暴走は止まらない
マリアの魅了を解除して話を聞くと王宮では(略)
「ゼロスは特に異状ない?」
「僕は垂れ耳派犬教徒だから……」
ちなみに私も犬教徒である。
昔、捨て犬をゼロスと一緒に秘密基地で飼っていたのは懐かしい思い出である。
「私の前で犬の話をするとは良い度胸ね」
マリアは幼少期訓練で垂れ耳系の犬、土佐犬やピットブルなどに似た犬で戦闘訓練をしていたせいで犬、特に垂れ耳の犬が嫌いなのだそうだ。
まあ、私も犬教徒なのを言うと、そうですか、そうですかとブツブツ言って怒りを沈めたのだけど。
部屋に一同が集まり、自己紹介することになった。
ネコミミ娘の名前はジュエリ、11歳で親に売られて奴隷落ちしたらしい。
ゼロスは14歳で私と同い年、生まれた日も私と同じだ。
三人の紹介は私がした、貴族組は平民に自分で自己紹介することはしない。
私このパーティーのリーダーですよね……。
それでも、マリアとミリアスはネコミミ娘には自分で自己紹介をしていた。
「分かりましたにゃ、マリアしゃま、ミリアスしゃま」
その言葉に嬉しさのあまり二人が卒倒したのは言うまでもない。
現在ジュエリはマリアの膝の上である。
そして、なぜか私が糾弾されている。
「お姉様、メルウス以外の男をパーティーに入れるなどありえませんわ」
マリアはゼロスをパーティーメンバーに加入させることに反対のようだ。
「俺も男のパーティーメンバーは嫌かな、イテテ、イテテ」
男はいらない発言にサラスティに脇をつねられ身もだえする。
今、あんたハーレム状態だもんね男はいらないよね。
「私は下男でも下女でも構いませんわ」
サラスティはちゃんとした貴族なだけに下働きの性別には興味がないらしい。
「じゃあ多数決でゼロスはパーティーに加入です」
「「いやいやいや、二対二でしょ」」
二人は私の決議に異議を申し立てる。
「私はリーダーなので二票です」
横暴だなんだと騒ぐから、ならあなた達が御者してくれるの?と言ったら大人しくなった。
どれだけ御者したくないんだ。
「色々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
ゼロスが礼儀正しくお辞儀をして皆に挨拶をする。
二人はその挨拶に答えることはなかった。
態度悪いなこいつら。
「私もよろしくするのにゃ」
ジュエリのそこ言葉に二人は破顔して赤ちゃん言葉で答える。
ミリアスがよろしくでちゅとか言ってる姿は正直居たたまれない。
マリアに至ってはお姉様、私に妹ができましたとか言う始末だ。
まあ仲良くしてくれれば、なんでも良いけど。
そう言えばとミリアスが真顔になる。
先ほど奴隷市場で聞いた噂だと戦争がかなり近いらしい。
出来ればチバケインにはいくなと言われたと。
なぜ急に開戦するのか理由を聞いたところ、何でも回復する石を大量に手に入れたと言うのが理由らしい。
まあ、何でも回復するなんて眉唾物だろうけどなとミリアスは言う。
だけど私は知っている。ガリウス様ならそれができると言うことに。
ガリウス様がチバケイン神国側につく?
理由は? 理由は……。
今更ながら、私はガリウス様の事をなにも知らない。
知っている事と言えばミスティアと言う想い人がいると言うことだけ。
憧れか……。
その言葉を思いだしマリアを見る。
マリアはジュエリを膝にのせ顎を頭の上にのせて手でガッチリホールドしている。
ミリアスが隙あらば奪おうとしてるからだ。
まあ、そんな事すればサラスティが黙っていないからジュエリの位置はあそこが定位置になりそうね。
「お姉様、お姉様! 私の話聞いてますか?」
「あ、ごめん、考え事してたわ」
「もう、ですから私の権限でこの娘の奴隷紋を解除しようと思うのですよ」
なんと、マリアは奴隷紋を解除する術を知っているというのだ。
さすが神国王女様、どこぞの元第三王子とは格が違う。
まあ、妹とか言ってる娘を奴隷のままにしておくなんてできないもんね。
「良いと思うわよ」
「ま、待ってよ」
奴隷紋解除に難色を示したのはミリアスだった。
ミリアスは自分も50万G払ったのだから権利は自分にもあると言い張ったのだ。
だから奴隷紋解除には反対だと言う。
理由は単に解除すればジュエリがマリアの物になると言う思い込みからなのだけど。
「ふん、じゃあお金出せば良いんでしょ50万Gね」
「い、いやプレミアがついて1000万Gだ」
マリアがミリアスを侮蔑の表情で見下す。
「お姉様、出発前に預けたお金出してもらって良いですか?」
そう、彼女に不自由させまいと王様が1億Gを私に渡してきたのだ。
何だかんだ言って娘は可愛いのだろう。
神国の使命故に厳しくしてはいるが、あの王様は本当は娘が大好きなのだ。
私はアイテムボックスから1000万Gをだし目の前においた。
「これで良いわね? その代わり、この娘を売買対象にしたあなたは、もうこの娘には近寄らせないから」
「そんなー」
その言葉にミリアスは崩れ落ちる。
国を失ったときより大きく、まさにこの世の終わりだとばかりに大きな声を上げて泣き出した。
それを見ていたジュエリがマリアの膝から降り、ミリアスの肩に手を置く
「ジュエリはお兄ちゃんが好きにゃ」
その言葉にマリアとミリアスは卒倒する。
ミリアスは好きと言われたことで舞い上がり。
マリアは妹をとられた悔しさで。
話が進まないので、いい加減にして欲しい。
私は強制的に二人を回復させた。
ショックのあまり落ち込むマリアはジュエリに嫌われたとブツブツと呟く。
それを見てトコトコとジュエリがマリアそそばに立ち膝に手をのせ。
「お姉ちゃんも大好きにゃ」
と首をかしげて言う。
あざとい、あざといわジュエリさん。
それに嘘判定出てないですわ、素でやってますわこの娘。
当然マリアは顔を茹でダコのように真っ赤に染め頭から湯気を立ち上らせ。
ミリアスはそれを見てハンカチを悔しげに噛んでいた。
「じゃあ、このお金はしまうわよ?」
結局、ジュエリは奴隷紋を解除して私たちのパーティーに入ることになった。
部屋割りどうしよう。
ミリアスは一人部屋でマリアも一人部屋ねサラスティは護衛しないと危険だから私と相部屋。
ジュエリとゼロスが同じ部屋で良いわね。
その事を言ったら猛反発。
女の子と男を相部屋にするなんてあり得ないと。
いや、だって部屋空いてないのよ?
宿代はあるけど部屋とれないからね?
四部屋しかないのにどうしろと?
そこで私はミリアスとサラスティを同じ部屋にした。
マリアは私と相部屋。
ゼロスとジュエリはそれぞれ一人部屋。
もう文句は言わせない。
これで良い。
いや、これが良い。
なぜかサラスティはこの提案を快く受け入れた。
震えるミリアスをよそにして……。
次の日の朝、食堂にはスッキリした顔のサラスティとげっそりと痩せ細ったミリアスがいた。
ゆうべはお楽しみだったようで。