王都はやっかい事しかない(後編)
この女、殺気ビンビンなんだけど冒険者ってこんなヤバイ奴の集団なの?
女のLVは138もある。ステータス的には俺の方が上だけど、その殺気は掻い潜ってきた修羅場の数を物語っている。
女は先程と違い無動作からいきなり斬りつけてきた。動きが先程とは桁違いに速い。そして完全に殺意のこもった一撃だ。
俺の技は、オーバーキルばかりで鎮圧する技ない。取り敢えず魔力操作で身体強化をして対処をする。
動きは速いが身体強化をした俺の動きはもっと速い。女の剣撃を易々とかわす。現在身体強化に回しているMPは5だ、もっと魔力を込めれば圧倒できるだろうが 力加減がまだ分からないしな。
身体強化をして分かったのだが、剣の他にも細い糸のようなものを魔力で操っているようだ。これが俺の腕を傷つけた正体か。
「スゲーなあいつ、勇者のパーティーメンバーのクロイツさんに触れさせもしねぇぞ」
他の冒険者が俺たちの戦いを見て驚きの声をあげる。
「勇者? お前勇者のパーティーなの?」
「それが、どうかしましたか? この戦いに関係ありますか?」
あの糞イケメン両手に花なの?
まるで、大人向け小説に出てくる主人公みたいな奴だな。
クロイツは渾身の力で、剣を振り下ろしてくる。
自己暗示「我が固さ、金剛石のごとし金剛不壊」
俺はその剣の横っ腹に拳を当てた、剣は真ん中からポキリと折れた。俺の体をクロイツの糸が切り裂くが、その刃は俺の体を傷つけることはなく、服がボロボロになっただけだった。
「私の剣が……」
剣を折られてショックなのか動きが止まった。その隙を見逃がさずに、俺はクロイツのおでこにデコピンを入れた。
クロイツは脳震盪をおこし膝から崩れ落ちると意識を失った。
これだけ美人なんだから、あのイケメンともお似合いだろうに。
「あんたがあいつと……」
くだらない愚痴を言いそうになったが。さすがに格好悪いと思い直し、俺はその場を去った。
クロイツは他の冒険者が面倒を見るだろう。
できれば二度と会いたくないしかかわり合いになりたくない。
この騒ぎじゃ冒険者登録なんか出来そうにないしな。今日はやめておこう。
とりあえず、ボロボロになった服と傷だらけの腕を治すべく全ての力で復元するを使った。
傷もふさがり、服も元の通りだ。
クンクン……。後で洗濯しないとな……。
そうそう。王都に来たら欲しいものがあったのを思い出した。
アイテムバックだ。
旅人や冒険者には必須アイテム、何せ1つのカバンで200Kgの物を収容できるのだ。
ただしその価格は一個15万Gお高いのだ。だが俺の資金は潤沢だ。今なら買える、値切れば二つ買える!
俺はアイテム屋を探しながら町を散策した。
しかし、この都はでかいな、アイテム屋がまったく見つからない。暫く歩いていると、奴隷商の看板が見えた。
奴隷か……。
頭の良い奴隷に、俺の能力を研究してもらうのはどうだろうか?
