神魔王誕生その名も……。
空から棒状の物が落下し″ガキンッ″と大きな音をたてて勇者の剣が目の前に転がった。
「「「は?」」」
その勇者の剣はグネグネとうねると試しの剣へと変化した。
その変化がなにを示すのか、僕達は分かっていた。
「嘘でしょ、ねえ嘘よね? ミリアス! ゼロス! なんか言ってよ」
『英雄よ我を王国連合の元へつれて行け』
頭の中に声が響く。これは勇者の剣の声?
『マーちゃんはどうなったの?』
『もうこの世界にはいない』
『いないって……』
『文字通り存在しない。ここに来るべきじゃなかった』
『そんな……』
いない? マーちゃんが死んだ、嘘だよそんなの。
マリアは試しの剣を持ち上げようとするがびくともしない。
ダメだ僕はマーちゃんから頼まれた、心を強く持て折れてなどいられない。
僕は試しの剣を拾い上げると腰に装備した。
「ゼロス! それはお姉様の剣よ渡しなさい」
僕が装備するとマリアちゃんは声を荒げる。
僕が持てるということを理解したくないのだろう。
「ダメだよ、これが次の勇者が使う武器だ」
英雄が勇者と共に生まれるのは勇者をサポートするためだ。
そして勇者が死んだとき勇者の剣を回収するため。
「何を言ってるのよ、次なんて必要ないわよ。お姉様がいるじゃない!」
マーちゃんの死を認めたくないにはわかる。
僕だって認めたくないし、認めない。
でも、今やることはこの剣を次の勇者に引き継がせること。
矛盾してるけど、それが今の僕の仕事だ。
「マリアちゃん、よく聞くんだマーちゃん、マイラはもうこの世界にいない、勇者の剣がそう言っているんだよ」
「そんなの嘘よ、この世界からお姉様がいなくなるなんて」
僕の言葉を信じたくないマリアちゃんはウルガスの森に単身で突入しようとする。
僕はそれを止めるがすごい力で引きずられる。
「マリアちゃん、マイラはもういないのあなたがその森に入ったら死ぬよ!」
「お姉様は生きているわ、この森で私達の助けを待っているのよ、離して!」
僕だって探しにいきたい、でも僕たちじゃこの中で生きていけない。マーちゃんが絶対に入るなって言ったんだ。
「マリア! マーちゃんは死んだんだ。僕たちの冒険は終わったんだ」
「終わってなんかないわよ! 離してよ!」
このままじゃマリアちゃんを止められない。
僕はマリアちゃんを絞め落とした。
いつものマリアちゃんなら難なく抜けただろうけど……。
「ミリアスくんはどうするんだい?」
最悪二人とも気絶させるしかない。
僕はマーちゃんにみんなのことを頼まれたんだから。
「信じたくはないが、ゼロスが我慢しているのに俺が我を忘れるわけにはいかないだろ」
ミリアスくんは僕が泣きたいのを我慢しているのを見透かす。その上で冷静でいてくれる。
「マーちゃんは森に入る前に僕に言った、半日戻らなければアキトゥー神国へ行けと」
「分かった、ならば馬車の用意をしておこう」
「ごめん、頼むよ」
僕は馬車の用意をミリアスに頼みマリアちゃんを縛り上げた。
これで動けないはず、念の為に関節もはずしておこう。
マリアちゃんは縄脱けがうまいからね。
ミリアスくんが馬車の用意ができたと言う、僕はマリアちゃんを馬車に乗せた。
マーちゃんが入ってから半日待ったがやはり帰ってこなかった。
僕はアキトゥー神国に向けて馬車を出発させた。
ごめんねマーちゃん、僕は信じてるマーちゃんが生きてるって。
でも、マーちゃんが指示した通りに一度アキトゥー神国へ行きます。
マーちゃんの帰りをアキトゥー神国で待ってるから早く帰ってきてね。
~3ヶ月後~
僕達はボロボロになりながらもアキトゥー神国へたどり着いた。
道中の敵はそれほど強いわけじゃなかったのに苦戦した。
今の僕たちにはスライムもまるでドラゴンと戦っているかのようだった。
目的のない戦いが、こんなにつらいなんて思ってもみなかった。
門の前の道は大渋滞を起こしており城門を通るだけでも一日がかりだった。
何があったのだろうか?
なにやら町全体が緊張感でピリピリしているようだ。
城門でマリアが身分を明かすと守衛達があわてふためき城に伝令が飛ぶ。
伝令が帰ってくると僕達はそのまま王様に謁見する為に城に登った。
城内は街以上に気が張っており一般兵や近衛兵やまでが完全装備で僕たちを出迎える。
「マリアよ、よくぞ帰った」
王様は再開を喜ぶと嘆息の息をつきアゴヒゲを擦る。
「お父様、何かあったのですか?」
王様は少し眉間にシワを寄せると重そうに口を開く。
「クロイツを殺したガリウスが魔王を倒し、神魔王として世界に宣戦布告をしたのだ」
2章はこれで終了です。
3章は少し書き溜めしてから投稿します。