暴走
「やることも決まったし早速行きましょう」
「でもマイラ姐、足がないよ」
「足ならあるわよ?」
そう言うと私は森の一角を指した。
これだけのキャンプを人が運べないのは少し考えればわかる。
魔法で偽装しているので普通はわからないが、私にはマップがある。
この先に10頭の馬がいる。
多分、馬車もあるはずだ。
馬がいる方に行くと、案の定偽装魔法で馬車や馬が隠してあった。
馬車が3台もある中を確認したら食料や日用品…があったので二台は馬車ごとアイテムボックスに入れてありがたく貰っておきましょう。
馬を2頭馬車に繋ぎ皆のいるところまで戻る。
「じゃあ行きましょうか?」
「この盗賊はそうするんですか?」
マリアが尋問した盗賊の処遇を聞いてきた。
聞くことでもないだろうに。
神代魔法 風の一文字「エアル」
盗賊は膾切りになり、バラバラと崩れ落ちた。
「じゃあ、行きましょうか」
「……はい」
三人から恐怖心が出てるけど気にしない、私は強くならないといけないのだから。
私の心をどす黒い何かが覆う。
『主よ、残虐になることと強くなることは違うぞ』
『残虐? 私が?』
ケンケンは何をいっているんだろう。
私が残虐? この世界のルールに従っただけなのに。
だいたいこの世界の人間は地球の人類とは別種なのだ。
それを殺したとして残虐になるの?
地球では人を噛んだ犬は殺処分されるという。
つまりはそう言う事なのだ。
こいつらは人間じゃない。
私も人間じゃない。
そうだ、強くなるために人間じゃだめだ、もうっと違うものにならねば。
じゃないとまた失う。
誰を?
『いい加減にするんだ、主よ』
『いい加減にするのはあなたよケンケン、これ以上私の邪魔をするなら折るわよ』
「おられても構わない、主よ泣きたい時は泣いても良いんだぞ?』
なんで泣く。
別に私は悲しくない。
彼が、メルウスが居なくても悲しくない。
『悲しみがトリガーになって心が勇者の記憶に侵食されてるぞ、泣いて気持ちをリセットするんだ』
私は泣かない、強いから。
強くなったから?
宝玉を手にいれたから?
もう私は必要ないの?
『止めるんだ、その考えは主の考えじゃない、シンヤの思考だ』
おいてけぼり?
一緒に連れていってくれないの?
私は、いらないの?
『主……駄目なのか?』
こんな世界いらないの。
あの人がいない世界なんて。
『だめか主よ。だめなのか?』
私は置いて行かれた、こんな世界いらない。
壊そう生きとし生けるものを。
壊そう世界を。
滅んでしまえ汚れた世界。
『さよならだ主よ勇者no終焉』
さよなら
ケンケンのその言葉と共に私の体から血が吹き出す。
赤い、赤い、世界が赤い。
終われ、終われ、世界よ終われ。
外部からマナを強制的に体に取り入れることにより私のからだの崩壊が始まる。
そうかこれがケンケンが言っていった一つだけ使える魔法か。
勇者と魔王を滅ぼす魔法。
私の破けた服からメルウスからもらったネックレスがこぼれ落ちる。
″みんなも、大切な仲間も殺すのかい?″
私の中の、どす黒い何かが消え去る。
あれはメルウスの声?
私は顔をあげ、周りを見る。
ミリアスやマリア、サラスティまでからだから血を拭き倒れている。
なんで皆まで。
″勇者と魔王を滅ぼす魔法″
そうかこの魔法は範囲魔法なのね。
『ケンケンこの魔法を止めて、みんなが死んじゃう』
『無理だ主よ、すべて終わった』
終わらせない、みんなを死なせない。
私は大魔法使いで勇者のマイラ!
この位の困難なんて屁でもない!
マナが体を崩壊させているなら、そのマナを魔力変換させて魔法で消費させる。
今、私のMPは9999あるから変換したとしても消費出来なければ体の崩壊は止まらない。
マナも魔力も過剰供給は細胞を著しく傷つける。
魔力をすべて使いきる魔法は、一つだけある。
ただ、ターゲットがない。
その魔法は流星群の進化魔法、星芒陣。
ありったけの魔力で対象に隕石攻撃をする魔法。
対象は、この星の物ではこの星に甚大な被害がでる、それでは意味がない。
私は空を仰ぎ見た、そこにターゲットがあった。
月……。
そう元地球のあの月、あれを標的にする。
マナを私に集中させ、魔力に変換したおかげで3人の崩壊は止まった。
この魔力で魔法を撃つ。
「星芒陣」
その呪文に呼応して、上空に数種の魔方陣が現れる。
それがいくつも連なり星芒型を作る。
星芒型魔方陣の中央より、大量の流星が元は地球であった月を襲う。
もう誰もいない死んだ星だけど、ごめんなさい。
流星が地球を襲う瞬間、全ての流星が掻き消えた。
いや、正確には吸い込まれたと言った方が良いだろうか?
地球の目の前に、黒い渦が現れ全ての流星を飲み込んだのだ。
「どういう事なの?」
誰もいない星とは言え、地球を攻撃するのは罪悪感があったので当たらなくてよかったとは思うけど。
私は倒れている三人に回復魔法を使い傷を癒した。
「うぅ、いたい何が?」
ショックから回復した皆が口を揃えて疑問を口にする。
「ごめんなさい、私が暴走しました」
魔法を使ったのはケンケンだけど、そうさせたのは私だ。
『……』
「なぜ、こんな……」
マリアが初めて会ったときのように震えながら私を見る。
また、トラウマを刺激したのか、それとも新たなトラウマを植え付けてしまったのかもしれない。
「マリア怖がらせて、ごめんなさい」
これ以上彼女に怖い思いをさせたくない、いや、嫌われたくないのだ。
ここで決断をしなければ。
「マリア、あなたとはここでお別れします」
「何を……」
「これ以上あなたを傷つけたくないし、嫌われたくないの。わかって?」
その言葉にわなわなと震えだし、私の服の袖をぎゅっと握る。
「私は、お姉様が好きです。はなれたぐないです」
マリアの体はガクガク震え、顔は涙と鼻水でグショグショになっている。
そんなに怖いのに私の側にいたいの?
いいえ、違うわね。
マリアは私の事を考えて、一人にさせたくないと思っているんだ。
優しい子だ。
私が怖いのに、こんなに怯えているのに。
私は彼女が、いとおしくなり抱き締めた。
彼女はそのまま気絶した。
ごめんね、マリア……。