現状、俺は能力を使いこなせていない。もっと効率良くしたいし、正直なところ一人で居るのは辛いし寂しい。
そう考えていたら、ふらふらと誘われるように奴隷商の店に入ってしまった。
「いらっしゃいませ、どのような奴隷をお探しでしょうか?」
かっぷくの良い店主が、揉み手で近寄ってくる。
「頭の良い子とかいますか?」
「そうでうね、頭の良い奴隷ですと、少しお高くなりますが、宜しいでしょうか?」
「予算は最大でも25万Gで考えてるんですが」
奴隷の価格は千差万別だが安い奴隷でも10万Gからだ。予算としては心もとない。
奴隷商は少し考える仕草をして、ポンと手を叩く。
「ちょうどいい奴隷がいます。傷物ななのですが、ご希望に添えると思います」
そう言うと、奴隷商人の男は俺を奥に案内した。
奴隷商人の男は歩きながら、その奴隷の話をした。名前はアリエル、さる貴族の妾の娘で貴族の相続争いで相続権の無い兄が謀反を企み、家を乗っ取ろうとしたらしい。
だが、謀反は事前にばれ二人とも捕らえられて奴隷に落とされたそうだ。その際、兄は腕を切られ妹は顔を焼かれた。
奴隷商人が一番奥の部屋で止まる、そこには顔の焼けただれた少女がいた。
なにか薬のようなものをかけたのか、片目が完全につぶれ、顔全体が焼けただれている。唇もなく歯も剥き出しだ。
「この娘でしたら、10万Gでいかがでしょうか」
どう考えても傷物ってレベルじゃない。最低価格でも高いのだろう。完全にもて余して処分に困っているようだった。
「おねがぃじまず……あにをだずげで」
焼けただれた喉で声にならない声を出すアリエル。
この子は自分の身より兄を心配するのか。貴族の娘だから高飛車かと思ったら、ステータスは気立てがよく優しい心の持ち主となっていた。
「この子のお兄さんも、ここにいるの?」
「はい、いますが、両手がありませんので人を殺したことがない貴族用の試し切り奴隷として保管してあります」
「ちなみにいくら?」
奴隷商の男は顎に手を当てて考える。
「二人を引き取っていただけるのでしたら22万Gでよろしいですよ」
抱き合わせ販売にしてきたか。頭が良くてもこの傷じゃ商品価値も無い。なら、抱き合わせにして少しでも利益を得た方がいいと判断したか。
「じゃあ、二人とも買います」
「おお、お買い上げ、ありがとうございます」
そう言うと大袈裟に頭を下げた。
そして、契約成立の握手をする、これで、解約はできない。
二人は牢から出され、俺と奴隷契約を結んだ。
契約は呪術によるもので呪術師が行う、一人金貨1枚だ。
二人の首に奴隷紋ができ、そこに俺の血をつける、これで契約完了だ。
アリエルには白い布が被された、アリエルは何度も泣きながら俺にお礼を言う。
兄の方は、先程から俺をにらんでいる、敵意を持てば奴隷紋がその身を苦しめると言うのに。
「妹を、慰みものにしたら殺す」
兄のカイエルは奴隷契約が終わった後、俺を脅してきた。奴隷紋が発動してるのにすごい精神力だな。
「まあ、なんだ。詳しいことは後で聞くからついてきて」
二人を連れて俺はカルガモの宿へ向かった。
途中二人への視線がすごかった。手の無い奴隷と顔を隠した奴隷じゃ目立つよな俺の配慮が立ちなかったことを悔やむ。
カルガモの宿につくと、俺は二人の部屋を取った、宿の二人は奴隷だからとか言う差別はなく、普通に宿を貸してくれた。
奴隷はどこの国でも物扱いで人権はない。そのせいか割りと差別的扱いを受ける。
俺の居た村では奴隷を嫁にしてる人がいて、その奴隷の女性とは子供の頃から仲良くしてたので、あまり奴隷に差別意識はない。
二人を俺の部屋までつれてくると、二人の傷を全ての力で復元するで治した。
腕がニョキニョキ生えてくる様はちょっと不気味だ。
「こんな、腕が……」
カイエルはハッとしてアリエルの顔にかかっている布を取った。
「アリエル 、お前の顔も元の白く透き通り艶やかで艶のある美しい顔になってるぞ」
そう言うと、カイエルは大粒の涙を流し、アリエルを抱き締め『すまなかった』と何度も謝る。
ひとしきり二人で泣いた後、カイエルは臣下の礼をとった。
「このご恩、我が命つきるまで、あなた様に報いましょうぞ」
「いや、そんな大袈裟なものじゃ……」
続いてアリエルも膝をつく。
その後、三人で身の上話をした、年はカイエル24歳、俺18歳、アリエル15歳、の順だった。
二人は嵌められたそうだ。妾とはいえ剣の腕がたつカイエルは騎士団にも所属していた。現当主である異母兄弟は剣の腕も駄目、頭も悪いので役職もなく、家で引きこもっていたそうだ。
そんなおり、父親である公爵が死去、ある程度の遺産をカイエルとアリエルに渡すように遺言で書いてあったのが気に食わなかったらしく、ありもしない容疑をかけられ今に至るらしい。
「その異母兄弟に怨みはないの?」
「無いと言えば嘘になりますが、今はガリウス様に使えたい気持ちの方が強いです」
「そうか、できれば仲間だと思ってくれると嬉しい」
俺はカイエルにそう言うとハッと頷く。それ仲間じゃなくて家臣ですよね……。
「それと先程も言いましたが、妹には手出し無用でお願い致します」
その言葉にアリエルが拒否をする。
「私はガリウス様の夜伽の相手ならしたいです」
ときっぱりといい放った。
「お前、それは……」
「兄さんは黙っててください」
アリエルにそう言われカイエルはシュンと落ち込む。
当のアリエルは俺をじっと見つめる。
いや、確かに美人だし、15歳にしては出るところも出て引っ込むところは引っ込んでるよ、だからと言ってね。
「俺はアリエルを、そう言うことをさせるために買った訳じゃないから」
そう言うとアリエルの求めを突っぱねた。
今度はアリエルがシュンとしている。
それを見てカイエルが俺を睨んで言う。
「妹の何がいけないんですか!」
いや、お前どっちだよ! くっ付けたいのか、くっ付けたくないのか分からないよ。
カイエルのステータスを見ると、真面目/シスコンとなっている。
シスコンに真面目なのか、真面目なシスコンなのかわからんな……。
そして話は本題だ。
「これから、俺の秘密を話すけど知ったら奴隷解放することは無いと思ってほしい。それでもいい?」
「先程、我が命つきるまでと申しました、故に問題ありませぬ」
「私も、生涯お側にいさせてください」
その言葉を聞き、カイエルがまた俺を睨む。
お前のシスコンは自分の命より上かよ!
