ウルガスオンライン
ガリウス様と別れた私達は数か月をかけウルガスの塔にたどり着いた。勇者の記憶から導き出したウルガスの塔への入口の前に立っている。
その私達を遠巻きから見つめるもの達がいる。
顔は白い仮面で体が多足生物のそれで大きさは1m~3mほどで個体差がある。足をワシャワシャさせるその姿からはムカデを連想させるが後ろ半分はカマドウマのそれである。
こいつらがかの有名なUMAと言うわけね。
キモい上に怖い。正直、帰りたい。
ここ抜けなきゃウルガスに邂逅できない、しかし虫型魔物はどうしてこうキモイのか。虫形魔物なんて生理的に無理。
特にあの白い仮面にちゃ~と笑うその姿は背筋に悪寒が走り体中に蕁麻疹が出るレベル。
なんか″かえれ~かえれ~″って言ってるし。完全にホラーですわ、ホラー映画ですわ。
とは言え、行かなきゃいけない理由が私にはあるのよ!
一撃で終わらせあげる星芒陣。空に星芒型魔方陣が現れUMAに流星が流れ落ちる。
だけど流星はすべて森の手前で掻き消えた。
「そんな!」
魔法を防御して無効化したと言うよりも、存在自体が否定され消滅した。あの森の中はこちらとは別世界なのかしら?
「ごめん、みんな私一人で森の中に入ってちょっと検証してみたい」
「お姉様、一人でなんて危険です」
一人で行こうとする私をマリアは心配するが、私は首を振る。
「多分あの森の中は魔法が使えないし、最悪あなたたちじゃ動けなくなくなるわ」
「でも……」
納得してくれないマリアをなんとか説得して、私は一人で森の中に入ったゼロスに一言添えて。
魔法が掻き消えた場所まで来ると、案の定レベルや魔力が無くなった。
UMAは私には無関心で、マリア達の方を見てかえれと呟く。
私がウルガスに会いに行くのが許されているかのように、道が開かれていく。
しかしこの節足魔物本当に気持ち悪い。
ウルガスって悪趣味なんじゃないの?
1時間程歩くと塔の前についた、だけどここら辺には入り口がない。
裏側かしら?
私が裏側に向かい歩き始めたとき、体が闇に包まれた。
気がついたら私は大きなフロアの中にいた。
これは、中に入ったのかしら?
周りを見渡すと中央に金髪の少女がいる。
私はその少女に向かって歩きだした。
一歩進むと私の目の前に少女はいた。
なにこれ私の体が引き寄せられた?
少女は目をつむり寝ているようだ。
私は少女に向かい手を伸ばす。
「神に気安く触れてはいけません。死にますよ」
その声は寝ている少女の口から発せられていた。
起きているならそう言えば良いのに。
「今、あなたがいる次元にチャンネルを合わせていますので暫くお待ち下さい」
その言葉にしたがい、しばらく待つと少女は目を開けた。
「すみませんね、この次元に来るのは久々なもので」
「あなたがウルガス?」
「そうです、私がこの星の神ウルガスです勇者マイラ」
「私を知っているの?」
「私には未来が見えていましたからね、あなたが来るのは分かっていましたよ」
見えていた、過去形と言うことは今は見えないと言うことなのだろうか?
「じゃあ、私がきた目的も分かっているの?」
「わかっていますよ。しかし、相変わらず日本人と言うのは神に対してふそんですね」
あ、態度悪くて心証悪くしちゃったかな。
私は形ばかりに膝をつき頭を下げる。
「そういう形ばかりの信仰はいりませんよ」
やらなくて良いと言うならそれにしたがいましょう。
私は立ち上がりウルガスにお願いをした。
「精霊龍よりも強い力が欲しい」
「そうですね、あなたには借りがあるので叶えてあげたいのですが ……。今、夢想界は時が止まってしまっているので。現状あなたに今以上の力は与えられないですね」
時が止まった? どう言うこと、それにまた借りって私なにもしてないけど?
それと夢想界が止まっている事と力をくれない理由になんの関係があるのよ。
その私の心を読んだように、いや神だから読めるのだろう、ウルガスは私の疑問に質問する前に答える。
夢想界は基点たる存在が消失しており世界が止まってしまったと。
その基点は最初の勇者であり、日本人の斎田アキトに預けたのだと言う。
そして現在その基点の一つが空隙界の基点と重なっていると言う。 ウルガスはそれを私に回収して欲しいと言うのだ。そうすれば夢想界は動きだし、私に力を与えることができると言う。
だが、今の私では回収することはできないだろうとも言う。
なぜならば夢想界に愛着がないからだと。
まあ、愛着なんてないわよね言ったことがないんだから。
だいたい愛着がないとなぜ回収できないのよ。
「その夢想界ってどんな世界なのよ」
「あなた達の世界のネットゲーム、ウルガスオンラインを模倣をした世界ですね」
「は? ゲームの世界?」
いやいや、おかしいでしょ時間軸が会わないでしょ。
1万年前にすでに世界が構築されているのに、その世界が同じ時期のゲームを模倣して作られたのだとすると数年で世界が構築されていることになるじゃない。
「私には未来がにえますので」
ウルガスは言う。世界を作るときに未来を見て日本のゲームウルガスオンラインを模倣して世界を作ったと。
卵が先か鶏が先かってレベルじゃないわよそれ。
だけどウルガスは先か後に意味はない、ただそこにその事実があるだけだと。
つまり、そこに鶏がいると言うことこそ真実なのだと。
なるほど、なに言ってるか分からないけど、そう言うことなら仕方ないわね。
「それで、なぜ夢想界の基点が空隙界にあるの?」
「私が勇者を殺した時に力が霧散して6つに別れたそのうちの一つが空隙界に行ったようですね、すり替えた世界には5つしかなかったので」
また、訳のわからないワードだ。
「すり替えた世界?」
ウルガスの説明では夢想界は二つあり片方は1000年遅れで時を刻んでいると言う。
斎田アキトを殺した時にその世界を破棄し1000年遅れの第二の夢想界を本筋にしたと言う。
「なぜそんなことを?」
本当なら時を戻したいのだが、私の力でも時戻しはできなのでこういう方法を取ったと言う。
精霊龍は時が巻き戻っていると思っていたようだがとイタズラが成功した子供のように笑う。
最初から召喚した勇者を殺すために二つの世界を作るとか何なのこいつはヤバすぎる。
「でも、基点が空隙界に来たときになぜ夢想界はすぐに停止しなかったんです?」
ウルガスは言う、基点が6つに別れたのだと、5つの基点は依然として夢想界にあると言う。しかし壊れた状態で機械を動かせ機械は動かなくなる。今の夢想界は壊れた機械なのだそうだ、だからそれを直すために失われた基点と言う歯車が必要なのだと言う。
そして修理する前に壊れた状態を修復する為に私が夢想界に行かなければいけないのだと言う。
「では、夢想界に行ってもらいますよ」
「すぐ帰ってこれるんですか?」
「時が止まる時より300年前の世界に送ります、何度か死ぬでしょうけど記憶をもったまま生まれ変われますのでご心配なく」
はい? 私が死ぬ、この体がなくなる?
