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精霊神

 魔王より弱い勇者が、なぜ魔王に勝てるのか。

 強者を気取る私は失念していた。


 これがゲームだったらどうする?


 簡単だ勝てない敵にはバフ(強化系魔法)で自身を強化すれば良いのだ。


 足りないなら補え。


 神代魔法 土の三文字


 ソイル スエロ フムス


(自身及び仲間の防御力100%アップ)


 神代魔法 風の二文字


 エアル バレル


(自身及び仲間の俊敏100%アップ)


 神代魔法 火の五文字


 カエン エルド チニヤ フエゴ フォク


(自身及び仲間の攻撃力300%アップ)


 神代魔法 光の二文字


リヒト ルスト


(精神力200%アップ)


 バフ、バフ、バフ、etc(エトセトラ)etc(エトセトラ)


 かけられるだけの強化魔法や補助魔法をかけた。

 これで少しでも精霊鬼(フィリィア)に近づければ、勝機はあるはず。


「準備は整いましたか?」


「わざわざ、待ってくれてたんだ。ありがとう」


「ええ、相手が戦闘準備中は攻撃してはいけないと(しず)様に言われておりますので」


 ん? (しず)? どこかで聞いた名前だけど今はそんなことはどうでも良い、目の前の敵に集中だ。


 ミリアスは私のバフ以外に自分の神の祝福(プライム) 絶対領域(おかされざるしんいき)を使う。

 これは自分の防御力を300%上げ、パーティーメンバーへの攻撃を自動で迎撃する。


「では、最初の攻撃と同じ威力とスピードでいきますよ」


 精霊鬼(フィリィア)はまるで私達を試すように斬撃を放つ。

 斬撃はミリアスの盾に当たり衝撃が消し飛ぶ。


 いける、斬撃も見えた。

 これなら戦える。

 私の思いを察したのか精霊鬼(フィリィア)はニヤリと笑う。


「今の攻撃は私の20%の力です」


 力を抑えて戦うとか、どこの筋肉だるまよ。


「あなたも随分自惚れが過ぎるんじゃない、強者のつもり?」

 意趣返しである。

 さっき、愚か者と言われて顔真っ赤なのである。


「強者のつもりではなくて、強者ですよ?」

 この女、自分を強者と言いきった。

 どれだけ自分の力に自身があるんだ。


「では、10%づつ上げていきましょうか」

 まずい、ミリアスの絶対領域(おかされざるしんいき)は自動防御だ、防御力を越えた一撃の中に飛び込めば只ではすまない。


「私が前に出るわ」


「ダメだよマイラ姐! 俺が耐えるから、あいつの攻撃を見極めてくれ」

 ミリアスは自分が人柱になると言う。

 そんな事、許せるわけがない。

 だけどミリアスは 、私が前に出ることを許さない。


「俺を信じろよ、兄貴ほどじゃなくてもこらえて見せるから」

 ミリアスの決意は固い。

 なら私のやることは一つだ、精霊鬼(フィリィア)の動きを見切る。


「分かった任せるわ」

 その言葉にミリアスはサムズアップで答える。


「さあ、くそ女かかって来やがれ!」


「では、30%」

 まだ見える。


「それ、40%」

 大丈夫いける。


「ふふ、50%」

 最初は手だけで切っていたのが今ならわかる。

 冗談抜きで手を抜いていたのだ。


「ほらほら盾がもう持ちませんよ。60%」


「うるせぇ、お前の全力でも受けきってみせらぁ!」


「良い度胸ですならば100%で行きましょうか」

 その言葉と共に、ミリアスの盾は粉々に切り裂かれ後ろに弾け飛ぶ。

 再度かけた守護星霊(プラネット)が、致命傷を回避してくれた。


「さあ、次はそちらの小さな方ですか?」

 精霊鬼(フィリィア)はマリアに切っ先を向け挑発する。

 マリアが攻撃しようとするのを私は止めた。


「お姉様、なんで止めるんですか」

 やる気になっていたマリアは抗議の声を上げる。


「大丈夫、あの女の弱点は見切ったわ。私にやらせて」


「さすがはお姉様です!」

 嘘である、ミリアスと違いマリアでは防御力が違いすぎる。

 精霊鬼(フィリィア)の一撃をマリアは防ぐことが出来ない。

 だから、私がいくのだ。


 とは言え、弱点が見えたと言うのは嘘ではない。

 この精霊鬼(フィリィア)はばか正直なのだ。

 フェイントと言うものが一切ない。

 そして、最も重要な事は自分の力を過信して自惚れていると言うこと。

 良い例が私だ、自惚れは隙につながる、先程痛いほど分かった。

 精霊鬼(フィリィア)に勝つには、その隙に活路を見出だすしかない。


『ケンケン頼みがあるの』

 私は作戦をケンケンに伝えて、協力をあおいだ。


『分かったやってみよう』

 私は振り向きざま精霊鬼(フィリィア)に切りかかった。

