最低な狩り
マイラ編に戻りますがグランヘイム侵攻作戦と同じ日の話になります。
アキトゥー神国から1年後の話です
拝啓、父様、母様マイラは元気です。
最近、マリアが私にベッタリなのですが……。
どうしてこうなった……。
説明しよう、現在私のとなりにはマリアが寝ている一糸纏わぬ姿でだ。
最近スキンシップが激しいとは思っていたんですよ。
朝の挨拶にベローチューって意味わからないですよね。
王族の朝の挨拶はこれですよとか言われて。そういうものなのか、挨拶ならノーカンだよねとか考えてた私が甘かった。
昨日は危なかった貞操を奪われそうになった。
さすがに殴りましたよ、拳骨です。
そして今、私の隣で裸で寝ているわけです。
もちろんロープで縛ってね。
「お姉様、酷いですよ……」
「酷いのはマリアでしょ、人の初めて勝手に奪おうとして」
「好きな人の初めてが欲しくなるのは、仕方ないことですよ?」
「相手の意思を無視してそういう行為を行うのは、強姦と言って最低の行為です」
「王族なら普通ですよ?」
「その王族常識やめなさい、今後キスも禁止です」
「ぶううっ」
キスも禁止されたマリアは不満の声を漏らすが、どう考えてもあのキスは性的だ。
「今後はメルウスと一緒に寝ます」
そう言われたマリアはメルウスは男だと反発するが、正直マリアと寝るよりも安心できる。
だいたい、このままマリアと寝ていたら確実にやられる。
「お姉様はメルウス、メルウスってメルウスを贔屓しすぎです」
「だって、メルウスは頼りになるじゃない」
「この間だって昼間に意識失うし、足手まといじゃないですか」
「仲間でしょ、なんでそう言うこと言うの?」
メルウスは真奈美に襲われてから、時折気絶するようになった。
大丈夫なのか聞いたが迷惑をかけてごめんと言うだけで、容体を教えてくれない。
ただ、気絶する時が分かるのか、事前に教えてくれるのでありがたい。体に異常がなければ良いのだけど。
現代の医学知識があれば何とかなるのかもしれないのに。
まあ、私は死んだときは高校生だからたいした知識もないのだけど。
「私はメルウスが嫌いです」
マリアはそう言い捨てるとそっぽを向く。
そろそろハコブネに着くと言うのに、パーティーメンバー同士の信頼は無いに等しい。
こんなんでパンドラの魔獣倒せるのかしら。
私はだだっ子をあやすようにマリアの頭を撫でる。
私が手を少し上に上げると、マリアはビクッとする。
まだ、あの時のトラウマが抜けてないのだ。
罪悪感が私を苛む。
私がマリアに今一つ強く出れない原因でもある。
マリアの縄を解くと彼女は私に抱きつく。
「キスしてください」
「嫌です」
そう言われ、マリアは目に涙を浮かべる。
私はこの顔に弱い、マリアは超美少女なのだ。
その美少女が捨てられた子犬のような顔をして泣くのだ。
あざとかわいい……。
「わかったわよ、軽くよ? 舌は入れないでね」
「お姉様からしてください」
そう言うと目をつむり顎を上にあげる。
私はマリアの唇に軽く口づけをする。
マリアは私の頭に手を回し口腔内に舌をいれてくる。
また、このパターンだ。
そしてマリアのディープキスは上手いのだ。
気持ちいいので抗うことが難しい。
なんとか頭を叩くとマリアが舌を噛んだ。
「おねえざまひどいでしゅ」
「ひどくないでしゅよ」
私はベッドから起き上がると、目にも止まらぬ早さで着替えた。
ゆっくり着替えているとマリアが舐め回すように見るので、急いで着替えていたらいつの間にかスキルとして発動するようになっていた。
「あなたも早く着替えなさい」
「したをちりょうしてくだしゃい」
「自分で出来るでしょう」
そう、マリアはあれから1年間魔法を鍛えたのだ。
マリアは魔法剣の魔術回路は無く、魔法を魔法剣のように使っていたそうだ。
そしてマリアの魔術回路は二つ攻撃系と補助系どちらも上級を超えて超級や神級に至れるスペックを持つ。
末恐ろしい魔法の才能だ。
現在は上級魔法もいくつか使えるようにまでなっていて、パーティーではリベロ的な役割をしてもらっている。
私はマリアを残し部屋を出た。
ドンッ
「なにやってるの」
そこには私の開けた扉で顔を殴打したミリアスがいた。
「ええと……マイラ姐が襲われてないか聞き耳を立ててました」
私は彼の頭を拳骨で叩くとメルウスの部屋に向かった。今日は一日中気を失うと彼から言われたので念の為容態を確認する。
ベッドに寝ているメルウスはスヤスヤと気持ち良さそうに寝息をたてている。
脈を診て呼吸を確認するが特に問題はないようだ。
しかし、メルウスがいないときは気が抜けない。
というか安らぎがない。
メルウスのベッドの横の椅子の座るとメルウスは仮面をつけたまま寝ていた。
「寝るときくらいはずせばいいのに」
今日1日意識を失うからなのか、誰に見られても言いようにつけっぱなしなのだろう。
私はマスクを外してやる。
マスクをチェックしたが特にほつれなどはない。
少しカスタムするか。アイテムボックスから素材を出す、
この間倒した黒飛龍の鱗だ。
この黒龍、なかなかの強さで少し手間取った。
ランク的にはメンバー全員S級パーティー推奨の獲物だけど、今の私達なら問題なく倒せた。
『ケンケン細工用の小刀にチェンジ』
『……我は十徳ナイフじゃないんだがな』
ケンケンは何でもスパスパ切れるので、こういう作業で神アイテムなのだ。
作業をしながら、メルウスの火傷の跡を見る。
想い人がいると前に言ってたけどそれとこの火傷に関係があるんだろうか?
