お前はだれだ?
王城へ入ると私達、おもに私が熱烈に歓迎を受けた。
「ようこそいらっしゃっいました勇者マイラ。お初にお目にかかります私がこの国の女王チバケイン=キケン=クリスティーナです」
チバケインもアキトゥーと同じく名字が前に来るらしい。
そしてチバケイン神国は女王のようだ、しかもまだ若い。
右手の方に精霊龍と精霊鬼がいる。
だけどメルウスがいない、顔も見たくないのか会わせる顔がないのか。
しかし、この神国の連中のミドルネーム酷すぎない?
キケン? 危険。黄色だから黄剣なのかな。
クロイツは黒い騎士でクロウォリは黒い戦士でしょ。
考えたのは絶対中二病患者の転移者ね。と物思いにふけっているとマリアが女王にインネンをつけだした。
「あなたが女王? あなたのお父様はどうしたのよ」
「あらあら、アキトゥー神国のおまけ姫のマリアさんじゃないですか」
当然相手も一国の女王だ仕返しは忘れない。
「あ?」
「マリア様、女王陛下に対してその態度看破できませぬぞ」
近衛兵が不遜な態度のマリアを注意する。
「そちらの国が喧嘩を売っているのでしょう」
条約で神国の王族が他国に来た場合その国の王族と同じ扱いをしなければいけないと言うのがあるそうだ。
「だってあなたの国神剣無くしちゃったんでしょ、じゃあ神国じゃないわね」
、
そう言ってクスクスとバカにしたように見下ろし笑う。
確かに現在神剣が無いのでマリアは何も言い返せなかった。
神剣はメルウスが持ってる、そのことを言えるわけがない。
しかし不快だわ、非常に不快だわ。
「それで勇者マイラ此度は何用でこの国に来られたのか?」
「サラスティの件で伺いました」
「サラスティ? 誰でしぃうかその方は(本当)」
そう言うと、なんの事かわからないと言う顔をする。
判定まで本当である。
「やあ、サラスティじゃないか」
奥から一人の男が現れた、その男はグランヘイム第二王子ミノバ=ディル=グランヘイムだった。
「ミノバさま、おひさしゅうございます」
「ようやく我が妾となる気になったか」
「いいえ、私はミリアス様一筋ですのでその件はお断りいたします」
「兄上 、いやディル。サラスティは俺の婚約者だろ」
「うん? 我に貴様のような弟などおらぬが?」
「ほほほ、なるほど、またそなたの女好きが出たのか。まあ良いでしょう。ならば、その男を捕らえなさい」
女王はミリアスを指し捕らえるように言う。
なんでミリアスが捕らえられるの?
「どういうつもりですか女王様」
「その男はグランヘイム第三王子を騙る偽物、処刑いたします」
「彼は本物の第三王子です」
サラスティが声を荒げて抗議する、だが女王はその抗議を無視して捕らえるように命令する。
私はミリアスの前に立ち捕らえようとする兵士達を威圧する。
それを見て女王は扇子をパチッパチッと開閉して思案する。
「ではこうしよう。こちらの代表と勇者マイラが戦って勝った方がサラスティを手に入れその男の処遇も自由にできると言うのはどうだろうか」
あちらは精霊鬼か精霊龍を出す気だろう。
だけどここで引けば私は人を選んで強気に出ることになる。
それだけはダメだ、ここで引けば私は勇者じゃないし何よりみんなの仲間として顔向けできない。
「良いでしょう、その勝負にのりましょう」
あの二人のどちらかが来ても全力で戦うのみ。
最悪、みんなをつれてすべての力を使い逃げよう。
「では黒の戦士メルウス前へ」
だが対戦相手は私の予想を裏切り黒の戦士メルウスだと言う。
そしてその言葉通り、奥から出てきたのはまぎれもなく私を助けてくれた黒の戦士だった。
「メルウスあなた本当に私と戦うの?」
「お前はだれだ?」
「は? 何言ってるのメルウス」
「俺はお前など知らない」
知らない? 私を知らない?
一瞬、打ちひしがれそうになるが心を強く持った 。
折れてなどいられないのだ仲間のためにも。
「マイラ姐、あれ本当に兄貴なのか?」
「メルウスが私達のこと忘れるなんてあり得ない、お姉様あれは偽物じゃないんですか?」
少なくともあれは私を助けてくれた黒の戦士。
だけど、どうして私を知らないと?
「グリモアだ、あれが婿殿の体に入ってからおかしいのだ」
精霊龍が苦々しい顔つきで吐き捨てる。
グリモア? なんでそれがメルウスの中に?
