星の名は。
「あなたち使徒はアディリアスを復活させるために動いてると言うことで良いの?」
「いや、現在アディリアス様を復活させようとしているのは、私とシンヤだけだね」
静の話では、他の3人の使徒はアディリアスの復活は早々に諦めたらしい。
封印を一つ破って肉体を作ったが散った魂までは戻らなかったと。
「封印破れてるんだ?」
静は苦笑して話を続ける。
肉体がどうしても必要だとその時は思ったのだと。だが解放した肉体に魂は宿らなかった。人の形に生成してもアディリアスは戻らなかったと。
そして使徒は勇者達に執拗に狙われるようになった、それまでは元々アディリアスを愛すものとしての同族意識があって手加減していたのだが。
封印を破ったと言う事実が勇者達の逆鱗に触れた。封印を守れなかったことがアディリアスとの絆を汚されたことと同義になり使徒を悪とした。
それが神国に受け継がれる嘘の神話になった。
封印破りにシンヤは荷担していなかったので勇者達の標的から外れている、ただし関わらない代償として言葉に呪術を仕込ませた神国が伝える神話に神気を持つものは涙すると言う呪術を仕込ませた。
そして神の肉体は今は勇者の肉体として転用された。
現在の真奈美達使徒の目的は隕石がおちる前の人類を助けること。
だけどそれもすでに完遂している可能性もある。
大和神国を名のる国家は、すでに多数の地球人を救出している。
それと敵対することは犯罪行為的でもある。
だけど……。
私達の話が一段落しガリウス様がアイテムボックスから一つの白い武器を取り出し机においた。
それは現代世界ではありふれた物だった。いや日本ではまず見ないものだ。
「銃ですかこれ」
「そのようじゃな」
静も私の意見に同意する。
「これが今回グリモア教国側が使った武器です。大和神国が作ったそうです」
神国がこれを作ってグリモア教国側に贈与した、つまり神国は外交を始めている。
私はその銃を手にとって見た。
形は銃だけど銃口がない、そしてマガジンに当たる部分を取り出すと弾が入っているわけでもなく何かの回路のようなもようになっていた。
静が私から銃を盗むように奪うと、急にうなり出す。
「これは不味いのう」
静がずいぶんと渋い顔をして白い銃を見る。
「どうかしたの?」
静が重い口を開けて言う、魔法が撃てる銃だと、マガジン部分に魔石が込められておりそこからマナを吸いだし魔法を撃つのだと言う。
「神国側はこれより強い武器がある可能性は大きいはね」
「問題はそこではない、この魔法は精霊龍にも当たると言うことじゃ」
「なんでそうなるの? 精霊龍はマナの根源なんでしょ?」
「魔物の魔石内に閉じ込められたマナは精霊龍の物ではなくウルティアの物なのじゃ」
この世界の魔物が発生する理由、それはウルティアの封印がひとつはずれているせいであり。外れた封印から魔物が発生している。
ウルティアはそれだけ皆をうらんでいるのだろうと静は言う。
当たり前じゃんと私は言う。
まじでこの世界の混乱って不倫が原因なんですか。
いや、神話の神様って意外ととんでもない理由で殺しあいするけどさ。
まさかリアルで、そんなとんでも神様に会うとは思わなかったですわ。
「うん? もしかして私もアディリアスのマナを使えたりするの?」
「残念じゃが、マナは体の方ではなく神気に宿っているでな、お主は使えんな」
静は続けて言う、真奈美がオリジナルの魔法を使うのは神気を持つお陰なのだと。
ただ精霊龍のように無尽蔵に出すことはできないと言う。所詮使徒なので無限ではないと。 なので戦うならそこに活路があると言う。
ただガリウス様に聞いた話だと、魔法だけではなくレベル解放もしようとした形跡があると言うので、お主はかかわり合いにならぬ方がいいだろうなと言う。
アディリアスの体で出来ている私の体目当てで、また来る可能性はあるだろうけどね。
「魔物の発生はこの世界特有の発生の仕方ではあるな」
そう言うったのは自問自答から戻ってきた精霊龍だった。
「この世界はって、まるで別の世界の住人のようね」
「ワシはこの世界の住人ではないぞ」
精霊龍は事も無げに言ってみせた。
「どこから来たのよ」
「まあ正確にはこの世界ではあるがな」と前置きをして自分の出自を説明しだした。
精霊龍の説明によるとこの世界は三層構造になっていてそれぞれが干渉しあっている。
現実界
空隙界
夢想界
精霊龍は夢想界からこの空隙界に来たのだそうだ。
ただ三層構造とは言っても実際には隣り合っており認識できないのだと。
その三層毎に神がいてそれを作り出したのが母神様だとも言う。
ちなみに下の階の神ほど力が強いのでアディリアスよりも精霊龍の方が強いらしい。
しかも上層階は下層階を認識できないのでアディリアスが精霊龍のことを知ることはないと言う。
「で、巻き戻りとかの話はどうなったんですか?」
「ふむ、分からんな」
あれだけ引っ張って分からないとかボケにしてはひどいですよ?
「まあ、分からないなら仕方ないよ」
ガリウス様が話を打ちきりにしてしまった。
正直もう少し聞きたかったのだけど。
「あ、そうそう最後に一つだけ聞かせて」
「なんだ?」
精霊龍は面倒臭そうに私の方に向く。
「この星の名前は何て言うの?」
私達は知らないこの星の名前を、科学知識がないとかではないのだが、まるで星の名前をつけられないように誰も星の名前を言わない。
「ウルガス、母神様の偉大なる名と同じだ」