フラグはいらないですよ?
一度ギルドに戻り、メルウスをパーティーメンバーに登録をした。
これで、彼にちょっかいを出す間抜けはいなくなるだろう。
自慢じゃないけど最年少でB級に上がったうえに、実力はA級を越えてS級をも凌駕すると評判のマイラさんなんだから!
そんな私のパーティーメンバーに手を出す人はいない。
ちなみに、ゴブリン100匹分の討伐証明である右耳100個も提出した。
「ソロで100匹ですか、相変わらずすごいですね」
受付の女性が呆れ顔で笑っている。
報酬の金貨一枚と余剰の50匹分の銀貨5枚のRCをもらった。
「じゃあ行きましょうか」
私はメルウスに声をかけ、宿屋へと向かった。
宿屋でメルウス用に空き部屋をお願いしたが、空き部屋がないと言われたので取り敢えず今日は私の部屋に泊まらせることにした。
ガリウス様以外の男はごめんだけど、この人は変な事するような人じゃなさそうだし、いいよね?
夕飯は宿屋に併設されている酒場で食事を買い、部屋に戻って食べることにした。
部屋に入ると、ケンケンがケンカを売ってきた。
『このビッチめ』
『は? ビッチじゃないし! この人は変な事しないし!』
『いやいや、一つ屋根の下で男と女が一緒に寝るとか、ビッチですわ、ないわ~ないわ~』
『折るよ?』
『嘘です、ごめんなさい』
ケンケンを部屋のすみに投げ捨てる。
買ってきた食事をテーブルに広げると二人で食事をした。
メルウスは後で食べると言ったが、私はヘルムを奪い椅子に座らせる。
ちなみに、食事は肉をメインに豆のスープとお好み焼きだ。
お好み焼きは私がお願いしてつくってもらった、もう固いパンは嫌なのだ。
食事を済ませると入浴だ。
この世界の科学文明は、無いに等しいが魔法科学が発達しており、前世と変わらない生活ができる。
「先にお湯をいただくね」
「はい、分かりました」
メルウスは敬語で返事する。
「あなたの方が年上でしょ? 敬語じゃなくて良いですよ」
彼は戸惑いながらも了承する。
「分かった、これからよろしくね」
私は親指と人差し指の先端を付けて、丸を作る。
この世界は湯船があるから良い。日本人なら湯船ないときついもんね。
湯船に浸かっているときに閃いた。
マップに名前が出てる、つまりはガリウス様を探せる。
だけど、いざ探そうとすると怖い。
もしどこを探してもガリウス様がいなかったら……。
私はマップを最大にして暫し考えた。
まずは、魔王を見ようかな。
魔王が見れないようならガリウス様も見れないだろうし。
私は魔王を検索した。
マップはみるみる魔王城の方へと移動する。そこにいたのは、レベル999の化け物だった。
レベルカンストなのね……。
名前はディレストファ・サタン
サタンって。最初に名前つけたの日本人のはずでしょ?
さすがに中二病すぎでしょ。
こういう世界に来ると、中二病になる呪いにでもかかってるのかしら。
続けてステータスも見るが、かなり高い。
魔王を倒すのはかなりきついかな。
念の為、もっとレベルをあげて力を貯めないと。
勇者の記憶によると、マナ遮断を無効化する宝玉はパンドラの魔獣を倒さないと手に入らないのね。
パンドラの魔獣
女神の封印から出る瘴気の魔石感染によって起こる魔物発生の最後に発生する超大型魔物、その力は上位ドラゴンを凌駕する。
、
『ねえケンケン』
『なんだ?』
『マナ遮断を無効化する宝玉を勇者ミスティアに渡したらどうなるの?』
『どうもならんよ、あれは勇者の剣に付けて初めて機能するんだから』
『そっか』
『あともう一つ良い?』
『なんだ?』
『なんで今、意志の疎通できるの?』
『……』
『後で折るからね』
『すみません、すみません。ほんの出来心なんです』
『メルウスより、あんたの方がケダモノじゃない』
『もうしませんから、許してください』
『まあ、剣に見られてもどうってことないけどね』
