ミスティアとゴブリン軍団 その三
「おいミスティア、こんな連中にいつまでかかってるんだ。さっさとしろやグズが」
その言葉に私の身体は震え頭を垂れる。少しでも反抗的な態度を取ればニグルは嬉々として私を弄ぶ。
「申し訳ありません、ご主人様」
「おいお前ら。俺がミスティアと遊んでるから、しばらくこいつらの相手してろや。ミスティアこっちに来て奉仕しろ」
「……はい、かしこまりました」
私はニグルの言うことには逆らえない、逆らえばニグルは王国民を殺す。私ならニグルを倒すことはできる、でもニグルを倒せば真奈美が王国民を殺すだろう。
だから今はニグルの言うことを聞く選択肢しか持たない、私は這いつくばってニグルの元へ行くと獣神王を解く、そしてニグルのものを口だけで取り出すと奉仕をした。
「何をしてるのですか、あなたたちは」
精霊鬼に蔑むような語気に、今更ながらに心が傷つく。
「何をしてるんですよ俺たちは。お前もしてほしいなら順番待ってろよ、こいつを調教した後に相手してやるからよ」
ニグルが精霊鬼を馬鹿にするかのように腰を振る。
精霊鬼から怒気がビシビシと伝わってくる。
わりと容易い挑発にのるのが精霊鬼の悪い癖だと思う。
だけど私の予想とは裏腹に、精霊鬼が怒ったのは私のことについてだった。
「そうですか、あなたがミスティアの笑顔を曇らせている犯人ですか」
精霊鬼の長い髪が、上空に舞い上がり天を衝く。
馬鹿にされたことよりも私の笑顔を曇らせたことに怒っている、精霊鬼がなぜ?
「来なさい、四神剣」
そう叫ぶと虚空から四振りの剣が精霊鬼の周囲に落ち突き刺さる。
四本の剣の内3本は知らない剣だ。
『ここでこの四振りの剣について説明せねばなるまい』
その剣は元々あった四聖剣を静が解析改造したものである。
神意 真言を持っていた静は鍛冶スキルや錬金スキルその他全てにおいて限界を超えて習得しており真奈美以上の物をたやすく作ることが出来るのである。
そして新たに作られた剣と併せて四振りの剣。
1つは天神剣 天照
1つは鬼神刀 悪鬼羅刹・刹那
1つは魔神剣 深淵ノ監獄
1つは斬神刀 雷切・千鳥
魔神剣 深淵ノ監獄だけは使用に耐えうるのでそのまま使うことにした。
なんなの今の声は頭の中に直接流れてきた。
精霊鬼の周りの剣の説明が終わると精霊鬼は神化への呪文を唱える。
「神ノ御業、ココニ顕現ス。武装神化」
四振りの剣がまるで磁石に吸い寄せられるように精霊鬼を貫き。剣が滑らかに体に吸い込まれると精霊鬼は黒い瘴気に包まれた赤い鎧武者となる。
大きな光の角が額から一本現れ、グォングォンと唸りをあげていた。
「噂には聞いてるぜ、だが俺の方が強い……。 へ? あああああ俺のビックマグナムがぁ!!」
精霊鬼はニグルの一物を切り取るとグチャリと潰す。
「くそがぁ! ウルフドライブ! 獣化!」
ニグルが獣になると傷もみるみる治り全ての傷が一瞬で完全回復した。
「今度はこっちの番だ、糞あまぁが!」
「良いでしょう、格の違いを思い知って死になさい」
そう言うと精霊鬼は腕を組み、ニグルの攻撃を真正面から受ける。
しかし、ニグルの攻撃は精霊鬼にまるで効いておらず鎧に傷一つつかない。
その後も精霊鬼は一切の反撃もせず、ただ腕を組みニグルの攻撃をよけもせずに受け続けた。
「なんでだよぉ! 俺は最強だ! 最強なんだ!」
ニグルは精霊鬼を爪で切り裂き続けたが、ただ乾いた音が響いていただけだった。
血しぶきが舞いウルフドライブが切れるやいなや体がしぼみニグルはただの獣人になる。
「お遊びは終わりです、私の家族を傷付けた罪、死を持って償いなさい」
そう言うとニグルの体を先端部分からゆっくりと切り刻む、指が一本また一本と飛んでいく。
精霊鬼が言う家族って私のことなのだろうか? なぜ精霊鬼が私を家族と言うのかが分からない。
ニグルは精霊鬼に向かい爪を振るうが、先ほどとは違いあたる気配すらない、そもそも見えていないのだ当たるわけがない。
赤黒い霧状になって移動する精霊鬼を捉えることは私でも無理だろう。
すでに指、鼻、耳と切り落とされ、体の皮も切り刻まれだす。
鋭い刃も通らない獣人の毛が革が、まるで草刈り鎌で草でも刈るかのようにキレイに刈られていく。
「痛いぃやめろぉ! お前ら助けろ命令だ! ミスティアぁ助けろ!! 」
その言葉に反応する者はどこにもいない、だれもニグルを助けない、私も助ける義理はない。真奈美がいないなら国民を殺すことはできない、ここでは告げ口もできない。