「俺はこの女を殺せば良いのか?」
「そうだ、勇者を倒すのだ黒の戦士メルウスよ」
女王がメルウスに私を倒せと指示をする。
「婿殿、我がやろう。婿殿が勇者と戦うのは忍びない」
精霊龍が私の前に立つ。
すごい圧だ、押し潰されそう。
「精霊龍さま、勇者は私と因縁があるので私がやります」
精霊鬼の顔にニヤケ面は無い、どこか深刻な面持ちだ。
「二人とも邪魔をするなそいつは俺の獲物だ」
メルウスは二人を押し退け、剣を抜き私に対峙する。
「ガリウス様、本当に私と戦うのですか? あなたから頼まれたミリアスが死ぬんですよ?」
その言葉にガリウス様は動かなくなる。まるで迷いが生じるように。
私はもう一度黒の戦士の本当の名前を叫んだ、心を込めて強く、強く。
「ガリウス様!」
「何を言っている、その男はガリウスじゃなくてメルウスだろ」
第二王子のミノバが私の言葉を訂正すると、それを聞いた女王が良いイタズラを思い付いた子供のようににやける。
「ガリウスと言えば、どこかの黒の国の愚か者の姫を返り討ちにした使徒の名前ではないか」
「クリス!」
その言葉を聞いたマリアが怒りに震え、女王の名前を怒声まじりの声で叫ぶ。
マリアが剣を抜く、剣を抜いてしまった。女王の前で。
「ほう女王である私に剣を向けますか、本当にあなたは姉と同じく愚か者ですね」
「うるさい死ね!」
マリアが女王に切りかかる寸前、黒の戦士がマリアをとめる。
「女王陛下、その黒の姫クロイツと言うのはそんなに愚かなんですか?」
黒の戦士がクロイツの事を女王に尋ねる。
「そうよ、愚かよ人生のすべてをとして使徒を倒すために生きるなど、愚かと言うほかないでしょう」
黒の戦士が女王に向き直る。
「そうか、ならば女王陛下。今この場に使徒が現れたらあなたはどうしますか?」
「決まっておる、そうなればさすがの私も戦う、こちらは戦いたくなくても向こうは私を殺そうとするでしょうしね」
「そうか、なら俺がその使徒だ、戦うがいい」
そう言うと兜を脱いで投げ捨てた。
その髪は黒く瞳は赤に染まっていた。
その姿にその場にいたものは私と精霊、女王以外は震えて床にひれ伏す。
「そ、その姿は伝承にある使徒!」
「さあ戦え女王よ」
「黄ノ神剣!」
女王がそう叫ぶと黄色の刀身の剣がどこからともなく現れる。
どうやら物寄せができるようだ。
「さあ、命を燃やしてその剣の力を解放してみろ!」
だが女王はメルウスのように剣の力を解放しない。
「いや、死にたくない。助けて」
剣を構えたは良いが、ガタガタ震え腰が入っていない。
「クロイツはちゃんと戦ったぞ、情けないな黄の女王」
メルウスは黄ノ神剣の刀身を握りつぶした。
いやそう見えただけだ、刀身は柔らかくなりメルウスに吸い込まれていく。
剣は女王の手から消え失せ、そこにはただ虚空を見つめる女王だけになった。
そしてもう用はないと踵を返すとメルウスが私の方に歩みを進める。
「いや、返して私の神剣」
メルウスの足元に女王がすがりつくが空中の黒い渦から取り出した剣を目の前に突き刺すと、女王は失禁して腰砕け状態になった。
「メルウス、いえ、ガリウス様と言った方がいいでしょうか?」
「マイラさんはこんな俺をガリウスと呼ぶのか?」
黒く染まった髪の毛をいじり私に申し訳なさそうな顔をする。
「あなたがガリウス様じゃなかったら、誰がガリウス様なんですか?」
私は得意気に胸を張り答えた。
「そうか、ありがとう。君のお陰で戻ることができた」
「どちらかと言えば、クロイツさんの事で戻ってこれたんじゃないですか?」
まあ、このくらいの意地悪は許されると思う。
私はガリウス様にとって、いらない存在だと思わされてたんだから。
「だとしても、きっかけは君だよ」
私の声で戻ることができたと言ってくれる。
それだけで私は嬉しい、例えそれが偽りだとしても。
「婿殿、大丈夫なのか?」
「……マスター」
二人の精霊もガリウス様に駆け寄る。
先程まで笑顔がなかった精霊鬼がようやくにこやかになった、よほど心配だっただろう。
「二人には心配かけたね」
そう言うと二人の頭を撫でる。うらやましい。
「なにがあったのだ」
精霊龍がガリウス様に詰め寄る。
その目には涙をためて。
ガリウス様はその問いに、分からない、ただ怖かった。一つになりたくなかったと。
ただその気持ちだけが俺を支配したと。
精霊以外が敵に見えたと。
女王の言うことを聞いたのは精霊龍がおかしくなる前にガリウス様が言っていたことを教えたかららしい。
正直なんのことか分からないけど今は元のガリウス様に戻った事を喜ぼう。
「でもなんで黒髪赤眼になっちゃたんですか?」
「それは私が説明しようか」
黒い渦が空中に渦巻きそこから老婆が現れた。
その老婆に見覚えがある。
私が魔法回路の鑑定をしてくれた魔法屋の老婆だ。
「静さん、でてきて大丈夫なのか?」
ガリウス様がその老婆を静さんと呼ぶ。
静? しず。どこかで聞いた気が。
「あ! 真奈美が言ってたガリウス様の使徒の名前だ」
「そうじゃワシが使徒の静じゃ」
ホッホッホと笑う姿には真奈美のような怖さは微塵もなかった