黒ノ籠手(クロノガントレット)
前話を二分割して再構成しました。
前話も題名、話しが微妙に違います。
御手数をお掛けして申し訳ありません。
翌朝、私達は猫耳メイドに起こされ、朝食をとると再び神の間に集まった。
マリアは私の顔すら見なし、挨拶にも答えてくれなかった。
神の間ではシンヤとアリエル、カイエルの両名がすでに待っていた。
「これから瘴気炉に送るぞ、準備は良いか?」
「はい、お願いします」
瘴気炉とは、女神の封印から溢れる瘴気を一ヶ所に集め魔物を発生させる場所で方舟の中にある。
そこは東京ドームよりも遥かに広いドーム状の場所だった。
中央には石が大量に置いてある。
これに瘴気を吸収させ魔石感染による魔物発生を意図的に起こすのだ。
「みんな、戦闘準備!」
「はい」「了解」「ふん」
皆いつものフォーメーションをとる。
マリアは私を嫌っていても、いつも通りちゃんと動けるのはさすがだ。
円形の中央の穴から黒い渦が石の方に向かって落ちてくる、まるで竜巻が発生する瞬間のようだ。
黒い渦が石に吸収されて黒く染まっていく、石が黒く染まって宝石のような物になると、そこから受肉が始まり魔物と化す。
次々と魔物が増え出口に向かう。
これ本当に攻撃してこないんだよね?
さすがにこの数を相手にするのは大変だ。
「なんで攻撃しないのよ!フレイムシュート!」
その声と共に私の後ろから炎の熱線が魔物を焼く。
「あんたの愚図な指示なんて待てないのよ」
なんで?
なんで、攻撃したの?
「雑魚は攻撃しちゃダメって、シンヤに言われたでしょ……」
「は?」
「来るぞ!」
ミリアスが叫んだ。
全力でやらないとパンドラの魔獣の前に死ぬ。
私がやらないと。
魔物の数が2千、3千どんどん増えていく。
ミリアスが決死の囮を使うが、ミリアスを無視して最初に攻撃したマリアに魔物が向かい襲いかかる。
「きゃああ!」
マリアの叫びがこだまする。
「流星群」
私の魔法は、マリアに襲いかかる魔物達を霧散させた。
「お、お礼なんか言わないわよ」
「バカ、今はそれどころじゃないでしょ、しっかりしなさい!」
「う、うるさいわよ!」
私にしかられて気が入ったのか、私たちに補助魔法をかける。
体勢を整えた私達は、連携を取り戻し魔物を駆逐し始めた。
だけど、この数はまずい。
勇者の魔法を使えば、ある程度は間引けるがMPが持たない。
だけど、そんな事言ってられないか。
私たちの体力や魔力がガンガン削られていく。
同じ削られるなら、少しでも数を減らした方がいい。
私は勇者の魔法で、一気に雑魚を殲滅した。
しかし、完全に焼け石に水だった。
二千体程狩ったあたりで、マリアの魔力が尽きてしまった。
だが彼女には剣技や武術がある、戦力低下にはならない。
「マリアとミリアス、3人で固まるんだ、マイラは俺たちを気にしないで自由に動いてくれ」
メルウスの指示が飛び二人はメルウスを囲むように立つ。
3人を守りながら闘うより、私を一人で戦わせた方が効率が良いと言う判断だろう。
「分かったわ、3人とも死んだら駄目だからね」
出来るだけ魔物を3人に近寄らせないように、彼らを中心に円を描きながら魔物を倒す。
それから20分程して、私達は魔物を殲滅した。
魔力がもうない、完全にエンプティーだ。
あぶなかった。
みんな満身創痍で、その場に崩れ落ちた。
これで終わりだよね?
パンドラの魔獣って、どいつだったんだろ。
私は宝珠を探すために、倒した魔物の魔石を鑑定して歩いた。
その時、石を積み上げていた場所で爆発が起こった。
煙が晴れると、そこには裸の女性がたっていた。
「「あぁぁぁああぁ」」
マリアとミリアスが恐怖に顔を歪め、足をガクガクと震わせその場に跪く。
まだだった、パンドラの魔獣はまだ倒してなかった。
その肌は透き通るように白く、黒い髪に赤い瞳、顔はとても美しい。
そう魔獣と言うには、とても美しい。
あ、あれはパンドラの魔獣じゃない。
勇者の記憶にある魔獣はドラゴン系ばかりだ。
人形など、今までになかった。
つまり、あれは魔人だ!
「オンナ ハ シネ」
魔人の手からエネルギー波が飛び出し、マリアを襲う。
間に合わない、私からマリアまでは距離がありすぎる。
「危ない!」
メルウスがマリアを庇うように突き飛ばす。
しかし、魔人が出したエネルギー波は、メルウスの左腕を吹き飛ばした。
「メルウス!」
私は彼に駆け寄ろうとしたが、魔人が私の目の前に立ち腕を振り上げる。
魔人の爪が私を襲う。
私はそれを勇者の剣で迎撃する。
何度も何度も、私を切り裂こうと魔人の爪が容赦なく襲う。
「この爪勇者の剣でも切れない」
その爪は一撃毎に強く速くなり、私の体を切り裂き出した。
私の首を襲う爪を、なんとか避けたその直後、さらに速度を増した一撃が繰りだされた。
知覚することは出来たが、体を動かすことができない。
避けられない、せめて皆だけでも助けないと。
命に変えても。
その覚悟とは裏腹に、その爪は私を襲うことはなかった。
私を襲うはずだった魔人の腕が、宙を舞い。
片腕を失ったメルウスが、剣を振るい魔人と対峙していた。
無くなったはずの腕に、黒色の籠手を纏って。
◆◇◆◇◆◇◆
「メルウス!」
マイラお姉様があ叫び声にも似た声でメルウスを呼ぶ。
メルウスの腕が消え去り、私の体を彼の血が濡らす。
「バカ! 弱いくせに、なんで私を助けるのよ!」
私はメルウスに寄り添い傷に治療魔法をかける。
「治らない、なんで治らないのよ!」
メルウスの傷が全く治らない回復が遅いとかそういうレベルの話じゃない。
魔法が作用していない。
「ごめん、俺の身体は魔法が効かないんだ」
「嘘でしょ、なんで、そんな……。レベルが無いからなの? 」
メルウスは黙って頷く。
「なんで私なんかを守るのよ」
「大切な人をな守るのに理由がいるのか?」
大切? 私が?
「でも、私はメルウスにもお姉様にも酷いことを言った」
「気にするな、酷い事を言ったと思うなら後で謝ればいい」
「……はい」
でも、血が止まらないよこのままじゃメルウスが死んじゃう、誰か助けて。
マイラお姉様! クロイツ姉様!
お願いメルウスを助けて。
″グォングォン″
どこからか低く、くぐもった音がする。
辺りを見回すと私の目の前に黒い渦が現れ一本の剣が飛び出す。
それは黒ノ神剣だった。
なんで、黒ノ神剣がここに?
黒ノ神剣は形が崩れ霧状になるとメルウスの無くなった左腕の付け根に集まる。
それは、形をなし腕となった。
「マイラを助けないと」
彼はそういうと目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。
ここから暫く書き溜めますので更新遅れます。