ガリウス様ならたぶん治せるだろう、今度会えたらお願いしてみよう。
そうこうしていると、マリアが扉をノックして部屋に入って来た。
「お姉様、お待たせしました」
マリアはドレス形の赤いレザーアーマーを装備している、武器は槍で私が魔物の素材を使い、かっこよくカスタムしてある。
この槍は魔法増幅器でもあるのでリベロである彼女にとって武器を持ち替える事なく魔法が使えるので扱い易いようだ。
私達はロビーで待っているミリアスを連れて、3人で朝食をとり狩場へと向かった。
「二人で狩りとか初めてですね」
いや、3人だからねマリアさん、ミリアスの存在もちゃんと認知してね?
最近はミリアスが少し大人になった、昔ならマリアに食って掛かったんだろうけど、今はマリアの言葉に過剰に反応しない。
「ここら辺の魔物は数が少ないですね」
ミリアスが一度も魔物とエンカウントしないことを訝しむ。
自分の感覚強化のためにマップを使っていなかったのだが、さすがに魔物が出なすぎる。私はマップを開いて周りの状況を確認する。
周りには一体以外の赤い光点以外無く他には魔物の光点は無かった。その赤い光点が私達に向かい近づいてくる。
赤色の光点の正体はドラゴンだった。
地竜系のアースドラゴン、ドラゴンの中では中の上と言ったところだ。
「なるほど、こいつのせいで魔物がいなかったわけか」
ミリアスが敵を引き付ける決死の囮を使う。
私は先制の一撃を与えるために飛び出した。
だけど私の前にタンク役のミリアスが突然現れる。
ぶつかる、私は剣を地面に叩きつけて急制動した。
「お姉様、あぶない!」
マリアのファイアーランスが私たちを襲う。
私はアクアウォールを出しファイアーランスを相殺した。
その後もまともな連携がとれなく、何度となくピンチになる。
「ありえない、この程度のドラゴンに」
マリアがなかなか倒せないことに苛立ちを覚える。
「二人とも下がって」
私は勇者の力で無理矢理に単独撃破した。
二人の消耗が激しく一人で戦った方がいいと判断しらからだが、失敗だった。
二人の自尊心はガタガタになった。
こんなとき、メルウスがいれば良いフォローが出来るんだろうけど。
「連携メチャメチャだったね」
その言葉を聞きさらに二人は落ち込む。私はこういうの苦手だ、コミュ症と言ってもいい。
しかし、今回は全然動けなかった。
いつもなら軽く倒せた魔物だ。
メルウスの指示がないだけで、これほど違うのか。
彼の指示が的確で、それに慣れていた。
私達はたった一体倒しただけで満身創痍になってしまい、狩を切り上げて帰ることにした。
ヘトヘトになりながらも、夕日が沈む前に町にたどり着いた。
宿に帰り部屋に戻るとメルウスが目を覚ましていた。
私たちが暗い表情をしていると、どうしたのか聞いてきた。
マリアが怒鳴りながらメルウスにあたる。
「あなたの指示がなかったから今回は散々だったわよ! 良かったわねこれであなたが有能だと知れて!」
いかに自分達がダメだったかやそれに付随してメルウスは有能だと言うのを嫌味のようにいう。
メルウスは冷静に話を聞いていた。
よく切れないなと感心する。
ひとしきりマリアに不満を吐き出させるとメルウスはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「でもそれは仕方ない事だよ。俺は皆の後ろにいて俯瞰で皆の動きがよく見えるしね」
「だからって」
「それに、皆が強いから安心して俺は見ることに徹する事ができるんだよ」
強いと言われマリアは少し機嫌が直ったようだ。
「次からマリアが二人をサポートするような感じで戦えば上手くいくと思うよ、マリアは才能もあるし努力もしてるんだから」
「努力なんてしてないわよ、ばか」