お風呂から上がると、メルウスはまたヘルムを被って椅子に座っていた。
「ヘルム脱げば良いのに」
「いや、君に悪いから」
「怒るよ?」
「すまない」
そう言うとメルウスはヘルムを脱いだ。
よく見ると、ちょうど耳から上が全部ゲル状になっている、耳は無い。
「ちょっとごめんね」
そう言って、私は彼の頭のサイズを測る。
神の眼は便利だ、知りたいことは全部数値化される。
「いいわよ、お風呂から出てくるまでに良いもの作っておくから、入って来なさい」
「良いもの?」
「お風呂を出てからの、お楽しみね」
「分かった、じゃあ長湯するね」
そう言って、メルウスは入浴場に入っていった。
「ふふふ、とうとう私の隠しスキルを、見せるときが来たようね」
『なに! まさか、出すと言うのかあの技を』
「そう、前世の力を今こそ解放する時」
『や~め~ろ~』
さてまずは素材ね、通気性の良いブタラクダの皮に黒色鎧虫の外骨格と銀獅子の鬣を使ってと、それらを土蜘蛛の糸で縫う、ひたすら縫う。
コスプレで培った、裁縫技術でひたすら縫う。
縫えないところはベタベタ虫の粘着液で接着する。
この虫は口から空気と交わると鉄のように固くなる粘着液を吐く。
その粘着液のつまった袋は口を塞いでおくと固まらないので、いつでも接着剤代わりに使える。接着剤と言うより溶接に近いのかな。
ステータス補正のお陰か、わりとすぐに出来た。
ちょうど出来上がった頃、メルウスがお風呂から上がってきた。
私は出来上がったそれを、自分の後ろに隠す。
「お風呂ありがとう、気持ち良かった」
「では、お風呂上がりのメルウスさんに、プレゼントです」
私はそう言って、マスクを取り出した。そのマスクは宇宙騎士ガンダロンに出てくるシャリア大佐のマスクのそれである(髪の毛付き)。
「すごい、お風呂に入っている間に作ったんですか?」
「そうだよ、防御力も高いからよかったら使って」
彼はマスクを受けとると、私を見る。
「何でこんなに良くしてくれるですか?」
「さぁ?」
まあ、本当に自分でも分からないのだから仕方ない。
マスクを被った彼はどことなくガリウス様に似ていた。
そうか、私は彼にガリウス様の面影を見ていたのだ。
だから優しくしたのか、そう考えると少し罪悪感がわいてきた。
まあ、マスクでチャラにしてもらおう。
その晩、私たちは二人とも床に寝た。
譲り合って、出した答えがこれだ。
女だからって独りでベッドに寝るとか、できませんよ。
譲合いの精神、THE日本人!
誰も寝てないベッドの下で、二人で毛布にくるまって寝てるとか、シュールですね。
何て考えていたら、いつのまにか寝てしまった。
夢を見た。私がウエディングドレスを着て、ガリウス様にお姫様だっこされていた。
誓いの口づけをする二人。
目が覚めると私はベッドに寝ていた。
ええと、さすがに寝相悪いとか、そう言うレベルじゃないですよね。隣を見るとメルウスが横に寝ていた。
何てことは無く、ちゃんと床で寝ていた。
『そやつが、夜中に主をベッドまで運んだのだ』
『そうなんだ』
義理堅いと言うか、なんと言うか。
『ちなみに、キスしたぞ』
『はぁ!?』
メルウス信じてたのにあなたもケダモノだったの?
『いや、主が寝ぼけて、したのだ』
うたぐって、すみませんでした!
夢でガリウス様とキスした時かな……。
『まあ、未遂だけどな、そやつが手で唇をガードしたからな』
『美少女のキスを防ぐとか、紳士か!』
そこはガバッといくところでしょ!
私のプライドが傷つくわ!
私のオリハルコンの心が砕け散るわ!
ディス・イズ・ハート・ブレイク!
まあ、来られても困るんだけど。
『確かに美少女だが、性格が何気に残念だな』
ケンケンが、私を残念美女扱いする。
『は? 大和撫子ですよ? おしとやかですよ?』
『そ~ですね』
一度、本当に折ってやろうか?
