ギルド登録と初クエスト
今の状況を説明しよう。
カイエルがクロイツに殴られ、絶賛気絶中。
自分から抱きついておいて理不尽である。
そして、俺は今クロイツに抱きしめられている。
彼女からは逃げられない……。
アリエルには近づかないように言ったが、すごい形相でクロイツをにらんでる。
「で、どう言うことなんですか、クロイツさん」
「旦那様、クロイツと呼んでください」
「説明してもらえませんか、クロイツさん」
やれやれという顔をしながら、俺を見る。いや、やれやれは俺の方だからね?
「私はあなたに負けました、勇者のパーティーも辞めてきました、だから今日からあなたの妻です」
何を言ってるのか意味が分からないよ。
「取り敢えず離れてもらえませんか?」
「いやです」
そう言うとニコリと笑う。あれ、可愛いんですけど?
ギルドでの鬼神ぶりはどこに行ったんですか?
「クロイツ様、ガリウス様が嫌がっておられます、離れてください」
そう言った、アリエルを一瞥するとクロイツは無視をした。
アリエル、この子マジでやばいから 、関わっちゃダメだから。俺は目配せでそれを伝えたのだが、助けを求めたと勘違いしたアリエルはなおも続ける。
「クロイツ様、ガリウスさま……」
「奴隷の癖にうるさい、だまれ」
もう一度同じことを言おうとしたアリエルに向けて、そう言い放った。
その言葉を聞いた俺は本気でクロイツを振りほどいた。
「クロイツさん、アリエルは俺の大事な仲間です。奴隷差別するようならお引き取り願いませんか」
奴隷差別をするのは仕方ない、それが世界の風習だ。だが俺の仲間が蔑まれるのは我慢なら無い。
俺が本気で拒絶するとクロイツは顔面蒼白になりシュンとする。
「すまない」
自分が何を言ったのか理解をしたクロイツはアリエルに素直に頭を下げる。
「いえ、私こそ出すぎた発言でした」
そう言ってアリエルも謝る。
頭を下げる姿を見て、クロイツも根は良い娘なんだろうと思う。
「で、何で俺に負けたら俺の嫁になるんですか?」
「私は私より弱い男とは子作りはしたくないですからです」
いきなり子作りとか、なに言ってんのこの人。俺の顔が赤くなるわ。
「ランスロットはどうなんです強いでしょう?」
「彼は弱いですよ? 勇者パーティー最弱です、と言っても今は3人しかいませんが」
ランスロット弱いのかよ! そんなんでミスティア守れるのかよ。
「でも、他に強い人いるでしょうS級冒険者とか」
「私はS級冒険者ですが、他のS級冒険者はお爺さんか私と同等又は同姓しかいません」
たしかにS級なんて行くまでに大分時間かかるだろうし、才能があっても、クロイツと同程度なのはうなずける。
「あそこまで、私を圧倒したのはあなたが初めてです」
「でも、俺はあなたと結婚する気はないですよ?」
「はい、でしたら結婚していただけるまで付きまといます」
え? なにそれ怖いんだけど。
「ちなみに、あなたが折った剣は1000万Gします」
まじで! あの剣そんなに高いのかよ。
なに、弁償しろとか言っても、無理だからね。
「弁償しろとか言いませんので、結婚してください」
脅しに来たよこの人、完全に恐喝だわ。
だいたい、美人だからってこの女、求婚すれば誰でもなびくと思ってるのか?
そもそも勇者パーティーって、すぐ辞めれるものなのか?
「クロイツさんそんな簡単に勇者のパーティーを抜けても良いんですか? 名誉や栄光を求めて加入したんじゃないんですか?」
勇者のパーティーの一員になるのはこの世界の者にとって誉れなのである。
特に若い連中は勇者や勇者のパーティーに憧れる。
「試しの剣を抜いていない勇者が勇者と名乗っても、あくまで自称ですから強制力はありません」
試しの剣を抜いた勇者ならば、世界をあげて協力しなければいけない取り決めらしいがミスティアは抜いていないから問題ないらしい。
そして現在クロイツはギルドの依頼で勇者のパーティーに入っているそうだ。雇用契約も気に入らなかったらやめるという自由なもので、いつでも辞めることができると言う。
それにしても、さっきの戦闘の時はクロイツのステータスの性格は気にしてなかったんだが。
「真実の愛を求めるもの」
「嘘には死を持って償う」
重いよ、重すぎますよ……。
まあ、俺のステータスも大概だけどな。
「一途に思う者」
だしな。
すみませんクロイツさん、あまりあなたと変わりませんでした。
確かに美人だし、スタイルもいい。だからと言って嫁にするとか、俺まだハートブレイク中だからね、俺はそんなすぐに新しい女に気持ち移ること無いからね?
