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グランヘイム侵攻作戦

1年飛びます。




 マイラ達がアキトゥー神国の王都に着いてから1年が経った後の事である。


 近隣諸国からグランヘイム王国のクーデターを治めるために兵が終結した。

 その数およそ30万。


 アキトゥー神国の国王アキトゥー=ミソラ=ベルクネスは今回のクーデターの首謀者は使徒だと王国連合に報告したのだが。

上層部はそれを揉み消し、ただのクーデターとした。

 これはグランヘイムの土地を我が物にしようとする近隣諸国からの横やりのためであった。

すでに近隣諸国どうしで分割の割合も決められており、黄のチバ神国、の青オオニャキャ神国が賄賂で動いたのも大きかった。

 すでにアキトゥー神国が口を出せる状況にはなかったのだ。


 この戦の総大将を任されたのはルメラ13世、グランヘイムより西側に位置するトメラス帝国の帝王であり、今回横やりをしてきた主要人物でもある。


 トメラス帝国は軍事国家であり、徴兵制による人手不足で慢性的に食糧難にあり、豊穣の地であるグランヘイムを手にいれなければ死活問題なのである。


「しかし、ここら辺の魔物は桁違いに強いですな」

 そう漏らしたのは彼の副官であり重臣でもあるヌツリムである。

 たしかに彼が言うとおりなのだが、それ以前に見たことがない種類の魔物ばかりなのだ。


ルメラは焦っていた、簡単なクーデター鎮圧のはずであった。

 小娘を捕らえて処刑すれば良いだけの簡単なお仕事のはずだった。

 それが今だグランヘイム王国領土にさえついていないのだ。


それから一時間ほど進軍すると、目の前を巨大な壁が行く手を阻む。


「ありえない、なんだこの巨大な壁は」


 かなり前から見えていた。

 しかし、大きすぎて壁と認識できなかったのだ。

 その外壁は天端が雲を突き抜けておりまるでそびえ立つ山のようであった。


 だが街道沿いの先には城門があり、これなら簡単に突破できると思われた。

いくら城壁が高くても城門さえ突破してしまえば関係ない。

 城門は城を守るうえで最大の弱点でもあるのだ。


 ルメラは意気揚々と進軍すると門の前に10人の兵がいた。


 1人は裏切者の勇者ミスティア。

 9人は男の戦士のようだ。


「一応、投降勧告をしろ」

 ルメラは出来れば勇者も欲しかった、勇者を手にいれれば名実共に世界の覇権をとれる。


「勇者ミスティアとその一味よ、おとなしく投降せよさすれば命まではとらんぞ」


「ギャハハハ! 命までは獲らないとよ」

「アホか、お前らが狩られる側だっつーの!」

 勇者以外の男達が下卑た笑い声をあげ思い思いの罵声を30万の軍勢に投げかける。

 勇者ミスティアがいるとは言え、10対30万だ、あまりの劣勢に気でも触れたのか、ルメラは殺してやるのも情けと考えれ進軍の合図を送ろうとしたその時、9人の男が声を揃えて叫んだ。