私が拳に力を入れると、メルウスが起きた。
「おはよう」
挨拶を済ますと、すぐマスクを被る。
「お、おはよう」
ちょっと、恥ずかしい。
「ベッドに運んでくれたんだね」
「ごめん、余計なことだと思ったんだけど」
「今日はベッド二つの部屋とるから」
「うん、ありがとう」
顔を洗い服を着替えると私たちは宿の朝食をとった。
朝食は固いパンをミルクで煮込んで塩で味を整えたものだ。
「このマスクだと、食事しやすくて助かるよ」
「そうでしょう、ちゃんとそれも考えてそのマスク作ったんだから」
「ありがとう」
「どういたしまして」
自分が作ったものが喜ばれると、テンション上がりますな。
朝食のあとは、彼の装備を整えることにした。
「マイラさん」
マイラさんと言われると、ガリウス様を思い出す。
むしろ、あの呼び方は、ガリウス様専用にしよう。
「マイラで良いわよ」
「……わかった、マイラ。パーティーを組んだけど、俺は何をすれば良い?」
特にやらせる仕事は無いけど。無いと言えばパーティー解消しかねないから、仕事は与えた方がいいよね。
「そうね、まずは荷物持ちで体力を向上させましょう」
レベルが上がらないなら、体力は向上させた方がいい。
それでも、レベルアップと比べると、大したことはないんだけど。やらないよりやった方が良いと思う。
まずは防具屋に向かった。
防具屋で彼の服を見繕っていると、お金がないと言う。
お金は私が払うつもりだった事を言うと、そこまで世話になれないと拒否をする。
「あのねメルウス。装備を整えるのは冒険者の最低限の条件よ? そんな服じゃ死ににいくようなものよ」
「分かった。稼ぎから、少しずつ返済させてくれ」
お金には困ってないけど、彼のプライドもあるだろうし、私はそれを承諾した。
「ねぇねぇ、この黒い服が、似合うんじゃない?」
それは黒地に白のラインが入っている服だった。
「5G……。高すぎるかな」
「このくらい大丈夫、大丈夫、半月もあれば返せるわよ」
そう言って、彼に服を当てた。
思っていた通り、黒いマスクに似合う。
ついでに私も防具を変えようか。
店のなかを見ると、彼が来てる服の女性用のものがあった、黒地に赤のラインが所々に入ってる、中二病心をくすぐる仕様だ。
体に当ててみると、私のピンクの髪と合っている。
私の髪の毛はピンクと言っても赤みがかっていてピンクサファイヤのような髪だ。
異世界転移じゃなくて、異世界転生で本当よかった。
『なんだ前世はブスだったのか?』
『べ、別に前世もブスってわけじゃないからね!」
しかし、染めたピンクじゃなくて、自然のピンクは本当にきれい。
私はメルウスから服を引ったくると店主に渡した。
二つで10Gだったのを8Gまで値引き交渉したが無理だと言うので、スカートとズボンもつけさせて12Gにさせた。
定価で16Gを4G値引きさせた。
正直、値引きしすぎたかもしれない、店主さんごめんなさい、贔屓にしますね、次回も値引きしてくださいね。
店主におまけでリュックもおねだりしたら、すごく嫌な顔された。
まあ、おまけしてもらったけどね。
「次は武器屋だけど、盾持ちで短槍が良いと思うんだけど」
「そうだね、剣術は素人だし 、距離稼げて防御も出来る方その方がいいかも」
レベルが無い以上、一撃でも食らえば、死んでしまう可能性すらある。
出きればそれは避けたい。
訓練で一ヶ月は潰そう。
受け流し術が、納得いくレベルに行くまで練習させよう。
ガリウス様をマップ検索するのは、彼が一人立ちするまでやめよう。
武器屋について、ラージシールドと短槍をメルウスに持たせると少しよろけた。
レベル補正がないと、やっぱり重いようだ。
これでは戦闘すら出来ないので、ラージシールドをバックラーに変え短槍をロングソードにした。
危険性は増すけど、扱えない物を持っていても仕方がない。
買い物を終えた私達はそのままギルドに向かった。ギルドの前には昨日助けた3人組の片割れのおっさんがいた。
おっさんは私に気がつくと小走りに近寄ってきた。
「お断りします」
「まだ何も言ってないだろ」
「殿下が御呼びだ、金色の宿の203号室に来い」
私はそれを無視するように、受付で訓練所の使用許可をとった。私たちはそのまま訓練所へと向かい訓練を始めたが、メルウスは全くの素人で基本も何もなかった。
彼はバックラーを盾のように持っていた。
私は剣を両手持ちさせ、バックラーで指を隠すように持つよう指導した。バックラーは剣の一部となるように持たせ、受け止めるのではなく受け流すように練習させた。
良い感じに受け流せるようになった頃、トラブルが起きた。
「貴様! なぜ我の呼び出しに応じない!」
王子だった、そこには顔を真っ赤にした王子がいた。