それに、今は好きだの嫌いだの聞くだけでも気が滅入る、うざいとさえ思う。
「旦那様はイズラク王国に行きたいのですよね?」
どこから聞き出したのか俺の今後の行動方針を把握している。情報収集力半端ないな……。
「そうですね、できるだけ早く」
一国も早くこの国から、ミスティアから離れたい。
俺がこの国にいてもミスティアの邪魔になるだけだしな。
「私はS級冒険者なので、今すぐにでも南のイズラク王国に行けます」
ぐっ、凄く魅力的な提案だけど、好きでもない人と結婚とか無理です。
「お互いのことも知らないのに結婚なんて無理ですよ。それにあなたは俺の強さだけに興味があるんでしょ、俺は俺の内面を好きになってくれる人が良い」
「好きに、内面とか外面とかあるんでしょうか?」
確かに、好きと言うことにそんなことは関係ないのだろうけど、恋愛は理屈じゃないんだよ。
「わかりました、俺が不誠実でした」
俺はクロイツに素直に謝る。どこかで愛される心地よさに酔ってたのかもしれない。
「俺には好きな人がいます。勇者ミスティアです、幼馴染みなんです、婚約するそうですが忘れることなどできません。だから今はまだ結婚とか考えられません」
「そうですか、あなたがミスティアが言ってた幼馴染みの……」
「ミスティアがなにか言ってたんですか」
「いいえ、これは私が言うことではないので。ただ、あなたに会いに生まれ故郷に帰省したんですよ」
でも、俺は見た二人がキスしてるのを。
「ミスティアの話をしてる時のあなたの顔には魅力がないですね」
ため息をつきながら、クロイツが言う。
魅力がないと思うなら、もう来ないで欲しい。しかし、その言葉は的をえていて俺の心をえぐった。
「わかりました、今日は一度引き下がることにします。これからお互いを知ることも大切だと思いましたし。また、明日来ますので」
そう言うと足早に部屋を出ていった。ちょっとまって、ドアの修理費って俺が払うの?
カイエルはまだ起きない、アリエルは俺を悲しげな表情で見ている。
どのアリエルは俺のとなりに座ると、手を握ってくれた。
「俺、そんなひどい顔してるのか?」
アリエルは黙って首を振る。
「ガリウス様、妹に手を出したら許さないとあれほど……」
アリエルのてを握った瞬間、カイエルが目を覚ました。さすがのシスコンセンサーだな。
「兄さんは黙っててください!」
「いや、しかし……」
「私はどんな事があっても、ガリウス様の側にいます。」
アリエルは俺の目を見てそう言う。
「何を言う、私だってガリウス様のお側を離れんぞ!」
俺は顔を伏せて頷くことしかできなかった。そして手の甲に滴が一粒落ちて水の花びらを作った。
次の日の朝、クロイツは俺達が起きる前から宿屋で待機していた。
「旦那様、おはようございます」
「その旦那様って言うの、止めてもらえませんか」
「しかし、なんと呼べば……」
「ガリウスでいいですよ」
「が、ガリウス」
そう言うとクロイツは顔を真っ赤にして顔を伏せる。名前は恥ずかしくて旦那様は恥ずかしくないのか。
「ガリウス様、今日のご予定は?」
アリエルが空気を読んで話をそらす。
「取り敢えず、冒険者ギルドに行って登録済ませないとな」
登録後そのままクエスト受けたいから、朝飯食べてから行くか。
「クロイツも朝ごはん一緒に行こう」
「はぁ!? はい」
別にほだされた訳じゃないけど、クロイツだけ抜けものとか、かわいそうだしな。
俺たちは4人で朝市の屋台に朝食を食べに行った。
雑穀米の粥屋があったので、そこで食事をすることにした。
クロイツが他の屋台から骨付きの肉を4本買ってきた。
「冒険者なら、朝は肉も食べた方がいいですよ」
胃もたれしそう……。
アリエルとカイエルの二人はを見ると料理に釘づけだ、今や遅しと俺が食事の許可を出すのを待っている。
「ありがたくいただくよ。二人もご相伴にあずかろう」
「「頂戴いたします」」
そう言うと、肉から食べ始めた。
そう言えば、奴隷生活のせいで、まともな食事させてもらえなかったんだろう、俺の配慮不足だった。
朝食を食べ終えると4人で冒険者ギルドに向かった。
ギルド会館に入るとギロリと睨んでくるものがいたが、クロイツが側にいる効果かすぐにそっぽ向く。
朝のギルドは比較的空いている。依頼を受けるなら、夕方の方が選べる依頼が多いからだ。
なぜ、夕方に依頼が多いのかというと。前日に準備して朝に出発出来るようにギルドが配慮しているためなのだとか。朝に依頼を受けていきなり行ってこいと言われても困るからな。
一つだけ空いてる受け付けに4人で向かった。
「すみませんギルドメンバー登録したいのですが」
