策略
サラスティは花嫁修行のためチバケイン神国の学園に通っていた。
数日前、同じ学園に通う同室の友人が大怪我をした。
それは片腕を失うほどの大ケガだった。
サラスティは躊躇なく親友に回復魔法を使い、部位欠損を回復させた。
そこまでの回復魔法は神国に目をつけられる、なぜだか知らないが神国には回復魔法を使う者の生殺与奪権がる。
つまり、この事がばれると命の危険があるのだあ。
だから、回復魔法は見ざる言わざる聞かざると言うのが貴族の間では暗黙の了解なのである。
しかし、チバケイン神国側に情報が漏れた。
当然と言えば当然だ、人の腕が生えてくるわけだから不振に思わないものはいない。
とは言え、他国の貴族の子弟である自分をどうこう出来るはずがないと思っていた。
だけど、サラスティは神国側に連行された。
まず、神国にその力で協力する気はあるかを聞かれた。
ベルナルド王国の者なのでそれは出来ないと伝えた。
協力できないのであれば国外退去処分にすると言われた。
悪いことをしたわけでもない他国の貴族の子弟を国外退去処分にするなどふざけた国だと思ったけど、殺されるよりましだと思った。
とはいえ、生殺与奪権など大袈裟な噂だったのだろう。
国外退去は納得いかないが、親友を助ける事が出来たそれだけで満足だった。
サラスティは意気揚々とチバケイン神国を出国した。
そして今に至るわけか。
「多分、あなたは盗賊に襲われ死んだことにして、神国に協力させようとしたと言うことかしら?」
「多分そうだと思います」
先ほど言えなかったのは、マリアが神国出身者だからだったのかな。
「でも、なぜ神国はこんな無法なことを」
そう言うと彼女はマリアをちらりと見る。
「神国は貴女のような三流国家の貴族の娘など、どうとでも出来る権力をもった国なのです」
侮蔑の眼差しで見られた事に苛立ったマリアが挑発的に言い捨てる。
今のはサラスティが悪いかな、チバケインとアキトゥーは別な国だ同じに扱われれば誰だって怒る。
「申し訳ありませんマリア様、先ほどの無礼をお許しください」
彼女は空気を察したのか、礼を尽くして謝る。
「謝ってすむなら憲兵隊はいらないわ」
そう言うとそっぽを向く。
「おいマリア、彼女も謝っているんだ許してやれ」
「うるさいわね色ボケタンク」
「誰が色ボケタンクだ!」
とうとうマリアとミリアスが喧嘩をしだした。
まあ、やらせておこう、ここで止めても心にわだかまりができてギスギスするだけだ。
さて、問題はこのままベルナルド国に彼女を連れ帰っても神国の圧力がかかるだろう、手に入らないなら殺せと言うこともあるかもしれない。
そもそも、使徒は殺すのが神国の存在意義なのだ。
放って置くわけがない、つまり彼女の危険はとり除かれていない。
引くか、進むか……。
このまま彼女を国に送り届けても危険があるのだから当然ミリアスはサラスティの元に残るだろう。
それだと私も残らないといけなくなる。
ミリアスを守るのはガリウス様との大事な約束だ。
つまり、私に残された道は前進あるのみ。
猪突猛進ね。
「よし! 決めたわ」
マリアとミリアスの殴り合いの喧嘩を終了させ、私は今後の方針を話した。
「マイラ姐、本気かよ」
「さすがお姉様です、私もとことん付き合います」
「そなん事が……」
そう、これしかない。
私達の目標と彼女を救うためには……。
「チバケイン神国をぶっ潰すわ!」
「こんな時に兄貴がいてくれれば……」
その言い方だと、まるで私がおかしいこと言ってるみたいじゃない。
「お兄様ならチバケイン神国にいらっしゃいますよ?」
「「「は?」」」
「グランヘイム王国第二王子ミノバ=ディル=グランヘイム殿下ですよね?」
私たちの驚きに確認するように名前を言うのだけど。
メルウスの事ではなかった。
「違うけど。というか、ディルのやつチバケイン神国に居るの?」
「はい、グランヘイム唯一の生き残りとして臨時政府を発足しております」
「唯一って、俺も居るんだけど」
ミリアスは、自分が死んだことになっていることに不快感を表す。
「そうなんです、ミリアス様は死んだと聞いていたので……」
ミリアスが生きているのはアキトゥー神国を通じて王国連合に連絡が行っているはずなのに。
つまり、この事件に王国連合が絡んでるとしたら、戦争が起きても不干渉の可能性がある。
そして冒険者ギルドもその性質上、神国寄りなのは疑う余地がない。
最悪、冒険者ギルドも敵になるわね。
こんな時に彼が居れば、良い案を出してくれたろうと思わずにいられなかった。