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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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クロイツとリセットマラソン その二

 獣人達の能力は高く、私か私以上の力を有しているものが多数いた。

 冒険者で言えばA級、S級がゴロゴロいるのだ。


 しかし、パンドラの魔獣……。こんなものが世界に出たら大変なことになる。

 ここの人たちは誰にも知られることなく、世界を救っていたのだ。

 ただの魔物を狩って、自分は強いと調子にのっていたのが恥ずかしくなる。


「ブレスが来るぞ、避けろ!」


 (おさ)の息子が声をあげて周りに注意を促す。

 もの思いにふけるのは後ね、今は死力を尽くしてこいつを倒さないと。

 私は神の祝福(プライム)視線の歩み(テンソク)を使い瞬間移動を行おうとしたが発動しない。


 その一瞬の遅れが命取りになった。

 ブレスが迫ってくる。このタイミングでは避けられない。被害を最小限に抑えるべく剣を地面に斜めに差し、その後ろに体を隠す。

 まあ気休めだが、生き残ることが出来れば御の字ね。


 その時、二人の獣人が私の前に立ち私をかばう。


 二人にブレスが直撃するとチリチリと肉の焼ける臭いが私の鼻にまとわりつく。二人はその場に倒れこむ、火傷と麻痺の効果があるようで動けなくなっている。

 体力はまだ残っているので死んでいないようだ。


「なんで、私をかばうのよ」


「ガリウス様のお連れの方ですから」

「それに私たちの方が体は強靭ですので」


 二人はそう言うとパタリと倒れた。どうやら気絶をしたらしい。


「……私はガリウスじゃない」


 誰も聞いていないけど言わずにはいられなかった。

 苛立たしい、今のは完全に私のミスだ。戦う前に能力の確認をすべきだった。

 二人を負傷させた。病み上がりでボケていたなんて話じゃすまされない。


 私は二人を担ぎ後方に避難させた。


 その時、私はあることに気がついた。皆の体の状態が見えるのだ。

 全員の名前と残りの体力や魔力量すべて見える。

 そして魔獣のステータスさえも分かる。


 左側には四角い表示が映っており、赤い点が魔獣でグリーンが獣人たちのようでまるで俯瞰で周囲をみまわしているようだった。


 これ、すごいじゃない。


 いつの間にこんな能力を手にいれたのだろう。


 神様がくれたのだろうか?


 これなら自分の位置取りを味方の邪魔をせずにちゃんとできる。

 それにしても、この剣の切れ味はすごい。

 見た目はただの武骨な長剣だが岩のように固い魔獣の装甲を切り裂いた上に刃こぼれ一つない。


 皆同じ材質の武器を持っているが、剣技の差で傷痕が違う。魔獣を攻撃してみて分かったが材質の硬度はだいたい同じだけどこの剣を作った人が巧みなのね、外は固く中が柔らかくなっていて、よくシナル良い武器だわ。



 戦っている獣人達を良く見ると(うっす)らと光輝いている。

 ステータスには月獣呪(ムーンエナジー)と表示されている。


 月? 上空には二つの月が浮いている、その光と同じ光が獣人達にまとわりついているのだ。


 月獣呪(ムーンエナジー)とはステータス上昇と共に自動回復(小)がつくようだ。

 増強効果(バフ)を受けているのに呪い?

 そのスキルに長年培った戦士としての感が、なにか恐ろしいものを感じずにはいられなかった。

 だが、今はそれを気にしていられないし関係ない。

 私は自分の仕事をするだけだ。


風刃剣(ブラストソード) 」


 発動しない……。レベルが1だから使えなくなったの?