まあ、これなら裏切られることもないだろう。そう思いすべてを打ち明けた。
「まず、俺には三つの能力がある」
「神の祝福を三つですか……」
カイエルとアリエルが驚いている。
「神の祝福というのか」
神の祝福は生まれながらの能力を言い、その発現率は稀だそうだ。
「実は私も神の祝福 私書箱をもっています」
なんでもこの能力は一度読んだり見聞きしたものは全て私書箱に貯蔵され、知識として身に付くそうだ。
俺の能力でどや顔しようとしたら、アリエルがマジで有用能力で羨ましいです。
そして、俺は今までの出来事をすべて、アリエルに話した。真名命名、自己暗示、必殺技命名この三つがあること。ミスティアを勇者にしたこと。などなど。
「つまりミスティア様はガリウス様が真名命名で勇者にしたということですか?」
「そうなるね」
「でも、そうなると……」
アリエルが難しい顔をして思案している。
「どうしたの?」
アリエルが言うには勇者と言うのは異世界からの転生者がなり、試しの剣を抜いて初めて勇者として認められるそうなのだ。
アリエルはハッとした表情をするとポツリと一言いう。
「今、試しの剣は所在不明になっています」
試しの剣は勇者が持つと勇者の剣に変わるそうなのだがその試しの剣がない為に本物の勇者が分からないというのだ。
「いつから無いんだ?」
「10年前、突如として消えてしまいました」
「10年前か、俺がひのきの棒で勇者の剣作った時と同じ時期か」
「「それだ!」」
カイエルとアリエルがハモった。
勇者の剣は世界で一本しか存在しないもので、二本は存在しない。つまり二本目が出来たせいで一本目が消失したと言うことらしいのだ。
知らない事とは言え、関係者の皆様すみませんでした。
話は戻すが、つまりミスティアは勇者の素質がないのに勇者をしている。試しの剣がないから誰が勇者かわからないせいもあり。無理矢理、勇者に据え置かれている可能性があると言うことなのだ。
以前から勇者にしては弱すぎると酷評されることもあり。クロイツと同程度の力しか持っていないミスティアを最弱勇者と貴族の間で嘲笑しているそうなのだ。
そんな彼女を公私ともに支えているのがランスロットであり。ミスティアも彼に全幅の信頼をよせている。
そりゃあ、惚れても仕方ないか。
俺は「よし」と手を叩くと、二人に役割を与えた。
「という事でアリエルには俺の能力の解明。カイエルは……アリエルの護衛? を任せたい」
「は! 喜んで!」
めちゃ喜んでるよカイエルさん 、妹好きすぎだろ。
″コンコン″
唐突にドアがノックされる、この街に知り合いなどいないので宿の人だろう。
ドア越しだと名前が見えないようだ。
「ガリウスさん、女性のお客様が来ておられますが……」
まさか、ミスティアか? 俺の胸は高鳴った。そんなわけないと思いつつも未練があるのだ。
「お客様困ります!」
その声と共に、鍵のかかっているドアがぶち壊され、女性が入ってきて抱きついてきた。
「旦那様!」
その女性はクロイツだった。 だが抱きついてる相手はカイエルだった。
「「あんた、だれ?」」
二人の声が虚しくハモった……。