すれ違い
夜中に目を覚まし焚き火の方をみるとウィルソンが夜番をしていた。
護衛を受けておきながら夜番をしない事をウィルソンに謝罪をした。護衛がふて寝するなんて最悪だ。
だが、ウィルソンは全く気にする様子もなかった。先程から、自動的に魔物を撃退されているのを眺めているだけなので楽なものでしたと言ってくれた。「しかし、この魔法はすごいものですな」そう言って感心するのだった。
俺はもう一度謝り、ウィルソンと夜番を代わってもらった。
焚き火に薪をくべとパチパチと弾ける。
焚き火の炎を見ると思い出す。村で焚き火を囲んで二人で踊ったダンスは社交場でのダンスと違い、お遊びのようなダンスだが楽しかったな。
別に婚約とか結婚の約束した訳じゃないし、俺が一方的に想いを寄せてただけだ。恋人ができたミスティアを恨むとかお門違いなのだ。
一人で悶々としていると、マイラが荷馬車から降りてきて俺の横に座る。
俺は少し腰をずらし、マイラから離れる。だが、マイラは更に寄ってくる。丸太の椅子はここで終わりだ逃げ場はない。
「私のこと、お嫌いですか?」
マイラは悲しそうな顔で、俺の顔を覗く。
「好きとか嫌いとかじゃないです。異性の方にこんなに近づかれたことはあまり無いもので」
うちの村に同世代の異性はミスティアしかいない。みんな母と言って差し支えない年齢の人しかいないのだ。
そう言えば、ミスティアもお構いなしで抱きついてきたりしてきたっけ。
「夕食の時の話し、考えてもらえたでしょうか?」
夕食の時? なにか話しただろうか。俺がキョトンとしていると、思い出せないのを察したのか、もう一度説明しだす。
「ガリウス様と一緒に、冒険者になる話です」
ああ、その話か。この娘はめげないな。
「その話なら断ります、貴女の旅の安全を保障することができませんから」
「大丈夫です、自分の身は自分で守ります」
マイラは両手でガッツポーズをとってやる気を見せる。
「ゴブリンに追われてたような娘がですか?」
少し厳しいようだが全く戦えない娘を同伴して冒険者などできるわけがない。
マイラはそう言われると、二の言葉がですに下をうつむく。
しかし次の瞬間は勢いよく立つと、俺の前に来て宣言する。
「でしたら強くなります。ガリウス様の迷惑にならないように強くなります、その時はガリウス様の仲間にしてください」
何が彼女をそうさせるのか、俺のどこがそんなに良いのか分からないが。さすがにここまで言われて断るのはかわいそうだ。
「そうですね、仮に貴女がA級冒険者になるようなことがあったら一緒に冒険しましょう」
A級冒険者はこの国には数えるほどしかいない。さすがにこの子には無理だろう。
「ガリウス様 、言質取りましたからね」
そう言うとにこにこ笑った。
「マイラさん」
「マイラでいいです」
間髪いれずに呼び名を正そうとするが、ご両親がいるのに急にマイラとか呼んだら勘ぐられるからね? 空気読んでね?
「マイラさん、俺には好きな人がいるんです幼馴染で勇者のミスティアです」
俺はミスティアのことを包み隠さず話した。
「それでも私は諦めません、必ず振り向いてもらえるように頑張ります」
なんで、この娘は……。俺もマイラさんのような強さが欲しい。
それに、まだ完全にふられたとはかぎらないんだ一度会ってみよう。結論を出すのはそれからでも遅くない。
婚約が事実ならおめでとうと言ってこの国を去ろう。
マイラさんと話し込んでいると、東の空が紫色に変わってきた。どうやら夜明けのようだ。
俺たちは朝食の準備を始めた、昨日の残りのスープを暖めパンで朝食を取った、マイラはこのパンがお気に召さないようで、柔らかいパンが食べたいと嘆息の息を漏らすのである。
柔らかいパンってなんだ?
