真の勇者は私じゃない?
「め、りうす……」
マリアが動かない体を引きずりガリウス様の足元に抱きつく。
「君達姉妹はすごい精神力だね」
そう言うとマリアを抱き抱えて顔を見えないようにした。
動くようになったマリアはガリウスの首筋を噛む。
「あのマリア、痛いです」
「ふがふがふが! ふがぁ!」
「ええと翻訳しますとメリウス大好き! ばか! ですね」
それを聞いたガリウス様はマリアの体を優しく抱き締める。
全身鎧だから痛そうだけどマリアは全く離す気配すらない。
「マリアさんマスターから離れていただけますか」
精霊鬼がいつの間にか刀を抜きマリアの首筋に刃を当てる。
その刃はマリアを切りつけることはない。
私が刃を勇者の剣で押さえているからだ。
しかし、なんでも切れる勇者の剣が切れないものがあるなんて自信無くします。
おもにケンケンがね!
『…………』
「フィリア大丈夫だから」
「しかし……」
「婿どのが良いと言っておるだろう、刀を引かなければワシが相手をするぞ」
「分かりました」
「お主は余裕がなさすぎるぞ」
「だって精霊龍様、なんでマスターの側ってこんなに女ばかりなんですか!」
そう、本当それ、なんでこんなに女ばかり引き寄せるのか。あ、ミリアスもか、プラス男1ね。
「強き雄の宿命じゃ受け入れよ」
「そんなー」
そんなーは私の台詞よ、ミスティアだけだと思っていたのに、いつの間にか二人も女つれてるし。マリアも落とすし。どうなってるのよ。
まあだからこその第三婦人確定だし勝ち組なのですが。
そう言えば第一婦人と第二婦人は誰なんだろう?
「ガリウス様お聞きしたいことが」
「なに、マイラさん」
「私、第三婦人確約もらってますけど第一と第二って誰なんですか?」
「え、今聞くことがそれ?」
「はい、だいじです」
「第一婦人や第二婦人は、……いないね」
「ミスティアは?」
「ミスティアは……。」
そこから先の言葉はなくただ沈黙だけがその場を支配した。
結局答えを聞けないまま、私達は女王に部屋を用意させガリウス様に何があったかを静に問いただした。
「さて、何から話せば良いのか」
「ガリウス様がなぜ私達をを忘れたのかを教えて」
「それは分からん」
「は?」
どうやら静の言うことでは今回の件は完全にイレギュラーらしい。
ただ、グリモア教団を潰すだけの簡単なお仕事だったはずなのだと。
「そもそも、なんでガリウス様がチバケイン神国側についているんですか?」
「それは、ミリアスを守る理由と同じで、グランヘイム王国をなくす訳にはいかないんだよ」
とガリウス様が苦悶の表情を浮かべる。
理由は自分がかけたミスティアへの呪いのせいだと言う。
グランヘイム王国が完全に無くなればミスティアは死ぬと。
「ミリアスには悪いけど、今現在彼はスペアだ」
「ふがふがふがふふふふふが」
マリアがガリウス様に噛みつきながら喋る、言いたいことは分かるけどいい加減離しなね?
「ええと、自分を卑下してわざと悪者になるにはよくないですよ。と言ってます」
ちなみに今ミリアスとミノバはこの場所にはいない。
ガリウス様の尊顔を見ているだけで動けなくなるからだ。
それにこの話も聞かせたくないらしい。
ミリアスは良いとしてもミノバがこの事を知ったら自分を利用しようとするだろうからと。
「でもなんで、みんなガリウス様のお顔を見ると倒れるんですか?」
「それは私が説明しよう」
静が待ってましたとばかりに立ち上がり説明する。
「ガリウスは神なのじゃ! 尊きものを見たら自然と頭を垂れるであろう?」
「ガリウス様が神様? シンヤが神様じゃないの?」
ああ、すまん誤解させたようだね。と静が謝る。
ガリウスはアディリアスを再生させるための器で、すでに肉体は再生しており神気も復活に十分な量が宿っているという。
そして、この世界の勇者と魔王はアディリアスを復活させるためのシステムでシンヤもこの件に噛んでいるという。
魔王石の本来の目的は、世界に散らばるアディリアスの神気を集めるためのシステムなのだと静は言う。
「神を復活させる為にガリウス様の心を殺すの?」
だとしたら私はこの老婆を許せない。私はこの老婆を今すぐにでも殺したい衝動に駆られる。
「だから、ガリウスの記憶がなくなったのはイレギュラーなんだよ」
静は私の怒気を感じとり慌てて話を続ける。
神が甦ったとしてもガリウス様は死ぬことはなく、その体は神と分離されると言う。
メルウスと言うのは神と分離したガリウスその物だと。
今回は何故か神でもガリウスでもない第三の意思が介入しているのだと言う。
それはグリモアのせいだと。
「でも、それじゃガリウス様が道具みたいじゃない!」
「そうじゃ道具じゃ」
私はとっさに剣を抜いて静に襲いかかった。許せない!
だけど、勇者の剣は音を立ててボロボロに崩れ落ちた。
勇者の剣を破壊したそれは、精霊龍の一撃だった。
指をちょっと動かしただけで勇者の剣はボロボロになった。
『ケンケン!』
『大丈夫だ落ち着け主よ』
どうやら刀身がなくてもケンケンが大丈夫なようだ。
しかし、精霊龍と言うのはこんなに強いの?
指一本で勇者の剣を粉々にするなんて。
「お主、婿どのに助けられたのだろう?」
「そうよ、それがなに?」
「だったら静を恨むのはお門違いであろう」
そもそも孤児のガリウス様を助けなければガリウス様は死んでいた。
ガリウス様に能力を与えなければ私が死んでいたと言う。
そうだけど、道具扱いだなんて。
「今やるべきことは過去を蒸し返すのではなく、最良を見つけることだ」
精霊龍がそう言うとガリウス様もそれに賛同する。
「マイラさん、俺は今の境遇を嘆いていないよ。この力のお陰でいろんな人に出会えたしね」
「分かりました」
本人が怒っていないのに他人の私が怒るなんて筋違いだ。でも……。
「それでそのグリモアってなんなのか分からないんですか?」
「私は知らないね、あれは1万年前突如として現れた異物だと言うことくらいさね」
「あれは勇者の力だ」
精霊龍が口を開いたことばは意外なことばだった。
勇者? 私の勇者の記憶にはグリモアを使った勇者などいない。
なにか勘違いをしているのだろうか?
「勇者にあのような能力を持つものはいませんよ」
「お主のような紛い物の勇者ではない。真の勇者、母神様がお作りになられた勇者の能力じゃ」
私が紛い物? それじゃまるでミスティアと同じじゃない。
「そいつはどこにいるの?」
「死んだ、今はもういない母神様に殺されたワシの五人の姉妹と共にな」
そう言う精霊龍の表情は寂しげだった。