「「「「「「「「「ウルフドライブ」」」」」」」」」


 その刹那、先鋒隊1000人がすり潰された。


「せ、殲滅せよ!」


 ルメラ13世の号令の元、一斉に軍が動いた。

しかし、その号令が終わる前に2000人の兵が死んだ。

だが、勝ち戦と言うこともあり士気が高いトメラス軍は怒涛の勢いで9人に襲いかかる。

悲鳴や怒号が飛ぶ、この数でかかればいくら強くとも時間の問題だろう。

ルメラは楽観的だった。

だが数十分後、血の海にルメラは立っていた。


「バカなバカなバカな30万だぞ、30万の兵士が数十分で全滅するなど、ありえん、これは夢だ、悪い夢だ」

 ルメラの顔からは覇気が消え失せ。すでに軍の負けを受け入れているようであった。


「ヒャッハハハ、命だけは取らないでいてくれてあ~りがっとさん」

「おっと時間だ」

 そう言うと彼らは身体中から血の霧を吹いた。

「ヒャッハァァァ血のシャワーだぜぇ」

 彼らは両手を広げて自分の血を浴びて喜ぶ。


「なあ、ミスティア! 総大将の首取ったら、お前を一日自由にできる権利くれよ」

「……勝手にすれば良いい」


 ミスティアは眉ひとつ動かさずに男の言葉を受け入れる。


「よっしゃー」

 9人の男たちは我先にとルメラに向かった。

 側近が数人生き残っているが、9人の男達の前には時間の問題であろう。


 ルメラは死を覚悟した。


  どこからともなく一陣の風かルメラの頬を撫でる。


「ぎゃあああ」


 ルメラに止めを刺そうとした男達の悲鳴が響き渡り体中を切られのたうち回っていた。

 その男たちの中に立っていたのは黒髪の美しい少女だった。


「お、お前は実験体1号!」


 男達が色めき立つ。

 それもそのはずである。

 彼女は実験体として作られ、あまりにも強く制御不能のため廃棄処分にされた存在である。


「お前は死んだはずじゃ」


「人々を助けるために甦った」


「ゴブリンの癖に言うじゃないか」

 こんな美しい少女がゴブリンとか何をいっているんだとルメラは思う。


「鬼神剣 一ノ技 鏡面反射」


 少女が刀を上にあげ切っ先を斜めに落とす。


「しゃらくせぇ!」


 男が逆袈裟で彼女を切りつける。

 その斬撃は少女をいともたやすく切り裂いた。切られたはずだったが、切られたのは攻撃をしかけた男の方だった。


「ぎゃあああ」


「虎の威を借る狐のあなた達が、実験体とは言え精霊の私に敵うとでも? ああ、すみません狐じゃなくて犬っころでしたね」

 そう言うとかわいらしく笑い口元を隠す。


「糞が! お前ら精霊狼の絆(ウルフドライブ)を使うぞ!」

 切られた男が激昂(げきこう)して叫ぶ。

「ウルフドライブ!」

 だが、精霊狼の絆(ウルフドライブ)を使ったのはその男一人だけだった。

「なっ! なんでおめぇら使わねんだよ!」


「ヒャッハハハ、まだクールタイム経過してねーだろ、お前死んだわギャハハハ」


「あっ」


 その瞬間男の体は風船のように膨れ上がり破裂した。


「俺たち精霊狼の守護者ミスティアガーディアンズに、バカはいらねぇのよ」

 その男はやれやれと頭を振るとミスティアの方に顔を向ける。


「で、どうするよミスティア!」


「私がやります」

 ミスティアが剣を抜き実験体に切っ先を向ける。


「ミスティアさん、あなたが相手ですか?」

 実験体はゆらりと動くとミスティアに向き直る。

 

「そう、できればおとなしく殺されなさい」


「貴方とは戦いたくないのですが仕方ありませんね」


「来い四王剣」

 そう叫ぶと虚空から4つの剣が実験体の周りに突き刺さる。


1つは天聖剣 (すめらぎ)

1つは鬼包丁 悪鬼羅刹(あっきらせつ)

1つは魔神剣 深淵ノ監獄(コキュートス)

1つは斬魔刀 千鳥(ちどり)


「精霊転じて神となす。武装転神」


 四振りの剣が実験体を貫く。

 剣はみるみる吸い込まれそれと共に実験体は赤い装甲に覆われ鎧武者となる。

 光の角が額から一本現れ、ゴウゴウと唸る。


「あなたは獣化(バルチネス)しないのですか?」


 だが、ミスティアは剣を納めた。


「しないわね、あなたと戦ったら無傷じゃすまないしね、この門を守る任務に支障がでるわ」


「戦わないと言うことでしょうか?」


「必要無いでしょ、あなたは門を突破したい訳じゃないでしょ?」


「私は人間を助けたいだけ」


「なら、そいつら連れてどこへでも行くといいわ」


 その言葉を聞き実験体は虚を削がれたのか実験体は武装をを解く。

 だが武装を解いた瞬間、実験体の右腕が吹き飛んだ。


「ぐっ」


 油断したわね。

 そう、ミスティアの剣は空間を飛び越えて敵を穿つことができるのだ。


「片腕と言えど遅れはとりません」

 実験体は左腕で刀を持ち身構える。


「私一人ならそうでしょうね」

 実験体はミスティアと9人の男達にか困れていた。


「ミスティア!獣化(バルチネス)しようぜぇ!!」

 一人の男が我慢できないと言わんばかりに叫ぶ。


獣化(バルチネス)