 よし、能力は今回は無いものとして考える。

 確実に使えるものを使う。私には闘術がある、アキトゥー神国流剣闘術で戦うのだ。

 幼少の頃から鍛えし剣技、とくと味わいなさい。


 私が技を魔獣に放とうとしたその時、背後から飛翔体が魔獣に向けて放たれた。


 大きな銛のような物にはロープがついており、一つ目が当たると三方からも同じように放たれた。


 4つの銛が突き刺さり、発射台がぐるぐるとドームを周りだす。それにともない魔獣はロープでがんじがらめになっていく。


 その時間はわずか数十秒。瞬きするまに魔獣はラッピングされてしまった。


「いまだ、全員でかかれ!」


 身動きのとれない魔獣はまるで木偶人形(でくにんぎょう)のようにされるがままになり、わずか数分でその命を閉じた。


「「「うぉおおおお」」」


 獣人達の歓声とも勝どきともとれる雄叫びを聞きながら、私は自分のレベルアップを知る。


 レベル86


 パンドラの魔獣1匹でレベル50以上ね、これは以外にカイエルを抜くのは早いかもしれな

い。


 ステータスも急激に上がり、すでに私の戦闘力は長の息子を上回る。

 とは言え100からは急激に上がりが悪くなるのよね。

 100まであげないでしばらくは一回狩るごとにリセマラした方がいいかもね。


 今回は良いとこなしだ。さすがに皆に会わせる顔がない。


 とは言え、最低限謝らなければ私は皆の足を引っ張ったのだから。

 私は獣人達、特に長の息子や負傷した者達に謝った。しかし皆は気にするなと言う、始めてにしては良い動きだったと。


 屈辱だ、この私が情けをかけられた。次こそはうまくやる、無様な真似などしない、アキトゥーの名にかけて。


 レベルが上がったし魔法剣を試し打ちしとこう。また先程のような無様な姿を見せないためにも。


 私はステータスウインドウで、自分の現在使える魔法をチェックした。

 しかし、望んでいた文字はどこにもなかった。


 なんで? レベル86なら初歩の魔法剣なら使えるはずよ、なんでなにもないの?


