別れは突然に
「ええと、どう言う状況なのかな?」
椅子が倒れた衝撃で目が覚めたメルウスが驚いた様子で私を見る。
いつもは何があろうとも起きないメルウスが今日に限って寝覚めが良い。
「ええと、ラッキースケベの影響です」
「だよねマイラが不意打ちでキスするとかないよね」
すみません、ごめんなさい、許してください!
そんな純粋な目で見ないでください。
仕方なかったんや……。
「あ、マイラ姐起きたんですね」
「良かった二日も起きないから心配だったんですよ」
ミリアスとマリアがドアを開け一緒に入ってくる。
喧嘩はもう大丈夫なのかな?
倒れる前みたいな険悪な雰囲気ではないけど。
「二人とも仲直りしたの?」
「まあね、兄貴に言われてさ俺も国が無くなったとき情緒不安定になったのを思い出してね」
「私も何度も助けられたのを忘れて、自分の身は自分で守るなどおろかなことを言いました」
「まあ、それも兄貴の仲裁のお陰だけどね」
やっぱりメルウスはこのパーティーの要よね、私じゃどうすることも出来なくてバラバラになってたわ。
「ありがとうメ……。なにやってるのマリア」
そこには倒れたメルウスに抱きつくマリアがいた。
「お姉様が起きるまでイチャイチャを自粛してましたので、メルウス成分を補充してますの」
「そうですか」
私は彼女の襟首を掴み引き剥がす。
「さて、みんなに話したいことがあります」
みんなが私を囲むように座り私を見る。
「先ずは、私が勇者と言うことを黙っていてごめんなさい」
「それはもういいよ、みんな納得したし今後の方針をどうするのか聞きたい」
ミリアスが謝罪よりも今後の方針を聞きたいと言う。
私がやった事は謝罪ではすまないし、取り返しがつかない。
「分かったわ、じゃあ今後の方針を伝えます、メルウス以外全員LV200以上を目指す為にウルガスの塔に登ろうと思います」
ウルガスの塔。この世界の杭と言われるあの塔の周辺あ10km圏内は異世界の魔物の巣窟で侵入者を察知すると大量の魔物が襲いかかってくる。
「確かに、あそこならレベルアップにはもってこいかもしれませんが」
「それと、メルウスとはここでお別れします」
「「は?」」
ミリアスとマリアは目を見開き鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「お姉様なにを言っているんですか! メルウスは……」
「私達は弱い、私は魔王の力の一端を見たわ、その力の前ではあなた達同様一歩も動けなくなった」
そう、前にマップで見た魔王はシンヤと同じレベルカンストだった。
つまり最低でもシンヤと同じ強さと言うこと、今の私じゃ勝てない。
「だかって」
マリアはメルウスにもなにか言うように彼の方を向き促すが、彼は私の話をだまって聞くだけだった。
「メルウスが居れば必ず彼に甘えるわ、それじゃ肉体的にも精神的にも強くなれない」
ガリウスの隣に立つ資格がない。
「俺は理解したよ、マイラ姐がそうしたいなら付き合うよ、兄貴と別れるのは寂しいけどね」
「わたしは……」
マリアは助けを求めるような子犬の表情でメルウスを見る。
「分かった、俺もマイラの意思を尊重したいと思う」
メルウスもこの話に同意してくれた その瞬間マリアは絶望の表情を見せる。
まさにこの世の終わりのような顔だ。
その日はマリを説得するのに一日使ってしまった。
翌朝私達はシンヤに挨拶をしようとしたが部屋に閉じ籠り出てこないそうだ。
仕方ないのでアリエルとカイエルと長に挨拶をしてからハコブネから出た。
ハコブネを出ると沈黙が私達を包む。
ここでメルウスとはお別れなのだ当然だろう。
誰一人として喋らない。
その沈黙を破ったのはメルウスだった。
「マイラ、これ持っていてくれないか?」
それは金細工のペンダントだった。
「第三婦人へのプレゼント?」
「そう思ってもらっても構わないよ」
「ちょ! お姉様、第三婦人ってどう言うことですか!」
マリアがキャンキャン騒ぐのを無視して私は彼に抱きつき小声で囁く。
「ガリウス様、必ずあなたの側に立てる存在になりますから」
彼は眉間をポリポリと掻き困った表情をする。
「ではメルウス、また強くなったら一緒に戦いましょう」
私達3人はメルウスと固い握手をして一路ウルガスの塔を目指した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「精霊龍、俺の変装ってそんなにバレバレなのかな?」
その言葉を発すると、メルウスの横から黒い渦が現れ少女が二人と力無く抱えられた黒の戦士が出てきた。
「婿どのはセンスがないからな」
「次は貴族の服を着た仮面の戦士なんてどうだろう」
「絶望的にセンスないぞ婿どの」
その言葉にメルウスは項垂れる。
「じゃあ、一つに戻るか」
メルウスは黒の戦士に触れると闇の霧状態になり彼に吸い込まれていった。
黒の戦士が立ち上がり体をブンブン振る。
「マスター首尾の方はいかがでしたか?」
精霊鬼が彼に寄り添いしなを作る。
「おい貴様、馴れ馴れしく婿どのにさわるな」
「首尾良くいったよ」
そう言うと彼は懐から輝く石を取り出す。
「それが魔王を倒すための宝玉か」
「正確には魔王石を取り出すための触媒なんだけどね」
「さすがマスターです」
精霊鬼はガリウスを褒め称え腕にまとわりつく。
「貴様、本気で殺すぞ!」
「精霊龍様は正妻なのですから、もっと余裕をお持ちになられた方がいいですよ」
「正妻……。うむ、そうだな正妻だしな」
精霊龍に見えない角度で、彼にいたずらが成功した子がするような表情を見せる。
「で、次はどうするんだ婿どの」
「取り敢えず、静にこの宝珠を使えるように加工してもらわないとね」
「なら、魔王討伐はその後か」
「そう言うことだねじゃあ村に帰ろうか」
そう言うと彼は呪文を唱えた。
「龍脈の転移門」
二人を先に通すと彼はマイラの歩いていった方角をみやる。
「どうか無事で」
そう呟き彼もゲートを潜った。