空いた心の穴は大きい
マリアは来た道を何度も振振り返る。
何度も立ち止まっては、ため息をつく。
待てば、来てくれるかもしれないと思っていてるのだろうか?
「マリア、気持ちはわかるけど……」
「なんでなんですか、なんでメルウスを一人でいかせるんですか!」
感情を爆発させ大声を張り上げるマリア、好きな人と別れるのは辛いのだろう。
その気持ちは痛いほどわかる。
「それはもう何度も話したでしょ」
私だって彼と別れたくない。
だけど、彼は別にやりたいことがあるようなのだ。
勇者の剣の宝玉が偽物に変わってる。
なぜか、ケンケンも気がついていない。
彼は罪悪感からか、私が目覚めた日は一度も目を会わせてくれなかった。
分かりやすすぎですよ。
まあ、宝珠は強くなってから、また取りに行けば良いのだけど。
彼は宝珠を何に使うつのるなのだろうか。
「お姉様、聞いているんですか!」
「あ、ごめん聞いてるわよ」
「やめないかマリア、マイラ姐だって辛いんだ」
ミリアスが諫めるが、馬耳東風である。
「大体お姉様ばかりペンダントもらってズルイです」
まあ、そんな所だと思いましたよ。
私だけがプレゼント貰えたから僻んでたんですね。
分かります、分かります。
「それについては俺もズルイと思う」
あれですか? ミリアスさんはBLな方ですか? ヲトメ電波で腐女子さんが異世界召喚されますよ?
「まあ、第三婦人の約束してるしね」
私は二人にドヤ顔で答える。
「だからなんなんです第三婦人って」
「な・い・しょ」
私だって彼と別れて寂しいのに、これはマリアをからかって憂さ晴らしですね。
「わかりました、この憤りはお姉様の操をいただくことで癒します」
しかし、マリアは節操無いですね、ビッチですか、あなたは処女ビッチですか!
「ほうほう、この私の罠スキルを突破できると?」
「ええ、やって見せます、そしたら私が第三婦人です!」
一番じゃなくて良いんだ?
「まあ、決めるのはマイラ姐じゃなくて兄貴だろ? マリアはそんな風に怒ってばかりいたら兄貴に嫌われるぜ?」
「うぐぐ」
やめたげて、マリアのHPは0よ!
「マリアは本当に会ったときから成長しないよな」
「うるさいわよ、ミリアスのクセに」
「はいはい、分かりました、分かりました」
「ふん」
王子と王女でこの差は正直ひどい。
ミリアスは嫌われものを演じていたと言うのも、あながち嘘じゃないみたいだ。
「でさマイラ姐、先ずはどこ行くの?」
「ウルガスの塔はこの大陸の最南端グデルア山脈を抜けた先、つまり国を三つ抜けないとたどり着けない」
「じゃあ、先ずはチバケイン神国に行くんだね」
チバケイン神国、六大神国の一つで黄色を冠する神剣を持つ国。
まあ、私達が使徒な訳じゃないし、マリアもいるから大丈夫でしょ。
「チバケイン……。クリス……」
その言葉を呟くマリアの目には怒りの炎が燃えていた。
嫌な予感しかしない……。
「マリア、チバケイン神国に知り合いでもいるの?」
「あの国は使命を放棄した最低の国です」
マリアはメルウスの事も忘れてチバケイン神国の愚痴を言う。
使命は守らないくせに発言権を無くさないために神剣は手放さない。
使命よりも金に目の眩んだ守銭奴だそうだ。
まあ、通りすぎるだけだし絡むこともないでしょ。
マリアは一頻り騒ぎまくったらスッキリしたのか落ち着きを取り戻した。
「なんにせよチバケイン神国を通らないとウルガスの塔には行けないしね」
「お姉様、先ほどは取り乱し申し訳ありませんでした」
「良いのよ、でもマリアも20歳なんだから少しは落ち着かないとね」
「すみま……何で年齢知ってるんですか」
まずい、マリアは13歳と言うことになってたんだ。
鯖読んでるの忘れてた。
「ちょ、おま20歳なの?」
ミリアスが驚愕の表情でマリアを見る。
そりゃそうだ13歳で通じる見た目なんだから。
「いやあああああ」
マリアは叫び声をあげて顔を両手で隠ししゃがみこむ。
「マリア、ごめんなさい」
「なんでお姉様が謝るんですか」
まあ、そうなんだけど。
「ほら私前世の記憶あるじゃない、だから足せば30歳だから、これからもお姉様って呼んでね」
正確には31歳だけど、いやどちらの星かでまた違うしね。
魔法使いにもなったんだから今が30歳です。
「良いんですか?」
「マイラさんって呼ばれるほうが嫌よ」
この間の喧嘩とか最初に会った時のこと思い出しちゃうしね。
「分かりましたマイラお姉様」
そう言うと顔をあげてニコリと笑う。
守りたいこの笑顔。
「俺はマリア姐って呼んだ方がいいか」
「そんな呼び方したらブッ飛ばすからね」
「わかりましたマリアさん」
その言葉と共にバコンっと言う音が辺り一体に響き渡った。
横たわるミリアスを見ながら気を付けようと思う今日この頃だった。