精霊龍の独白
母神様は過去から未来まで全てを見通す力があった。
ワシは精霊龍。六大龍神の一人、闇の精霊龍。
ワシは生まれたときから闇にいた。常に闇に身を潜め光から逃げ光を追う存在。
それがワシでありワシの仕事でもありワシの存在意義でもある。
他の姉妹達も世界中に散り、皆同様の仕事をしている。
離れ離れで寂しいという感情はなかった、なぜならワシらは意識の部屋を持ちそこに遊びに行くことができたからだ。
だがある時、風の精霊龍が地球神側に寝返った嫌疑で母神様に封印された。
風の精霊龍は良く言えば自由奔放、悪く言えばサボり魔で我々は風の精霊龍の尻拭いをいつもしていた。
とは言え代わり映えのない生活をしていた我らは、そんな風の精霊龍を好ましく思っていた。
そんな風の精霊龍がワシらや母神様を裏切り、地球神につくなど信じたくなかった。
なぜ裏切ったのか?
ワシの疑問はつきなかったが、それよりも風の精霊龍の力が失われていく様が怖かった。
ワシら精霊龍には死はない。
だが明らかに風の精霊龍は力を失い死ぬ寸前だ。
その体からは精霊力が飛散していき存在を維持することさえできないレベルまでに力を失っていた。
その封印は精霊龍を分解するためのものだった、死なない精霊龍を殺すためのものだった。
ワシ達が生まれてから45億年あまり生物の死を見続けてきたがいざ自分達の番となるとこんなに怖いものだとは思わなかった。
母神様に風の精霊龍の罪の軽減を懇願したかったが、怖くて出来なかった。怒りの矛先がワシに向くのが怖かった、あの優しい母神様がここまでお怒りになると言うのはあり得ないことなのだ。
風の精霊龍が消滅した。
ワシら精霊龍も死ぬ、ワシらにも死はあり母神様の気分次第でいつでも消滅する存在。怖い、怖い、怖い。私は死に恐怖した。そして母神様を畏怖した。
数年後、世界は巻き戻った。
光の精霊龍が巻き戻したのだ。巻き戻しは禁忌だ、当然母神様のお怒りに触れるだろう、何を考えているのだあいつは、風の精霊龍のように死にたいのか?
巻き戻しに気がついてるのは母神様とワシ、そして巻き戻した本人である光の精霊龍の3人だけだ。
ワシら光と闇は母神様が最初に創造したため母神様に近しい存在であり多次元的存在であるため記憶の保持が可能なのだ。他の四龍にはこの機能はない。
母神様の怒りを買って死ぬと思われた光の精霊龍はいまだ生きている。なぜかあやつは精霊としての力を取り戻していないため、その命は風前の灯火だった。
なぜ母神様の怒りに触れなかったのかワシにはわからなかったが姉妹を失わなかったことを喜んだ。
ワシらはその性質上ゆえ時間の感覚に疎いのだが、その日が来て分かった。
光の精霊龍は時を1000年も巻き戻したのだ。
そして今日、風の精霊龍が死ぬ。
二度目の死だがその様を見るのはやはり怖い、だがせめて妹の最後は見届けよう。
しかし、今回の世界では風の精霊龍は死ななかった。
一人の青年が風の精霊龍を救ったのだ。
その青年の側には人の姿の弱々しい光の精霊龍と風の精霊龍の姿もあった。
たかが人間に精霊龍を救う力などあるはずがない。
その青年はとても脆弱で弱々しい、あり得ないほど弱かった。
だが彼は異世界からの勇者だった。
いや、真実を知るものならばその者を勇者とは呼ばない、最終兵器を作るための媒介あれを起動させる鍵それが勇者であり、起動後は母神様に食べられる存在。
つまり青年はモルモットであり家畜なのだ。
ところが精霊龍達はあろうことか恋に落ちた。
家畜である、その勇者の青年に恋をした。
あり得ない家畜だぞ? なぜ家畜と恋に落ちるのだ。
ワシは今起きている現実が理解できなかった。
ワシら光と闇の精霊龍は他の姉妹よりも先に生まれた。
その分思慮も深い。だが、光の精霊龍ですらその青年を愛した。
むしろ前回の巻き戻しは彼が死んだことを悲しんだ光の精霊龍がやったものだった。
火、水、土の三龍もほどなくして落ちた。
次は私の番だ、私は怖くなり全てのリンクを切って闇に沈んだ。
当然だ母神様を怒らせて、前回の風の精霊龍のようにはなりたくなかったからだ。
だが、気になる。皆の同行が気になってしかたがない。
私は異世界から人を呼び寄せ力を与え我が目とした。
青年と精霊龍達は和気あいあいと日常を過ごしていた。
音楽を楽しみ、食事を楽しみ、性を楽しんでいた。
しかし、この少年のどこにワシらを狂わす要素があるのだろうか?
脆弱で弱々しく、LVは永遠に0、巻き戻しをしたせいで勇者の体からは全ての力が抜け落ちている。
だが、5人が5人共この青年にベタ惚れなのだ。
何が皆を引き付けるのか。
しかしその青年が真に愛したのは人間の青い髪の少女リミアだった。
彼女はその青い髪から迫害されていた。
青い髪は裏切り者の証、前回の世界ではそんな事はなかったのだが。
皆は風の精霊龍の本体が隠されている森に住むようになった。
リミアの事で城壁内に住めなくなったからだ。
その森で彼らは仲良く暮らしていた。
それを見ているだけで、ワシも楽しかった。
だがワシはその一員になる気はなかった。
やはり母神様は怖いしなにより死は恐ろしいのだ。
だがその幸せも長く続かなかった。
母神様がお怒りになったのだ。
それはそうだろう最終兵器の媒介として呼んだのに、その役目を全うしないうえに精霊龍をタブらかしたのだから。
勇者の青年は殺された。その際、風の精霊龍は勇者を庇い一緒に消滅した。やはり彼女は死ぬ運命だったのだ。他の精霊龍達は罰として封印死刑の処罰を受けた。
そしてワシだけが残った。