馬車にゆられて
私たちは今チバケイン神国の近衛兵に護衛され神国王都に向かっている。
御者の席の隣にはなぜか近衛隊長のマクレインが座っている。
「それで、戦争に状況はどうなったのですか?」
「それでしたら黒の戦士メルウス殿が本拠地を奇襲して教皇を殺し終戦いたしました」
「黒の戦士はメルウスと名乗っているのですか?」
「はいB級冒険者のメルウス殿です、とてもB級とは思えない強さで、かくいう私もやられた口でして」
「それで、メルウスはどちらに」
「現在王城で待機しております、反乱分子の工作があるかもしれませんので」
まあなんにせよ戦争が終わったのは良いことね。
サラスティのこともこれで大丈夫かしら?
「勇者様お願いがるのですが」
「何かしら?」
「この剣にサインをお願いします」
勇者って憧れの存在だと言うのを忘れてた。
先程から兵士達がキラキラした目でみてたのはそう言うことなのだ。
私は渡された魔法の筆で自分の名前を剣に書いた。
近衛隊長はホクホク顔である。
「ところでメルティナとフィリィアもメルウスと一緒にいるんですよね?」
「はい、いつも一緒におられますよ」
私もあのような美しい嫁が欲しいものですと照れながら私を見る。
そうですかと曖昧に答えゼロスに御者を変わってもらった。
近衛隊長も着いてきたので申し訳ないが仲間で話し合いがあるのでといって遠慮してもらった。
逃げるための口実でもあるのだがミリアスのゼロスへの風当たりが強いので少し誤解を解いておこうと思う。
「さてミリアスさん、あなたの態度が少し悪すぎると思うのですよ、わたしは」
「ふん、マイラ姐は兄貴が好きじゃないのかよ、あんな奴とイチャイチャして」
「ふむふむ、あなたの言い分はわかったけどその前に聞きたいことがあるの」
「なんだよ」
「あなたサラスティと結婚するってことで良いのよね?」
「今、そんなこと関係ないだろ」
「重要なことよ答えて」
「あたり前だろ、ちゃんと男として責任はとる」
え、何言っちゃてるの。え、そう言うことしたってことで良いの?
イチャつき度が異様だと思ってたけど。
「マイラ姐?」
「ああ、ごめん。ええとそれで浮気とか今後しない? サラスティ一筋?」
「サラスティは愛人とか許さないしね俺も覚悟を決めて一人だけを愛すよ(本当)」
と言うと頭をボリボリと掻く。
それを聞いたサラスティはミリアスの腕を取り涙を流し感激する。
判定も本当だし種明かししても大丈夫よね。
「隊長さん、少し休憩したいのでちょっと馬車をとめますね」
馬車をとめゼロスを荷台に招き入れた。
「ゼロス、スキルを解いて本当の姿見せてあげて」
「うん、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、ミリアスはサラスティ一筋だから」
「わかった」
その言葉と共にゼロスの体は光り形を変えていく。
胸は膨らみ腰も女性らしくなっていく。
「は?」
ミリアスの顎が外れんばかりの勢いで下がる。
そう、ゼロスは女性なのだ。
神の祝福 性転換で男性になっていたのだ。
男性冒険者から操を守るために。
「美しい……」
その言葉を発したミリアスがサラスティに首を絞められたのは言うまでもない。
まあ、私よりも美人なのだから気持ちはわからないでもない。
正直この美しさは彫刻だ。いや神レベルなのだ。
「と言うことなので私とゼロスがどうこう成るようなことはありません」
「あ、そのなんだ今まですまなかった」
ミリアスが頭を下げて謝る。
「良いんだよ僕も隠してたしね。お
互い様さ」
「ちなみに彼女の名前はゼロスティア、英雄よ」
「「「は?」」」
勇者と英雄は表裏一体、勇者が生まれたとき英雄もまた生まれると言う。
ゼロスは私と対をなす存在。
そんなゼロスを私は色恋のために置いて出た。
「またぁ、マーちゃんその冗談聞きあきたよ?」
ステータスが見れる私にしか分からないのでゼロスはいつも冗談を言っていると思っている。
「なんだ冗談かマイラ姐は冗談きついな。ははは」
談話していると近衛隊長がソロソロ出発しても良いか聞いてきたので了承した。
時間が惜しいのか御者を近衛兵が引き受けてくれた。
ラッキーである。
それから二日ほどかけ私たちは王城に到着した。
王城に近づくにつれマリアのイライラが上昇していくのが手に取るようにわかる。
「マリア、少し落ち着きなさい」
「すみませんお姉さま」
そのときは謝って落ち着くのだがすぐにまたイライラしだす。
まあ、前にもめてると言っていたのでその事だろう。
まあ、マリアがもめなくてもサラスティの件でもめるかもしれないしね。
いざとなれば逃げることも視野にいれないと。
相手はあの精霊鬼と底知れない存在の精霊龍、そしてメルウスであるガリウス様。
借りに戦うとなれば守れる自信は皆無だ。
だから逃げる逃げに徹すればなんとか逃げれる。
それにその場合あの精霊達が追ってくることも考えにくい。
強者は弱者に興味がないものだ。
そして私の心配をよそに馬車は王城の入り口の門をくぐった。