 それを合図に残りの男達も叫ぶ。


 そこにいたのは9匹の狼、いや狼と言うにはその体は大きく鉤爪は恐竜のよような形状それは鉄をも裂く、足は動物のそれで形状はもう人間の足ではない。


「ギャオオオオォォォ」


 叫び声と共に一斉に実験体に襲いかかる獣達。


 統率のとれた動きの前に、実験体は技を出すこともできない。

 せめて武装転神していればここまで追い込まれる事はないのだろうが。

 実験体の武装転神は一日一回が限度であり、それはもう使ってしまったのである。


「所詮はゴブリン脳ね、人を信じすぎなのよ」

 ミスティアが哀れな生き物を見るように言う。


 実際実験体の脳は人と変わらないどころか機能的には人を越えている。

 裏切りなど無い魔物ゆえ疑うことを知らないのが欠点であり、人間から見ると恥じなければいけない部分なのかもしれない。


「でもさすがに精霊鬼ね、その出血量と片腕で良くやる」

 実験体は疑問に思う。

 この体は細部に至るまでコントロール可能なのに血が止まらないと。

 血が少なくなることで身体機能の低下が著しく、技を繰り出す隙がない。

 徐々に削られていく体力。


 絶対絶命のピンチ。


「死ねないマスターに会うまでは」


「今度は復活しないようにお前の体、食らってやるぜ!」


 八つの獣が実験体にトドメを刺そうとする瞬間、一条の光が獣を焼く。

 その光の発信源は上空からだった。

 それはドラゴン、精霊龍のドラゴンブレスだった。

 その背に黒の戦士を乗せ、地表に舞い降りる。


「また、あなたなの黒の戦士」


 ミスティアは1年前の記憶を思い起こす、感情を抜かれた状態の私が戦った相手だと。

 だけど今度は自分の意思もあり、パワーアップもしている、負ける要素はないと。

 黒の戦士、所詮は精霊龍の力を借りている存在なのだ精霊狼である私の方が強いはずだと。


精霊龍(メルティナ)以外の力が流込んでくるから何事かと思えば、まさか君はあの時の従属魔小鬼(ゴブリード)なのかい?」

「マスター! お会いしとうございました」

 実験体は大粒の涙を長し黒の戦士の前に跪く。

 黒の戦士は石を拾い全ての力で復元する(エリキシー)と名付け実験体に使う。

 傷はみるみる癒え右腕も元通りになる。


「君の力、借りるよ」

 黒の戦士は口のマスクをはずし実験体にキスをする。

「マスター……」

 実験体は黒の戦士を見てうっとりする。


「……精霊龍の絆(ドラゴンドライブ)精霊鬼の絆(オーガドライブ)


 黒の戦士は二つの力を一つにする、体から黒と赤の炎が立ち上ると鎧が血の色のような、どす黒い赤に変色していく。


 額から光の角が2本生えバチバチと唸りをあげる。



龍鬼土刀陣(フロストブレイド)


 黒の戦士を中心に地面崩れ下から無数の刀が敵を貫く。


「ぎゃああああぁぁ」


 6人ほどその攻撃で刀に貫かれる。

 2人は逃げることができた。


「キャハハあぶねええな」


 だが黒の戦士はその瞬間を見逃さず、目に求まらぬ動きで2人を沈めた。


「くそがぁ、ミスティアお前も手伝え!」

 だがミスティアは黒の戦士を見ながら、うわ言のように何かをつぶやく。


「おいミスティア! どうしちまったんだ!」


「見ないで、見ないで、ミナイデ」

 ミスティアは腕で体を抱え体育座りのような姿勢になると顔を内にうずめた。


 黒の戦士が徐々にミスティアに迫る。


「おい、動けミスティアやられちまうぞ!」


 仲間の言葉に反応することなくミスティアはただうずくまる、まるでカタツムリが外敵から身を守るように。

 黒の戦士はミスティアの頭に手を置いた、それでも彼女はピクリとも動かない。


「俺が君を必ず助けるから」


「私は汚れてる、助けてもらう資格なんて無い」


「全て俺が、俺の……」


「もう! 昔の私じゃないの! 獣神王(フェンリル)


 ミスティアは頭に乗っていた手を振り払うと雄叫びとともに獣神化する、血の涙を流しながらその姿を異形の者へと変化させ。


「ぎゃわぁあああぁ!」


 獣になったミスティアの動きは獣化(バルチネス)の比ではなく、まさに獣の王、獣の神、その攻撃が黒の戦士に迫る。


 しかし黒の戦士は避けない、避けられないのではなく避けなかった、何度も何度も打ち据えられるが反撃はしない。

 黒の戦士の兜が弾け飛び、その顔があらわになる。

 その顔を見たミスティアの動きが止まる。


「ガリウスじゃない……」


 その目は血よりも(あか)く、髪は漆黒よりも黒い闇。

 肌は白く透き通り、顔は見るもの全てを畏怖させる。


 ミスティアの獣神王(フェンリル)は解け、足を震わせ立つことも叶わなり跪く。

 黒の戦士は落ちた兜を拾いかぶり直す。

 

「ルメラ13世殿、この国には関わらない方がいい」


 そういい残し実験体1号を連れ精霊龍(メルティナ)に乗るとどこへともなく飛んでいった。


「ガリウス……」

 ミスティアは好きだった男を思い、ただその場にうなだれる。



◇◆◇◆◇◆◇



「マスター名前がほしいのです」


 実験体は黒の戦士に寄り添う。


「貴様、婿殿に気安く触れるな!」


 ただでさえ、黒の戦士に勝手に力を送って神気を乱され苛立っているのに、自分の背中にのり、なおかつ婿殿に触る事を許容できるわけがなかった。


「申し訳ありません精霊龍(メルティナ)様、私はマスターの(いち)配下です、恋愛感情はありませんのでご安心ください」


「ふん、頬を赤らめて言われても信用でんきんわ」


 黒の戦士が珍しく笑う。

 それが嬉しくて精霊龍(メルティナ)は実験体を許す気になる。

「そうだな、フィリィアでどうだろう神聖語で豊穣の大地って意味なんだ」


「ありがとうございます、すごく嬉しいです」

 笑顔のフィリィアを見て精霊龍(メルティナ)はわざと体を揺らす。

 バランスを崩し黒の戦士に抱かれるフィリィアを見て、精霊龍(メルティナ)は策略が失敗に終わったことを知る。


「婿殿、あとで折檻な」

「……」


 この年、グランヘイムの周辺諸国は大量の兵を失い国力を弱め魔王軍に蹂躙される事になるのだった。

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インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
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