戦争に正義はない
私は受け付けでチバケイン神国の情勢を聞いた。
所が今日未明に突如グリモア聖教国がチバケイン神国にたいして進軍したそうなのだ。
殺られる前にやれの精神なのだろうか?
戦争なんてどんな理由があるにせよ、先に手を出した方が悪になるのに何を考えているんだ。
そもそも国力が違いすぎるだろうに、グリモア聖教国はチバケイン神国の十分の一もない。
自分から破滅の道を進もうとしているグリモア聖教国に呆れて物も言えない。
ところがである、蓋を開けてみればグリモア聖教国が快進撃中という。
新型魔道具でチバケイン神国側を蹂躙しているという。
既に五分の一の領土がグリモア聖教国側に奪われたそうだ。
そもそもグリモア聖教国とはなんぞや。
『まさか……』
『知っているのケンケン?』
『グリモア聖教国とは神よりもたらされた教典魔物の魔導書を崇める教団である 「グリモア聖教国ぶらり二人旅」ケンケン書房』
『魔物の魔導書? 魔物の魔法を使えるの?』
だけど、ケンケンはそれを否定する。
魔物の魔導書の所有者言が言うには魔物をモチーフにした魔法と言うことらしい。
その魔導書の文字はケンケンには読めなかったらしいのだが。
文字は所有者にしか読めないもので、同じ呪文を唱えても所有者以外は発動しない。
ただその本に書かれている魔物はこの世界にはいない魔物だと言うことはわかったそうだ。
本を使わないと撃てない魔法なんて劣化でしょと思ったけど、グリモアの魔法は現存する魔法とはすべてが違う。精霊を介さない独自形態による魔法なのだそうだ。
この世界の魔法は勇者魔法や神代魔法と違い、射程が短い。
だけどグリモアの魔法は射程が無いらしい。
それ故、気に入らない人物を接殺すこともできる。
実際、周辺諸国の国王が昔何人か殺されたらしい。
安全地帯から暗殺できるとかかなりヤバイわね。
ん、精霊を介さない?
『もしかして精霊鬼にもダメージが与えられるってこと?』
『そうなるかもな、やってみないと分からんが』
『なにそれすごい。 欲しいわね』
『あれは選ばれたものしか使えないし、回数制限付だ』
ケンケンがなぜ色々知っているかと言うと、歴代の勇者がグリモア聖教国に呼ばれて、本について何か知らないか聞かれたことがあるらしい。
主に回数回復する方法を聞きたかったそうだ。
回数制限あるんじゃポンポン使えないしね。
勇者の記憶は基本戦闘技術に関することなので日常の些末な事まではわからない。
以外とこういう時は役に立たないのだ。
しかし、そうなるとどっちが悪か分からないわね。
暗殺される可能性があるから殺す、分からないでもない。
そもそもグリモア側は一度それをやっている。
サラスティがこちら側にいるからチバケインが悪だと思っていたけど。
先に手を出したのはグリモア聖教国。
そうなるとガリウス様がチバケイン側についている意味が違ってくるわね。
戦争に正義はないか。
どちらが悪にせよ一度チバケインに行くのが良いだろう。
うまく行けばガリウス様にも会えるだろうし。
『むしろそれ狙いだろ』
恋する乙女ですから仕方ないんですよ。
『憧れじゃないと良いな』
私はケンケンをかべに斜めに立て掛け足で体重をかけた。
『うそうそ、ごめんなさい主様、お許しください』
周りの目が痛いのでケンケンを鞘にしまった。
ケンケンと絡んでるときは割りと奇行が目立つらしい、自重しなければ。 まあ、ガリウス様に会いたいのは本当だ。
それに私を殺そうとしたことも問いただしたいしね。
情報って大事よね、今までそう言う事を気にしないで思い付くままに行動してきた自分が恥ずかしい。
今回もただチバケイン神国を滅ぼしていたら私が悪だったかもしれない。
もう少し思慮深く行動したい。
まあ、勇者に思慮深さとか必要ないのかもね魔王を倒すと言うのが目標なのだから。
今までの勇者も私みたいな猪突猛進型が多いのよね。
もう少し情報が欲しいので、みんなと相談して今日もこの街に滞在することにした。
マリアはジュエリと一緒にショッピングに行った。
旅の装備一式と替えの服などを買う予定だ。
ミリアスはサラスティに何処へともなく連れ去られた。
私に助けを求めるような目をしてたが気のせいだろう。
私はゼロスの装備と服を見繕いに二人で露店商を散策に向かった。
ギルドの外に出ると既に髭面の姿はなかった。
あいつの仲間達が連れていったのだろう。
念の為マップでマーキングしておこう。
露店商は戦争のせいか食料と武器防具が全体的に高めだ。
とは言え必要なものだから買うしかないのだが。
「ゼロスは武器は何にする? お金の事は気にしないで良いからね」
ゼロスは何を使わせても器用にこなすので武器は自分で選ばせようと思う。
「僕はひのきの棒で良いよ」
「ダメに決まってるでしょ!」
ひのきの棒なんて使ったらガリウス様と被ちゃうじゃない!
それだけは断固拒否。
「じゃあ石とか投げるよ」
「怒るわよ?」
「ひのきの棒と石で最強……」
私は思わずゼロスの頭を殴った。
それだけは許されないのだ。
「痛いよマーちゃん……」
急に怒る私に戸惑うゼロス。
まあ、ガリウス様を知らないのだから仕方ないけど。
お金の事を考えて遠慮しているのだろう。
ゼロスのステータスを見ると何気に投擲がBか、スローイングナイフと弓で良いかな。
それと近接戦闘用に短剣ね。
ゼロスもそれに納得してくれた。
私は皮鎧と武器を買い、アイテムボックスにしまった。
後で魔物の素材で改良してから渡そう。
買い物中はずっと手を握って離さなかった、離したらあいつらの元に戻りそうな気がしたからだ。
逃げたいけど心を折られてしまっているから逃げられないのだろう。
顔にありありと出ている。
まあ、このまま終わらせる気はないんだけどね。
私の幼馴染みに手を出して、ただで済ますわけ無いでしょうに。
「でもミリアスくんって何気にカッコいいよね」
「それあいつの前で言っちゃダメよ、あいつ女好きだから」
「そうなんだ以外だな……」
ミリアスが女好きと聞きショボくれるゼロス。
あなた、昔から男運無いものんね……。