「いやだぁ、死にたくない、助けてお願いします俺が悪いんじゃない! 俺が悪いんじゃないだぁあああ!!」
「マスターの顔で泣き言を言わないでほしい、不快です。消滅しなさい魂すらも残さずに」
「やめろぉぉぉぉ!!」
「鬼神剣 十ノ技 百花繚乱」
その技はニグルを霧状に霧散させた、その血煙はまるで花がはなやかに咲き乱れているようだった。
私は自分の手を汚さずにニグルから解放された。私は臆病者で卑怯者だ。
精霊鬼の凶刃は次のターゲットを求めて8人の男たちに向く。
止めたい、みんなはニグルほど悪い奴らじゃない。
でも体を許したくない、みんなが死ねば、もう体を許さなくてもいい。
そんな私の下種な考えが私の動きを押しとどめる。
精霊鬼にすべてをゆだねるのは卑怯だと思う、でも今の私はいろいろなしがらみで動けない、誰かの助けがないともう何もすることもできない。
でも、みんなは私を助けるために動いてくれたじゃないか……。
こんなモノが勇者なの? いいえ違う、私の勇者の称号はガリウスからもらった力、愛する人にもらった勇者の称号は汚せない。汚しちゃいけない。
「やめて!」
「いい加減にするのだな精霊鬼、それはガリウス様の意志ではない」
私が叫ぶのと同時に現れた黒の戦士は精霊鬼の首筋に剣を当てる。
一瞬ガリウスかと思ったが、鎧の形状が黒の戦士とは違うもので女性のようだった。
「何しに来たんですか? 魔王軍四魔将の総長である右ノ翼のリライマ様が御自ら出向くとは、よほど暇なのですね」
リライマ? あの戦士はリライマと言うの? 私はガリウスじゃないことに安堵のため息を漏らす。
「魔王軍四魔将の左ノ鉤爪である精霊鬼を心配して来たと言っておこう」
「それはご苦労様です、もう帰っていいですよ」
「ふむ、だが帰る前にもう一度聞こうか。精霊鬼よ、これがガリウス様の意志か?」
「違いますね、でも私の家族を傷つけた者には死を与える」
「家族だと? お前の家族は誰だ」
「真奈美様、それにミスティアですね」
「ガリウス様は入っていないのか?」
「ガリウス様は使えるべき主人で愛すべきお方です」
「なるほど、つまり貴様はガリウス様の作戦よりも家族を取ったのだな?」
精霊鬼の首に突き付けられた剣がキィィィンと甲高い音を立て始める。
「申し訳ありませんでした総長様。作戦を無視したのはお詫びいたします」
「剣をおさめる前に一つ貴様に聞きたい。ガリウス様と真奈美が戦ったらどちらにつく気だ? 返答次第ではここで殺す」
殺すと言っているのにリライマからは殺気一つ感じられない、と言うか私の敏感な鼻でもリライマからは生き物の臭いがしない。
あれはいったい何なの。私の鼻は感知力を高めるために嗅覚を強化されていてマナの動きや生体の臭いに反応するようにできている。
それなのに私にはあそこに存在しているリライマと言う者が何なのかわからない。
「マスターに決まっているでしょ」
「マスターとは誰のことだ、ちゃんと名前で言え」
「ガリウス様の味方をします、当然でしょ。真奈美様やミスティアと敵対しても」
「ふん、一応本当のようだな」
そう言うとリライマは剣を鞘におさめた。
「それで、貴様の仕事は完遂したのか?」
「これからするところです」
「ならば早くするがいい」
「言われるまでもありません、ちょっと家族を傷つけられて怒髪天がクライマックスだっただけです」
そう言うと精霊鬼達は進軍しだした。8人の男たちも鎧甲冑の者たちに拘束されている。二対一でも勝てなかったようだ。
私はリライマに担がれて一緒に連れていかれる。
おかしい、このリライマと言う人は呼吸をしていない、だけどアンデッドでもない。
「お師匠様、あまり母様をいじめないでくださいましね」
モミジがリライマを師匠と呼び精霊鬼をいじめないように言う、総長と言うだけあって精霊鬼よりも強いのだろうか。
「これは軍隊行動だ、個人よりも命令が優先される」
モミジはそれを聞くとむくれてリライマの空いてる肩へ飛び乗り、私と同じように運ばれる。
「ミスティアって髪きれいね」
モミジが私の髪を指に通し感触を楽しむ。きれいかそれも男を喜ばす道具でしかないのだけどね。
「そんなに自分を卑下するものじゃありませんよ」
そう言うと私の頭をなでる。心を読まれて焦る私を見てクスクス笑いながら自分は忍者なので読心術が使えると言う。
そして師匠は最強の忍者だという。強いのは分かるけど忍者って何?