「お断りします」
当然でしょ、いくら強くなるためとは言えこの体を無くせば私はマイラじゃ無くなる。
それじゃガリウス様の横にたてない。
「ダメですね。神との契約は絶対です、あなたはここにきて私に力を願った、だから与えることにしました。契約は成立したのです」
そう言うと私の周りに魔方陣が現れ私を光が包み込む。体が動かない。
『ケンケン、力をかして!』
『……』
『ケンケン!!』
「その剣はここにいる資格がないので、意識を失ってもらっています」
なんでこんなことに。私は、私はただガリウス様と一緒にいたかっただけなのに。
借り、そうだウルガスは私に借りがあると言った。なら。
「ウルガス、私に借りがあるんでしょ、その借りを返して! 私はこの世界にいたい!」
「地球の破壊に手を貸した借りは先程の契約で消えました、故に今の私にはあなたに借りはないのです」
破壊? 地球を……私が?
私はそんなことに力を貸したことはない。
「嘘をつくな!」
「嘘ではないですよ、3ヶ月ほど前に地球に向けて魔法を撃ったでしょう? あれを過去から空間をねじ曲げて1万年前から呼び寄せ地球に降らせ壊滅させました。今となっては懐かしい話なのですけど、あなたにとってはまだ昨日のことのように新鮮な記憶でしょう?」
嘘よ、それじゃ今空隙界が混乱してるのって私のせいじゃない。
真奈美は私が撃った魔法の隕石から地球を守るために動いている。
私が悪の根元じゃないの。
「そう悲観することもないですよ、これはあなたが生まれる以前から決められていた予定調和なのですから」
地球滅亡は星が生まれた時からすでに決まっていて、私に罪はないと言う。
すべてが未来の為のヒトコマに過ぎないと。
だからって、私は何億人もの虐殺に加担した、その事実は変わらない。
「それに最初に攻撃してきたのは地球側ですしね、ゲートを開き人を送り込んでこちらの世界に混沌をもたらしたのですから」
それを止めるための処置なのだから仕方がないと言う。
そして私の力を利用したのは神同士の喧嘩はご法度だからだと言う。
「では、300年前の夢想界に送り込みますよ」
「待ってよ、私を過去に送れるなら時間を巻き戻せばいいじゃない!」
「勇者さん、話を聞いてませんでしたか? 巻き戻しは無理ですよ、せいぜい人を送り込むくらいしかできませんね」
「いやよ、いやあああああ」
私の悲痛な叫び声を無視をしてウルガスは一人、話を続ける。
「そうそう、神はこんなときなんと言うんでしたけ?」
行きたくない、この世界には一緒に居たい人達がいっぱいいるの、それに、まだ……。
「お願い、私はこの世界に居たいの、やらなきゃいけないことがあるの。だから……私の話を聞いてよ!!」
だけどそんな私を尚も無視してウルガスは喋り続ける。
ウルガスはただ決められたことを事務的にこなしているのだ。
そこに私の意見が介入する隙などない。
「あなたは死んでしまいました。ですが異世界で新たな人生を歩めるよう手助けをしましょうチート能力でウハウハなハーレム生活が待っていますよ。だったでしたっけ?」
馬鹿にしてるの? 私は死んだわけじゃない! あんたは何がしたいのよ。
「いやよ、行きたくない!」
ウルガスは腕を大きく広げ叫んだ。
「では、リアルウルガスオンラインの始まりです、あなたの未来に幸あらんことを」
私の体が光の粒になり魔方陣に吸い込まれていく。
「いやああああああ」
そして私は暗闇に飲まれた……。
◆◇◆◇◆
「勇者さんゴミを忘れてますね」
これはこの世界の者ですし世界に返しますか。
私はそれをつまむと塔の外に投げ捨てた。
未来が見えなくなってから幾千年経ったろう。
最後に見た勇者を夢想界に送ることも済ませた。
私の未来視を無くすこと。それは未来を変えることができる唯一の方法。
しかし、未来が見えないことが、これほど怖いとは。
まあ、なるようになるしかないですけどね。
なにかが変わったのか、それともなにも変わらないのか。
さて、私はコアに戻るとしますか。
ん? なにか忘れているような?
「あ、チート能力つけるの忘れてた……。」