「王子なだけに応じない、見たいな、プッ」
私の親父ギャグを聞いて王子はキョトンとしている。
頭の回転が鈍い奴だ。
「何度もいってるけど、妾にならならないわよ」
「くっ」
王子は悔しそうに歯軋りする。
「だがな今日は力ずくでもお前を手にいれるぞ」
そう言うと指をパチンと鳴らす。
後ろから3人の男が出てくる。
盾持ち騎士、宮廷魔導師、大剣戦士の三人だ。
三人とも、上級の王国騎士団員のようだ。
「どうだ! いくらお前でもこの三人は勝てまい」
王子は勝ち誇ったようにニヤニヤ笑う。
「おい、あいつら狂犬マイラに喧嘩売ってるぞ」
冒険者の一人が、ヒソヒソと仲間に私の陰口を言う。
あいつは後で、ぶっ飛ばそう。
少し前の話だが、ガリウス様を馬鹿にしていた冒険者がいた。
そいつは、勇者パーティーのメンバーのクロイツの体を触って殺されそうになったところを、ガリウス様に助けられた冒険者だった。
ガリウス様に助けられたくせに、S級指名手配されたからと言って、あいつは犯罪者だと思ったよとか、詐欺師だなんだと言いたい放題だった。
私は手に回復魔法を集中させて、そいつをぼこぼこにした。
骨が折れるほどの衝撃を与え、瞬間的に回復させる。
冒険者同士の喧嘩を止める奴はいないし処罰もない。
私はクズが泣き出すまで殴るのをやめなかった。
と言うか、泣いてもやめなかった。
そして、心を折って冒険者を廃業させた。
それ以来、狂犬マイラや狂戦士マイラと言われるようになった。
まあ、ナンパされなくなったので、結果オーライなのだけど。
「ご託は良いから、かかってきなさい」
「やれ、顔は傷つけるなよ」
王子は三人に命令する。
大剣戦士が私に襲いかかる、大剣は刃引きしてあるようだけど、当たったら怪我じゃすまなそうね。
私はケンケンを抜いて大剣の根元に刃を当てる。
ただそれだけで、大剣は紙を切るように引き裂かれた。
そのまま大剣戦士の顎にパンチをいれる。大剣戦士は吹き飛んで、壁に当り気を失う。
タンクより前にでて先制攻撃とかなってないわね。ネトゲでこんなことしたら今後パーティー組んでもらえなくなるわよ。
遅れて盾持ちの騎士が、私に襲いかかる。その後ろでは宮廷魔導師が呪文を唱えアイスランスを放つ。
「ファイアウォール」
私はタンクの突進してくる目の前に火の壁を出した。タンクは止まれずに火に包まれる。
そしてその火の壁はアイスランスをも防ぐ。
ファイアウォールをケンケンで殴る。ファイアウォールが津波となって宮廷魔導師を襲う。
さしずめ、ファイアウエーブってところかしら。
宮廷魔導師は炎の津波を避けることができずに直撃を食らい黒焦げになって倒れた。
宮廷魔導師と盾持ち騎士はそのままだと死ぬので、回復をかけてあげた。
しかし、慣れって恐ろしい。人間を攻撃することが出来るようになってる。
さすがに宮廷魔導師が黒焦げになったときは焦ったけど、死んでないからセーフ、セーフ。
「お前は、いったい何者なんだ!」
王子は腰砕けの状態になってその場に座りこむ。
私は王子の顔を平手打ちをした。
「なっ」
「男なら、好きな人を振り向かさせるような男になりなさい」
うは、一度言ってみたかったんです。
「メルウス今日はこれで終了しましょう」
「うん、わかった」
私たちは王子たちを放置してギルドを出た。まったく、アホのせいで今日の予定が台無しだわ。
「王子に手を出して、大丈夫なの?」
メルウスが心配そうに私を見る。
「良いの良いの、私この国嫌いだから」
そう、ガリウス様を陥れた国など好きになれるわけがない。B級になった今、この国に縛られることもないのだし。
嫌なことを信念を曲げてまで従う義理はない。
「でも」
「自分がやりたいことをするには、多少の摩擦くらい覚悟しないとだめよ」
「マイラは強いね」
「そうよ、好きな人を守る力は無限大だもの」
そういって、私は彼に笑いかけた。
彼はなぜか寂しそうに笑った。
◆◇◆◇◆
「勇者の奴め。今、我を見たな」
魔王は勇者がマップで自分を見たことに気がついた。
「そのようです」
魔将軍も気がついたようだ。
「LV999が、呪術による偽装とも知らずに愚かよのう」
「全くですな」
二人は声高らかに笑う。
大幹部である四天王の一人、ガデッサが言う。
「魔王様 、もしかしてLV偽装するから、勇者が強く鍛え上げて来るんじゃないでしょうか?」
「「……」」
この年、魔王軍四天王の座が一つ空いたのは言うまでもない。
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しくなるように書いているのですが、油断すると鬱展開に行こうとする、自分が恨めしいです。