精霊鬼襲来
私はマリアを芝の上に寝かせ、頭をなでる。
『ケンケン。なんで私、あんな風になったの?』
『人を殺した事で心に負荷がかかりそれを、勇者の記憶で軽減させたために、心が勇者の記憶に乗っ取られかけた』
『ねえ、シンヤは誰かに捨てられたってことなの?』
捨てられたと言う感情が私を支配した、あの感覚。
寂しくて寂しくて体が千切れるほどの苦しみだった。
『……分からない』
『もしかして力に呑まれた勇者は魔王になるの?』
『いや、魔王ではなく亜人になる』
亜人? ハコブネの人たちみたいな獣人になる?
『亜人って魔族と現地人のハーフじゃないの?』
『中にはそう言うのもいるが、亜人自体は勇者の子孫だ』
ケンケンが言うには、亜人は真の力に目覚める前の勇者が闇落ちした姿で、真の力に目覚めた勇者が闇落ちすると獣神といって破壊することだけを目的とした獣に落ちる。
その力は強大で勇者に匹敵する。
私は獣神になるところだったそうだ。
だから殺すしかないという結論に至った。
普通あそこまで落ちたら、もう元には戻らないらしい。
覚醒前の堕ちた勇者はハコブネに収容され一生をハコブネ内で過ごす。
『私もハコブネに入ったほうが良いの?』
『論理的、心情的にもそうして欲しいが、我にはもう主を止めるすべがない』
『そうね』
また落ちるかもしれない者を野放しにはしたくないだろう。
それに、ケンケンが使える只一つの呪文を防いでしまったのだから、もう彼には私を止める手段はない。
それにしても、私の魔法を防いだあれはいったいなんだったんだろう。
『あれはシンヤにも出来ない』
つまり、もっと上位の存在がいる?
不完全な神シンヤ、完全な神がいる?
まさか封印された神が復活してる?
いや、それは無いか。復活してたらもっと大事になる。
何せ気狂いの神様だこの世界を壊しかねない。
とは言え、私も地球を攻撃したんだから、あまり人の事言えないか。
「なあ、マイラ姐、マリアを連れていかないって本気か?」
「本気よ」
「何でだよ仲間だろ」
ミリアスはマリアはパーティーメンバーじゃないって言っていたのに、はずすとなると不貞腐れだした。
「ダメよ、私はこれ以上マリアを傷つけたくない」
「俺は良いのかよ」
「あなたはガリウス様から頼まれてるから」
「なんだよそれ……。仲間だからとかじゃないのかよ」
その言葉に私は黙る事しかできなかった。
ミリアスやマリアは大切な仲間だ。
でも、今それを言えば嘘になる。
「なにも言わないのかよ」
「……」
「分かった、俺もパーティーを抜ける」
「そう、分かったわ、あなたの好きにしなさい」
ガリウス様に頼まれたけど、本人が望むなら仕方ないわ。
「本気かよ」
「本気よ。これからの旅は危険も多くなるし、私もいつ暴走するか分からないしね」
そう言われたミリアスは、武器を投げ捨て、マリアをかついでサラスティのほうへ荒々しく帰って行った。
みんなの精神的な休息の為、今日はここで夜営することにした。
皆疲弊している、私もだけど。
その晩マリアとミリアスが言い争いをしていた。
マリアが私の寝ているテントに入ろうとしていたので、防御魔法で立ち入り禁止にした。
今は会いたくないのだ。
翌朝、テントを出ると一人の少女がキャンプの入り口に立っていた。
黒髪が朝露に濡れキラキラと光ってとてもきれいだ。
「お早うございます、勇者マイラ」
そう言うと彼女は腰の刀を抜き、ニコリと笑った。