「あ、はい、ではこちらの登録用紙にご記入ください」
「ガリウス、その二人もギルドメンバーに登録させた方がいいですよ」
クロイツが言うにはギルドメンバーの方が色々と手厚いサポートがされるそうだ。
納得した俺は受付から用紙を3枚もらい二人もギルドメンバーに登録させた。
「では、こちらがメンバータグになります」
それは緑色のタグペンダントだった。
タグはランクごとに色分けされており、S級金色、A級銀色、B級銅色、C級鉄色、D級白色、E級緑色となっている。
そして、E級は依頼内容が決まっており。それをすべて完遂しないとD級に上がれないためチュートラーと言って馬鹿にされる。
「まずは月魔草10枚納付してください」
月魔草は回復薬の素材のひとつで供給が間に合っていない。
「クロイツも一緒に行くでしょ?」
「いいんですか?」
「ダメって言っても、くるでしょ?」
クロイツはコクンと頷き俺の服の裾をつかみ、小さな声で「ありがとう」と言う。
「じゃあ、一緒に行こう?」
なんだろう? 昨日泣いたせいか憑き物が落ちた気分だ。
「装備は買っていかないのですか」
「あー、うん、お金無いから取り敢えず魔物の奪うよ」
俺たちは、ギルド内にある食堂でパンを買うと、それをバックに詰め王都の外に出た。
アイテムバック欲しい切実に思う。
大通りを通って正門に向かう。王都を出る際に守衛が怪訝な表情で俺達を見ていたがなにか嫌な感じだ。
「何気に、このクエストは難しいですよ?」
クロイツが気を引き締めるように言う。
たしかに、どこに生えてるか分からないものを探すのはかなり難しい。だが俺には勝算があった。
まずはマップを見る、所々に魔物がいる。更にそのマップを月魔草と思いながら見る。すると白の光点が浮かび上がる。
詳細を見ると月魔草だった。実験は成功だ。
とはいえこの方法考えたのはアリエルなんだけどね。
俺たちはサクサク月魔草を採取していった。
30枚は越えたのだが、せっかくなので取れるだけとろう、数本残して次の場所に向かう事にしたら、3人が残しておいたのを採ろうしたので止めさせた。採り尽くさないのは村では基本だったのに都会ではそう言う概念がないようだ。
そりゃ採り尽くしてたら供給が間に合わなくなるよ。
マップには出てないのだが、俺の目にフォレストボアの情報が写し出された。
その場所をよく見ると、なにかがごそごそ動いている。一瞬、頭が見えたのでそこを必中の一投で仕留めた。
切りも良いので、そのフォレストボアを解体して、昼食にした。
「一日二食もよろしいんですか?」
「え? 夕食もあるよ?」
と言ったら驚かれた。奴隷は一日1食が基本なので、朝食だけだと思ってたらしい。
一食しかないのに朝粥だとテンションそりゃ下がるよな。
それに一人で食事とかありえない。俺そんな性格悪く見えるんだろうか?
そして一日三食も驚かれた。都市部では朝と夜の二食が基本らしい。まあ、それでも、おやつの時間があるそうなので三食じゃんって突っ込みをいれたいところだ。
うちの村では五食だったとは言えない流れだ……。
これからは、三食か腹持ち良いの食べよう。
何気にクロイツも二人と和気あいあいとしてうので、この先も一緒にやっていけそうだ。
「クロイツ、ちょっと聞きたいんだけど良いかな?」
「はい、なんでしょう?」
「本当に俺と来る気あるの?」
「はい、どこまでも……」
「わかった、これから言うことは他言無用で頼むね」
俺はその言葉を信用し秘密のすべてを話した。能力のこともミスティアのことも。
「つまり、ミスティアは偽勇者ということですか?」
そうか、偽物の勇者かそう言うことになるのか。
「偽勇者かどうかは分からない、ただ、おれが作りだした勇者だと言うことに間違いはない」
「そうなると他に勇者がいるはずですね」
「アリエルも昨日、そんなこと言ってたけどそうなの?」
「"魔王現れるとき勇者もまた現れる"それが、昔からの決まり事なのです」
「つまり、魔王がいるから勇者がいないとおかしい、ミスティアは偽物だから本物がいるはずと言うことなのか」
「試しの剣さえあれば……」
すみません、壊してしまってすみません。
「普通、勇者はその神の祝福により突出した才能を見せて頭角を現すものなのですが現状、ガリウスくらいでしょうか?」
「残念だけど俺じゃないよ、勇者の剣で骨折したしね」
「ちなみに、私でもありません」
ミスティアも違うだろうな、前世の記憶の話しなど聞いたことがない。
ミスティアより先に魔王を倒せば、ミスティアの苦労も減るだろうか?
魔王討伐は骨が折れそうだな勇者の剣で骨が折れただけにな。
俺は自虐的に笑うと肉にむしゃぶりついた。