マリアはそう言うと腕を組み、そっぽを向く。
あれは完全に照れてます。
メルウスさんマジ天然ジゴロ。
たしかに今回は最奥のマリアが、声を出して指示しなかった事が原因だ。
それは分かっていたが、私が言うとマリアは落ち込んでしまう。
メルウスが言うと、反発はするが相手を立てるので角がたたないのだ。
なんにせよ、明日はハコブネに到着だ。
できれば誰一人欠けずにパンドラの魔獣を倒したい。
というか絶対殺させない。
『なあ、主よ』
『なに? ケンケン』
『主から魔力の高まりを感じるんだが』
私はステータスをチェックする。
『MP総量は変わらないわよ?』
『うむ……。もしや主は死ぬ前は処女だったか?』
このエロ性剣、何を言い出すかと思えば。
『藪から棒にセクハラですか?ケンケンさん』
『いや、地球人は30歳まで童貞や処女だと大魔法使いになれるんだよ』
『とっくに30歳越えてるわよ』
『死んだのは何歳だ?』
『17歳で死んだわ7月4日生まれよ』
『今14歳か、なるほど、後3日で30歳だな』
『いや、どういう計算するとそうなるのよ』
『この星の1年は変動しており安定していないのだ、そして主の30歳の誕生日は3日後と言うことだ』
『大魔法使いって私勇者なんだけど勇者やめるわけ?』
『ちがう、勇者で大魔法使いだ、魔法の操作が今まで以上に旨くなりMPが10倍になる、』
『なにそれ、お得じゃない!』
『正し気をつけろよ、急にモテ期が到来するからな』
『いや、今でもモテてますよ?』
『ラッキースケベとか、やばい確率でくるぞ』
『何言ってるのか意味がわからない……』
『主の場合メルウスとの仲に注意だ』
『ちょ、なんでメルウス』
『いや、主、メルウスに惹かれてるだろ』
『ないない、無理矢理そう言う方向に持っていかないでよ』
『そうか……すまない』
なんでも恋愛関係に持っていくのは良くないともいます。
私とメルウスは親友です。
ケンケンの下らない話を切り上げ私達は夕食をとるために食堂に向かった。
その時、メルウスがつまずきよろける。
私はとっさに彼を支えるが彼の顔は私の胸の中にあった。
『……な?』
ケンケンがこの状況を見てドヤ顔をする。いや見えないけど。
『ぐ、偶然でしょ……』
「ちょっと! メルウスお姉様の胸は私のなんだからね!」
私の胸は私のですよマリアさん?
「ごめん」
そう言うと彼は顔をあげる、私の唇と彼の唇が軽くあたる。
「あーーッ!!」
『え、え、え、?』
『……な?(どや)』
今にも切りかかりそうな勢いでメルウスせまるマリアをなだめ、私達は食事に向かった。
もちろん細心の注意を払ってね。
あれだけ注意したのに、あの後三回もラッキースケベにあってしまった。
度重なるラッキースケベにマリアは爆発寸前である。
一応、大魔法使いの事は話したんだけど。「ばかにしてるんですか?」と一蹴されてしまった。
お姉ちゃん、あなたに嘘ついたこと無いよね?
それなら、私がお姉様の純潔いただきますとか言う始末だし。
せめて大魔法使いになるまでまってね。
大魔法使いになってもあげないけどね?
ミリアスはなんで俺じゃないんだと、ぶつぶつ言って頭を壁に打ち付けて怖いし……。
「取り合えず、今日から3日間は一人で寝ます」
「そんなー」
マリアが悲壮感を漂わせ顔を歪ませる。
「朝も言ったでしょあなたとはもう寝ないって」
「うぐぐ、お姉様のばか!」
マリアは乱暴にドアを開けると自室に帰っていった。
大魔法使いになれば真奈美に届くかもしれない。
今でもまだ勝てる気がしない。
できるパワーアップならしないとね。
私も一人部屋を新たにとると、自室に戻り明日に備える為に早めに寝る事にした。
「おやすみなさい」
読んでいただきありがとうございます。
次話は今週中にあげたいと思います。