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大きすぎる力の代償

 王城の馬車で宿屋に送ってもらうと、宿屋の前で父様が待っていた。


「おお、マイラお帰り心配したよ」

「ただいまです、お父様御心配おかけしました」

「そちらのお嬢さんはどなただい?」


 父様は気絶しているマリアを(かつ)ぐ私を(いぶか)しむ。

 私は父様に王城での経緯(いきさつ)を話した。

「マイラは少しおしとやかにしないとガリウス様に嫌われてしまうよ?」


「はい、すみませんガリウス様に会えて、テンションが上がってしまいました」

 たしかにマリアをボコボコにしたのはやりすぎだと思う。


 少しだけね。


『かなりやりすぎだと思うぞ』

『……』


 目が覚めたら謝ろう。


「マイラ、言いづらいのだけど」

 父様が申し訳なさそうに私を見る。


「どうしたんですか?」

「メルウスくんは死んだ」

 は? 父様は何を言っているの。


 メルウスが死んだ。


 うそでしょ。


「部屋はどこです!」


「204号室だよ」

 私は走った、周りの声も聞こえない。

 勢いよく開けた扉の先にはベッドに寝かされているメルウスがいた。


「マイラ……」

 母様の顔が沈んでいる。

 私はおぼつかない足取りでベッドに近づく。


 スゥ~。スゥ~。


 ええと、寝息立ててますよねこれ。

 手をとって脈を診る。


 遅れて父様やミリアスも入ってきた。

「……父様、メルウスは生きてますよ。悪い冗談はやめてください」

(つら)いのはわかるが、お医者様の診断結果なのだよ」


 ああ、そうかこの世界は魔法の世界だった。

 医療も魔法。

 魔法で状態異常やステータスをチェックするのだ、現代知識の無いこの世界の医者ではメルウスは死んでいるのだ。


 私は父様の手をとって、脈を測らせたり、寝息を確認させたのだが納得してくれない。


 医療の知識が皆無なこの世界では、魔法医の言葉は絶対なのだ。


 こう言う時は最終手段である。

「父様は魔法医と私の言葉どちらを信じますか?」


「うぐっ、マイラだな」


 そうです、父様は娘に甘いのです。


 メルウスは依然として起きない。

 私に医療の知識があれば、診断できるのに。


「うぅん」

 どうやらマリアの方が先に目が覚めたようだ。


「ここはど……ひぃ!」

 マリアは私の顔を見て震え上がる。


「あの……」

  私がマリアに声をかけると彼女は壁の隅まで這いずるように逃げ出すと頭を抱え怯える。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 許してください!」


