺さると赤黒い鎧武者になった。


「続きましては第二位、左ノ翼(レフトウイング)、精霊龍メルティナ様!」


 褐色の少女は体から黒いカゲロウが立ち上ると、その姿を龍に変化させた。

 精霊龍! 神代の時代から生きていると言われる精霊龍がなぜ魔王軍に。


「そして、我らが魔王軍四大将軍第一位であり魔王軍総長であらせられます右ノ翼(ライトウイング)リライマ様!」


 そいつは特に動くこともなく、派手なパフォーマンスをすることもなく、唯私達の動きを一人殺気を放っていた。


「そして! 我らが魔王軍の神、そして魔族の神で神魔王(ディアボロス)であらせられます使徒のガリウス様!」


「頭が高いぞ、控えよ!」


 黒鎧の女がそう言うと一斉に後ろの鎧女達が動き私達の頭を机に押し付ける。


「諸君、私が神魔王ガリウスである。人類よ滅びよ」


 やはり使徒だ、何が大和神国は世界を滅ぼさないだ。使徒は世界を滅ぼすものだ。


「ただしチャンスをやろう、神国国王を前に引き立てろ」


「はっ!」


 神魔王がそう言うと私達6人の国王は壇上前に並べられた。


「私を神剣(デバイス)で殺して見せよ。見事殺せれば魔王軍は世界を滅ぼさないし魔大陸から一歩も出ないと約束しよう」


「それは本当でしょうな」


「くどい、我は約束を反故(ほご)にはせん」


 それを聞くと4人の王は神剣(デバイス)を引き寄せた。


「チバケインよなぜ貴様は神剣(デバイス)を出さない臆したか!」


 シロガネが神剣(デバイス)を出さないチバケインをなじる。


「その方は既に神剣(デバイス)を持ってはいないのですよ」


 そう言うと、黒髪の少女が黄ノ神剣(キノデバイス)を高く掲げる。

 私は婿養子なので神剣(デバイス)を持つことができない。それを知ってる四王は私に見向きもしない。

 私は自分が情けない。こんな時に神剣(デバイス)を持つこともできなく世界を救うために命すらかけられない。


「「「「神気解放」」」」


 せめて4人の勇姿をこの目に焼き付けよう。それを子々孫々伝えよう。しれが今の私にできる誠意一杯の誠意だ。

 四人の王は体を光らせ神剣(デバイス)をガリウスに突き刺す。

 やった! 世界は救われた。四人の王こそ誠の勇者だ。

 しかし、四人の王は死なず驚愕の表情を浮かべてガリウスを見ている。


「馬鹿な! なぜ死なない」


 その叫びが終わる頃には神剣(デバイス)は完全にガリウスに飲み込まれた。

 終わった世界の終焉だ。


「これでは面白くないな。ふむ、そうだな世界よ我とゲームをしようではないか」


 ガリウスが出した条件は全部で四つ。


 1つ、勇者が魔王城に攻めてくるようなら世界を滅ぼさない。


 2つ、勇者のパーティーは最大5人までとする。


 3つ、勇者が上記を守るならば魔王軍は動かさない、ただし城内では攻撃をするが四大将軍にはなにもさせない。


 四つ、勇者不在期間は1年とする。1年間勇者が存在しない場合は世界を滅ぼす。


 これは、魔王対勇者の一騎討ちではないか。どれだけガリウスとやらは自信があるのだ。

 だが、こんな好条件を拒否する理由がない。満場一致でこの条件をのむことになった。


「それでは楽しいゲームの始まりといこうじゃないか愚鈍な人類よ。ハハハハ」


 魔王達は高笑いをしながら来たときと同じように黒い渦の中に戻っていくった。


 なんとか危機は去った。だが首の皮一枚だ。魔王の気持ち1つで世界は滅ぶ。何とかして打開策を見つけねば。

 私は吹き飛ばされたマリアを助けに向かった。吹き飛ばされ横たわるマリア、どうか死んでいないように神に祈る。

 もう娘を失いたくない、クロイツも本当は使徒を探す旅になど行かせたくなかった。私に神剣(デバイス)が使えていれば。

 倒れているマリアに駆け寄りマリアの状態をみる。

 だが、かすり傷1つ無く、服すらも破けていないのだ。どう言うことだ手加減されたのか?


 だが、今は感謝しようこの幸運に。



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インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
『おさじょ』に出てくるアディリアスとウルティアの二人の神たちの物語 『聖剣のネクロマンサー』
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