「どうしたんですかクロイツさん」


 私が一人で難しい顔をしていると長の息子が声をかけてきた。

 長の息子ならなにか知っているかもしれない。私は魔法剣を使えなくなったことを正直に話した。


 しかし、長の息子はそんな事はないと言う。自分の場合は補助魔法回路だがレベルアップと同時に使えるようになったと言う。


 つまり私に問題が発生していると言うことか。

 神様なら何か分かるかもしれないわね。


 パンドラの魔獣の後始末を獣人達にまかせ、私は神の間へと向かい神様に私の体の状況を()てもらうことにした。


「神様少しお話があるのですが」


「どうした? レベルアップは問題なくできたのであろう?」


 この神様はいつも気だるそうにしている。正直質問しづらい。


「それが、魔法と神の祝福(プライム)が使えなくなりました」


「うん? それはおかしいな我から見ると、お主にはちゃんと魔法剣の回路もあるし神の祝福(プライム)もちゃんとあるのじゃが?」


 そんな馬鹿な、私のステータス表には何もないのに。でも神様が嘘をつくとは思えない。


「試しに唱えてみよ」


 私はその言葉にうなずくと魔法剣を使った。


風刃剣(ブラストソード) 」


 しかし、私の呪文はむなしく響くだけで発動すらしない。


「ふむ、なるほどな」


「何かお分かりに?」


「お主、ガリウスのことは記憶にないのであろう?」


「はい、米粒ほどもございません」


 なんでここでガリウスがでてくるのだ、神様じゃなきゃぶん殴っている。

 ただでさえ名前を聞いただけでもイライラすると言うのに。


「そうか、そんなにイライラするか」


 ……どうやら神様は心の声もお聞きになることができるようだ。


「申し訳ありません、

しかし、その名前を聞くとどうしてもイライラが押さえられないのです」


「よいわ。その原因もおおよそ分かっておる」


 そう言うと、神様は私の頭に手を置き一言いった。


「でてこいクロイツよ!」


 その言葉と共に私の意識はなくなった。





「目が覚めたか?」


「私はいったい」


「ふむ、少しお主が魔法が使えない原因を探っておったので、お主を寝かせたのだ」


 寝かせた? なにか違う気がする。


「それで原因は」


「お主、ガリウスと会おうとしておるじゃろ? それが原因じゃ」


 確かに、ここを出たら探すつもりだった、黒ノ神剣(クロノデバイス)も取り返さないといけないし何よりムカつくので一発殴りたかった。


「ガリウスを追わなければ魔法剣や神の祝福(プライム)もは使えるようになる」


「どういうこなのでしょうか?」


「詳しくは言えんが、ガリウスを追えば能力関係は絶対に使えない、糸の操作もできないであろう」


「糸も?」


 私は袖のギミックから蜘蛛の糸を引き出したがピクリとも動かない。神様の言うことは真実だった。


 まあ、剣技もあるし神の祝福(プライム)や魔法剣が無くともなんとかなるはずだ。


「どうする、ガリウスを諦めるか?」


「いいえ、このまま強くなり神の祝福(プライム)が必要無い位まで強くなろうと思います」


 それを聞いた神様は大笑いをして手を叩く。


「くくく。そうか、ならば好きにするがよかろう。我もお主には思うところがあるので少し協力してやることにする、楽しみにしておくがよい」


「ありがとうございます」


 神様が協力してくれると言うのだ、これは鬼に金棒だ。いや神様に天使と言ったところか?


 その後も、私は更にステータスを高めるために魔獣を狩りまくった。

 最初こそてこずったものの今や苦もなく倒せるようになった。


 長の息子が言うにはステータスの延びは血によるらしい、私の延びが良いのは曲がりなりにも王族で初代勇者達の血を引いているからと言うことか。

 王族に生まれて嬉しいと思ったことはないけど。ステータスが上がりやすい血と言うのは素直にありがたい。



 5度目のリセットを終え、私は久々にカイエルやアリエル達と食事をすることになった。


 この二人に会うのは正直苦痛だ、すぐにあいつのことを口にだす。

 あいつの事は口に出さないと言うことで食事に応じることにした。


「クロイツ様、お体の調子はいかがですか?」


「なにそれ、妊婦や怪我人じゃないんだから。ステータスならもうカイエルと同じくらいよ」


「確かに、今やお兄様と同じ程のステータスを有していますね」


「見えるの?」


「はい、私もガ……。あの方からこの力をいただきましたので」


 そうか、この力はあいつがくれたのか。

 思い出したくもないのに、それでも私に呪いのようにまとわり着く。


 うっとおしいわね。


 私の中で沸々とあいつに対しての苛立ちが煮えたぎり、殺意に変わってくるのが分かる。


 そう、今日私が食事会に応じたのはそのことだ。

 この殺意の波動は尋常じゃない。さすがの私もここまで狂暴な性格はしていない。

 考えられる事は一つしかない。


「ねえアリエル質問があるのだけど」


「なんでしょうか」


「私を殺した魔物ってなに?」


「……見たこともない魔物でした」


「そう、で私はどうやって殺されたの?」


「クロイツ様、私達はその事を思いだしたく無いのです。できればその時の事は聞かないでいただきたい」


 カイエルがアリエルに質問して困らせていると判断したのか私にストップをかける。


「これは大事なことよ、教えてくれないのなら今後あなた達とは他人よ」


 その言葉に意を決したようにアリエルは語りだす。


「身体中傷だらけで出血多量で死んでおりました」


 ……身体中傷だらけね。


「ねえ、ここには魔物なんて瘴気炉以外にいないのだけどどこで魔物に遭遇したの?」


「それは……瘴気炉です、瘴気炉で死にました」


 瘴気炉は神様が門を開かないと魔物は発生しない位分かるでしょうに。

 頭の良いアリエルがまるで嘘のように馬鹿だ。


「アリエル嘘は言わないでちょうだい。私を殺したのはガリウスね?」


「違います! ガリウス様じゃありません」


「分かった、もう一つ聞くわ私の損傷した体を直したのは誰?」


「神様です」


「嘘は言わないでと言ったわよね、神様は治してないと言ったわ。つまりガリウスが治したのね?」


 まあ、神様はそんなこと言ってないけどね。


「……」


「沈黙は肯定と同じよアリエル」


 私を殺し、その死んだ体を治すほどの回復能力。


 あいつに対する殺意の衝動。


「ガリウスは使徒ね」


「違います! ガリウス様は使徒じゃありません!」


「もういいわ、あなた達は私に嘘を言った。だから、今からあなた達は他人よ」


「クロイツ様!」


 部屋を出ようとする私をアリエルが抱きつき押し留める。


 その瞬間私は意識を失った。




ミスティアのイラストはしばらくしたらラフの方と差し替えます。

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