 精霊鬼(フィリィア)の100%は踏み込まなければ出せないからだ。

 踏み込む前に攻撃する、受け身ではなく攻勢に出る私の動きを見た精霊鬼(フィリィア)は躊躇無く前に踏み込んだ。

 100%よりも動きが早い、まさに全身全霊の120%の動きだ。


 だけど勝った、私は剣を突きで放つ。


 その瞬間勇者の剣(ブレイブソード)は槍に形状を変化して伸びる。

 私のスピードと精霊鬼(フィリィア)の120%の全力のスピード。

 更にケンケンが槍に変化して間合いが一気に伸びた。


 私の攻撃は光速にも達する程の刹那(せつな)の一撃。


 精霊鬼(フィリィア)と私は打ち合い互いにすれ違う。


「嘘でしょ……あれを避けるの?」

 ダメだった矛先が精霊鬼(フィリィア)に当たる瞬間、刀で軌道をずらし刹那の一撃を避けたのだ。

 だが、避けた本人はわなわなと肩を震わせている。

 敵属性! 精霊鬼(フィリィア)の表示が赤くなる。


「きさま! よくも、よくもマスターから頂いた服を切り裂いてくれたな!!」

 見ると袖口が少し切れている、本当に少しだ。


「許さない、本気で相手をして上げましょう」

 本気? 今まで本気じゃなかったの?


「来い!四王剣」

 その声と共に、虚空より四本の剣が地面に突き刺さる。


「精霊転じて……」

 だが、精霊鬼(フィリィア)がその先の言葉を唱えることは無かった。


 精霊鬼(フィリィア)が地面に突っ伏している。

 精霊鬼(フィリィア)が立っていた場所には一人の可憐な少女が立つ。


 精霊神である精霊龍(メルティナ)、精霊の中の精霊、神と同等の存在。

 その力は無限、魔王さえも(ひざまず)く世界の理。

 なぜそれがここに。


「貴様、本当に殺すぞ」

 精霊龍(メルティナ)は倒れている精霊鬼(フィリィア)の頭を蹴りつけそう言い捨てた。


「酷いですよ精霊龍(メルティナ)様、何するんですか」

 いつの間にか緑表示に戻った精霊鬼(フィリィア)が、不当な扱いだとばかりに精霊龍(メルティナ)に抗議をする。


「愚か者が、婿殿の(げん)を忘れたか!」


「忘れていませんよ、でも見てくださいよこれマスターに初めて買っていただいた服を切られたんですよ? 服を切られたんだから、切れても仕方ないですよね?」


「なに上手いこと言った、見たいにどや顔しておるのだ」

 そう言うと精霊龍(メルティナ)精霊鬼(フィリィア)の頭をげんこつで殴る。


「痛いですよ精霊龍(メルティナ)様、初めては大切なものなんですよ? 初めても痛いんですよ?」


「婿殿にもらった全ての力で復元する(エリキシー)で直せばよいだろうに」


「分かってませんね精霊龍(メルティナ)様、これも大事な初めての贈り物のなんですよ? 乙女心もう少し理解しないとマスターに嫌われますよ?」


「うるさいわ、ゴブリン風情に乙女心とか言われたくないわ!」


 なんで漫才が始まったの? 意味が分からない。

 それにゴブリン? 誰が?


「まあよいわ、帰るぞ」


「仕方ありませんね、もう少し相手をしたかったのですが」


「ちょ! 何なのよ」

 私は唐突に帰ると言い出した二人に怒鳴り付ける。

 当たり前だ、殺すと言っていた奴をこのまま逃がすわけにはいかない。


「勇者マイラよ、今日の所はこれで引き上げよう、だが次に会ったときが貴様の命日だ!」


「なんだそれは」

 精霊龍(メルティナ)精霊鬼(フィリィア)の捨て台詞に首をかしげる。


(しず)様に帰ってくるときは、こう言えって言われたんですよ」


「ふん、あやつも相変わらず意味がわからんな。ん、マイラ?」


 私の名前を聞き、私の方にツカツカと歩み寄る。


「貴様、マイラと言うのか?」

 その目は闇、漆黒の闇、見ているだけで魂が消えてなくなりそうになる。


「そうよ」

 私は目をそらし、一言だけ答えた。


「そうか、貴様はこれから大いなる絶望を味わうことになるだろう。だがそれは予定調和なのだ、自身を責めるなよ」

 その言葉はあまりにも慈悲深い、なぜ? なんの事? 疑問は尽きないが問いただす事など出来ない。


精霊鬼(フィリィア)行くぞ」


「待ってくださいよ」


 なぜか私たちは殺されること無く、精霊達の蹂躙劇は終わりを告げた。


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インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
『おさじょ』に出てくるアディリアスとウルティアの二人の神たちの物語 『聖剣のネクロマンサー』
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