波乗りカッくん
「カッくん、バッシュよ!」
「分かったマーちゃん」
私が木で作った大型の盾を魔物に向かい強打する、その衝撃で身体全体を揺さぶられた魔物は一瞬動きを止めた。
ちなみにマーちゃんとは私のことだ、マイラとお姉ちゃんを縮めたものらしい。
「マナブースター!」
私の腕の防具につけられているファンが回転して周囲のマナを吸収する。
そのマナはすべて攻撃力に添加される。
右手の円盤が急に止まり攻撃力に転化された力が剣へと添加される。
私はもらった剣で魔物の頭に力一杯叩きつけた。
私とカッくんはレベルがない、正確にはあるのだが私はバグっててカッくんは竜人ではない身体では力が出せないのだ。
だけど、この剣はゲーム仕様なせいか攻撃力が存在している。
さらに攻撃力へと転化されたマナが剣に上乗せされ、レベルがなくてもご覧の通り巨大な魔物は簡単にひしゃげるのだ。
「マーちゃん、お疲れさま」
カッくんが盾を背中に背負うと私を労う。身体の固いカッくんにタンクをしてもらい、紙装甲だけど剣が使える私はアタッカーをすることにした。
「この剣、展開しなくてもすごい攻撃力よね」
この剣は私が持つと勝手に展開してしまう。使わない時間が長ければそれは攻撃力に反映されると言うスペシャルな剣なのだ。
だから私は剣にあの獣人のマントで作った紐を剣に巻き付けて展開できないようにした。
邪骨龍王と戦うときに最大攻撃力で戦いたいからね。
私は剣を腰に回し手を離すと、剣はそのまま宙に浮いて私についてくる。
結局ガリウス様に入っているだれかはどうでも良いと言う結論に至った。
私も神の身体に地球人の魂が入っているのだからある意味同じだわ。
それとカッくんが言うガリウス様が動けないはずだと言うのは作ったばかりのキャラでゲーム内でアキトと言うプレイヤーがガリウス様に入ったことがないから魂に火がついてなかった、だから動けるはずがないのだと言う。
ガリウス様は魂の器だけの存在だから。
動けるようになった理由があるのだとしたら地球人の魂がガリウス様に入っているせいだとカッくんは言うのだ。
ただガリウス様に入っている地球人はガリウス様をコントロールできないと言う。
その理由はログインIDが違うからと言うことなんだけど……。
本当ゲームよね。
戦いながら街道を進み日も落ちてきたので今日はここで夜営をすることにした。
焚き火を作り、切った丸太の上に座るとカッくんが空中から食料を出し私に渡してくれた。
「ま、幕の内弁当?」
「うん、ゲームアイテムでコンビニの”夜分入れ分”とコラボしたアイテムだよ」
私は幕の内弁当の透明の蓋をはずし鮭を一口ほうばった。
「しゃ、鮭だわ」
私は餓鬼が貪るように一心不乱に幕の内弁当を食べおかわりをして3つ食べきった。
「マーちゃん、すごい食欲だね」
「この身体って燃費悪いのよ」
懐かしい食事を久しぶりにとって、心が満たされるのを感じた。梅干しやたくあんがこんなに美味しかったなんて。
やっぱり日本人よね。
「美味しかった?」
「美味しいなんてものじゃないわよ、痺れたわ」
「え、麻痺毒なんて入ってないよ?」
「そう言う意味じゃないわよ」
バカな勘違いをするカッくんを鼻で笑って焚き火に薪をくべると火の粉が舞い上がる。
「そう言えばさ、この世界って魔法使えないの?」
「僕は今は使えないけど、普通にこの世界に魔法はあるよ?」
「私の魔法が発動しないのよね”エアル”」
私は神代魔法の風の一文字を唱えた。手からはプスプスっと煙のようなものが出て魔法は失敗に終わる。
「ね?」
「ああ、マーちゃんマジックパーツ持ってないでしょ?」
「マジックパーツ?」
「そう、この世界では魔法を使うのに秘薬や生け贄などの対価が必要なんだよ」
「うあ、本当に? ずいぶん面倒ね」
「とりあえずエアルなら風切りの草とカマイタチの骨粉だね」
そう言うとカッくんがそのマジックパーツを私に譲ってくれ魔法を撃つように言う。
私はそれに従い木に向けて魔法を放った。
「”エアル”」
だけど再び煙を上げて魔法は失敗した。
「あ、マーちゃんレベルバグってるってことはMPもないのかもしれないね」
「それじゃ魔法は使えないのかぁ~」
せっかく処女をラッキースケベから守って大魔法使いになったと言うのに女神は本当に使えないわね。
「マーちゃんマナブースター使って魔法を使ってみたら?」
「なるほど、面白そうね。オッケー」
マジックパーツを握ったまま私は手を前につきだしてマナブースターを起動する。攻撃力に転化したマナを手に送る。
「”エアル”」
”ボスン!!”