その疑問もモミジに読まれ親切に答える。
「闇に生きて闇に死ぬ、死して屍、火遁ノ術で塵も残さず火葬。それが忍者です」
よくわからないわね、モミジとくだらない話をしている間にいつの間にか進軍が止まっていた。
だけど精霊鬼だけがそのまま門に向かう、いくら精霊鬼でもあの門を一人で破るのは不可能なはず。
私も試した事があるのだけど傷一つつかなかった。
「来なさい”黄の神剣”」
その声に呼応して黄金に輝く剣が虚空から現れ、精霊鬼はそれを掴むと天高く掲げた。
「神剣 mode:終末ノ聖剣」
黄金の剣は揺らめく光剣に代わり2倍の大きさになった。
2倍になったとは言え、ただの剣にこの門が壊されるわけがない、そう高を括っていた。
だけど、それは間違いだった。
「土は土に、灰は灰に、あるべき姿を取り戻せ 諸行無常」
剣の光が何倍にも増しそれを門に突き刺すやいなや、門はサラサラと砂になり崩れ落ちていく。
それは門だけではなく壁をも侵食しだしす。
あの壁がすべて砂になる、近くには町があるのに、死人が出る。町の人たちが死んでしまう。
「離して! みんなを助けに行かないと死んでしまう」
私はリライマの肩で暴れるがビクともしない。
「 探索:城壁内の人間又はそれに類するもので命の危険にある者」
『イエス・マム 探索終了 被災予想人員4万5487人』
リライマから二人の声が聞こえる、後者の声が被災予想人員4万人以上だと言う。外壁は広い、もう助けられない。
「照準固定 魔力守護球」
リライマの腕の装甲が開くと中には白く蠢く物が何十とありそこから光が飛ぶと外壁の中に向かい飛んで行った。
「中の住民は魔法で助けた、魔法球の中では仮死状態で10年は死ぬことがない。今から授ける紋章で触れば魔法球は解ける」
そう言うと、私の手の平に紋章を付けた。
「なぜ、敵の国民を助けるの?」
「今回は私たちの力を見せに来ただけだ、次はない」
リライマは空間から一つの石を取り出し、全ての力で復元するで私の傷を治した。
「……あなた、ガリウス?」
「それはガリウス様から預かったもので、私の力ではない」
そう言うと兜のマスクを持ち上げ中の顔を見せる。その顔は白い陶磁器でできた仮面で目は眼球がなく穴が開いており一つの目の穴に赤や青黄色の3色の光が見えた。
「早く民を助けに行ったらどうだ?」
「私たちを見逃すの?」
「お前たち雑兵が何人束になろがガリウス様には勝てんよ」
「そう、ガリウスにありがとうって言っておいて」
「断る、私は伝言役ではない。言いたいことがあるなら自分で魔王城に行けばよい」
「そう、わかった」
ここから離れなれない以上ガリウスに会うことなどできない。
「ミスティアお元気で」
戻ってきた精霊鬼が私を励ます、早く民を助けに行きたい。けど、どうしても気になる、私は精霊鬼の前で止まりそのことを問いただす。
「ねえ、なんで私をあなたの家族だと思うの?」
「私は真奈美様に作られました、言わば娘のようなもの。カスミも娘その娘から作られたあなたは私の姪みたいなものでしょ。それにあなたには人間の世界のことを色々教えていただきましたしね」
「それだだけのことで私を家族と言ってくれて助けてくれたの? 私は卑怯な手であなたを傷つけたのに?」
精霊鬼はニコリと笑うと、それは先ほどの暴言とちょくちょくゴブリンを攻め込ませていたのでおあいこですと言う。
あのゴブリン軍団はあんたの仕業か! でも、あれがなければ私は折れてたかもしれない戦いがあったからこそ折れないでいられたのだと思う。
私は精霊鬼に部隊の人たち以上に強い繋がりを感じずにはいられなかった。
「ありがとう」
私は敵である精霊鬼にいつの間にかお礼を言っていた。自然に、それが当然のように。
彼女はそれに答えることは無かったが去り際に私に手を振る。
「魔王軍鬼道衆、撤退せよ!」
精霊鬼が全軍撤退の指示を出すと全ての魔物たちが黒い渦に吸い込まれ、戦場には8人の男たちと私だけが残された。
私は男たちを起こすと、民を救うために元は外壁だった砂山に走った。