俺たちはテントや調理道具を片付けると、一路城塞都市へと出発した。
夜営地から馬車で半日程進むと城塞都市が見えてきた。壁は大木よりも高く見上げるほどだ。夜営地からは魔物に襲われることもなく快適な旅だった。
門の前は3台ほどの荷馬車が止まっており荷物の検査を受けていた。俺達の番が来るとウィルソンは守衛に通行手形と何かの書類を見せる。上等な紙でできたそれは商人ギルド証だそうだ。のこの都市は商人が優遇されており商人ギルドに入っていれば通行税は免除される、無論、護衛の俺も免除された。
「アスチラン地方から来て護衛が一人とは無謀な連中だ」守衛の隊長が呆れる。
ウィルソンが俺に助けられたことを言うと、騎士団試験を薦められた。
今度の騎士団試験は、勇者パーティーの補充もかねているそうなのだ。
勇者パーティーかもし俺を必要だといってくれるなら俺はミスティアと一緒に魔王を倒そう。もしも嫌な顔をされたらこの国を出よう。さすがに愛し合う二人の邪魔をするほど厚顔無恥ではない。
しかし、わざわざ外から勇者のパーティーメンバーの為に騎士団員を募集するなど騎士団には強い兵がいないのだろうか?
「ベテランの騎士の方を連れては行かないのですか?」
それを聞かれた守衛はばつの悪そうな顔をして答える。ベテラン勢は既にロートルで役職もあり気軽に勇者の一行に加われないのだ。それで若い連中にいかせようにも若い連中では実力不足。そこで実力のある者を騎士団に率いれて勇者のパーティーに加えようというのだ。
実のところ上の者共は死ぬにが怖いのだと言う。第十八王子が勇者のパーティーにいて魔物との戦いで死亡したそうでだ。
だから役職付きまでに上り詰めたお偉方がわざわざ死地に赴く理由はないにだとか。
そしてこの話には続きはある。
王子を助けられなかった事にに憤慨した王がミスティアを糾弾した。王族を傷つけたことと同義だと言うのだ。
理不尽だがそれがまかり通るのが権力なのだそうだ。そこでランスロットがミスティアに助け船を出した。ランスロットのギュリアム家は王に連なる血統の家で、昔から王家に使え将軍なども輩出する軍人貴族だそうだそうで、その自分と婚姻し王家の縁者となることで今回の件は不問にして欲しいと王に懇願したそうなのだ。
嵌められたんじゃないのか? そう思うのは俺の嫉妬だろうか?
商業ギルドに着くと、ウィルソンは俺とマイラを商談室に案内し、そこで待つように指示してきた。
狭い空間に男女を閉じ込めるって親としてどうなの?
案の定マイラは獲物を狙うようなエロい目付きしてるし。
「そんなに、警戒しなくても大丈夫ですよ?」
いえいえ、油断したところをガバッと襲う気でしょ!
「ちゃんとA級になってあなたを迎に行きますから」
「やだ男らしい、惚れちゃいそう……って普通は逆ですよね」
「迎に来てくれるんですね! お待ちしてます」
そう言って二人して笑い合った。何気にマイラさんとは冗談が言い合える中になっていた。
二人で談笑してるとウィルソンと奥さんが入って来た。
「お邪魔でしたかな」
そう言うウィルソンの顔は、微笑ましい物を見るようにニコニコしている。親公認の仲みたいな雰囲気出すのやめてくださいね。
ウィルソンは俺に護衛の報酬を渡すと再度お礼を言う。皮袋は重く中には金貨がゴッソリと入っていた。枚数を確認すると金貨が32枚入っていた。
ウィルソンに確認するとB・オーガの素材が思ったよりも高値で売れたそうなので、その増加分だそうだ、本当にお人好しだ……。
俺はそこで皆に別れを告げた。マイラは寂しそうにしていたが、約束通りA級を目指すと言って息巻いていた。
「必ず!あなたの隣に行きますから!」
俺はそれに手を振って答えた。少し名残惜しかったがまずはミスティアだ。
しかし会う方法が無い、どこにいるのかも知らない。取り敢えず町をうろうろした。ブラブラと町を歩く姿はまるでうだつの上がらないダメ男である。
しばらく町を散策していると魔法屋があった。
折角MPは大量にあるのだから魔法を習ってもいいかもしれない、そう思うと俺は魔法屋に足を踏み入れた。
薄暗い魔法屋の中は色々なマジックアイテムやま魔導書などがところ狭しと並べられていた。
「何かようかい?」
そこにいたのはいかにも魔法使いと言う老婆だった。
「魔法を教えてもらおうと思って」
老婆は鼻をフンッと鳴らすと水晶を台の上においた。
「この水晶に手をかざしな」
俺は言われるままに手をかざす。
老婆は一瞬驚愕の表情を浮かべるが、すぐ落胆したようにため息をつく。
「あんた、魔力量はとてつもないのに魔術回路がないから、魔法は使えないね」
