バラバラな気持ち
私は倒れたメルウスを部屋まで運ぶと、アイテムボックスから桶と水を取り出した。
それにタオルを浸しメルウスの体を拭こうとしたら、マリアとミリアスがマッタをかける。
自分達が拭くと言うのだ。
皆が皆、私が拭くと言って譲らない
よろしいならば戦争だ。
まあ、じゃんけんで決めましたけどね。
勝ったのはマリアでした。
マリアはメルウスの体を丁寧に拭い、汚れを拭きとるとベッドに寝かせ、マリアはベッドの横の椅子に座った。
まるでそこが自分の定位置であるかのように。
そして彼の髪の毛を撫でる。
いや、それ地毛じゃないからね? メルウスさんのその毛は魔物の毛で彼自身は無毛ですからね?
マリアに嫉妬していると彼女はすくっと立ち上がり私の方に振り向くと膝をついて頭を下げる。
「マイラお姉様、お姉様に酷い事を言ってごめんなさい」
「許してくれるの?」
マリアは私の言葉に首を振る。
「許すとか許さないとかじゃないんで
す、初めからお姉様は悪くなかったんです、私の八つ当たりでした。ごめんなさい」
「私は使命を果たさない臆病者の勇者よ」
だがマリアはなおも首を降り話を続ける。
自分達姉妹は、使命が何よりも優先すると幼い頃より教育されて来ました。
だから使命から逃げ出した姉が信じられなかった。
使命を投げ出すなんて信じたくなかった。
しかもその理由が色恋だと言う。
そんな事は信じられなかった、受け入れられなかった。
ありえなかった。
だからこれは使命を蔑ろにした私のせいだと罪を擦り付けていたのだそうだ。
でも、自分にも本当に好きな人ができて、姉の気持ちが少しわかったとと言う。
そう言うとマリアはメルウスを、ちらりと見る
姉が死を選んだことを肯定したくはありませんが理解はできたと言う。
「お姉様が許してくださるならまた一緒に居させてください」
「分かったわ、また一緒に……」
「ちょっと待ってよマイラ姐、マイラ姐、が許しても俺は受け入れられないよ」
ミリアスがマリアの謝罪を受け入れないと言う。
彼が言うには私とメルウスをあれほど侮辱し魔王討伐を目指す私たちを見捨ててパーティーを抜ける、つまりは私達を裏切ったというのだ。
だから、マリアを許すことは出来ないし守ることも出来ない、だからパーティーへの再加入は遠慮してほしいというのだ。
「守ってくれなくてもいい、自分の身は自分で守れる」
マリアはミリアスにそう言うがそれはいっちゃ駄目だ。
「それは俺が役立たずだと言うことか」
彼はタンク役としてよくやってくれている、マリアも何度も助けられている。
今の言葉は彼の自尊心を傷つけるには十分だ。
「そんな事は言って……」
「大体、貴様は普段から兄貴をバカにして嫌っていたじゃないか、今更どの面を下げて好きだというのだ!」
その言葉でマリアは次に繋ぐ言葉を失う。
私は知っていた、メルウスが止めていなければミリアスはマリアと衝突していた。
ミリアスはメルウスを尊敬していた、その彼を悪く言うマリアが好きではなかったのだ。
「ミリアスやめるんだ」
それはベッドに寝かされたメルウスから発せられた言葉だった。
「兄貴!」
「「メルウス!」」
目覚めたメルウスにマリアが飛び付き声を上げて泣く。
マリアさんミリアスへのヘイト値がガンガン上がってますよ。
まあ、命助けられたら惚れちゃうのも仕方ないよね?
あれ、デジャブ。
「心配かけたね」
彼はそう言うとマリアの頭を撫でる。
そして私達二人にも彼は謝る。
謝らなきゃいけないのは私達なのに。
魔人に手も足も出なかった弱い私達。
「メルウス、マスクを取って顔を見せて欲しいの」
マリアが唐突に素顔を見たいと言う、彼の顔が焼けただれてるのは知っているのに。
「見ても気持ちのいいものじゃないよ?」
「お願い。ちゃんとあなたの顔が見たいの」
メルウスはその願いに了承するとマスクをはずした。
その顔はいつも通りの焼けただれた顔だ。
マリアはその顔を凝視すると一言呟いた。
「愛しています」
その言葉を言うや否やマリアはメルウスの唇を奪う。
「な! 貴様何をしている!」
ミリアスが怒髪天をつかんばかりの怒声をあげ、マリアに掴みかかろうとする。
私はそれを止めたがモヤモヤする。
「マリア、不意打ちでそう言うことするのは良くないと思うわ」
マリアはスクっと立つと私の方に向き直る。
「お姉様。恋愛は戦争ですよ、私はメルウスをお姉様に譲る気はありません」
「私は……」
「お姉様はガリウスが好きと言いながらメルウスに惹かれていますよね?」
「それは……」
「私はお姉様を愛してると思っていました、ですが私は分かってしまったんですお姉様への気持ちは憧れだったと言うことに」
そしてまたメルウスにキスをしようとする。
もちろん私は阻止しましたよ?拳で。
その後ミリアスも参戦してぐちゃぐちゃな展開になって、結局メルウスは私と同じ部屋で寝ることになった。
一人で寝かせたら確実にメルウスは喰われる。
ミリアスと寝かせても危うい、マリアの性にかける労力は無限大なのだ。
「じゃあ俺は神に会いに行ってくるよ」
そう言えば後で来いとか言っていた。
「一人で大丈夫?」
「一人で来いってことだしね、大丈夫だよいきなり殺すようなことはしないと思うよ」
そう言うと彼は神の間へ向かった。
まあ、私は一人でいかせませんよ。
隠密のスキルを使い距離をおいてから彼の後をつける。
神の間ではシンヤと彼が会話をしている。
盗み聞きになるけど彼の命の安全の為だ、私は地獄耳のスキルで会話を盗み聞く。
「我を恨んでいるかのう?」
「魔王石がなくても蘇生できること?」
「違う、そんな体にしたことじゃ」
「いや、恨んでないよ俺のためにしてくれたことなんだろ?」
「記憶が戻ったの!?」
「いや、戻らないようだね」
「そうなの……」
「口調が変わってるよ」
「そうじゃな……」
「なあ主よ、主を抱き締めてもいいかのう? いや、少しで良い抱き締めたいのじゃ」
「構わないよ」
しばらくすると嗚咽が聞こえた
女性の声だシンヤが泣いている?
あのシンヤが?
『ああ、そう言うことか』
『なにケンケン急に、何か分かったの?』
だけどケンケンはなにも答えてくれなかった。