 なだめようとしたが取り付く島もない。


 ああ、私は最低だ。


 こんな状態のマリアを見てはじめて分かった。


 勇者の力に酔っていた。


 力こそ正義だと慢心していた。


 思い通りにならないことは力で解決すれば良いと思っていた。


 相手の心を踏みにじってもかまわないと思ってた。


 相手を対等な人間と思っていなかった。


 どんな理由があるにせよ、人の思いを力で踏みにじって良い理由になら無い。

 ちゃんと話し合いでお互いの意見を擦り合わせるべきだった。


 つけあがっていた。思い上がっていた。


 絶大な力の前に私の心は腐っていた。


 だからこそ、王の前ですら礼を失するような暴挙に出たのだ。


 勇者の記憶など関係なかった。


 私は傲慢で慢心した愚かな勇者だ。


 ガリウス様は自分の力に溺れていなかった。

 あんなに強いのに,いつも悩んでいた。

 私はどうだった、気にくわないと人を殴り傍若無人の限りを尽くした。


 最低だ。


 人としても女としても。


 私は彼女に対し土下座で謝罪をした。


「ごめんなさい」


「ひっ!」


 マリアの驚く声が聞こえる。


「私は自分の思いを守るため、あなたの姉への思いを力で踏みにじりました」


「……」


「全部が全部間違いだとは思いませんが、方法を間違えました。ごめんなさい」


「ゆ、許しますから頭をあげてください」


 たぶん彼女は本当の意味では許していないだろう、恐怖から許してくれたのだ。

 これから本当に許してくれるよう努力しよう。


 私は仲直りの握手しようと思い手を出した。


「ひっ!」


 彼女は再び気絶した。


 ……ですよね。



 目を覚ましたマリアを落ち着かせるために自己紹介をすることになった。

 父様や母様が安心するのか二人の影に隠れるようにしている。


 マリアの名前はアキトゥー=クロウォリ=マリア、アキトゥーがファミリーネームで、クロウォリがミドルネーム。


 クロウォリは称号であり成人の日にクロを関した名前を授けられる。

 ちなみに姉の名前はアキトゥー=クロイツ=シルフィーネだそうだ。


 アキトゥー神国は日本のようにファミリーネームが前に来るので親しみやすい。


 そして彼女には許可がない限り半径2m以内に入らないことを約束した。


 二人に魔王討伐が最終目標と言ったら、驚かれたがパーティーメンバーとして参加したいと言ってきた。

 マリアもビクビクしながらも動向したいと言ってきたのは驚きだったけど。


 誘うつもりだったのに、向こうから一緒に行きたいと言ってくれたのは幸先(さいさき)が良い。


 両親に関してはアキトゥー神国で商売をするそうなので、当座の資金として300万G(ゴルス)渡しておいた。

 娘が命懸けで稼いできたお金をは受け取れないと言うので、私は父様が命懸けで稼いだお金で育ちました、と言ったら泣きながら受け取ってくれた。


 父様ちょろい……。


 それとメルウスの顔の事は言っておいた。

 私が言うのはなんか違う気もしたが、後で二人と顔の事でもめるのは避けたいのだ。


 そして翌日メルウスは目を覚ました。

 植物状態になってなくて良かった。


「何も出来なくてごめん」


 メルウスは自分の不甲斐なさを嘆く。


「良いんだよ、私も何もできなかったから」


 あの戦いは本当に最悪だった。

 助けられるだけだった。


「ダメダメだね」


「本当にね、お互いにもっと強くならないとね」


「まあ、今は無事生きて帰れたことを喜びましょう」


  そしてハンドシェイクコンボからのハイタッチからの。


「「ウェーイ!」」


 両親とミリアスやマリアが唖然としてる。


「これは私たちパーティーの挨拶です覚えるように」


「「あ、はい」」


 それからマリアと私はお互いの想い人のことを話した。

 私はガリウス様のことをマリアはクロイツのことを。


 マリアは幼少期から姉のことが大好きでいつも側に付いて歩いていたそうだ。

 でも、姉のクロイツはマリアを嫌っていて子供ながらにその理由もわかっていたそうだ。


 クロイツは使徒を倒すためだけに生きてきた、恋愛もせず楽しいことなどなにもせずに。


 だけどマリアは姉にかまって欲しかった、だから嫌いと言う感情でも良いからちょっかいをかけた。

 ある日“姉様ばかりずるい“と言ったら大笑いされ、それからクロイツは優しくしてくれるようになったそうだ。


 姉妹の絆か……。


「あと姉様はシルフィーネと呼ぶのをいやがるんですよ」


 マリアがはじめて笑った。

 姉の事を喋るとき、すごく楽しそうに笑う。


 私は二度命を救ってもらったとは言え、ガリウス様との関係は数日だ。


 積み重ねた想いの重さが違うか。


 だけど、私の想いも負けてないはずだ。


 マリアはいまだに姉を殺した犯人はガリウス様だと思っているだろう。でも、彼女の姉クロイツの代わりにマリアを守ろう。


 彼女の想いを踏みにじった罪を、少しでも償えるように。


「話は変わるけど、ミリアスは何かしたい事とかあるの?」


 なにも考えてなかったようだ焦りが顔に出てる。

 何かやりたいことがあっても目の届く範囲でお願いしたい。


「……魔王討伐です」


「それは私の望みであってミリアスのやりたい事じゃないでしょ」


「マイラさんをお嫁さんいすることです」


「却下です」


「うぐぐ」


『魔王討伐の前にハコブネに行かないと駄目だぞ』


『ああ、そうねパンドラの魔獣を倒して宝珠を手にいれないとね』


『それと神聖体の能力解放をしないとな』

 能力解放、まさかこの私に秘められた力があると言うのか~(棒読み)

 何か中二病みたいよね。

『能力解放できるなんて聞いてないんだけど』

 

『勇者の力に溺れるような人間には教えない事になってるんだ、すまない』


『今まで不適合者だったんだね』


『不適合ではなく審査中だっただけだ気を落とすな』


『でも、調整しないまま魔王と戦ってたらどうなってたの?』


『我が使える呪文が一つだけあるのだがそれで魔王ともども殺してた』


『そっか』


『怒らないのだな』


『力をもった狂人は、世界にとって邪魔者でしかないしね、仕方ないと思うよ』


『すまない』


「それで今後の方針なんだけどガリウス様を探す前にハコブネと言うところにいきます」


「ハコブネとはどこにあるのですか?」


「この国にはないわね」


「「???」」


 私はハコブネと言うものを二人に説明した。

 とは言え、あまり良く分かっていないようなので説明を諦めた。


 現代知識が無いと理解は難しいから実地で教えるしかない。


 でも、4人の連携の訓練もしたいし、ハコブネへはまだ先になりそうね。


 ガリウス様お待たせするかもしれませんが必ず魔王は倒しますから。

読んでいただきありがとうございます

明日も更新するかもしれません

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