老婆の説明では魔法使いとは魔術回路を持つものだそうで、俺は魔力量こそすごいのだが魔術回路が無いので魔法は全く使えない無能力者らしい。
正直に言えば魔法剣士に憧れていたので悔しい。
「世間には魔術回路が三つもある特異な奴もいるのにね、もったいない」
それでも、魔力を武器などに込めると強化できるそうなのでその方法を教わった、魔力操作を20万G、金貨2枚でね。
魔力操作が何気に優秀で身体強化や目眩まし、用途は多彩だ。
俺はそこで色々な魔術知識に関する話を聞いた。身体操作と言えど知識は必要なのだ。
なかなか有意義な時間を過ごした。
魔法屋の店を出て宿でも探すかと門前地区まで戻ろうとすると、目の前を歩くカップルの男が裏路地に女性を連れ込みキスをしだした、女性は少し抵抗したが、そのまま身を任せていた。
前を通りにくいな、とは言えこちらに行かないと門前地区には戻れない。なるべく見ないように通りすぎようとしたのだがそこはそれ男の子だもん見ちゃうよね。
男は金髪のイケメンで女は……銀髪の……。
その女性と目が合った、会ってしまった、ミスティアに……。
「ガリウス……」
ミスティアは俺を見る。蔑むような目で。
俺は魔力操作で身体強化して逃げた、屋根の上に飛びひたすら逃げた、気がついたら城壁の外の森にいた。
人が飛び越えられる城壁って役に立たなすぎだろ。
俺は森のなかで大の字に寝転がった。
別に誰が悪い訳じゃない、たぶんあのとき一緒に行かなかった俺自身が悪いのだ。
それにミスティアのピンチを救ったのはあの男なんだろう、メチャメチャイケメンだったな。
俺は大声で笑った森に響き渡るくらいに。そして泣いた悲しみを忘れるために。
俺はミスティアの隣にはいられない、ミスティアが選んだのはあの男だ。俺は選ばれなかった。
どのくらい泣いただろうか、森の中なので時間がわからない。辺りはどこもかしこも草や木が生い茂り現在位置さえ分からない。これでは帰り道わからない、まあ城塞都市に帰る必要もないか……。
まずは街道にでないとな、とは言え方角もわからない。俺は石を取り真名を考えた。導き……いや違うか? 道を照らし出す……こうじゃないな、調子が悪い、思いつかない。
ショックのせいで頭が回らない。
面倒だ鑑定の時の文言を流用しよう。汝は全ての道を示す者その石を俺の胸の前に近づけると、石は光だしマップが写し出される、そして石は粉々になり崩れ去る。
マップを見ると城塞都市から30kmも離れてる。どんだけがむしゃらに走ったんだよ、失恋だけでこんなになってしまう自分にあきれた。
街道はこっちの方か、当然道など無い見渡す限り森だ。習ったばかりの放出系の魔力操作使ってみるか。目眩ましはMP上限がないMP1で目眩ましなら俺の全MP使ったらどうなるんだろうと言う疑問があった。試し撃ちをするにはこの場所はちょうどいい。
俺は街道の方向に手を向け、魔力を全開で放った。
その一撃は木々を薙ぎ払い地面を削った。
「魔法いらないじゃん……」
俺はその驚愕する威力に驚き譫言のようにつぶやいた。
取り敢えず、歩き易くなったのは儲けものだな。
ステータスを見るとMPは0になってる。完全にカラカラだ。特に体に違和感はない、むしろスッキリした感じがする。
だが次の瞬間MPが増えていく。数値が回復していく。どうやらMPは0まで使っても自然回復するようだ。
あれ、レベルが201になってる。
護衛のときにB・オーガ倒したけど、あれそんなに経験値ないだろ?
その時、天啓が聞こえた『必殺技命名(動作を行うときに命名すると効果倍増)』自己暗示の時と同じだ、つまり今レベルアップしたのか。
しかし、俺は何を殺したんだろう。人間じゃないよな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは魔王城の魔王の間、魔王が配下の者が勇者暗殺のために送られた部隊の全滅報告を受ける。
「魔王様、暗殺部隊が全滅しました」
「バカな! LV100 越えの者10人だぞ」
「はい、物見鳥の報告では一撃で消し飛んだそうです」
「ありえん、勇者側はそんなかくし球があると言うのか」
「早急に! 早急に幹部および魔物の強化を行え、どんな手段を使っても構わん」
「はっ! 我が君の仰せのままに」
「勇者め……」
この事件を経て3年後、更なる強さになって魔王軍は進軍を開始するのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
取り合えず次の都市は王都か、そう言って見上げる空には一匹の鳥が舞うだけだった。
隠魔を暴き追撃するがその鳥を迎撃した。
「あ、魔物だったのね」
俺の浸ってた心返して……。