すごい音がして手から煙が放出される。
「ちょっ、失敗だわ。エフェクトがパワーアップしてるわ。ゲホゲホッ」
煙に咳き込みながら手を振って煙を払う。数分後やっと煙が晴れると大きく深呼吸をした。
カッくんは失敗しちゃったねとススだらけの顔で舌を出して笑う。
カッくんの頭をコツンと叩き私は吹き出した。
「カッくん顔拭く布ないの?」
私は自分のアイテムボックスが出ないかと空をまさぐるがやっぱりアイテムは取り出せない。
カッくんは自分のアイテムボックスから水差しと布を取り出し水を私に向かいぶっかける。
「あのね……。カッくん私にもそれくれる?」
「うん、いいよ」
私はもらった水差しをカッくんに向かい放つ。
もちろんマナでブーストしてだ。
ピッチャーから放たれる水はカッくんを押し流す。だが予想に反してカッくんはキャッキャと喜んで水に流されて遊んでいる。
まるでウオータースライダーね。ちなみに揺り返しの水で私も流された。
「面白かった、マーちゃんもう一回やって?」
「ごめん被る!」
カッくんは不満げに私を見るがそれを無視して濡れた布を絞り顔を拭く。
びちょびちょだ……。
薪は流され火も無く暖もとれず身体を寒さで震わせる。薪を拾ってみたが水で濡れており火がつきそうにない。
「カッくん、なんか熱源ない?」
「ないよ~」
間の抜けた声でカッくんは犬のように身体を震わせ水を弾く。
このままでは風邪を引いてしまうので夜営地を変えるべく夜の道を歩くことにした。
まったくカッくんはと頭をコツンと叩こうとするとスルッと避ける。
すごい動きだ。
何度頭を叩こうとしてもスルスル避けて当たる気がしない。
「カッくん後ろに目でもあるの?」
「うん? なにが?」
「私の攻撃避けてるでしょ」
「あ、僕は不意打ち100%回避持ってるから不意打ちは当たらないよ」
そう言うとニコニコしながら身体をくるくる回すので頭にコツンと拳骨を落とす。
カッくんは頭に手を置いてほほを膨らませ私に抗議をするように睨み付ける。
かわいいけどいたずらは許しません。
私とカッくんが話していると街道の来た道から強い明かりが飛んできた。
明らかにあり得ない光量だ。瞬間、敵かと思い私は身構えたが、後方から来た物はとんでもないものだった。
トラックが私の前で止まると窓が開いて男が顔を出す。
「グラン べラ ロブラ?」
男は獣人と同じように訳の分からない言葉を話す。男の姿はトラックの逆光で良く見えない。
「これ地球のトラックよね?」
とりあえず何を言っているのか分からないので日本語で喋ると男はトラックのエンジンを止めて降りてきた。
「日本語でござるか。見た目がこちらの住人と言うことは転生者でござるかな?」
トラックから降りてきた男はまさかのござる言葉の黒装束だった。
トラックに忍者。時代考証ちゃんとして!




